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BrewDog Punk Night(全3記事)

パクリが出回ったとき=成功の証 起業家と編集者が語り合う、愛されるサービスの作り方

2016年9月16日、世界中に熱狂的なファンを持つクラフトビール会社「BrewDog」の創業記を記した『ビジネス・フォー・パンクス』の刊行トークイベントが行われました。会場は、最大1万冊の新刊が揃い、コーヒースタンドも併設する渋谷BOOK LAB TOKYO。同施設の発起人でもある、起業家の鶴田浩之氏と、著述家・編集者の石黒謙吾氏が、創業者ジェームズ・ワット氏の型破りな半生や日本と世界におけるビールの歴史を語り合いました。

BrewDog創業者が切り開いた道

鶴田浩之氏(以下、鶴田):僕はインターネット事業を中心にやっていますが、ファンとの向き合い方とか、ブランドの作り方とか、そういう考え方がめっちゃ勉強になって、本当に実用的な部分が多いなと。これをきっかけにスコットランドに行ってみたくなりましたね。

石黒謙吾氏(以下、石黒):そうか、スコットランド。さっきBrewDogのことを聞いたら、「スコットランドにいいビールがないから、作ったろうじゃねーか」みたいなとこから始まったと聞いて、「なるほど」と。

鶴田:最初のほうに、「2007年のイギリスビール市場、前年比減少、利益が動機づけ、価格重視、高い参入コスト、低い利幅」みたいに書いてあるのが気に入らなくて、「2014年、7年後、前年比30パーセント増、情熱が動機づけ、価格ではなく品質が重視、低い参入コストで、持続可能な利幅」みたいな、ビジネスモデルを変えてるんですよね。

最初にファーストペンギンみたいな感じで、クラフトビール市場という新しい市場を作った人がいるおかげで今……。

推測でしかないし、ただこの本で伝わってくるものでしかないんですけど、この人の周辺だったり、この人に憧れた新しい人たちが、どんどん新しいものを、もしかしたら、「俺はコーヒーが好きだからロースターをやる」という人もいるかもしれない。そういう影響力をかなり持ってきてるはずですね。

石黒:確かに、この本の創業者の方について言えば、別にビールである必要はないという勉強の仕方だと思う。この方は、けっこう若いんだよね?

鶴田:ジェームズ・ワットさん。何年生まれなんですかね? 82年生まれ?

石黒:うわー、最近ですよ。

鶴田:若いですね。

石黒:それでこんなすごいことやってるんだもんね。

鶴田:そうですね。これから20年とか、もっと歴史を刻んでいくブランドであって、この場に立ち会えたことがすごいうれしいというか。

石黒:うん。

企業理念の重要性

鶴田:現在進行形で発展しているブランドの作り方って、スタートアップはめっちゃ勉強しなきゃいけない。難しいんですよね。

あと勉強になったところは……なんでしょう。僕は企業理念とかそういうのって懐疑的だったんですよ。「後で考えればいいんじゃない」とか。

でも社員を含めて、言葉とかルールとか、明文化することの大切さというのは、すごい身にしみていて。我々は何のために仕事してるのかとか、誰に価値を提供したいのかとか、自分はどんな時幸せなのかとか、ちゃんと考えて定義しておいて、そういうところからどんどん……。

彼らは2人で創業してると思うんですけど、めっちゃぶつかり合ったこともあると思うんですよね。想像ですけど。

それで生まれたBrewDog憲章というか、企業理念みたいなものですけど、ここにちょっと映してもらってるんで、「我々は全力をつくす」とか、「WE BLOW SHIT UP」とか、「WE ARE GEEKS」みたいな。こういうのをちゃんと掲げていないと続かないというか。仕事のポリシーみたいなのってありますか?

石黒:僕はあんまりないんだけど、やっぱり本当に好きなことしかしない。あとは人を残すという2つしかない。

鶴田:なるほど。

石黒:僕はそういう意味じゃノンポリというか、調整をすることとかは意識してますけど、それは誰でもやってることですし。

鶴田:石黒さんは自分の著書もたくさんありつつ、ブックライター、ブックコーディネーターみたいな?

石黒:ライティングはやらなくて、プロデュースをするので、著書しかないですけど。

鶴田:プロデュースをする。

石黒:この人の本を作りたいというのを決めてから、編集者に話をするという。プロデューサーと編集者は別なんですけど。

鶴田:これの日本版がほしくて。

石黒:あー。

ベルギービールを日本に広めた功労者

鶴田:内容がすごいぶっ飛んでるんで、3分の2は参考になるんですけど。(残りの)3分の1はワクワクとして読み物として楽しむという感じの本で。日本で、『よなよなエールがお世話になります』という本はありますけど。

石黒:ありますね。

鶴田:もう1個、ビールかワインかコーヒーで創業記つくってほしいです。

石黒:小西酒造の社長が、ベルギービールを日本に広めた功労者の1人なんですよ。ブラッセルズというベルギービールのチェーン店。

小西さんのベルギービールを日本に広める苦労談とかはやっぱり聞いてみたいというか、すごい興味あるなって感じですね。

創業に限らず、広めていくという。要するに、人の相手にされないところを相手にしてもらうという。ちなみに僕は、本を作って30回ぐらい断られて30社目とかあるんですよ。

シベリア抑留者の本は31社目だったんだけど、5年かかったんです。それは初版を作ったって、僕の手元に入るのは20万ぐらいです。それはもう理念で、国のためというか、記録として戦争の悲惨さを残すために後押しされてやってるようなものだし。

『盲導犬クイールの一生』も11社目だったんだけど、決めるのに3〜4年ぐらいかかってるんですよ。あれも初版だと16万円しかもらってないけど(笑)。

それはもう背中を押されてるような気持ちがないと、実際できないですから。そういうことをやっていると、あんまり怖いものがなくなってくるというか、病気以外は怖くないという感じにはなりますよね。ちょっとビールの話じゃなくなっちゃったけど。

鶴田:みなさん、けっこう人が増えましたね。

石黒:けっこういい時間だ。何か質問があればお願いします。ビールのことじゃなくても、起業でも何でも大丈夫ですよ。

偽物が生まれた時=成功している時

質問者1:お二方がこの本において、「自分の人生において経験があるな」ということがあったら、教えていただきたいなと思います。

石黒:人の話を聞かないのは、すっごい似てると思います。僕はまったく聞きませんし、僕アドバイスを求めたことも、本当に人生で1回もないぐらい。結婚でもプライベートでも。

鶴田:僕もけっこうかぶる部分はあって、なんかこう、偽物が生まれた時に成功していると感じるという考え方。

僕も昔作ったiPhoneアプリが中国で偽物が流行って、本物より流行ったんですよ(笑)。でもその時に、訴えたりムカついたりするかもしれないけど、逆に「ありがとう」みたいな。「これは僕らにとって成功の証です」みたいな。

そういう寛容さというのはやっぱり大事ですし、そこも含めてもっと先を見据えてるからこそ、偽物がちょっと出てきたくらいじゃ、本気で怒ったりはしなくて、最後は「なんかうれしい」みたいな気持ちになってしまう。「自分のアイデアとか作ったものが、誰かが真似したくなるものになる」という。

あとはもう1つ、すごい大事なことが書かれてて、「船には船長が必要だ」みたいなところで、リーダーに求められる資質というところを、BrewDogの創業ストーリーに合わせて書かれてるんですけど。

「会社の創業者やチームリーダーに求められる資質を見ていこう」というところで、「鳥肌を立たせる」「狂ったようにほめる」「時間を与える」「セーフティネットになる」。これは完全にアグリ―で、僕も自分なりに実践しているところではありました。

質問者1:ありがとうございます。

編集者と起業家 それぞれの原体験

質問者2:お二人の先のビジョンを聞いてみたいです。けっこう熱い感じでお聞きできるとうれしいです(笑)。

石黒:もう55ですからね……。僕は18歳から東京にいて、回遊魚くらいに休んだことがないぐらい。

バイトして、経済浪人して辞めて、バイトして、それから専門学校に行って、それから講談社で、角川に半年だけいたんだけど、それから辞めてずーっと追いつめられて毎日生きてるんで。

金沢に帰って小説書きたいとか思わないですけど、書いてるだけでも食えるだろうなというのはあって。いつか編集者辞めて、なんかすごい気楽に、これもスモールな話になってるんだけど(笑)。それぐらい、もうたたんでたたんで、最後にギュギュギュッと、ちっちゃくなった状態だけどすごい濃いっていう状態で。

まあ20年ぐらいはまだ生きるかな。仕事を30年やるのはけっこうきついかもしれないですけど。その間、ギュギュギュッとちっちゃく濃くなっていきたいなというのが僕のビジョンではありますね。

鶴田:起業家ということで、よくされる質問の1つなんですが、個人と会社、法人格と個人格と重ねなければいけないというのが、宿命みたいな仕事なので。

そういう文脈で言うと、僕は13歳とか14歳に引きこもりで不登校、体が弱かったりした時期があった中で、インターネットに出会って、自分が作ったコンテンツを多数の人に見てもらえるという原体験があるんです。

あの時の気持ちを今でも忘れてないので、あとはもう規模を大きくしていくしかなくて、別に金銭的成功とかではなくて、多くの人に影響力を与えたいというのが、たぶんDNAに刻まれているなと。

20歳で創業して今25歳なんですけど、毎月1億人が使うサービスをプロデュースするというのが、30歳までの5年以内の目標です。それに基づいて、たぶん会社っていうものも変わって成長していってますし。簡単に言うと、ヒットサービスを作りたいです。

質問者2:ありがとうございます。

ビール民度をあげるための使命

質問者3:ビールというと、俗に言う古いタイプの人たちが、「自分はキリンしか飲まない」という人たちがいると思うんですけども。そういう人たちに対して、どう感じられるのかというところを聞いてみたいです。

石黒: 僕は下を掘り起こす役目だと思ってるから、 なるべく味の違いだけを話すことにしています。結局その「キリンだ」「サントリーだ」と言ってる時に、メーカーにはあまり意味がないという話じゃないですか。

そういうふうに縦割りじゃなくて横割りみたいなことを伝えていかなきゃいけない。それはビール民度を上げるための使命かなと思ってますね。

鶴田:僕は、別にほっといていいんじゃないかなと思いました(笑)。自分で好きだというブランドを……。今、大手になったメーカーも、50年前とか70年前とか、歴史はちょっと知らないですけど、最初はベンチャー精神があったわけで。

それが今、「株主もいるし」「利益出さなきゃ」みたいな感じになっていて。僕なんかは、「クラフトビールおいしいよね」ということをいっぱい知ってほしいという話で言うと、投資家がもっとそういうところに、本当に赤字覚悟で……。

だって、クラフトビールの広告って見ないですよね? CMとかそういうレベルで。マスにもっと垂れ流して、キャンペーンを作らないと、あんまり変わらないなと思って。

うちの父も古いタイプというか、普通にテレビから得られる情報で自分の嗜好が決まってしまうということですけど。

今からの世代でどんどん盛り上げていけば変わっていくと思うので、そんなに気にしないでいいんじゃないかなと思いました。僕からは以上です。今日は本当にありがとうございました。

(会場拍手)

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