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BrewDog Punk Night(全3記事)

「人の話は聞くな、アドバイスは無視しろ」BrewDog創業者の姿勢に学ぶ、スタートアップが勝つ方法

2016年9月16日、世界中に熱狂的なファンを持つクラフトビール会社「BrewDog」の創業記を記した『ビジネス・フォー・パンクス』の刊行トークイベントが行われました。会場は、最大1万冊の新刊が揃い、コーヒースタンドも併設する渋谷BOOK LAB TOKYO。同施設の発起人でもある、起業家の鶴田浩之氏と、著述家・編集者の石黒謙吾氏が、創業者ジェームズ・ワット氏の型破りな半生や日本と世界におけるビールの歴史を語り合いました。

クラフトビールで起業は難しい?

鶴田浩之氏(以下、鶴田):ちょっと聞きたいことが2つありまして。まず、「クラフトビールって何ですか?」という定義を聞きたいのと、例えば、僕もビールの醸造メーカーとして起業したら成功できるのかと。

石黒謙吾氏(以下、石黒):あー。

鶴田:素人が勉強から始めて(ビールを)作れるのかという。

石黒:はいはい。

鶴田:日本でもけっこう、ヤッホーブルーイングさんの「よなよなエール」とか、あと最近は「馨和 KAGUA」とか「東京ホワイト」とかもできてきていて。それで、世界ではBrewDogがすごいブランドを強くしていっているという時代に、聞いてみたいなと。

石黒:まずできるかできないかの話から入ると、僕はたぶんできると思います。そもそも、本当に“パンク”が起業してるわけじゃないですか(笑)。

鶴田:例えば、ここにいるみなさんがビールで起業して、100億の売上を目指す会社を作れるかみたいな話で。市場はでかくなってるんですよね。

石黒:そこも考え方で、それもクラフトという言葉と密接に関係すると思うんですけど。ちなみに僕が本を作った時に、そもそも何十万部の本とかを作る気もないと。たまたまなるかもしれないけど。

僕はクラフトビールを作るより、自分の著書なり編著なりをプロデュースしてるわけですね。それはやっぱり、好きなものをやりたいだけで。だから、爆発すればいいけど、しなくてもしょうがないと。というのが、たぶん日本でも世界でも、クラフトのほうの考え方で。

そこからまた一段抜けて、世界に広まっていく方はすごいとは思うんですよ。100億の売上はわかんないけど、とりあえず生き延びるぐらい、意外とスモールな感じだったらいけると思います。

鶴田:ビールが好きで始めて、ちゃんとファンができて。

石黒:僕は金沢市出身なんですけど。この前、金沢でベルギービールウィークエンドがあって、自分のトークイベントに行ってたんですね。それで、金沢で女性1人で始めた人がいるんですよ。

鶴田:へぇ。どれぐらいの年代の方ですか?

石黒:30ぐらい。その人は起業というより、もう作りたくて。

鶴田:クリエイターですね。

石黒:そう、本当にすごいの。もう無鉄砲なんですよ。僕は「無理だ」と思ってるんだけど、本当にがんばり屋さんだから、「もしかしたら、まあまあうまくいったりして」みたいに思ったりすることもあるんですけどね。

鶴田:うんうん。

石黒:でもまあ、鶴田さんならぜんぜん余裕じゃない?

鶴田:(笑)。

石黒:ぜんぜん余裕とか、あんまり軽口叩けないけど。

鶴田:そういう人が周りにできたら、「応援したいな」とは思いますね。最初のファンになって、広める役ならやりたいなと。

石黒:うん。

「パンクIPA」を広めた、BrewDog創業者の宣伝方法

鶴田:本の話にも踏み込んでいくと、この本のテーマとしてはブリュワリーの起業エピソードなんですね。

やっぱりブランドとファンの作り方というところがすごく参考になって。この本は、参考になる部分と参考にならない部分が10回ずつぐらい交互にくる感じの本でした(笑)。ちょっとほめすぎてもしょうがないので。

石黒:(笑)。

鶴田:ただ、トータルとしてはかなり勉強になっておもしろかったから、(BOOK LAB TOKYOの)店長に「これ読んだほうがいいですよ」とかそんな感じでプレゼントしました。これは意外と真面目な本なんですよね。

損益計算書に出てくる用語集だったりとか(笑)、大手ビールメーカーのビール瓶をボーリングのピンにしてボーリングした動画をYouTubeにアップしたとか、「日本でやったら100パーセント炎上するよね」というエピソードがいっぱい載っていて、エンタメとして読むページと参考になるページが本当に交互にくる。だから、つい最後まで読んじゃいたくなるという感じです。

石黒:僕はBrewDogの「パンクIPA」はすごい好きで飲んでたんですけど、この本のことを聞くまで、起業家のことをあんまり知らなかったんです。この人は、起業家目線で見た時に、どういう人なわけですかね?

鶴田:勝手な推測ですけど……違ったらすいません。この人はずっとビール飲みながら仕事してるんじゃないかなと思って。なんか常にテンションが高いですよね。

石黒:うーん。

鶴田:例えば、マーケティング予算がないスタートアップが、最初にどうやって商品を売り出すかみたいなところで、大企業だったら大きなCMとかを作るわけですよね。それで、「ビールの売上なんて、CMの投下金額に比例する」とか言われるじゃないですか。

石黒:あー。

鶴田:いかに広告を出すかがすべてを左右するみたいな。そんな世界から、ネットを使った媒体とか、ファンコミュニティー作りの肝が書かれていて、事例がいっぱい載っていて。

今パッと開いて、ちょうどおもしろかった章が出てきたんですけど、海底でビールを醸造するというビデオを作ってアップロードしたら、めちゃめちゃ(反響があった)。このとき、予算ゼロ。チープなビデオ機材を使っておもしろいことを追及して、「頭で考えたら巨人に勝てる」みたいな。

これはまさに、スタートアップの精神なんですよね。「広報でいかに勝つか」みたいな。あとは本当にまっとうなことがいっぱい書かれていたり、変なことが書かれていたり。

石黒:たぶん、この本がおもしろいと思われてるところを、ひと言でいうと、「人と違う」ということ?

鶴田:そうですね。

「人の話は聞くな、アドバイスは無視しろ」

石黒:すごく大雑把に言うと。まあ、人と同じところを目指すとおもしろくないじゃんというのは、僕がとくに雑誌を辞めてから、書籍を作るときにもやっぱりそういうことを思うわけです。

鶴田:はい。

石黒:とくにマスに対して何かコミットしたいということではないので。自分の作りたいものを作るために、小ロットでもOKな書籍を、しかも版元に属さずにやるということを選んでいるわけです。

その分、経済的にもいろいろときついことばかりなんだけど。でも、「石黒さん、いつも楽しそうですね」とか、「いい本作ってますね」と言われるのは、結局「墓場にお金は持っていけないよね」みたいなところに立脚してるところではあるんだけど。

僕の場合は、そういうふうにかなり趣味的な部分、毎週ちゃんと野球をやってるとか、そういう趣味的な部分なんだけど。この方の場合は、すごく「突き抜けてくぜ」というパンクな思想というか、立脚したものが、最終的に結果にも大きくつながっているということですよね。

鶴田:この人はやっぱり、本当に好きなんですよね。ビールを愛してるんですよね。

石黒:うん。

鶴田:好きなことをやってうまくいっている。だけど、好きなことをやっていくうえでの真面目な部分、財務とかファイナンスということもちゃんと書かれていると。

なんかこう、「好きなことやって生きていくには……」みたいな本と「難しすぎる起業本」の中間みたいな。

石黒:うん。

鶴田:僕がかなり共感しているのは、起業家とかビジネスマンのタイプはいろいろあると思うんですけど、企業文化が3分の1を決めるとか。確かにそうだよなと。

(会社を)5年間やってきて、これまでいろんなことがあって、「やっぱそうだな」としみじみ思ったりとか。象徴的なコピーで、「人の話は聞くな、アドバイスは無視しろ」と言ってたんですけど、本気だったらこれは正しいと思います。

例えば、この出版不況に「本屋やります」と言って、「アドバイスをください」と言っても、「やめたほうがいいいよ」と言うに決まってるじゃないですか。

だから僕は、誰からも話を聞かなかったんです。「この店をやることになりました」という報告が、すべての人にとって最初の話だったんですよね。

石黒:うんうん。

“好き”を追求するブリュワリー精神

鶴田:石黒さんは、本を260冊ぐらい書かれてるという……?

石黒:書いたのは50冊ぐらいですけど、人の本はいっぱい作っています。

鶴田:そういうワークスタイルの話もお聞きしたいなと思って。そこからちょっと、僕がこの本を読んで共通する部分があったら拾いたいなと。

石黒:さっきもチラッと言ったんですけど、クラフトビールを作ってるブリュワリーさんというのは、日本でも海外でもそうですけど……。

例えば、ベルギービールは1,200種類ぐらいに銘柄が増えましたと。でも、実はベルギー国内では1社すごいでかいところがあるので、いわゆる日本のピルスナーみたいなのを飲んでる人がけっこう多いわけですね。

だからそういう状況が、ベルギー国内に1個ドンという、圧倒的なシェアがあって、それ以外にすごい細々とあると。そこはもうドングリの背比べなんだけど、彼らはそれこそ最初から、「メジャーになれないし、それが目標ではない」と思っている。

鶴田:はい。

石黒:それでも、好きなものをやりたい。「私はこういう酸っぱいビールを極めたい」とか、「フルーティなビールを極めたい」とかいう、ブルワー、ブルワリーの意志というか気持ちがすごくある。僕は日本の九州の、麦焼酎もかなりのマニアなんですけど。

鶴田:僕、九州出身なんです。

石黒:どこだっけ?

鶴田:長崎県です。僕も麦焼酎好きです。

石黒:僕も芋より麦派なんですけど。それで、この焼酎の方たちも、「こういう味!」って決めたらそこを突き詰めるというのは、日本の蔵元の方もそうだし、ベルギーの方もそうだし、ブリュワリーはすごく趣味的なところを追求していくというところで、まずはある程度あきらめてると思いますよ。

僕も、最初から書籍を作る時に、『ベルギービール大全』とか売れる本も作っているけど、「そもそもこの本、無理よね」という(本もある)。この前、『モダンガールのすゝめ』という本を作って、そういう「5000(部)スタート、1万いかないよね」みたいなところをしょっちゅうやってるわけですよ。

鶴田:うんうん。

石黒:でもそれを作ってる自分は楽しいし、できあがった時に社会的意義もある。この前、シベリア抑留者の本も1巻出したんだけど。そういうところのマインドは、マイクロブリュワリーのブリュワーと同じだなという共通点はあります。

鶴田:なるほど。

石黒:結局、自分の心的満足感のためにやっていると。数を言われると、泥沼になっちゃうのであんまり考えないという。もちろん経済的に潤ったほうがいいんだけど、そこはあんまり……。真面目な話をすれば、マイクロブリュワリーのブリュワーたちは、もう本当に経済的にやってられないと思うんですよ。

鶴田:あー。

石黒:本当にそう思う。ぜんぜん見合わない職だから。

鶴田:なるほど。

ビール造りのシビアなルール

石黒:僕はちょっとおもしろい話を聞いて、ビールってすごい国税じゃないですか。だから、作るのに失敗しても捨てちゃいけないんですよ。

鶴田:あー。

石黒:税金を捨てることになるから、国は「そんなことしちゃダメだ」と言うんですよ。失敗したビールがどことは言いませんが、言えばわかるぐらいのブリュワリーなんだけど、「ちょっと今回失敗しちゃったんですけど」と言って、知り合いの店にほとんど原価で買ってもらうんですって。

鶴田:へぇ。

石黒:捨てちゃいけないから、買っていただくと。

鶴田:税金は作ってる時に発生するんですか?

石黒:アルコール度数1パーセント以上だったかな? それを作ったらもう販売しなくちゃいけないから。もう作った時点で発生してるんですよ。作ったというのは、国の許可がいるもんなんです。

鶴田:そうですよね。

石黒:だから、麦の量とか査察が入るらしいですよ。捨てている麦の量とか殻の量とかを見て。

鶴田:けっこうシビアですね。

石黒:シビアなんですよ。だから国は、「そんなお金が儲かること、勝手にやられちゃ困る」というのがあるので。でも、そうしないといけないと思いますよ。

鶴田:そうですよね。

石黒:そんな中で戦って、一生懸命ビールを作って、自分は「すごいおいしい!」って思っても、慣れてない人は、「苦い」とか「酸っぱい」とか言って、「ムカつくぜ」となっちゃうじゃないですか(笑)。

それでも貫いて、ビールを作っていこうというマインド、ブリュワーの方の熱意はやっぱり心打たれますね。「いいなー!」って思う。

今はけっこうクラフトのがんばってるメーカー、ブリュワリーさんがあるけど、やっぱり最初はみんなそこから始めてるんだと思うんですよ。

鶴田:うーん。(BrewDogは)3万ポンドで始めて、5000万ポンド。ポンドってちょっと馴染みないんでわかりづらいですけど。

石黒:それぐらいの、まさに「パンクIPA」という。僕は本の訳語をわかってなかったんだけど、「パンクでいっていいぞ」というところで。そこまで結果を出してるというのがすごいですよ。だって、世界中にすっごいマイクロなブリュワリーはいっぱいあるわけだから。

鶴田:はい。

石黒:その中で、たったの9年でしょ? 9年でこんなことになるって、びっくりしたんですよ。

鶴田:起業家というか、ビジネスをやっている人にとって、最高に目標にもなるし、目指すべき生き方であって、行動が変わってきてますよね。

石黒:うん。ビール作ってくださいよ(笑)。

鶴田:うーん……作る人の応援はしたいですね。

石黒:そうだよ。鶴田さんのやり方というかビジネスの感じでいったら、それこそ支援しつつ、事業を成長させていくということですよね。

鶴田:この本から学べることは、商品を作っている人たちが、どうやってファンを作り、それを持続可能なものにしてやっていくかということについては、めちゃめちゃ勉強になる本でした。

石黒:あー。

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