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メルカリ:日本の唯一のユニコーンが世界に臨む(全2記事)

手本はGoogleとFacebook メルカリ山田氏が“愚直な改善の繰り返し”にこだわる理由

2016年9月6日に開催された「Tech In Asia Tokyo 2016」にメルカリCEO山田進太郎氏が登壇。ライバルが多いフリマアプリ市場で、メルカリが競争優位性を保つために行っていることはなにか? GoogleやFacebookなど世界的に成功した企業の事例を参考に、勝ち続ける企業の作り方について語りました。

とにかく愚直に改善を繰り返すこと

デビッド・コービン氏(以下、デビッド):楽天だけではなく、ヤフーとか、いろいろ競争会社があると思うんですけれども。彼らがメルカリと違う点といえば、モバイルファーストではなく、PCからモバイル化してくるということですが、これからもっとモバイルファーストの競争会社が出てくるかなと思います。

今までいろいろ話していただいたんですが、ほかの会社がメルカリさんをコピーすれば同じようにできるんですかね。ちょっと聞きたいんですけど(笑)。

山田進太郎氏(以下、山田):最近「今後、中長期でどうしていくか?」ということを考えたりしてるときに、インターネット企業という意味でいうと、やはりGoogleとFacebookの成功というのはすごく勉強になる部分があるなと思っています。

じゃあ、彼らがなにをやってきたかというと、例えば検索っていったときに、検索自体は誰でも作ることができるわけなんですけど、彼らはとにかく細かい改善を繰り返した。例えば、画像も検索できます。動画も検索できるようになります。地図のなかで場所が写真で見られますとか。

そういうことをやってきたことによって、そのあとマイクロソフトというほぼ無限の資金を持った会社が参入してきても、Googleの検索は成長し続けています。

Facebookも同じようなことで。Facebook自体はソーシャルネットワークとしてはけっこう遅いスタートだったんですけど、サービスをとにかく改善し続けていくことによって、例えば、アルバム機能がすごい使いやすくなって突然画質がよくなったり、動画も使えるようになりますとか、最近だと360度動画みたいなやつも出てきたり。けっこう細かい改善というか、愚直な改善を繰り返してきている。

それが、それこそTwitterとかほかのサービスに比べて圧倒的な競争優位性というのを作っていると思ってます。

今もうFacebookのザッカーバーグは「3分の1はR&Dに使います」と宣言しています。当然Facebookも改善しているし、VRとかARとかそういうもの、あるいはAIみたいなものにすごく投資をしていて、それによって競争優位を築こうとしていると僕は理解してるんですね。

なので、我々も今、愚直にとにかくサービスを改善しています。例えばビッグデータみたいなものを使って、価格のサジェストをやったり、カテゴリのサジェストをやったりすると、明確に出品完了率が上がったりするんですよね。

そういうことを繰り返していくことで、出品までいくとか、売れるまでいくとか、購入までいく人たちを、本当に1ポイントずつ上げていく。そういうことをしていけば、どこか同じ会社が同じような機能のものを作ろうと言っても、簡単にはコピーできないものになるんじゃないかなと。

結局、複利で効果が出てくるので、その0.1ポイントとか1ポイントの差というのが、最終的には「追いつけない」ということになるんじゃないかなと思っています。僕らとしては、とにかく愚直に改善を繰り返して、技術に投資をしていくということをやろうとしてるという感じですね。

デビッド:その改善について聞きたいんですが、これからの改善で、なにを優先しますか? 例えば、お客さんがアプリを開いてから購入までの時間を短縮する。あとは、アプリを開いてから、ものすごくたくさんの適切な提案を入れるとか。

山田:それはもう、あらゆることをやってますね。うちだとプロダクトの人たちは、たぶん70人ぐらい。まだすごい小さいんですけど。

それでも小さいチームに分けて、例えばタイムラインとか、CRMと言ってメールやプッシュを改善するチームとか、インフラとか、そういう細かいチームに分かれているんですけど、それぞれのチームが改善をしている。

それによって、僕やプロダクトのヘッドの人間が予想もつかないところで、すごい改善が行われたりというのが最近は起こり始めています。そういうことをとにかくやっていくことかなと思っていますね。

なぜイギリスに進出するのか

デビッド:なるほど。そしたら、先ほど、イギリスも考えていらっしゃるということで。だいたいアメリカの企業だったら、アメリカを出て、ドイツとかに入るというところが多いと思うんですけど。

山田:そうですかね?

デビッド:なぜドイツではなくイギリスに?

山田:ヨーロッパのeコマースという意味で見ると、例えばeBayとかを見ても、やっぱりイギリスというのが一番大きい。ドイツも大きいんですけど、それよりもちょっと大きいというのが現実的理由としてはあります。

あとは英語が通じるということ。それから、アメリカとイギリスは関係が深くて、人材もかなり流動しているというのもあって。

とっかかりとしては、僕らは人脈もまったくなかったので、やっぱりイギリスがいいかなというところですかね。それと現実的には、サンフランシスコと東京からダイレクトなフライトがあるというのも1つの理由になっていましたね。

デビッド:Brexitの影響は……Brexitがあったときどういう気分でしたか? 「ああ、よかった」または「まさかBrexit!?」(笑)。

山田:まずBrexitの投票日の前日ぐらいまで、僕も何日かイギリスにいたんですね。いろんな人と会っていろんな話をしても、誰も予想してなかったですね。

当然IT、internet industryにいる人というのは、どちらかというとリベラルな人が多いので、予想していなくて。Brexitのあとも、うちの社員も本当に「マジか!」という感じが多かったです。

では実際にじゃあどうなるかというと、今のところは正直なにも変わってないという感じですね。

現実的に、離脱するのに2年間かかるというのもあるんですけど、それまでに我々のビジネスでもイギリスで展開をして。テクニカルな話になると、実はヨーロッパってすごく規制が厳しいので、ライセンスが必要なんですね。金融免許みたいなものとか。

デビッド:決済するため?

山田:そうですね。免許を取ろうとしてるんですけど、それもパスポートといって、ヨーロッパ内だったらほかの地域でも全部行けるというのがあるんです。それがEUを離脱するとなくなるかもしれない、みたいな感じになっていて。ただそれは、2年の間に進出すれば基本的には問題ないはずなので。

今のところは、僕らのビジネスという意味では、そこまですごい影響はないかなと思ってますね。

デビッド:つまり、この2年間の間にそのライセンスを取れば、とくに影響はないと?

山田:ライセンスを取って、それをパスポートして、例えばドイツなりフランスなりで事業を開始すれば、「もう持ってるよね」という話かなと。

採用は世界基準

デビッド:イギリスチーム、すごく大きいチャレンジをするんですね(笑)。今、何人ぐらいいらっしゃいますか?

山田:イギリスはまだ6人ぐらいですかね。

デビッド:アメリカを立ち上げた時、共同創業者の石塚(亮)さんが立ち上げたと思うんですが、イギリスではどういう感じですか? 現地採用ですか?

山田:これ話すとすごく長くなっちゃうんですけど(笑)。

イギリスのヘッドは今、日本人で、僕の古くからの友人を新たに採用しています。彼はすごい変わっていて。

デビッド:いい意味で?

山田:いい意味で。いい意味でというか、あれですね、ネットの人ではないです。もともと外務省とか世界銀行とかにいて、ずっとワシントンD.C.にいたような、首相のスピーチとかそういうのを書いてたような、本当におもしろい人間で。

彼はもともと、新興国の開発などをやっていたので、そういうところですごい彼のネゴシエーションが役に立つんじゃないかというので入ってもらったんです。今はイギリスの立ち上げをやっていて。チーム内は全員UK人、もしくはEU人という感じですね。

デビッド:その最初の採用についてはすごく重要だと思うんですが、どのような条件で採用していますか?

山田:これは基本的には世界基準に合わせてますね。

デビッド:世界基準とおっしゃるとどのへんですか? けっこういろいろな企業が「世界基準に合わせます」とおっしゃってるんですが、メルカリさん的には「merci box(メルシーボックス)」などは確かに世界基準に合わせていると思います。日本では珍しいところだと思うんですが、採用的にはどういう感じでしょうか?

山田:これはアメリカもそうですし、イギリスもそうなんですけど、やっぱり国特有の条件というか。例えば、ストックオプションみたいなものもそうだし。当然給料も、シリコンバレーは感覚値的には2倍ぐらいするんですね。でも、それはそういうものだと思ってやっていますね。

なので、日本の社員とアメリカの社員を比べたら、当然アメリカの社員のほうが高いです。けど、それは現地でよい人を採るためには、もうしょうがないというか、そうすべきだと思っているので、そこは躊躇なくやってます。

あとストックオプションの渡し方みたいなものも、日本だといわゆる税制適格ストックオプションというのがあるんですけど、アメリカにも同じような仕組みがあるので、それに合わせられるようなかたちで。

ただ、アメリカの場合は4年vestingといって、4年間にわたって株式が徐々に行使できるようになっていくというのがスタンダードなので、日本の会社がそれを発行できるようなかたちに、弁護士と話をして設計して発行しています。

イギリスも同じように、イギリスの事情に合わせて、給与もストックオプションも全部設計してるという感じですね。

デビッド:そうすると、日本法人も世界基準に合わせるという話ですかね?

山田:まあ世界基準というか、たぶん……そうですね、かなりそれに近いかたちになっているつもりなんですけど。

どちらかというと、いわゆる経営層というか、幹部のほうがそういうかたちですかね。うちだと執行役員以上は、4年間のvestingがついてるようなストックオプションを渡していて。それ自体かなり珍しいかたちだと思ってるんですけど。

そのやり方は、ある意味シリコンバレーでいい人材を獲得するために開発されたような手法なので、日本でも同じことをやって、今けっこういい経営陣にジョインしてもらってるという感じですかね。

世界的に成功している企業から学ぶことが重要

デビッド:執行役員のあたりで採用が必要だったら教えてください。

山田:そうですか(笑)。

デビッド:申し込むかもしれない(笑)。

山田:紹介してくれるというのかと(笑)。

デビッド:いえいえ、僕自身(笑)。

山田:僕自身(笑)。

デビッド:イギリス法人に行って……。

山田:それは御社の投資家とかいろんな人に怒られちゃう(笑)。

デビッド:そうですね(笑)。

時間がちょっとだけ残ってるんですけど、今回のTech In Asiaのミッションとしては、日本から世界につながるということで、今回メルカリさんがいらっしゃったことで本当にミッションを達成できたかなと思います。

山田:ありがとうございます。

デビッド:アドバイス的に聞きたいんですが、海外に進出するときに、どのような考え方が必要ですか? とりあえず、次のマーケット、次の市場を選ぶとき、なにを考えたほうがいいですか?

山田:う~ん、そうですね、これはけっこう難しい……。まず前提として、僕自身もぜんぜんアメリカは、すごく大成功しているわけでもないので、自分のやり方が絶対正しいとは思っていないし。もしかしたら黒字化するのはそんなに難しくないかもしれないですけど。

よくアメリカにいる日本人の起業家の人とかだと、「シリコンバレーでいきなりやったほうがいいよ」と言ってる人もけっこういて。もしかしたらそれが正解かもしれないという。

なので、結局正解というのはないかなと思っているんですね。ただ、世界的に成功している会社がどういうビジネスをしていて、どういう意思決定をしたり採用したり、報酬体系を含めてどういうやり方をしているのか。それがやっぱりいわゆる世界基準、デファクトスタンダードだと思っているので、そのやり方を勉強するというか、知っておくのはすごく重要かなと思ってますね。

結局日本の会社が、アメリカでいい人採ろうとか、イギリスでいい人採ろうっていったときに、日本的なやり方を押し付けても(うまくいかない)。

ただでさえアメリカ企業で、それこそGoogle、Facebookみたいな会社もあれば、UberとかAirbnbみたいなベンチャー、さらに無数のスタートアップもあるなかで、いかにいい人を採っていくかとか、いかに事業を進めていくかというときには、やっぱり知っておかないと成功することは難しいかなと思っています。

日本企業が海外で成功しないのは豊かだから

デビッド:そうですね。続きまして、海外に行くとき、どのぐらい創業者、社長が力を入れないといけないですか? 秘書に任せるとかいろいろパターンがあると思うんですが、社長自身はどのぐらいやらないといけないんでしょうか?

山田:これも正解がないとは思ってるんですけど、まあ、そうですね……。プロダクトの性質とかにもよると思いますけど、僕自身はやっぱり社長がけっこうコミットすべきかなと思っています。

メルカリは創業経営者が3人いるんですけど、2人が今アメリカに行っていて、僕もけっこう海外にいるので、かなり会社としても海外にコミットしているというのを日本の人も理解してるから、9割の人は「日本の数字は見なくていい」みたいな方針でやっていても納得感があるということかなとは思ってますね。

やっぱり日本の方が数字がでかい分、「これやったら売上1,000万円増えます」というのがあって、一方で「なにやっても、人も採れるかわからない」みたいな海外事業があったときに、どうしても海外のほうが優先度が下がっちゃうということは起こり得るかなとは思っているので。そこをグッと耐えてコミットすることが重要かなと思っています。

デビッド:わかりました。今までいろいろ、とくに海外進出について、いろいろおっしゃられたんですが、日本企業さんがそのようなことを実施するのは難しいようで、海外進出の成功事例そこまでないんですね、最近。

山田:そうですね。

デビッド:また正解はないかもしれないですけど、それはなぜでしょうか?

山田:それは、日本が豊かになったからだと思いますね。僕は例えば、トヨタにしてもホンダにしてもソニーにしても、なぜ成功したかというのを知りたいと思っているし、真似できることはないかと思っていろんな本を読んだりお話を聞いたりしてるんですけど。

当時は日本自体のマーケットが、貧しいといったらあれだけど小さくて、やっぱりメーカーだったら海外に行かないともうこれ以上伸びないという思いで、ソニーだったら盛田(昭夫)さんがニューヨークに行ったり。ホンダもやっぱり「アメリカやらないとダメだ」とかいってやったわけですよね。

だから、今、日本で小さなビジネスモデル作って、キャッシュ稼いで、しかも上場もできちゃうし、と考えるとどうしても日本に目が向いちゃうというのは、むしろ日本がいい環境になってるということの裏返しかなと思っていますね。

デビッド:そうですね。もう日本でいろいろできるからね。

山田:正直、生活という意味でも、本当に日本って安全だし、ご飯はおいしいし。気候は賛否両論あるかもしれないですけど、僕は四季とかがあってすごくいいと思うし。

デビッド:わかりますよ。僕もアメリカ人だけど、もう8年間ぐらい(日本に)住んでるので、アメリカに帰れるかというと...。もう「炊飯器ないし」とか、そういう心配が浮かんでしまいます。

山田:そうですね。海外にいくとやっぱりいろんなものを捨てていかなきゃいけないってなっちゃうんですよね。そういう意味でいうと、早く海外に行ったほうがいいのかなって僕は思ってますけどね。

僕がはじめてアメリカに住んだのは26歳ぐらいだった。もうその時ですら遅かったので、もっともっと若い時期に、アメリカじゃなくてもいいんですけど、海外に住んで、もっと世界標準的なやり方というか考え方がわかっていれば、もしかしたらぜんぜん違った人生もありえたかなって思ってますけど。

今は、僕自身のチャレンジでもあり、会社のチャレンジでもあるんですけど、日本のいいところを活かして海外で成功するということを目指してやっているという感じですね。

デビッド:そのアドバイスでこのセッションを締めさせていただければと思います。お時間いただき、ありがとうございました。

山田:いえいえ。

デビッド:もう一度みなさん拍手をお願いします。

(会場拍手)

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