2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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砂流恵介氏(以下、砂流):後半に質疑応答の時間を設けたいと思っておりますので、もしご質問がある方は、ためておいていただけたらと思います。
休憩に入る前に、ブランドの話から。「どうやって世界観やセンスの統一をされているのか」。僕らがやれることとはなんだろうという話で、「楽しむことから始める」という、誰でも始められる話をしていただいたんですけれども。
ここからまた、ブランディングの話を引き続きしつつ、最後にもうちょっと落とした話もしていきたいなと思います。
僕らって、クラシコムさんで働いているわけではないので、サイト上に見えるものしかわからないじゃないですか。
青木耕平氏(以下、青木):はい。
砂流:そういう意味でいうと、たぶん先ほどの話のなかでも「やっていること」は相当お話いただいたんですけども、「やってないこと」ってなんだろうなと思いまして。
25歳~45歳くらいの女性のためにやっていないことは、恋愛とか結婚も入りますよね。それをやらないから、あれだけの特定のターゲットの方が喜んでくださっていると思うんですけど。ここについて教えていただいてもいいですか?
青木:ブランディングのためにやらないという言い方が適切なのかどうかわからないですけど。
砂流:それであれば、「北欧、暮らしの道具店」内でやっていないこと、ということで。
青木:めずらしいと思うことが2つあるとすれば、我々ECなんですけれども、まずレビュー機能というものを実装していないということですね。
砂流:付いてないですね。僕もそれ、ずっと気になっていました。
青木:それから売れているもののランキングというコンテンツは一切ないです。
砂流:ランキングはないんですね。
青木:「これが売れています」という言い方もしていないですね。どの商品に対しても。そもそもヒット商品を作ろうとはしていないです。お客様にメディアとして楽しんでいただくということを考えたときに、「何が売れているかはそんなに重要か?」と思うんですよね。
砂流:いや……。今、いろんな人が「?」を浮かべたと思いますよ(笑)。
青木:それぞれの楽しみ方で自分がそれがいいと思えば、それが楽しいわけで。お仕着せで、「売れてるランキング」みたいなものを出したら……。もちろんそれが優先的に売れていくという傾向があるのはわかっているんですけれど。
僕らにとっては売れること以上に、「うちに来たら楽しいな」あるいは、「うちの仲間になりたいな」と思ってもらうことが最重要なので、売れるということは、それ以下のことなんですよ。売れるけどおもしろさに反する、快適さに反することはやらないというところはありますね。
例えばですけど、ヴィトンがECやったとして、レビュー機能を付けると思いますか?
砂流:ダサいっすね(笑)。
青木:たぶんやらないですよね。世界観を完璧にコントロールしたいというのがブランドなので、編集権をユーザーに開け渡さないということですね。例えば、ディズニーランドであれば勝手な仮装をして入っちゃだめですよね。要するに、世界観の編集権をユーザーに与えていないということです。
当然、お客様にとっては利便性の観点から言えば、当然レビュー機能はあったほうがいいと思うんです。だけど、僕らのサービスは小売業のサービスではなくて、あくまで世界観を体験していただくということ。そこでお金をいただいているわけではないですが、自分たちの主要な仕事だと思っているので。売れるようになるかもしれないし、利便性・コンビニエンスという部分では高まるかもしれないけれどもやらないという選択をしているというわけですね。ランキングも同じ理由です。
あとは、しらべぇさんとか、Engadgetさんと同じくらいのPV数みたいな話が出ていたと思うんですけど。PVだけを見ていると同じくらいだと思うんですけど、我々の記事コンテンツのタイトルの付き方や内容を見ていると、ものすごく朴訥としているんですよ。
どういうことかと言うと、「もっとタイトルをこういうふうにしたら、すごくバズるよね」とか、「こういう企画がSEO的にいいよね」とかあると思うんですけど、そこに集中しすぎないようにそんなにアクセスが増えなくてもいいよという感じでやっています。
なによりも重要なのは、ある世界観に来ていただいた方に快適に過ごしていただくこと。買っていただいたらうれしいですし、我々は最近広告のビジネスもやっていますから来ていただくだけでマネタイズができるので、アクセスしている時間がその人にとって期待値を超える快適な時間になる、ということを最優先していることですね。
ソーシャルメディアでバズることに特化したコンテンツの作り方とか、SEOに寄ったコンテンツの作り方はほとんどしていないです。「これはSNSではバズるかな」くらいの、ざっくりした方向性はありますけれども。
PVとか収益の数字は一切誰にも責任は持たされていません。売上の責任が誰かにあるわけでもなければ、アクセスの責任が誰かにあるわけでもない。唯一言われていることは、「自分が書きたいものを書くな」と。「みんなが読みたそうだと思うものも書くな」と。「自分が読みたいと思うものを書きなさい」と言っています。
例えばハードコアパンクのバンドをやっている人が家ではオーセンティックなジャズを聴いてるみたいなことってけっこうあるじゃないですか。
砂流:はい(笑)。
青木:ユーザーとしてはジャズが好きなんだけども、自分の表現の手段としてはハードコアパンクだという人がいますよね。それと一緒で、僕らのサイトは商業メディアでお客様に楽しんでいただいてお金を頂戴するというメディアなので自分のライブハウスじゃないんですよね。
自分が表現したいことを表現するんじゃなくて、自分がユーザーだったらどういうものを読みたいか、どういう体験をしたいかということですべてを判断しなさいと言っています。
メディアの当事者になったことのある方はおわかりだと思うんですけど。影響力というのは当然メディアにはありますから、やっているうちに間違った万能感につながって、求められていないようなことまでやり始めたり。あるいは内輪ネタですね。メディアがメディア論を語り始めるとか、「いや、お前には求めてない!」みたいな。
そういう媒体さんだったらいいと思うんですけど、僕らが自分たちのサイトでブランディングの作り方のコンテンツをやり始めたら……。
砂流:見たくないっすね(笑)。
青木:寒いっすよね(笑)。でもメディアをやったことがある方だったらなんとなくおわかりだと思うんですけど。僕らでもすごく意識していないと、ついそういう企画が通っちゃうんですよ。
だから、「自分が本当にそこに来るユーザーだったら読みたいと思うの?」「それって自分が書きたいんじゃない?」あるいは、「自分が同業者の人から見たときにイケてると思われたいからそういうコンテンツを企画しちゃうんじゃないの?」ということに対しては、ものすごく厳しく言っています。「これはお前の個展じゃない」という話が、うちでは二言目に出るんです(笑)。
自己表現の場ではなく、あくまでもお客様をおもてなしして楽しんでいただく場です。自分がお客様だったときに最高に快適なコンテンツにしましょうというときに、コンテンツの内容は必ずしもエッジの立ったものにならないはずだと思ってるんですね。
コンテンツを作っていると自分が先に飽きてきちゃうんですよ。エッジの立った企画をやってないと飽きられるんじゃないかという焦燥感に駆られるじゃないですか。それはすごくわかります。我々も日々感じています。だけど、ユーザーの立場に立つと、実は変わらない安心感を求めている媒体、あるいは、コンテンツというのもありますし、賛否両論で議論を巻き起こすことをまったく求められていない媒体ってありますよね。
砂流:そうですね。
青木:我々は自分たちのことをそういうふうに思っているので、なにか議論を巻き起こすとか、あるいは賛否両論になるようなネタを扱うとかそういうことは一切しません。「去年はこうだったから、今年は新機軸でいくぞ!」みたいな、肩に力の入ったのはなくて。
自分たちがこのサイトに来るユーザーだったら何が読みたいのか。それはもしかしたらずっと似たようなことの繰り返しかもしれないけど。志村けんさんがタカアンドトシに、「欧米か!」が飽きられるんじゃないかという相談をされたときに「俺が何十年、変なおじさんをやってると思ってんだ」ということがあって。
砂流:同じ話をしようと思ってました! 僕は、「ゲッツ」で同じ話しようと思ってました。
青木:あはは(笑)。
砂流:「ゲッツ」見たいじゃないですか! ダンディ坂野さんに「ゲッツ」以外のものを見せられたら、ちょっとガッカリしません!?
青木:ほかのも見てもいいんだけど、せめて最後はゲッツで締めてもらうとかね。
砂流:そういうことですよね!
青木:いろんな媒体があって、いつも新しさとか最前線が求められる媒体さんもあると思うんですけど、自分たちに何が求められているのか、自分がユーザーだったら何を読みたいのか。
逆に、「みんなはこういうのが読みたいんじゃないか」と予想して書いても、それは1,000人いるかもしれないけど、1人もいないかもしれないという意味で、不確実性が高い。
我々は元お客さんを集めて仕事をしていますから、自分がお客さんだったときのことを考えて「自分がその場で読みたいと思うものを書く」ということをコンテンツの指針にしていますね。
砂流:体験してきたものから逆算、というか、考えて出していくということ?
青木:ディズニーランドに行って、楽しいな、キャストになりたいなと思って入っているわけです。「キャストの楽しませ方」というのは、自分がディズニーランドで「こういうふうにされたらうれしかった」「掃除してあげる」「案内してあげる」とか、そういうベーシックなことをしっかりやろうということで、やっていますね。
砂流:今ので思い出したのが、それまでAcerでやっていてフリーになったあと一番最初にEngadgetさんでライターをやらせてもらったんです。プレスリリースの起こし、記事に変える作業をするんですけど、プレスリリースのコピペなんてまったくしていなくて、「できた!」というものを編集者に出したときに、「これはプレスリリースのコピペですか?」って言われたことがあるんですよ。
青木:へ~。
砂流:そんなことはない、と力強く返したら、「あなたの専門性はどこに入ってるんだ」と言われたことがあって。Engadgetは、専門性を持っている人が少なからずその知見を一言、ニュースに対して書くという部分があるのを読者もおもしろいと思っていて。「今日Engadgetはどういうニュースをどう紹介しているんだろう」と見てくれるということがあるので、「あなたの専門性はどこに入ってるんですか?」って言われたときにハッとしたんですよ。
青木:なるほど。
砂流:そこから書き方が変わったんです、僕は。たぶんそういうのに近いことですよね。
青木:一般的な純粋なこれまでのマスメディアと、我々のコンテンツの作り方で一番差がある、さっきも「あまり経験者の人を入れていない」と話しましたが、これは排除しているわけではなくてたまたまそうなるんですけど、そうなっている一番大きな理由は、一般的なメディアは一人称で語ることがあまりないんですよね。
つまり、主体が匿名の状態で、メディアという看板でできるだけ自分の主観を排除して書きなさいという教育をされているのが一般的だと思うんです。我々は常に、誰が書いているということをどこの誰が書いているということまで明確にしていて。
砂流:わかりやすいですね。
青木:顕著な例としては、今うちのサイトを見ていただくと上のほうに誰が書いているかというアイコンが出てきますが、これを一番下に移動したら読了率が下がったっていうことがあってですね。
砂流:へ~。
青木:つまり、「誰が書いているかを認識して読みたい」という、ユーザー側のニーズがあるんじゃないかと分析してるんですけど。「私の意見の編集」と「第三者的な立場から語ることの編集」ってスキルとか、気をつけなきゃいけないことがあまりに違うので。
砂流:確かに違います。
青木:第三者的な観点で職能を磨き抜いてこられた方に「私見をいれろ」と言うとものすごく抵抗されるんですよ。それは恥ずべきことだと思っている方がけっこういらっしゃるんですよね。たぶん先輩たちからそういうふうに教えられていて。
我々の場合は、そうではなくて、自分たちが思っていることを言う、ということなので、先ほどの話でいうと砂流さんの観点プラス「誰が」まで踏み込んでいるからこそ伝わると思っています。
それは、世のなかの一般の人たちに影響を与えられる人の種類がこの数十年で変わってきたと僕は思っていて、例えば80年代、90年代くらいのころは作り手に最も発言力があったと思っています。カリスマのアーティストとかの話ですけど。洋服であればデザイナーとかクリエイターという人たちに最も発言権があった時代から2000年代前後、いわゆるセレクトショップブームになって「選び手」という人たちに主権が移ってきて。
今は、雑誌に出て「素敵」と言われている女性誌のなかにいる人たちは、何かのプロというより何の仕事をしているかよくわからないけどライフスタイルが素敵な人とか、おしゃれな人。読モもそのひとつかもしれないですし。カリスマ消費者、要するに「消費がうまい人」に発言権が移っているんですよね。
なぜ僕らが主観で語るかというと、お客様に対して、僕らのことを作り手とか選び手だと思ってほしくないんですよ。同じ消費者のちょっとおしゃれな友達とか、こういうことには詳しい人、みたいな位置付けで見てもらうから話を聞いてもらえると思うので。
ただお店の看板だけで語っていると、選び手とかプロっぽい感じになってしまうと思っているんです。実際に働いている人たちは、コンテンツを作るプロとしてやってきたというより、うちでそういうことを始めて、本当に自分が読みたいと思うものを、「どうやったらバズるか」「どうやったらSEOにいいか」とか、あまりわからずに朴訥として作って。
砂流さんと話してたんですけど、会議のときにパソコンを持ってきてパチパチできる奴が一人もいないみたいな(笑)。
砂流:すごいですよね。僕がパソコンでメモしてたら、そういう人がいないって言うんですよ。
青木:それくらいIT革命が起きてないんですよ(笑)。そういう人たちが「素直な素人の感覚」で「どういうものが読みたいか」ということだけを考えて一生懸命作っているという状況なんですよね。
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