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IVSスタッフから世界で活躍する起業家へ(全3記事)

「IT界のイチローに会いたくて」 日本人初のY Combinator起業家がIVSで得たもの

DropboxやAirbnbといった、世界で注目される企業を育てるスタートアップ養成所・Y Combinatorの日本人初の出身者となったAnyPerk・福山太郎氏。独立ベンチャーファンド・ANRIのGeneral Partner 佐俣アンリ氏をインタビュアーとして迎え、世界で注目される起業家の思考法を説いた。(IVS 2014 Springより)

スタートアップ向けに福利厚生を提供

佐俣アンリ(以下、佐俣):今回お越しいただいたのは、AnyPerkの福山太郎さんです。よろしくお願いします。

福山太郎(以下、福山): AnyPerkという会社を今、サンフランシスコで経営している福山太郎といいます。26年ちょっと前に高円寺で生まれまして、ずっと日本で育ってきました。高校のときに1年間アメリカに留学をして、大学は日本に戻ってきまして、法律を勉強しました。大学を卒業してすぐにシンガポールの会社に就職します。そこでエンジニアをちょっと学びまして、1年たった後の2011年にこの会社を起業し、今、3年弱になります。今日はよろしくお願いします。

佐俣:AnyPerkというのはどういう会社なんですか。

福山:AnyPerkは福利厚生を提供する会社でして、アメリカで、例えばGoogleとか大きな会社に勤めていると、Googleの社員だというだけで、携帯電話の使用料が安くなるとかジムのメンバーシップが安くなるとか、映画のチケットが4割引で受けられるというのがあるんですけれども、スタートアップとか小さい会社というのはリソースも従業員の規模もないので、そういった割引や福利厚生を自分たちでやる力も時間もない。そこをうちがアウトソース先として提供するというサービスになっています。

佐俣:めっちゃいいサービスですね。はやっていますか?

福山:ぼちぼちいい感じです。日本では同じことをやられている上場企業が2社ありまして、フランスにも上場企業があります。たまたまアメリカは大きな会社も上場企業もなかったので、チャンスだなと思って始めたんです。

佐俣:ナンバーワン?

福山:そうですね! アメリカでナンバーワンが取れれば世界にいけると思うので、お客様は、今100%アメリカの会社様で頑張っているところです。

秘密のベールに包まれたIVSに参加したかった

佐俣:ありがとうございます。では、僕も簡単に自己紹介させていただきます。佐俣アンリと申します。ANRIというベンチャーキャピタルを2012年に設立してやっています。例えば印刷のraksulという会社とか、スマートフォン決済のCoineyという会社とかに投資をしています。今日はよろしくお願いします。福山さん、起業されたのは2000……?

福山:2011年です。

佐俣: IVSのスタッフだったということですけれども。

福山: 3回ほどスタッフで。

恐らく2010年に参加させていただいています。

佐俣:シンガポールの会社に勤められているときに初めて?

福山:そうです、勤めている時にTwitterで(IVS主催の)小林さんがスタッフ募集をされているのを拝見して、直接メールを送って、やらせてくださいと。

佐俣:そもそもIVSを知っていたんですか。

福山:はい、もちろん! 何かすごい人たちが呼ばれる、すごいパーティーがあるみたいなのを聞いていて。昔は、もっとオフレコ感というか何か。

佐俣:クローズドでしたね。

福山:開催日時も明かされてなかったですものね。なので、いつかブラックカードみたいなすごい招待状が来るんじゃないかと思ってIT系に就職したんですけれども、なかなか招待状が来ないので、ちょっとこっちから立候補してみようかななんて(笑)、連絡しましたね。

佐俣:それで、「行きたいです」と?

福山:何個かの「スタッフ」と「通訳の方」みたいなのがあって、僕はたまたま英語も少ししゃべれたので、これはチャンスだなと思って、「通訳でお願いします」というふうに。

佐俣:でも、シンガポールにいらっしゃったじゃないですか。日本に来るというのは、結構大変でしたか?

福山:そうですね……、迷いはなかったですね。

IT業界のイチローに会うために

佐俣:それは何でですか。

福山:やっぱりすごいじゃないですか。野球でいうオールスターゲームみたいな感じじゃないですか。ボールボーイでもいいから(笑)。

佐俣:その気持ちすごいわかります(笑)。

福山:そしたら近くでイチロー見れるんじゃないか、ぐらいの感じで来ましたね。でも、「英語の面接をします」と小林さんから返信が来て、「おっ、すごいな」と思って、確かスカイプで、夜の10時ぐらいに小林さんに「おはようございます!」という感じで話したら、いきなり、「じゃ、英語で10分間ソーシャルゲーム業界の動向について語ってください」と言われまして。

そのとき僕もソーシャルゲームをシンガポールで作っていたので、多分それもあって、業界について英語で語ってくださいと言われて、びっくりしたの覚えていますよね。

佐俣:それは答えられたんですか。

福山:もう全力で、話しているふりをしながらアメリカのTech Crunchみたいなものを検索して、そこのあれをチョチョッと言って(笑)。

佐俣:それは初めて聞きましたね。

福山:できるだけ早口で言って小林さんにバレずに乗り切る、というのがあの時のテクニックで、数分話してこれからかなり突っ込まれるんじゃないかと思ってすごい緊張していたら、「オッケーです、合格です。では、お待ちしています」と言われて、「おお、すごい!」と思って、興奮したのを覚えていますね。

海外の有名ゲストは「ぼっち」になりやすい

佐俣:そこから通訳の仕事をして、3回ぐらい出られた?

福山:そうですね。海外でもすごい有名なゲストの方がいらっしゃると思うんですけれども、海外ではみんなあちらから話かけてきても、日本だと言語の壁もあって皆さんなかなか話かけづらいので、意外と隅で「ぼっち」になっていたりするんです。そこに「通訳です」と言うと、そういう偉い方々と結構仲よくなれたりして、「じゃ、ちょっとアメリカに行ったら会おうよ」みたいな感じで。

佐俣:戦略的ですね(笑)。

福山:(笑)、そうです。なので、京都でちょっとおいしいごはんを紹介するよみたいなことを言って、ひたすら食べログのリンクを送ったりしていました。それで、投資家の方と出会ったり、有名な方とお話をする機会があったので、これは個人的にはいいチャンスというか、いろいろと学ぶ機会も多いのでいいなと思って。

佐俣:スタッフとして出て学べたことは、例えばどういうことですか。

福山:僕の最初の予想は、スタッフとして行って、会場に立って、たまにお手伝いするぐらいなもので楽な仕事なんじゃないかと、ちょっと舐めてかかっていたところがあったんですけれども、開催の2日前ぐらいに小林さんからメールが来たんですよ。

「座禅の法話の通訳をお願いします」というミッションがあらわれて、まず1つ目には、朝がめちゃめちゃ早いので、それが辛いんです。2つ目は、海外の人たちは座禅を経験したいということで来るんですけれども、そこで住職さんとかが「座禅とは」みたいな話をされて、英語じゃないと伝わらないので僕が助けるということなんです。

でも、住職さんのお話は、座禅の歴史ということで、「400年前に幕府が……、天皇が……」みたいな話なんですよ。幕府!? ガバメント!? という感じで大変じゃないですか。住職さんが2分ぐらいお話されて、「はいっ」と言って僕に振られるので、僕が皆さんの前で話すんですけれども、どうやって訳したらいいかわからないし、話は長いし、難しいと思ったので、もう意訳しようと思って、途中からちょっとスリムに言うようにしたんですよね。

例えば、Government openedみたいな、何かそんな感じでやっていたら住職さん英語の経験があるのか、意訳しないでくださいみたいな感じで、すごいプレッシャーを上げてくるようになって。

同世代では得られない、目線の高さ

佐俣:じゃあ、しゃべってよって話ですね(笑)。

福山:そうですね。やばいなと思いつつ、それでも頑張っていたんですけれども、途中からしびれを切らして本荘修二さん(経営コンサルタント)とかが通訳し出して、僕の立場がないみたいな。そういった京都の歴史を英語で話すというのが一番大きな学びでした(笑)。

佐俣:そこ、学びですか。(笑)。

福山:一番は何だろうな……。やっぱり起業というかIT系の中でも、例えばDeNAやGREEといった、同期とか同世代と飲む機会とか御飯する機会が結構多いんですけれども、やっぱりここに来て、触れられる方というのは二歩も三歩も上の方じゃないですか。

どこかで立ち話していた時に、「君、起業したらどういう会社をつくりたいの?」と言われて、僕はその時やることが決まってなかったので、「1,000億円の企業をつくります」みたいな感じで言ったんです。

ちょっと僕としては背伸びして、こんなこと言ったら生意気だと言われるんじゃないかとビクビクしながら言ったんですけれども、そのときのお返事が、「あっ、1,000億なんだ。意外と小さい目標なんだね」と真顔で言われて、本当に何というんですか、「おーっ」というのを感じました。そういう人たちと触れられたというのが1つと、やっぱりその目線の高さみたいなものがすごい直接感じると、結構来ますね。

佐俣:なるほど。それで学んで。結構、シンガポールから参加するのは大変ですが、でも3回出られたんですか。

福山:そうですね、やみつきになったというか。楽しかったですね。すごい得られるものも多いですし、逆に今、シンガポールにいて、皆さんとなかなかお会いできる機会ないので、よかったなと。

トップレベルの人が一堂に集まるすごさ

佐俣:今回は久しぶりのIVS?

福山:久しぶりですね。

佐俣:今回は何で?

福山:今回は、たまたま家族の事情で帰って来たというのがメインだったんですけれども、1週間ほど日本にいる機会があったので、皆さんに、「ちょっとお茶してください」とか「ランチしてください」みたいなものをバーッとひたすら送ったら、95%の確率で「ごめん、札幌(で開催中のIVS)にいるわ」という。

やっぱりそのレベルの人たちは全員、札幌のパーティーに呼ばれるんだなと思って、小林さんに、「通訳でも何でもするので(笑)、座禅以外でしたらやらせていただくので、どうにか参加させてください。お願いします」ということで、今回参加させていただきました。

佐俣:久々にIVSに来てどうですか。まだまだスタートしたばかりですが。

福山:やっぱり全員いるなという感じはありますね。オンラインで見たことのある人たちが隣で朝食を食べていたりするので。すごい参加者のレベルの高さで、アメリカでもなかなかこの規模で、かつ本当にトップレベルの人が全員集まるというのはほぼないと思うので、そういった意味でやっぱりすごいな。開催されてもう何回目ですか。

佐俣:(前身の)NILS(ニルス)からで10年ぐらいですかね。10年前は?

福山:10年前は高校生でしたね。まだダボパンとかはいていた頃ですね。

人生の分岐点となったスタッフ参加

佐俣:じゃ、IVSでスタッフとして3回出られて、そこで何か人生として開けたことはありますか。

福山:これはいっぱいありますよ、そりゃあそうですよ。起業するきっかけになったことが一番大きいです。皆さん、起業されて経営されて、すごく生き生きされていますし、通訳として潜り込んで、会話についていけるというか内容を聞いていておもしろいんですけれども、僕も話す側になりたいなと。

「おまえの会社どうしている?」「どうしている?」みたいな話をしているんですが、もちろんながら僕は聞かれないんですよね。やっぱり圧倒的な劣等感と圧倒的な省かれ感があって、これぐらい成功している方々がこの密度で集まるので、起業というか経営しているのが当たり前みたいな感じになるんですよね。

大学に戻るとみんな代理店に行くとか商社に行くとかがデフォルトなので、そういった意味で、目線が自然に上がったので起業するきっかけになったことが1つと、2つ目が、一番最初に始めたときのメンバーが、実はIVSのスタッフ同士だったんですよね。

日本人は優秀だがアイデアがイケてない

佐俣:あ、そう?

福山:はい。一番最初なので、うちの今とは全然違う時なんですけれども、出会いが2つ目。

佐俣:じゃ、AnyPerkの創業のストーリーに1つ、もう組み込まれているんですね。

福山:そうです。それで、3つ目が、うちの会社は一番最初にmiepleという今は全くいけてない、ちょっと出会い系的なソーシャルネットワーク系なサービスをやって、2011年にアメリカに行き、2カ月間投資家を回ったんですけれども、もちろん全然誰からもお金は集まらなかったです。

帰ってきて参加した時に、確か500Startupsのデイヴ・マクルーアが登壇し話していて、そのセッションが日本からシリコンバレーへ行くみたいなテーマで、モデレーターの方が「日本のStartups、どうやったらアメリカに行けますか」、みたいな質問をしたら、デイヴ・マクルーアが名指しで「日本からも最近miepleとか何かが来ているけれども、人材も優秀だし、みんな行動力もあるんだけれども、アイデアが全然いけてないんだよ」みたいな。

佐俣:名指しで(笑)。

福山:はい。シリコンバレーのちょっとクールだと思っている人は何というんですか、What's up? みたいなFacebookのところだけまねして、全然売上も上がらないようなイケてないサービスばっかりやって、あいつらピボットしたら、すぐにでも俺はお金を出すのに、そういうのが一番だめなんだよと、名指しで壇上で言われて。

実はうちの弁護士もその場に座っていたんですけれども、弁護士がぶち切れて(笑)、Twitterでデイヴ・マクルーアに、うちのクライアントに何言ってんだよと罵倒したんですけれども。

話を戻すと、僕自身も最初6カ月間はそのサービスをやっていたんですけれども、あんまりうまくいっていないなというのを心のどこかで感じてはいて、起業家って自分の過ちをちょっと認めたくないというか、特にこれだけ投資家にもピッチして、お母さんにも「こんなことやっているよ」と熱く語ったのに、「やっぱ、だめでした」って言いづらいじゃないですか。

その時にデイヴ・マクルーア クラスの人に壇上でボンと「だめだよ!」みたいに言われて、ああ、やっぱみんなそう思っているんだなみたいな。何か投資家の人とか経営者の人とかは、「おっ、いいアイデアだね、頑張ってみなよ」とか言うんですけれども、みんな心の中では僕のアイデアをいけてないと思っていたんだなというのを気づくことができて。

その後、Y Combinatorに入ってアイデアを変えたんですけれども、なので最初の起業のきっかけもそうだし、メンバーもそうだし、今回のアイデアに変わったのもIVSがきっかけなので、そういった意味では。

起業家としての原点回帰の場

佐俣:じゃあ、伺っていると、悔しい思いを結構しているというか。

福山:そうですね。

佐俣:ゴールから比べて、まだまだな自分というのを確認する場だったということかな。

福山:それはおっしゃる通りです。やっぱりオールスターみたいな感じで、来て楽しいなとか、混ざることができて楽しいなとか、講演聞いてすごいなとか思うんです。そういった中で、みんなで話していると「おまえの会社はどれぐらいなの?」とか「売上は幾ら?」とか「社員、何人?」とか聞くんですけれども、やっぱり心の中ではすごいなと思いながらも、同時に、何でうちが、何ていうか……。

佐俣:自分の会社は聞かれないしね。

福山:そうですね。飲み会とかだと、みんなが盛り上がって終わるんですが、この規模だと上にはずっと上がいるので、そういった意味では悔しいじゃないですけれども、負けていられないなという気持ちがあるので、原点に思い返してくれるじゃないですけれども、今回も来てよかったなとすごい思いますよね。

佐俣:じゃ、今回は聞かれる感じになっていますね。

福山:そうですね。なので緊張しています。

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