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ベンチャーはどう大企業と付き合うべきか?(全5記事)

「日本のベンチャーは小粒で終わりがち」古川健介氏が明かすSupership設立の経緯

2015年12月8日、9日の2日間にわたって、「IVS 2015 Fall Kyoto」が開催されました。Session3のテーマ「ベンチャーはどう大企業と付き合うべきか?」には、プロノバ・岡島悦子氏、セガゲームス・里見治紀氏、IBM・北城恪太郎氏、Supership・古川健介氏の4名が登壇しました。本パートでは、KDDIグループの新会社Supershipを設立した古川氏が、大企業とベンチャー企業の共創関係について語りました。

新会社Supership設立の経緯

岡島悦子氏(以下、岡島):お待たせしました。けんすうさんに。

古川健介氏(以下、古川):はい。私に至っては資料が1枚もないという状態で申し訳ないです。

簡単に説明しますと、2009年からnanapiという会社をやっておりまして、2013年にKDDIから出資をいただいて、その翌年にM&Aされました。

子会社になったあとに、今年(2015年)の11月に同じようにM&Aされた3社を合併して、Supershipという1つの会社をつくったという経緯があります。

なので、大企業とベンチャーの付き合い方としてはけっこう出資からM&A、そしてその会社をまた1つにまとめて新しいものをつくるみたいな、けっこうダイナミックな流れにいさせていただいたので、その辺をお話しできればなと思います。

岡島:ありがとうございます。まずちょっとそこから開いていこうかなと思うんですが。Supershipということで3社一緒になる。

(ビットセラーの)森岡(康一)さんのところと(スケールアウトの)山崎(大輔)さんのところとけんすうさんが一緒になる。これは、カルチャー的にもすごくよくわかります。楽しそうだし、補完関係もよくていいだろうなと思うんですよ。

一方で、やっぱりKDDIというキャリアさんで、おそらく意思決定、いろいろなプロセスもおありだと思います。前にいたリクルートが大企業とはいえ、そこともだいぶ違うカルチャーというところで、正直やりにくいこととか、もっとこうしてくれたらいいのにみたいなことがもしあれば(聞かせてください)。

古川:昔リクルートという大企業に3年ほどおりました。そのときの経験と、ベンチャー企業の経験と、今のSupershipという中で、一番気づきがあったのが、「一般的な企業は、誰か意思決定者がいて、その人が決めるというものだけではなくて、合意形成やプロセスが重要だ」ということです。

リクルート時代は、誰かを押さえるとその人が意思決定して、数億ぐらいだったらすぐ出るみたいなものだったんですけど、これは特殊だったなと。

「数億円ぐらいだったら小銭だからいいよ」みたいな文化がリクルートだったので、あれはちょっと一般とは違うなと。

また、ベンチャーのように社長が「もう全部これでやるんだ」と決めて、当然全部決められるわけではないので、その辺のプロセスを理解してなかったというのが入ってから気づいたことですね。

ベンチャーが知っておきたい「大企業のお作法」

岡島:大企業側からするとどうなんでしょう? 大企業としては、せっかくのベンチャー企業の良さを活かそう、取り込もうというか、一緒にやろうというかたち。本当は大企業とベンチャーが共創していくことを目指したいと。

そのときにスピード感の違いや、意思決定のプロセスが煩雑だったり不明だったりという、「空気読めよ」みたいなことが往々にして起こりやすい。そういうことをみなさんどうやって解消されてきてるのかと。

里見:けんすうさんなんかまさにそうですけど、大企業を経験したことがある人が起業すると、大企業のなかでの意思決定プロセスをわかってるので、けっこうそのアプローチを取るんですけども。

それを経験してない起業家の方というのは、トップダウンに頼り過ぎる営業をする方が多いんですね。なので名刺コレクターじゃないですけども、大企業の社長にもう無理くり会いに行く。

パーティーやイベントで知り合って、すぐアポを取りに行ってと、たとえアポを取れてもまだオーナー系の企業だったらまだしも、もう本当に大企業と言われる、サラリーマン社長がやっているところだと、社長と面談しても話なんかぜんぜん進まないんですね。

先ほど北城さんもおっしゃってましたけど、重要なのはやっぱり現場のキーマンを紹介してもらうということだと思うんです。そこがないままトップ営業だけに頼ってる方がけっこう見受けられるなと思っています。

極端な話、自分なんかに会うよりも、「自分に、この仕事のこんな感じのこういう担当者紹介してくれ」と言われたほうが僕も時間がセーブできるし、紹介するだけだったらすぐ秘書経由でパッと紹介できます。

それで本当に現場のキーマンを押さえると、現場のキーマンが社内の承認プロセスをどんどん進めてくれるんですね。

僕がハンコを押すけど、そこに来るまでの承認プロセスとかバックグラウンドチェックなり社内の内部統制なり反社チェックとかいろんなことを乗り越えていくのを僕が進めるわけにいかないので。

やっぱり現場のキーマンをちゃんと押さえるというのが1つ意思決定プロセスにおいては重要かなと思いますね。

岡島:ベンチャー企業側の人たちも、大企業のお作法みたいなもの、あるいはお作法をうまくかわしていく方法ががわかってると、無駄な苦労をしないでいいかなという感じなんですかね。

里見:例えば、三木谷さんとか孫さんを見ていて、「孫さんに行けば何でも決めてくれるだろう」と思って突っ込んで行っちゃうと、けっこう話が進まないんじゃないかという話なんですね。

岡島:「カメチョク」みたいな話で言うと、DMMさんは直で行けば大丈夫みたいな話もありますね(笑)。

北城:やっぱり会社によって違うので、その会社でどう決めるのかをよく見極めながら行ったらいいと思うんですね。

とくに歴史のある大企業はだいたい社長だけで決めないので、誰か現場を押さえない限り何も決まらないと。だけども現場を押さえるときに上との関係をうまく利用すると、現場も動きやすいというのもあります。

だから会社によってよく見極めた上で、必要なら現場を押さえつつ上とアプローチしたらいいと思います。

KDDIの中における、Supershipの事業

北城:古川さんにおうかがいしたいんですが、KDDIさんに買収されて、これは大企業が買収するか、大企業のなかの子会社が独自で経営をしながら大企業の事業を拡大するというパターンとどちらなんですか?

IBMは最近買収した会社を中にインテグレートしてしまうんですね。最初はベンチャーにそのままやってもらいながら、そこの独自性を活かして活躍してもらおうというスタイルを取っていました。我々もコーポレートベンチャーをつくって、ベンチャーキャピタルに投資して、そこでいろいろな情報をもらいながら買収先を探したりしてたんだけども。

最近は我々の事業補完をするベンチャーを買収して、中に取り込んでしまうんですね。その会社は自分で世界に打って出るのは難しいけども、IBMの一員だったら信用もつくし販売も回るからそれで伸びられるということで、社内の一部にしちゃうんです。

御社の場合はどちらなんですか? 独自で頑張れと言われるベンチャーなんですか?

古川:それがけっこうおもしろくて、その中間に近い感じですね。KDDIの中に組み込まれるというわけではないけれども、3社を合併させて、かなり強い影響下にある会社を作り、独自で経営していってさらに伸ばしていくというスタイルです。本当に中間かなという気がします。

岡島:まさに出島型で独立的に経営してもらうのか、企業文化も含めて吸収合併(インテグレーション)するのか。この中間ぐらいというのは、実行の難易度は高いけど、非常によく考えられた仕組みかなと思います。しかも3人とその会社が一番うまく回るような立てつけになっていらっしゃる。

古川:そうですね。なのでインターネット企業っぽさをキープしつつ、経営面ではかなりサポートしてもらうというかたちですね。

北城:でも大企業のなかに入ると、大企業からするとそのベンチャーがなにか不祥事を起こしたら会社の信用に関わるからって、けっこう内部統制とか広報宣伝活動とかブランドの使い方とかいろいろコントロールすることあるじゃないですか。そういうことはあんまり困ってないんですか?

古川:うーん……。そこまでうるさく言われている感じもなくて。それぞれのベンチャーが上場を目指してたりすると、そもそもちゃんとやっていたりするので、実際に差はそんなにないとは思いますね。

大企業に組み込まれるベンチャーの苦労

岡島:ここはたぶんすごく重要なところですよね。私がリーダーシップ開発支援をしている企業の中にも、経営者を買いにいく、いわゆるAcqui-Hireのケースもあります。

ただ、大企業の社員にいらっしゃらないような勢いのある起業家たちを買ったというケースが、大企業の内部統制の結果として、みるみるうちに「あれ? 個性失っちゃってない?」みたいなことになっているケースもたくさん拝見するんですけれども。みなさんの企業ではそれは発生していないんですね?

北城:有能な人はIBMに入ってIBMの事業部のトップになったり、会社のトップを目指して頑張る人もいるので、人それぞれですね。

自分で創業したいと言ってベンチャー経営をやる人もいるし、大きな組織を動かしたいという人もいるので、やっぱりそれぞれの価値観に基づくんじゃないですかね。

ただどっちにしても大企業の中に入ったら、やっぱり内部統制もしっかりしないと不祥事を起こしてもらったら困るというようなところはあるから、どうしても時間がかかりますよね。

里見:僕も同じような質問なんですけども、我々もやっぱり会社を買うとき、もしくは会社を買ったときに、そのベンチャーのいいところを失いたくないなと思いつつ上場してると、J-SOXのこれをやれという大変な項目、いきなり上場を目指してた会社が上場企業と同じ管理をやれというふうになっちゃうので、どうしてもスピード感を抑えてしまう。

逆に買われるほうにしたら、オーナー企業で自分が決めてたのに、急に何かいろんなおじさんが出てきてとか。なにかそういうの嫌なんじゃないかなと思ってたんですけども、そういうのはどうなんですかね?

古川:そうですね。逆にその大企業の人のほうが非常にそこに気を使っているんですけど。個人的には内部統制とかしないとダメだと思うので、単純にそこにサポートしてもらえるのはいいとは思いますね。

個人的には、あらゆる企業が公開企業並みにちゃんとするべきだと思うので、そこに向けてやるのはそんなに嫌だという話を聞かないですね。

結局どういうマネジメントにするかだと思うんですけど、利益が上がってればOKにするのか、なにかKPIを設定して、これを達成してればいいかみたいなところだけ決まっていれば、うちの場合はあとは自由度高くやっているので、そういうところはあんまりないですね。

むしろインテグレーションされちゃったときのほうが意思決定プロセスが変わるので、こっちのほうが大変そうだなとは思います。

IBMの企業買収

岡島:北城さんにうかがいたいんですけれども、IBMさんはかなりインテグレーションすると。アメリカの企業はどっちかというと買われる先もやんちゃな先がけっこう多いんじゃないかなと思ってまして。

しかも巨額な規模の買収もいろいろやってらっしゃると思うので、そういうときにインテグレーションしてしまって、今話が出ていたような個性がなくなっちゃうみたいなこと、あるいは人が辞めちゃうみたいなことはないんですか?

北城:我々もいろいろな会社を買収して、大きいのは5,000億円ぐらいの会社とか、今インターネットでクラウドサービスをやってるソフトレイヤーに2,000億円ぐらいかけて買収して。さらに1,200億円ぐらい追加投資して世界のデータセンターを強化したりするので。

そのベンチャーからすると、自分で投資できないことが投資できるようになったというおもしろさはあるんですね。

我々の課題は、あまりにも買収するので、営業がどこの会社を買収したか覚えきれないというのが問題なんだけども。それだけ買収してるとポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)についてノウハウができてきて、実はそういうのをコンサルティングやったりもしています。

それで、会社によってはやっぱりトランジションピリオドだけは頑張ってほしいと。そのあとは別な経営者がやるというのもあるんですね。

というのは、会社も100人ぐらいのときは社長が全部見れると。だけど1,000人になったら自分で見れないからマネジメントの仕組みがいろいろと(必要になる)。

これが10,000人の会社になったら、また別のマネジメントシステムをつくらなきゃいけないので。そうすると、やっぱりフェーズに応じて経営者も変わんなきゃいけないから、前にいた人が全部うまくいくかというとそうでもないので。

要するに、能力があったら自分でもマネジメントスタイルを変えられるんですね。そういう人は残って頑張ってもらうし。

そうじゃない人はトランジションピリオド行ったら他へ出てくというようなことをやってますけどね。

買収する側、買収される側の心構え

岡島:日本でもヤフーさんなどを見ていると、売却後出ていかれる方もいらっしゃるし、今日も来ておられますが、そのまま残って執行役員に上がっている方もいらっしゃいますよね。

たぶんいろんな事例があるんでしょうけど、そのPMIのノウハウがあるというのはすごくいいですね。つまり、殺してしまわずにしっかりと取り込めるという。

北城:それはいろいろなノウハウがあって。Day1と言うんだけど、買収完了したその日からIBMの社員のバッジを用意しておくとか、メールアドレスを用意しておくとか、オフィスに行ったときに、もうIBMが買ったというのがすぐわかるようにして、社員との一体感をつくるような文化をつくってインテグレーションをやるんですね。

前の会社のままだらだらとやると、なかなかインテグレーションがうまくいかないので、我々はもうパッとDay1からインテグレーションをするための仕組みを用意してるという考え方です。

岡島:やっぱり外形基準はすごく大事ですよね。バッジを付けるとか。

北城:そう。入ったときに自分たちが歓迎されてるかどうかは、やっぱりちゃんとマイバッジがあるとかメールアドレスがあるとか会社の給与の仕組みとか管理の仕組みに自分たちが入ってて歓迎されてるという雰囲気がないと、やっぱり外様意識が出ちゃう。

岡島:健介さん、そこはどうなんですか? ほっといてくれというのはないんですね?

古川:ほっといてくれというのはあんまりないですね。いかに歓迎感を出して、メンバーに対してこれがいいことだよと伝えるかというのは非常に重要だと思います。

岡島:その対メンバーという意味では、どういう伝え方をされたんですか?

古川:先ほどおっしゃっていたような、「1社ではできないようなことを実現するためには、こういう座組みとかスキームとか必要だよね?」というところからですね。

1社でこのままゆるゆると育っていってもしょうがないと思っていて。とくに日本のベンチャーは小粒のまま終わってしまうという問題があると思うので。その辺は、例えば3社で合併しちゃうとか、大企業の1つになるとかでちゃんと伸ばしていけるというのが必要だという話をけっこうしましたね。

あとは目線をいかに上げるかというか、nanapiという会社目線ではなくて、その上の……例えばKDDIとしてはどうするべきかを考えましょうというのはけっこう言ってました。

岡島:大企業側も、一緒になる側も、メッセージがすごく重要ですよね。

古川:そうですね。

北城:古川さんに質問していいですか? 最初の会社つくるときに、資本金どうやって集めたんですか?

古川:資本金60万円だったので、みんなで10万円ずつ出しました。

北城:ほう。60万円で会社できて。よくそれでちゃんと続けられましたね。

古川:そうですね。ITなのであんまりお金が要らなかったというのと、あと給料もゼロでいいので。そうすると、月々の家賃が8万円ぐらいなので半年ぐらいはもつという完璧な……。

北城:最初から収入が上がるモデルだったらそれでもできるんですね。ただ普通は1,000万ぐらい集めないと会社ってなかなかうまくいかないと思うんですね。でも60万で創業できたらすばらしいことですね。

古川:そうですね。でもどうなんでしょうね? 最近だとみんな10万20万の給料さえもらってれば学生さんとかでやって。別に今オフィスも要らなくなってきているので。

北城:そうですね。インキュベーションオフィスみたいなものも使えるしね。

古川:昔に比べてやりやすいなと思いますね。

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