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ベンチャーはどう大企業と付き合うべきか?(全5記事)

ベンチャーはどう大企業と付き合うべき? 知っておきたいお金と信用の話

2015年12月8日、9日の2日間にわたって、「IVS 2015 Fall Kyoto」が開催されました。Session3のテーマ「ベンチャーはどう大企業と付き合うべきか?」には、プロノバ・岡島悦子氏、セガゲームス・里見治紀氏、IBM・北城恪太郎氏、Supership・古川健介氏の4名が登壇しました。本パートでは、北城氏がベンチャーの課題となる資金調達と販売先の確保について、アイデアを紹介しました。

IVS 2015 Fall Kyoto「ベンチャーはどう大企業と付き合うべきか?」

岡島悦子氏(以下、岡島):みなさん、こんにちは。「ベンチャーはどう大企業と付き合うべきか?」というセッションを進めてまいります。本セッションのモデレーターをさせていただくプロノバ岡島です。どうぞよろしくお願いいたします。

まずは、北城さんからお話をいただこうと思います。

北城恪太郎氏(以下、北城):私は既存の大企業とベンチャーというのは、イノベーションの両輪だと思うんですね。ベンチャーも新しいことに挑戦する、それを大企業がまた取り入れていくというのはすごく大事なことだと思います。

1994年から2004年までにどういう会社が新しい雇用をつくったかというと、ベンチャーなんですね。新しくできた会社が雇用をつくって、既存の会社はあまり雇用をつくっていない。そういう意味で、新しい職場をつくるためにはベンチャーがすごく大事だと思います。

岡島:産業構造の新陳代謝みたいな話ですね。

北城:ええ。日本は少ないんですけど。私は経済同友会の代表幹事をしてたんですが、経済同友会がベンチャーの経営者に、会社つくるときにどんなことに困ったかを質問したところ、一番困ったのは資金調達をどうするか、それから販売先をどうやって見つけるのか。なかなか売りに行っても大企業が買ってくれないと。それから従業員の確保。

1つ目は、資金調達をどうやってやるか。これは資金調達のサイクルなんですが、有名な人がベンチャーを起こすときは別なんですけど、本当に最初のシード期にお金を出すのは親戚、知人・友人、義理人情で「あそこの息子さんがやるなら出すかな」というお金が大事です。

日本で会社を創業するときの資本金は、だいたい1,000万円か2,000万円なんですね。2,000万円あると8割の会社は創業できるので。要は、1,000万円か2,000万円集める仕組みがあると会社ができると。

そして2、3年経営すると会社の形が見えてくるので、お金のあるみなさんが応援をし、エンジェルが応援する。もうちょっと経つとベンチャーキャピタルも応援して、将来は金融機関が応援するということになります。

要は、最初のシード期にたくさんの会社ができれば、おもしろい会社が見つかって、エンジェルも投資できるんじゃないかと。この最初の会社をつくるところをどう応援するかがすごく大事だということで、私はそれを支援する税制づくりを担当してきました。

ベンチャーを支援する「エンジェル税制」

2008年に、経済産業省がエンジェル税制の大幅な拡充をして、個人がベンチャーに投資すると、投資したお金を寄付金と同じように所得控除してくれるという税制ができたんですね。

年間最高1,000万円までなんですが、例えば、収入の高い人が100万円ベンチャーに投資すると約40万円税金が安くなります。

岡島:これ、すごくいいですよね。

北城:こんな税制は世界にないんです。アメリカはベンチャーでも株式会社に投資して、つぶれると所得から引いてくれます。日本は投資しただけで所得から引いてくれます。

このエンジェル税制って知っていた方いらっしゃいます? これはベンチャー関係者でもほとんど知られてないんですよ。

2008年にこの税制ができたんですが、実はこの税制をつくるときに、経済産業省の人と一緒になって自民党の税調の先生を30人ぐらい説得して、「日本の雇用を増やすためにはベンチャーが大事だと。その最初の会社をつくるところを応援する税制が必要だということでこの法案ができました。

この法案ができたあとすぐに民主党政権になってしまって、あんまりエンジェル税制と言わなくなって、今は自民党の政権なんですが、今の大臣はあんまりこの制度をPRしないですね。

それで、私は経済産業省の代わりに、いつもエンジェル税制のPRのためのパンフレットを持ってきています。すでに会社を起こした方は、創業3年以内が対象なので使えないかもしれませんけど。

でも、みなさんが次のベンチャーを応援するときに、「エンジェル税制という制度があるぞ」と。個人が資本金を出すと、寄付金と同じように所得から引かれるんだと。すごくいい税制があるから使ったらどうかと言って、周りの人に紹介をしてあげるとか、これからベンチャーをつくる人がいたら紹介をしてあげてほしいと思います。

多少の制約はありますけども、1人でベンチャーをつくるのはダメで、2人以上社員がいないと使えないんですが。非常に優遇した税制なので、関心がある方がいたらぜひPRをしていただきたいと思います。

岡島:これ里見さん、古川さん、知ってました?

里見治紀氏:聞いたことはあったんですけど、具体的にどうやって使えるのかは把握してなかったですね。

岡島:私もまったくわかってなくて。いくつかのベンチャー企業にに少しずつ投資してるんですけどまったくわかってませんでした。

北城:投資のときに使ったら、もう寄付金と同じなので所得税が減ったんですよ。

岡島:本当ですよね。古川さんは知ってました?

古川健介氏:名前だけ聞いてたんですけれども、使うのが難しいイメージがあって……知らなかったですね。

北城:経済産業省のホームページを見たら使い方が書いてあるし、多少書類がややこしそうに見えるんですけど、経済産業省の窓口がすごくていねいに教えてくれます。

個人がベンチャーに投資すると、投資したお金が寄付金と同じように所得から引かれると。だから所得税が大幅に安くなるというのを覚えていただくとありがたいと思います。

ベンチャー経営者に必要な資質

それから、ベンチャー経営者でどういう資質が必要かということなんですけども。ベンチャーを起こすような人には、ともかく高い志がいる。社会に貢献しようとか、情熱とか精神力とか。それからプラス思考じゃないとダメですね。ベンチャーの経営者は落ち込むような人はダメなんですね。

それからお客さまの満足も大事だし、なんと言っても運が強くないといかんと。実は私、ベンチャー7社ぐらいに投資してるんですけども、今のところ1社もつぶれてないんですね。

上場した会社もあるので、投資したお金は回収できています。私がどこのベンチャーに投資するかを決めているのは、ほとんど社長です。社長を見て、この社長だったらやってくれるかなと。技術が高くて、ビジネスモデルがおもしろくても、なかなか思ったように成功しないので。

岡島:ビジネスモデルは、みなさんどんどんピボットされていきますよね。

北城:ベンチャーは技術もビジネスモデルもどんどん変わって、思ったようにいかないんですね。だから社長を見て決めます。社長を見て、この人は本当に情熱があるなと思って投資したところ、今のところはどこもつぶれていない。まぁ、これからのことはわかりませんが。

(会場笑)

岡島:情熱があるかどうかはお会いになればわかると思います。一方、運があるかないかって私もすごく大事だと思っています。少なくとも、CFOなのに3回とも上場できませんでしたみたいな人はちょっとまずいなと。運があるかないかはどうやって見極めてらっしゃるんですか?

北城:それがわかれば困らないので。自分が投資した会社が1社もつぶれてないというのは、運がいいんだなと思うしかない。

岡島:ありがとうございます。

社外取締役にお願いするメリット

北城:私は、ベンチャーこそ社外取締役にお願いするといいと思う。ベンチャーで成功した方が、シリアルアントレプレナーでベンチャーの社外取締役をするのがすごくいいと思います。

大会社の非常に有名な人で、元社長や元会長という人はたくさんいるんですね。そういう人を社外取締役にお願いするといいと思うんです。そういう人たちは生活に困ってないから、普通は給料を払わなくていい。もちろん払ってもいいし、ストックオプションぐらいあげてもいいのですが。

ともかく社会的な信用があって、いろんなネットワークを持っていて、なおかつお金をあんまり払わなくていい人をいろんなツテで探してきて、社外取締役をお願いしたほうがいい。

最近コーポレート・ガバナンスで社外取締役が増えてるんだけど、ベンチャーこそ社外取締役に著名な人をお願いするといいと思いますね。

岡島:そこはけっこうみなさん悩んでるんじゃないかと思っていて。私も大きいとこからベンチャーまで、4社の社外取締役やってるいるんですけれども……。やっぱりすごく著名な経営者の方にお願いすると、まず時間調整が非常に難しくなる。

それと、コンプライアンスという意味ではいいんですけど、どこかでブレーキになるんじゃないかなという気持ちがあるんですが、そこは人を選ぶってことですよね?

北城:ブレーキってどういうことですか?

岡島:応援してくださるだけではなくて、すべての提案に対して「ノー」とおっしゃるような方もときどきいらっしゃるので。

北城:まあそういう人は選ばなければいいんですね。理解のある方もいらっしゃると思うので。ただ、その会社がおかしなことをすると、社外取締役の人の責任も追及されるので、やっぱり信用する人しか受けてくれない。なにかで知ってる人だと思うんですね。

岡島:そうですね。なにかで長くお付き合いがあって、人間的にもよくわかってらっしゃる。

北城:親の知り合いとかね。

岡島:ブイキューブさんとかそうですね。

北城:そうなんですね。ブイキューブは社長の親父さんが元の社員だったので、そこのツテで頼まれたと。そういうことでいいと思うんですね。

ともかく、有力な会社の元経営者はそこらじゅうにたくさんいますから、うまく使うといいと思います。

岡島:頼みに行くのに敷居が高いんじゃないかなと思っている方もけっこういらっしゃると。

北城:いろんなツテを使って。ダメなら岡島さん経由で頼むとかね。私は今、ベンチャー3社の社外取締役をやってるんですよ。大企業の社外取締役はもうみんなやめて。ほかにも国際基督教大学の理事長とかいろんな仕事があるので3社だけ。

1社は今出たブイキューブという会社。これは元IBMの社員の息子さんがやっています。それからサイジニア。こちらはインターネットのレコメンデーションの会社です。それから人工のダイヤモンドをつくるEDPという3社の社外取締役をやっています。

そのうち2社はずっと無給でやっていました。ずっと無給でやっていたら、ときどき黒字になったり、サイジニアはマザーズに上場したので、さすがに無給というわけにはいかないんですが、もう本当に給料なしで応援だけやっていました。私はベンチャーから給料をもらわなくても生活に困らないので、応援団としてやっています。

ベンチャーと大企業の協業関係

岡島:ありがとうございます。それで、本題ですね。

北城:ベンチャーから見て大企業とどう付き合うかということですけど、もちろん販売先やいろんな開発パートナー、大企業との協業がすごくいいと思います。ただ、大企業に行ってて、まず実績あるんですかと。

確かに大企業の立場からすると、まったくのベンチャーを使ってその会社が翌年倒産してしまったら大きな会社としては困ってしまうので、その会社が信用できるのかとか。それから大会社と話すと、ベンチャーは今日明日で決めてほしいのに、相手は決めるまでにすごく時間がかかります。

大会社に行くときには、紹介者がいるといいんですね。例えば、私が今のベンチャーの社外取締役をやっているときに、どこかの会社に製品を売りに行きたいというときは、私が知っている会社の社長とか会長に電話をして、執行役員を紹介してもらいます。

それで説明をしに行くと、ちゃんと話を聞いてくれて、製品がよかったらちゃんと使ってくれるんですね。なので、社外取締役には販売先を探してもらうようなことをお願いするといいと思います。信用補完ですね。

それから、ベンチャーですから大きな会社に出資してもらえればそれが信用力になるし、買収されるのもいいと思うんですね。とにかく信用補完が必要なので、そういうところに社外取締役をうまく使ったらいいと思います。

岡島:この辺のお話は、後ほど古川さんにもうかがっていきたいと思います。一方で、大企業から見た付き合い方というのは。

北城:大企業から見ると、もちろんベンチャーにモノを使っていただくのもいいし、販売をしていただくのもいいし、研究開発の補完にもなるんですね。大企業はすべてのことはできないので。

ベンチャーがおもしろいことをやっていたら、そこと一緒に製品をつくったり開発をしたりして、市場に出て行こうということもありますし。それから大企業がベンチャーを買収することもあって、事業領域の補完に使うこともあるし、非常にいい人材を持っている会社を買収したいということもあります。

一方で、大企業から見たリスクは、内部統制がちゃんと取れているのかとか、この会社を買収してあとで不祥事が起きないかとか、そういうときに社外取締役がいると信用されるんですね。なので、社外取締役をうまく活用したらいいと思います。

IBMは今、ベンチャーを起こす人のために起業用のクラウドを推進したり、そのうえで動くAPIを100種類以上提供して、アプリケーションを素早く開発できるような応援をしたり、BlueHubというベンチャーとほかの会社との協業を応援する仕組みをやっています。

IBMも毎月のようにベンチャーを買収しているんですね。我々のテクノロジーで不足しているところは買収しているので、もちろん協業もするんですけれども、M&Aの対象として期待しているところもあります。

最後ですが、とにかくベンチャーは新しい産業をつくるし、新しい雇用をつくるので、私はベンチャーの方々の活動を素晴らしいと思っていますし、創業時にはぜひエンジェル税制をつかっていただきたいと思っています。そして、社外取締役をうまく活用していただきたい。

日本の発展だけじゃなくて、世界の発展に貢献するようなベンチャーが出るといいなと思っております。以上です。

岡島:ありがとうございました。

(会場拍手)

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