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パネルディスカッション(全3記事)

マネーフォワードを創業したのはなぜ? 起業を促した天才たちとプロダクトの成長秘話

2015年12月2日、株式会社アマテラス株式会社マネーフォワード株式会社ドリームインキュベータの3社によるイベント「Fintechで働くということ」が開催されました。第2部のパネルディスカッションに登壇した滝氏は、起業に至ったきっかけと全自動の家計簿アプリ「マネーフォワード」が利用者数350万人を突破するまでの話を紹介しました。

マネーフォワード創業のきっかけ

藤岡清高氏(以下、藤岡):それでは今日の第2部、本題になります。「今Fintech業界に求められる人材とは」というテーマで、ゲストの方々にお話しいただければと思っております。

進め方としては、おそらくみなさんが考えていらっしゃるような疑問を私なりに10個くらい選んだので、お二人にお答えいただきながら、話を進めていこうと思います。最初は「瀧さんは、なんでマネーフォワードに参画したんでしょうか?」です。よろしくお願いします。

瀧俊雄氏(以下、瀧):かしこまりました。ちょうど2012年に会社を作ったんですけれども、実際に私が辻(庸介)と出会ったのは、オンラインで2010年の暮れくらいだったんです。2009年9月から私も辻もアメリカにMBA留学をしていました。

2010年の終わりというと2年生になり、もうすぐ日本に戻るというタイミングで、職業上も、今後人生で何をやっていこうかということを考えていた時期でした。

私はスタンフォードという起業を促されやすい場所にいたのですが、もともと留学する前に「起業は絶対にしないぞ」みたいなことを周りに言ってたくらいでおりました。実はけっこう守旧派の人間でございまして。

ただ、向こうに行って、仲良くしていた日本の人たちが全員起業したというすごいことが起きまして。3人だけ例を挙げます。

1人は柴田尚樹さんといって、楽天で「執行役員2.0」という制度を三木谷さんが作ったときに20代で執行役員になったすごい人です。彼がアメリカで同じマンションに住んでたときに、500 Startupsにビジネスが入選、楽天を辞められて自分で起業されています。目の前ですごく優秀で東大の博士号を持ってるコンピュータサイエンスの天才が起業したという。それが1個目の事例でした。

2人目ですが、トレジャーデータという会社がありまして、そこの社長の芳川(裕誠)さんという方です。もともと三井物産のVCにいた方なんですけど、奥さん同士が仲良く、一緒に旅行とか行ってたんです。気づいたら、芳川さんも天才エンジニア2人を抱えてビッグデータの会社をあっという間に創業しちゃって。

僕から見ると柴田さんは大天才で、芳川さんもVCの世界におられたので、「さすがだなー」というイメージで見ていたんですけど、「彼も起業したな」と思って。これはひょっとすると自分にも可能性があるんじゃないかというイメージで思っていたところにとどめがありました。

私の周りに台湾人で日本語がペラペラのサニーという子がいまして、(その子が)福山太郎さんと一緒に、今はAnyPerkと呼ばれている会社を創業しています。

私の周りでは、サニーは「1日ずっと映画を観てるデザイナー」というおいしいポジションでした。「サニーは今後どうするの?」と聞くと「よくわかんないです」と言って毎日Netflixで5本くらい映画を観て、全部僕に感想を言ってくれるんですよ。

僕も映画は好きですけど、さすがに「5本の感想はもういいよ」という話をしてたときに、「今後どうするの?」と聞いたら、「日本で1回起業する」と。その後、AnyPerkは米国に渡り、Y Combinatorに選ばれた最初の日本人企業になったんです。今やAnyPerkといったら、先日の日本の『Forbes』の起業家ランキングで7位になっていて、福山さんは時代の寵児になっています。

福山さんが社長、副社長がサニーがいて、サニーもだいぶ貫禄がついてきて。「あのサニーがここまでイケてるんだ。俺は何をしてるんだ?」とちょっと思いはじめたんですね。

周囲のあらゆる友人が、思いを持って取り組んで成功するのを見て、これは自分も挑戦するべきなんじゃないかと。そう思い始めたのが、諸々のきっかけです。

あと、私も辻ももともと日本の金融産業、証券会社にいましたので、当然銀行預金よりももっと生きたお金の流れを作りたい、という思いが強かったんですが、一方でそれが簡単じゃないことも、身に沁みて理解していました。これだけ何十年も「貯蓄から投資」と言いながらも、あまり大きな流れは起きていないし、そもそもデフレの環境下でそれを言う意味があるのか等々。新しいアプローチが必要なのは明確でした。

ただ、それは個人に自分の状況をうまく理解できるツールがあればけっこう変わるという認識を持ちはじめました。アメリカでは、非常に有名なMint.comというサービスがありまして、留学当初から使っていて。アメリカはクレジットカード社会で、かつ留学中は生活資金がそんなにないので、毎日「来月の引き落としまでにお金足りるかな」ってけっこう心配しながら生きてたんですが、Mintがそういう人生を救ってくれてたんです。

これは日本であるんだろうかと思って調べたら、まだ大きくマスに広がったものがなかった。それで、これはひょっとしたら自分たちでもできるんじゃないかと。エンジニアじゃないんですけど、私も辻も「こういうのってもっといけるよね」という思いを持って、なんかできないなあと思って、その後1年半くらいエンジニアを探しながら創業したと。こういう経緯になります。

「プロコンで起業するなら絶対やめるべき」

藤岡:ありがとうございます。「ありとあらゆる友人が起業する環境」は後押しする環境だったと思います。そうは言っても大企業に勤務していた経験があり、初めての起業はダイブするのに近い感覚だと思います。そのときに不安だったこと、そしてどう乗り越えたかというきっかけや話があれば教えてください。

:「プロコンで起業するなら絶対やめるべき」って結論になるんです。シリコンバレーの経営学者が書いた本の中で、「平均的には起業家は不幸になる」というのがあります。いろんなことを書いてあるんですが、結論だけ言うとそういう内容の本がありまして、「マジか」と思いました。わりと合理的に物事を決めてるつもりだったので。

「それでもやる理由って何だっけ?」と思ったときに、やる後悔とやらない後悔という話があります。

私自身は、その前の5年半くらい研究者をやっていたんですよね。何を研究していたかというと、日本のお金の流れを、どうやったらインフレ対策もできて、将来志向のものにできるかということをあらゆる側面で考えていました。

ただ、やっぱり研究だけだと世の中がなかなか変わらない。うまくコミュニケができると政策にも反映されるのですが、根本的な変化はなかなか出せないなという思いがありました。それよりも何か実務がやりたいとすごく思っていました。

あと、起業というのは1つの選択肢でしかないんです。創業しようか考えていたときに、まだ創業されて15人くらいの頃のビズリーチの南社長に相談しにいきました。南さんは厳しくも優しい方で、いろいろ相談しました。基本的には「想いはとても大事だと思うけれど、絶対やめておいたほうがいい」「絶対失敗する」と言われました。今思うと、それは愛だったと思うんですけど、それでやめるくらいだったらたぶん、やらないほうがいいんです。

ただ、それでも、やりたいことはあるんです。日本のマネーフローを変えたいとか、個人にとってのお金のあり方を変えたいとか、いろんな思いを、プロダクトとして世の中に問いたかった。そういう意味ではやらない不安のほうが勝っていた。なのでやりました、という感じになります。

藤岡:なるほど。私も仕事柄、経営者の方にたくさん会ってきましたけど、起業する人って誰も止められない状況になってることが多いですね。女子の買い物みたいな感じで、買うものは決まってるけど背中を押してほしいだけで相談する(笑)。ビジョンが見えた人は止められないというのがあるので、たぶんそのときにビジョンなり道筋が見えてらっしゃったのかなと思います。

初期のユーザーはたったの3人

林俊助氏(以下、林):僕からも質問していいですか?

藤岡:いいですよ。

:今の話だと、ビジョンがあってそれにアプローチされて、かつ自分よりダメなやつですらめちゃくちゃ成功してるというのがあったと思うんですよ。僕は凡人なので思うのが、ビジョンって難しいなと。どうやって詰めていったんですか? 1年半かけてとおっしゃってましたけど。

:実は、我々が当初思い描いていたビジネスというのは「共有型家計簿」というか。自分たちの口座を登録すると、全メンバーにそれが見えるというすごいものでした(笑)。名前だけは匿名にして、ポートフォリオの中身だけみんなで見るというようなサイトを当時は考えていて。

お互いの資産運用が見えるとそれだけですごくインスピレーションが起きるんですよ。「この人はこういうことをやってるんだ」「同じ32歳で年収も同じくらいで、こういう運用でちゃんと貯金してるんだ。何もしてない俺、ヤバいじゃない」と思わせることができるはずなので。ソーシャル資産運用を軸にしたサービスを考えてました。

当時はFacebookのIPO前夜。「これからはソーシャルだ」という勢いもあり、そういうビジョンで会社を辞めようと思っていて、本当にあのままいかなくてよかったなと思っています。やっぱり主観的なアイデアにはテストが必要で、テストしまくってみた結果、何十人誘っても3人くらいしか使わないんですよね。最初の3人だけみたいな(笑)。「これはたぶんダメだろ」という話になって。

肝心なのは可視化されるところだし、みんな「お互いの情報が見えなければ使う」という至極当たり前のことを言うんですよ。それが今のマネーフォワードの源流になっています。当時はランキング機能というのがあって、ユーザーのランキングを見えるようにしようとか。今思えば、非常に尖ってますが、市場にフィットしないプロダクトを作ろうとしていました(笑)。

:今考えると恐ろしいですね(笑)。

:ある意味、未来に生きていたとも思っていて、これは日本だと受け入れづらいかもしれないですけど、もっと若くてお金についてあけすけな会話ができる場所、例えば上海市などはいいターゲットになると思うんですよ。だから僕はまだ捨ててないところがあります(笑)。

利用者数350万人を突破するまで

藤岡:ありがとうございます。今の話と一部かぶるかもしれませんけども、マネーフォワード立ち上げの際にどのような壁にぶつかってきましたか? そしてそれをどのように乗り越えてきたんですか? 今はユーザーが350万人くらいですね?

:そうですね。

藤岡:かなり大きな個人資産管理サイトになってますけども、その3人が350万人に成長するまでどういう壁を乗り越えてきたか、お話を聞かせていただけますか?

:かしこまりました。そういう意味では、チームの話とユーザーベースで作ってきた話の2つがあると思っています。

まずチームの話でいうと、私と辻は、2人ともMBAで、いろんな起業の教科書がある中で、これは失敗するパターンなんですよ。前提条件として分が悪いので、いくらモデルが魅力的であっても、そんな2人にお金を出す投資家はいないです。せめて何か売れるものを作っているとか、実際に売上が立っている、見込み客がいる、そのプルーフがある、あるいはすでに運用予定の動くものができているとか。そこまでできて、やっと本格的な「転職をしても生きていけるな」と思えるくらいの資金調達ができるんですよ。

なので、そういうものを作り上げるまでは、辛抱です。私は証券会社の人だったので、大学時代を含めてエンジニアの友達がいなくて、スタンフォードで出会ったエンジニアたちは西海岸に残っていたので、日本でエンジニアを探す必要がありました。

結果からすると、辻はマネックス証券というインターネットに強いチャネルで、その創業期のメンバーが数人すでにマネックスを離れていた中で、ご縁がありました。そして、ものづくりを進められ、志を一つにできる仲間たちが集まって、8人で設立するところまでで1年半くらいかかったという感じになります。

それがチームビルドの最初の壁で、もう1つは、いいエンジニアの獲得です。文系の人が言う「いいエンジニア」ってすごく難しい言葉で、例えばその界隈で有名というだけではダメですし、サービスや会社のことをすごく考えられる人でもある必要があります。

やはりサービスへの思いやビジョンへの共感がすごく大事なんです。今でこそFintechは盛り上がってますけれども、昔は金融系ベンチャーというのは、イケてるエンジニアが、あまり注目しない領域でもあったんですよ。

金融って「堅い」「わからない」「不自由」というイメージがあるので、「そういうものじゃないんです」とうまく伝えつつ、「マネーフォワードを1回使ってみてください」というところまで含めてやって、ビジョンを共感してもらえたりする。それは今後もずっとやっていく大事なチャレンジだと思ってます。

ユーザーの話としては、最初のうちはWebサービスで始めて、ぜんぜんユーザーさんが増えなかったんですね。1日7人くらいしかユーザーが増えなかったりして。社員が8人で、子供が2人いるのに辞めた人たちもいるのに。しかも有料サービスを打ち出す前なので、せっかく増えた7人も無料ユーザーなんです。

Google Analitycsを見ながら、「今後大丈夫かな」と8人全員が思ってた時期がありました。その間は、自分たちが心底欲しいと思えるものを作るしかない。そして、自分たちのマーケットフィットを見失わないよう、ユーザーさんから来る小さなフィードバックを、本当に骨の髄まで理解して大きくなるしかないよねと、考え続けることしかできなかった。

ユーザーさんは「スマホアプリがほしい」「もっとわかりやすいサイトを作ってくれ」「もっと簡単な機能がほしいけど、現金管理のしくみはしっかりやってね」と、たくさんの要望を伝えてくれました。そこからいくつかターニングポイントになる機能やデザインが生まれて、地道な改善を続けて、今に至っているのかなという感じです。

PFM(個人財源管理)のマネタイズ

:今のお話で人材の部分とユーザーの部分があったと思うんですけど、ユーザーのほうのお話です。PFM(個人財源管理)って極端な話、有料会員で月300円とか500円かかって、ほとんどが有料会員に移らないという難しさがあると思うんですよね。海外を見ると、PFM単体でのマネタイズは難しいので、そのデータを活用して資産運用にいったり、会計にいったり、そういう流れが多いと思うんです。

マネーフォワードさんは今PFMをやられていて、かつクラウド会計もやられている。今後どうやって進んでいくというか、どうマネタイズしていくというイメージをお持ちですか?

:海外、特にアメリカでPFMが買収されているのは意識しているトレンドではあります。どシンプルなPFMって、便利なのに、マネタイズには繋がりにくい業態だと思っています。我々は創業前からMintの買収を見ていましたから「ピュアなPFMではなく、たとえばソーシャルに行かないと」という会話をしていたくらい、昔から捉えている問題ではあるんです。

この問題への基本的な解は、レコメンデーション能力と、シームレスに提供されるソリューションです。「十分、自分のお金の状態はよくわかった。BS/PLもAIで分析されている。次に何をしましょうか」というレコメンドが必要なんです。そこの能力を磨くことと、実際に保険を見直す必要があるということになったときに、いかに速く正確ないい提案につなげることができるかが、次の要素として重要です。

まだまだやるべきことが多いのと、データ分析が必要と思っています。第1段階の可視化でも、月500円はけっこう高いという方も多い。けれども、コアユーザーはお支払いいただける。それだけの価値があるとみなさん思ってくださってるんですよね。

弊社のプレミアムユーザーさんは、使い始める前と比べると、だいたい月額22,000円の節約ができるようになるんですよ。ライザップの前と後みたいな感じで(笑)。500円払う前と後で22,000円くらい貯金ができるようになっている。年ベースだと30万弱なので、そこそこいい感じの旅行ができるくらい節約できるんですよね。そういう生活を500円で手に入れますかという訴求ができます。

結局、可視化のところもマネタイズできるという状態は実現できています。これはけっこう日本人特有の部分もあると思っていまして、日本は節約する力自体が、一つのソリューションとして意識されていて、マーケットがあるのかもしれない。第1段階のところをもっと広げられるなと思ったりもします。

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