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事業創出・グローバル展開の罠(全5記事)

海外事業は想定外なことばかり? 起業家がつまずくグローバル展開の罠

2015年6月12日に開催されたIVS 2015 Springの本セッションに、グリー・青柳直樹氏、サイバーエージェント・宮﨑聡氏、ネクスト・井上高志氏が登壇。モデレーターを務める立命館大学准教授・琴坂将広氏の進行で「事業創出・グローバル展開の罠」をテーマにディスカッションをしました。国内で成功をおさめたベンチャーが海外進出で陥りがりな罠とは何か? 海外での事業の立ち上げ経験が豊富な経営者3名が、自身の失敗体験とともに語りました。

ベンチャー企業の事業創出とグローバル展開

琴坂将広氏(以下、琴坂):みなさん、本日はよろしくお願いします。今回は「事業創出・グローバル展開の罠」ということで、事業成長における、2つの避けて通れない非常に重要なトピックを扱います。

私自身は2年前に日本に帰ってきましたが、それまでは7年ほど欧州を中心に、海外の多国籍企業のグローバル展開をコンサルタントとして支援させていただいたり、また研究者としてそうした企業の多国籍経営を研究させていただいてきました。

逆に言うと、大企業によったグローバル展開の話しか詳しくありませんので、今回はぜひお三方の知見をいただき、勉強させていただきたいと考えています。さて、まずはグリーから青柳さんに来ていただいてます。

青柳直樹氏(以下、青柳):青柳です。よろしくお願いします。

琴坂:次に、サイバーエージェントから宮﨑さんに来ていただいています。

宮﨑聡氏(以下、宮﨑):よろしくお願いします。

琴坂:次に、ネクストから井上さんに来ていただいてます。

井上高志氏(以下、井上):井上です。よろしくお願いします。

琴坂:この会場にいるみなさまにとっては、もうこの三名の方々は極めて著名な方々ですので、あまり詳細な自己紹介はいらないかとは思うのですが、まずはみなさまから近況というか、今一番取り組まれていることをお話しいただければと思います。まず青柳さんからお願いできますでしょうか。

グリーの次の10年を創る3つの事業

青柳:青柳でございます。大きく取り組んでいること、特に事業についていうと、3つほどあります。そのうち2つが、今回のトピックに重なるところになっています。

1つ目が、我々はソーシャルゲームというところで大きくなった企業なんですけれども、いわゆるガラケーからスマートフォン、ブラウザからアプリケーションということで、同じゲームなんですが、中での事業の大きな構造の変化に対応してヒットを出していこうと。そういうことを変わらぬ柱ということでやっております。

それに加えまして、2つ大きな展開ということでは、新規事業の創造というところです。もともとグリーという会社はソーシャルネットワークから始まってゲームに展開を広げてきて、10年同じ事業をやっていられるということは、業界においてはなかなかないだろうと。

グリーは創業から10年を迎えたんですけれども、次の10年を創っていく事業をやろうということです。ここはいろんなものを作る、失敗が一番多いところではあるんですが、そこはどんな環境においても絶えずやっていこうということを2つ目の柱にしています。

3つ目はグローバル展開ということで、2011年から(始めて)今年で5年目くらいになります。全世界に飛び出して、北米・欧州・アジア、それ以外の地域にも展開していったんですが、その中でうまくいったものもあればそうでなかったものもありました。

米国のほうは、おかげさまである程度の規模まで立ち上がり、米国を除いてはいったん戦線を縮小したというところから、今年は改めてヨーロッパのほうに注力する。ちょうど今週から我々のヒットゲームの欧州での展開、例えば欧州のいろいろな言語、フランス語・イタリア語・ドイツ語とかそういったもので展開するというのを今やっているところです。

サイバーエージェントの今後の動向

琴坂:ありがとうございます。さて、「事業創出」といえばサイバーエージェントの代名詞のようなところです。宮﨑さん、お願いいたします。

宮﨑:よろしくお願いします。今、実は子会社が50社を超えています。一番古いものだと15年以上やってる子会社もあるんですけど、その中で僕の今の分掌は設立して1〜2年以内くらいのわりとスタートアップ群、100%出資の子会社が中心で、それらの立ち上げとグロースの担当をやっています。

具体的な事業でいうと、今力を入れてやっている「755」ですとか、クラウドファンディングで最大手になりつつある「Makuake」とか、動画広告専門子会社の「渋谷クリップクリエイト」、ライブ動画中継プラットフォーム「宅スタ」など、様々な注力分野を見つけながら攻める、グロースさせるというところをミッションとして取り組んでいる状況です。今日はよろしくお願いします。

日本の不動産業界の変革と海外進出

琴坂:よろしくお願いします。次に、ネクストの井上さん、お願いいたします。

井上:井上です。よろしくお願いします。僕らは主力事業として「HOME'S」という不動産のポータルサイトをやっています。

第一に、「日本国内の不動産業界を変革する」というのが僕らがスタートしたときの志で、それはやっぱりまだまだ道半ばなので最も注力していきます。

同時に「グローバルな住み替えのプラットフォームになりたい」という意志もあります。2012年から国際展開を始めたんですけど、アジアのオレンジ色のピンが立っているところが、HOME'Sとして不動産のポータルを自前でゼロから作ったところです。日本以外ではインドネシアとかタイとかそのへんがありますけれども。

ただ、これがあんまりうまくいってなくてですね(笑)。ちょっとやり方を変えようということで、垂直統合モデルのポータルサイトから、もっと軽く水平展開してグローバルに広げていけるようなアグリゲーションサイトをやっていこうと。

そういうことで、昨年の秋にTrovitという会社を100パーセント子会社化して、まずは全世界に広がるネットワークを手に入れたというところです。

スペインに本社がある会社なので見ていただくと欧州が強いんですけど、それ以外にもアジア・北米・中南米、アフリカも一部のエリアには出ていたりしてます。46ヵ国かな? それくらいまで展開しています。

琴坂:ありがとうございました。さて、議論を始める前に、まずは聴衆のみなさまにお聞きしたいんですけども、国際展開をすでにしているという方はどれくらいいらっしゃいますでしょうか? 手を挙げていただけると。

(会場挙手)

結構いらっしゃいますね。これからするというつもりの方はいかがですか?

(会場挙手)

はい。この会場にいらっしゃる方々はやはりすでに海外展開に着手している方が多く、検討されている方まで含むとほとんどみなさま全員という前提かと思います。では、すでに売上が十分立っているという段階の方はいらっしゃいますでしょうか?

(会場挙手)

流石に少し減った感じですかね。やはり、取り組み始めてはいるのだけども、まだ十分な実績にはつながっていないというのが聴衆の方々の実情かと思います。

海外での新規事業立ち上げで学んだこと

琴坂:さて、その前提の上で、実は宮﨑さんも青柳さんも同じ時期にシリコンバレーで事業の立ち上げをされていたと思うんですけども、そのときに立ち返ってみて「これをしておくべきだった」とか、アドバイスみたいなものはありますでしょうか? 「この罠があった」「この失敗があった」とか。青柳さん、いかがでしょうか。

青柳:罠というか、やらなければいけないことが事業を始める前にたくさんあったなと思います。国内で新規事業を立ち上げるというのも、成功するものよりも失敗するものが多いですし、やっていく中で純粋に事業という面でチャレンジがあります。

そこがスタートラインのはずなんですけど、海外展開で今まで我々が踏み入れたことのない地域に、それをやったことがある人が大してチームの中にいないという状態で踏み込むと、「会社の制度を整える」とか「ルールを作る」とかそういったことで時間がかかってしまう。

なので、最初の1年くらい我々はそういったことでとても大変だったなと思います。給与制度が違うとか、出張者の手当をどうするかとか、細かい問題の集積をどう解決するかがあって。

結論を言うと、あんまりショートカットがないんですよね。アドバイスとしては「早くやっとこう」ということに尽きるかなと(笑)。小さく早くやっておくと、いざ本気でやろうというときにショートカットできるかなと思います。

琴坂:井上さん、先ほど冒頭で、海外展開の最初の事業モデルではそこまで成功しなかった、とおっしゃっていたと思いますが、どこらへんに罠があって、いわゆる失敗につながったのでしょうか。

井上:やっぱり、ローカルのことをよくわかっていないのに(やろうとした)。日本人で日本のことをよくわかっていたから日本のビジネスはうまくいったんですけど。

その国のローカルのルールに従ってやるというときに、現地のMDは日本から送り込むわけですよ。そして現地の人を採用するわけですけど、現地のトップがその地域のことをよく知り理解し、顧客を知るまでにすごく時間がかかるわけですよね。

そこのタイムラグがある分、スタートの立ち上がりが期待したよりは遅いなというのがありましたね。

琴坂:なるほど。では宮﨑さんいかがですか。

宮﨑:僕もそうですね。うちも2010年11月くらい、グリーさんの数ヵ月前くらいに渡米しました。それ以前は「アメーバピグ」というサービスの海外版「Ameba Pico」というサービスを立ち上げて、数百万人の利用者を抱えていました。

それはアメリカで開発、運営していたのですけど、それとは別に新たにスマートフォン向けのソーシャルゲームのアプリと広告事業を立ち上げに行ったんです。

わりとすぐ立ち上げられるのかなと思いきや、当初はすごくつまづくことだらけでしたね。まず、うちは買収をしなかったので、会社の知名度がない中でハイアリングで相当苦労しましたし、給与水準もわからないので全部調べながらやっていくとかすべて手探りでした。

例えば、日本でうちが中途採用で採る業界の人たちが面接に来るんですけど、その業界の人たちの水準が日本とアメリカで全然違う。結構そういうことがあって。

日本だと広告営業職は金融系や証券系の会社から転職してくる人が結構多いんですけど、アメリカだと投資銀行には一流の人たちが集まっていて、そこから下ってメガバンクにいくほど人材のレベルが極端に落ちるとか。わからないことだらけで、初めは結構苦労しました。あと、マネージメントとか日米で全然違うじゃないですか。そこでも苦労しました。

海外事業は“想定外”なことばかり

琴坂:なるほど。たしかに、海外事業は想定したタイムラインが予想よりもかなり後ろにずれがちです。私の見てきた事例から考えると、「想定したタイムラインの1.5倍から2倍の時間はかかることを想定しておけ」というのが肌感覚としてあるのですが、どう思われますか?

井上:僕の感覚では近いですね。ちょっとずれていいですか? 僕らは中国にも進出したんですけど、そのときにパートナー選びがすごく大事だというのは頭でわかってたので、パートナーを決めるまでにリサーチも含めると2年くらいかけたんですよ。それで、ようやく「ここと組んでやるぞ!」ということで、現地法人を作りました。

「このパートナーいいな」と思ったけど、フタを開けたら実は全然ダメで(笑)、僕らはちゃんと目利きができてなくて。結局撤退することになったんですけど。そのときは周りの監査役から「中国は、撤退のほうが大変だぞ」ということを言われていて。「大丈夫です。頑張ります」って言って出たんですけど、結局は言われたとおりになった。

撤退にかかった期間が2年半くらいで、事業展開をやってた期間もあるので結局5〜6年くらい、中国で人の労力もお金も失っていったというのがあって。そこから得られた学びも多かったんですけど、なかなか想定どおりにいかないなというのはあります。青柳さんもあるんじゃないですか?(笑)

青柳:私どもも中国で立ち上げて1年半でやむなく中国オフィスを閉じるという判断をしたんですが、中国からお金が返ってくるまでそこから2年間を要しました。始めることも大変なんですけど、撤退する判断をすることはより難しいですし、撤退してからのプロセスというところもより難易度が高いなと感じました。

琴坂先生がおっしゃった「想定の1.5倍から2倍」、自分の感覚的にも(それくらい)かかるなと思います。海外拠点を撤退するときに一様に言われるのが「もっと時間がほしかった」。そういうことを各拠点の方々から言われて、それについては確かにそうだなと思うところはあります。

ただ会社経営をやっている中で、そんなに時間が2倍3倍かかっては待てないというところがあって。我々の場合は100個200個の細かい問題から大きな問題があるのを前提に、先ほどの「誰と組むか」とか「誰をヘッドにするか」「日本から送り込むのか、現地でやるのか」みたいなところが、最初に成功か失敗かを規定するというか。

成功はたくさんいろんなものが重ならなきゃいけないですけど、そこでつまずくとだいたい失敗するなと。そういうことを経験則上、理解してます。

国内で成功したことによる「過信」という罠

琴坂:みなさん、事業創出のプロ中のプロの方々であると同時に、卓越した経営者の方々なのですが、なぜ国外ではそうなるのでしょうか? 国内ではここまで、いわば「うまくいかない」ことはあるのでしょうか?

例えば、想定から1.5倍〜2倍くらいずれてしまうことはどれくらいあるんでしょう? なぜ国外になってくると、罠というか失敗というか、そういうものが出てくるんですかね。

青柳:過信。日本で多少成功しても……例えば、上場を開始させたとか事業がそれなりの規模になったとかすると、あたかもその再現性があるように思ってしまって。特にこういうIVSみたいな場に呼んでいただいて話したりすると、なんか錯覚増幅装置だなと思っているんですけど。

みなさんも考えてほしいんですが、例えばまったく違う言語、スペイン人や中国人の方が「成功した起業家です。ミリオンダラーの会社を作った。日本でも成功する!」って来たらどう思いますか? それと同じように、たぶん現地の社員の人でさえ見ているというところがある。

そこの自己認識ギャップみたいなものとかがつねにあるなと。「アクイジションしたら絶対成功する」と経営者は決めた時点で思いがちだし、そう思いたいというモードにどんどん入っていくんだけれども、そういったところからどう自分を冷酷に追い込めるか、退いて戻れるかみたいなのはなかなか難しさがあるなと思います。

琴坂:なるほど。宮﨑さんはどうですか?

宮﨑:そうですね。「過信」って言葉がしっくりくるんですけど……「日本でいけてるから、きっとアメリカでもいけるだろう」とか結構思っちゃいがちなんです。もしくは「日本でこのビジネスモデルが結構いけそうだから、海外でも間違いなくいける」というふうに考えがちという罠はあると思います

ただし、未参入の領域で勝負しているので信じないといけない部分もあるじゃないですか。その一方で、ソーシャルゲームなら1人あたりのエンタメ領域にかけるお財布事情の違いや、日本と英語圏で課金率やARPUがどの程度違っているのかなど、冷静に見とかないといけない部分もあって。わりとそのへんの両面のバランスをどう取れるかというのが大きい気がします。

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