CLOSE

小売り・eコマースの未来像(全4記事)

「ヤフーはこのままじゃ死ぬ」執行役員・小澤氏が語る、ヤフーがECに本気になったワケ

ついにコンビニ業界と並ぶ売上金額にまで達したEコマースと、凋落が止まらない百貨店。世界には無人機ドローン投入を企むamazonや、1日で5600億円の売上げを記録した淘宝(タオバオ)といったさらなる強豪がひしめくなか、そんな弱肉強食のEC/小売業界を生き抜く手段を、ヤフー、楽天、三越伊勢丹の立ち位置の三社が語ります。(IVS 2013 Fallより)

コンビニ業界に並んだEコマース

小野裕史(以下、小野): 本日はゲストとして、三越伊勢丹ホールディングス社長の大西洋さん、ヤフー副社長の川邊健太郎さんと執行役員の小澤隆生さん、楽天の執行役員の北川拓也さんに来ていただいています。この非常に面白いメンバーで「小売・Eコマースの未来像」についてディスカッションさせていただきます。

小野:最初に、ひとつグラフを紹介します。このグラフは、各小売の売上の推移を示しています。これは経済産業省が発表した数字ですが、コンビニエンスストアは伸びている一方、スーパーは横ばい、百貨店はなかなか苦戦しているという状況です。

ここにEコマースの数字を重ねてみると、2012年の数字で、すでに9.5兆円あります。コンビニエンスストア全体の売上規模と同じくらいにまで伸びてきているわけです。Eコマースもなかなかいい、頑張っているじゃないかインターネット、というふうに見えます。

ただしその一方で、小売全体の売上の中で、Eコマースの占める割合がどれぐらいあるかと言うと、まだ、たった1桁パーセント、約7%しかありません。全小売のなかで、インターネットのBtoC、Eコマースの数字はまだ伸びきっていません。逆に言うと、まだまだ非常に伸びしろがあるとも言えます。

今日は、すでに小売、百貨店の中の雄である三越伊勢丹の話を聞きながら、インターネットが伸びてきているなかで、どう既存の小売は戦っていくのか、そして、インターネット専業で戦ってきているプレイヤーは、どう残りの93%を取っていくのか、もしくはこのトータルのパイをいかに増やすのか、といった話を、それぞれの視点でディスカッションしたいと思います。

では最初に大西社長から、プレゼンテーションをよろしくお願いいたします。

「個人の中の二極化」という新しい消費構造

大西:あらためて、大西でございます。よろしくお願いいたします。今日、IVSの席で、私がなんでこういう話をしているのか、自分でもよくわかっていません(笑)。なんせ百貨店業界は、Eコマースの分野が非常に遅れておりまして、どうなることかと不安な気持ちでここにきました。

ただ、先ほどみなさんにお会いしたら、ものすごくノリがよくて、非常にリラックスしてお話ができそうです。本日は、百貨店のことを話しても面白くないと思いますので、百貨店というよりも、当社の企業理念や今取り組んでいることについて、ご紹介させていただきます。

今、私が注目しているのは、「消費志向の二極化」です。従来の二極化は、富裕層とそうでない人たちの二極化という構図でした。それが今は、ひとりひとりの、「各個人の中の二極化」が、ものすごく激しく出ています。ですから、お客様にとってみると、いろんな使い道ができるということですね。

それから、今日本のGDPが500兆円を切る中で、小売業界の「モノ消費」の規模は、135〜140兆円程度です。ですから、GDPの約25%が小売。それに加えて、「コト消費」が120-130兆円ありますから、「コトモノ消費」合計でGDPの半分くらいはあるわけです。そして小売業のなかのEC、通販というのが、約10兆円です。すでに12兆円や16兆円に達しているという推計もありますが、いずれにしてもEコマースは、小売全体の7〜8%程度だと思います。

百貨店衰退の原因はマーケティング力の低下

では、百貨店業界の規模はどうかと言いますと、残念ながら、かつて9兆円あったのが、瞬く間に6兆円に減ってしまっています。Eコマースの規模の約半分になってしまった、ということです。

なぜ百貨店業界がダメになったかというと、これは「百貨店だから」とか「リアルな小売の店舗だから」ということとはあまり関係ないと思うんですね。どこでも同じことが言えると思いますが、同質化してきて、明らかに競争力がなくなっています。気がついたら、マーケティング力がなくなっていて、収益力と競争力が低下してきたということです。

では、どうすればいいんだ、という話ですが、お客様の変化についていけていない、最たる業態になってしまっている以上、抜本的なイノベーションと改革なくして復活はないということです。イノベーションと言うのは簡単ですが、人がイノベーションを起こしていかないといけないので、なかなか力の要る仕事だと思っています。でも最終的には、お客様が評価をすることなので、お客様にどれだけ新しい価値を提案できるかがポイントだと思っています。

ブルーオーシャンとレッドオーシャンという言葉もありますが、当社は「相対的価値と絶対的価値」を、常にひとつひとつ評価してきました。当社としては、絶対的価値を突き詰めていくことに力を入れています。

相対的価値というのは、「AとBとCを比べて一番いい」というふうに、他社との比較によって選ばれる価値です。それに対して、絶対的価値は、最終的に人の心を豊かにできます。「こんなものがあったんだ」とか、「これはここでしか買えないんだ」という、本質的な価値を追求していきたい。

それから先ほど、(Eコマースの小売全体のシェアが)7%というお話をしたように、市場占有率は非常に大事ですが、それと同じく、ひとりのお客様に対してどれだけの「ウォレットシェア」を自分たちのなかで獲得できるかがポイントかな、と思っております。

ネット展開に成功したアメリカの百貨店

では、今何を考えているかというと、1つ目に、これはもう大きなビジョンというか、方向性だけですが、これだけ有形無形の新しい価値のあるものがたくさん出ている世の中では、自分たちの“編集力”を活かして、新しい価値を生み出していくことが重要だと思っています。

百貨店はどちらかというとファッションやブランドといったものを扱ってきましたが、今後は、それよりも、人、歴史文化、学び・知識、習慣・スタイルといったもの、アート、コンテンツ、音楽のところも百貨店として新しく提案していかないと、リアルな小売業としてはやっていけない、と思っています。

2つ目は、これだけITが進歩している中で、世界同時に同じ情報がつかめるわけですから、「世界のライフスタイル」をちゃんと提案していくべきだと思っています。海外のライフスタイルを、そのまま導入するのは難しいですが、今はブラジル、将来的にはアフリカまで視野に入れて、世界のライフスタイルを提案していきたい。

グローバルというキーワ―ドについては、私どもは百貨店なので、海外に店舗をたくさん出すのは限界があります。ですので、ネットの方たちとコラボレーションしながら出て行かないと、グローバルとはもう言えないかな、と考えています。アメリカの百貨店は、すでにネットのシェアが50%を超えていますので。

3つ目に、百貨店ですので、地域とか街とか、地元の行政と一緒に成長していきたい。これは「地方で地元に」というイメージよりも、首都圏のお店で、1つの建物だけでなくて、その地域とともに成長していくというイメージです。いわゆる“ソフト”というか“コト”の部分を、百貨店で情報吸収しながら情報発信をしていかなければいけない、と考えています。

生き残るには別次元へのチャレンジが必要

最後に、今取り組んでいることをお話しします。我々は、コンテンツというか、自分たちしかできないことをやっていかないと、生き残れないと思っています。3年前から「JAPAN SENSES」という取り組みを行っています。これは、いろんなコラボレーションをしながら、地方のいいものづくりを提案するというものです。47都道府県全てを訪れて、そこで2週間なり1ヶ月を過ごし、ファクトリーを回ったりしながら、その地域の本当にいいもの、ものづくり、技術、職人といったノウハウを3年間積み上げてきました。

それが少しだけ評価されまして。経済産業省から支援をいただき、2014年2月に「日本JAPAN SENSES goes to NY」ということで、ニューヨークでPOP UP SHOPを出させていただくことになりました。これからは、「そこでしかできないコンテンツ」に、今まで以上に取り組んでいく必要があると思っています。簡単ですが、私からは以上です。

小野:ありがとうございます。特にインターネットというところで、ひとつご質問させてください。先日の会見で、2014年、三越さんと伊勢丹さんの全商品をEコマースでがっちゃんこすると発表されました。これは、かなりの規模になると思うんですが。

大西:そうですね、Eコマースは10兆円以上の規模があると思いますが、百貨店のEコマースは600億〜700億円です。その中で私どもは100億円なので、百貨店の中では大きいほうです。今のSKU(最小在庫管理単位)は5万程度ですが、フォーマットを一つにしたシステムを作って、15万〜20万に増やす計画です。

さらにEC専用の倉庫やインフラや物流の仕組みを作っていけば、100億が200億、300億にはなるかなと思うんです。ただし、おそらくそれだけではダメで、別の次元で新しいビジネスモデルみたいなものが必要になります。メディアなのか情報発信なのか、あるいはSNSを通じてコミュニティを作って集客をするのか。いろんな新しいビジネスモデルにチャレンジをしていくべきだとは思っています。

ヤフーは楽天もアマゾンも愛している

小野:ありがとうございます。では続いて、爆速ヤフーから。これはどちらがお話になりますか?

川邊健太郎(以下、川邊):まず僕がちょっと話して、あとは全部小澤さん、っていう感じでいいですかね? ヤフーの川邊でございます。伊勢丹三越さんが、全商品をネットで提供されるということで、ぜひYahoo!ショッピングにも出していただければなと思っております。なんせ出店料と手数料がタダでございますので。ぜひ出店を検討いただければ、というふうに考えております。

2012年に、IVSに出させてもらったときに、ヤフーも体制が変わって頑張るんで、「日本にバブルを起こしたいと思います!」という宣言をさせていただきました。無事、ヤフーとは何の関係もなく、安倍さんのおかげで、バブルがまず起きました。

次に2013年の夏に、北海道でKDDIの高橋誠さんらと鼎談(ていだん)をさせていただいたときは、「スマホのビジネスって何があるんだろうね」っていう話をして、「ほとんどゲームだよね」という、身もふたもない結論になったんですね。

ヤフーは別にゲームは強くないし、他のサービスも色々やっているので、「ECなんていいと思いますよ」と提案しました。なぜなら、日本のEC化率はすごく低くて、まだまだこれからなので、伸びる余地がある。だからECなんてやってはいかがでしょうか、と。

そのときも、まあちょっと心の中には、「ヤフーも頑張りますよ」「ヤフーも革命的なことやりますよ」っていう余韻があって。IVSのたびに、一応やることを決意して、発表させていただいているつもりなので、今日も頑張りたいです。ヤフーのECの概要を、これから小澤さんから話します。

小澤隆生(以下、小澤):ヤフーの小澤です、よろしくお願いいたします。副社長が立派な挨拶をしましたので、それを受けまして、もう少しEコマースについてお話をさせていただきます。冒頭に申し上げたいのは、ヤフーは楽天もアマゾンも愛しているということです。大好きです。出店してくれ! 全店、全品出してくれ!

ヤフーは単体で、Eコマースで独り占めして勝とうとは1ミクロンも思っておりません。ここにいらっしゃる伊勢丹さん、三越さんの商品もぜひともご掲載いただきたいですし、楽天さんの全商品もご掲載いただきたいです。インターネット上にある商品のデータ、Eコマースのデータというのは、すべて上手にヤフー上からお客さんを取っていただくために、メディアとして、Eコマース関連事業者の方にご活用いただきたい。これが、2013年10月に発表した、Eコマース革命の話です。簡単に言えばメディアになりましたと。ショッピングモールとはいうものの、我々はメディアでございます。

「喉に刺さった小骨」だったYahoo!ショッピング

小澤:なんでここに至ったかと申しますと、いろんな経緯はございますが、Yahoo!ショッピングというショッピングモールと、ヤフオク!という、2つのサービスがヤフーにはあります。私は、楽天において、楽天オークションというサービスを担当させていただいていた時期が3年くらいあるんですけれども。

ヤフオク!はやっぱり強いですね。ヤフーっていくつか、強いサービスあるんですよ。ニュースとか、天気予報とか。ヤフーが得意なのは、人がいっぱいいるところに、ニュースとか天気予報みたいに、誰でもが見るようなコンテンツをぶちこむこと。そりゃ見られるに決まっています。

もう1つは、C to Cみたいに、売り手と買い手をぱっと集める。特にCを集めるサービスが得意でして。オークションみたいなのは、バーっといくんです。ただ、ショッピングモールみたいに、ばりばり営業をかけて、一生懸命、売り手の方に頭を下げる、みたいな文化がなかなかないものですから、Yahoo!ショッピングは14年間やって、全然勝てないんですね。ぜんぜんお客さんにも使ってもらわないまま、エンジニアも最終的に数人で運営していたらしく。こんなもんでサービスうまくいくわけない、ということで、おそらく経営陣のなかではずっと問題視されていて、喉元に骨が刺さったままおそらく14年やってきたんじゃないかなと思います。

そんな中でも、楽天市場がばーっと伸びて、アマゾンがばーっと伸び、Eコマースの市場が、小売全体の7%とはいえ「兆」の単位で伸びていくなかで、オークションというのは、今頑張って7000億円くらい。Yahoo!ショッピングは、ここ3年くらい、フラットから少し下がっているんです。とはいえ、経営陣がなんでショッピングに力を入れてこなかったかというと、これは当たり前の話でして、広告のほうがめちゃくちゃ儲かるんですよ。ヤフーにひとりお客さん来て、広告見せたらチャリン、のほうがずっと楽なんです。

ショッピングのほうに移動して、それで買うか買わないのか分からないのに、移動させた挙げ句クリックされて3%、みたいな。全然儲かりませんから。もう、どでかいグランドパネルみたいなものをボコンと見せて、「これ3000万円!」と言っているほうが儲かるんです。Yahoo!ショッピングにヤフーから人を持ってくる、みたいなことはしないんですよ。これは経営陣としては、当たり前の話ですよ。

スマホ時代到来、ヤフーは焦っている

小澤:ではなぜ2013年の10月にeコマース革命をしたかというと、スマートフォンがあまりにも早く、流行ってしまったからなんですね。スマートフォンがどんどん出てくると、PCのキングであるヤフーは、もう生きていけないわけです。スマートフォンにいくわけですから。

スマートフォンのなかにポータルなんてものはほとんど要らなくって、OSレベルから押さえているGoogleさんとか、デバイスレベルを押さえているAppleさんに、ヤフーというのは、さらにだいぶ上のほうのレイヤーなのか下のほうのレイヤーなのか分かりませんけれども、敵わないですね。このままいくと。あらららら……と。

広告というのは人が多く来ているから価値があるわけで、人が来なくなったヤフーのPC上のトップページなんぞは、広告の価値がどんどん下がっていくってことに、経営陣は大変な危機感を覚えたと。じゃあ、ヤフーしか持っていない情報はなんだ、と。ヤフーは今何をやるべきなんだ、と。人が多く来ている間に、まだまだインターネットのなかで、成長の余地があるEコマースに本当に力を入れよう、と思ったわけです。

そこで、楽天市場の事業を1回も担当したことのない、私が起用されるわけです。経営陣には「私は市場のことはわかりません」と何度も言ったんですけど、「まあでも、それっぽいからいいじゃないか」という一言で、私が起用されるんですけれども。まあ、ヤフーとしては、今までeコマース本気になります、と2度も3度も言っていますが、今回は、本当の本気です。

下手したら、ヤフーは3年後に消えてなくなる

小澤:かつ、ヤフーとしては、今まで検索でいったら、探されたい側と探す側、この方々を無料でマッチングして、探した結果によって満足度を得て、探した先に次回からはヤフーを経由せず、「A」というホームページに行かれる方がたくさんいたとしてもいいじゃないか、でも、それなりの確率でもう一回ヤフーで、もっと面白い情報ないかなって検索してくれるように、と考えてきました。

検索エンジンのもっとも重要な点は、探される先が多いことと、クロール先が多いことですよね。1万個のホームページを検索できるより、10億個のホームページが検索できるほうが、検索エンジンとしては優秀だというのは言うまでもないので、そういう単純な話をしようじゃないかと。ショッピングもきっと一緒だ。1億品の商品が検索できるより、10億品の検索ができたほうが、ショッピングサービスとしてはいいんじゃないの、と。

そして、その結果、探した先に次回以降お客様がダイレクトに行ったとしてもいいじゃないかと。だから外部リンクをOKにしたんですね。でもおそらく、お客さんっていうのは、行った先だけじゃ満足しないに違いない。もう一回、その10億品を検索するに違いない。そして、検索される側も、できるだけ自分たちの商品を露出させたい、と言ったら、これは広告になる。「検索と一緒にしてしまえ!」「ヤフーの強み、強いところで勝負しよう!」ということで、ECに対する考え方を、ひたすら楽天市場のモノマネをするところから、ヤフーが一生懸命成功してきた道をたどって、Eコマースをそれに適応する、というほうに変えました。

その変えるきっかけになったのは、ヤフーはこのままじゃ死ぬ、下手したら3年後に消えてなくなるかもしらん! という、強烈な、ここにいる川邊副社長をはじめとした経営陣の強い危機感。それに則って、今回やったということなので。

またEコマース全体を、このヤフーの強い意志によって伸ばすことができるんだったら、必ずや新しい世界が生まれるに違いないと。EC市場がどかんと大きくなることは、必ずや全人類にとってハッピーであると思いましたので、今日この場のソファーに座っていると。こうなると思います。以上となります。ありがとうございました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 各地方の豪族的な企業とインパクトスタートアップの相性 ファミリーオフィスの跡継ぎにささる理由

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!