2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
インドでも日は昇る(全1記事)
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蛯原健氏(以下、蛯原):蛯原です。よろしくお願いします。今日は「インドのことを話してください」ということでご指名いただきましたので、インドのテックシーンについてお話します。
僕がFacebookで「こういうことを話します」と言ったのがこの(スクリーンの)図でして、これは何かというと、インドと日本のスタートアップが今年の上半期に資金調達した金額の差です。
インドは日本の7倍も多く資金調達をしていると。資金調達は必ずしも指標の1つでしかないんですけども、これはなぜなのかという解説を(していきたいと思います)。
それから、日本企業はこれからどうやってインドで仕事をしていったらいいかというお話をさせていただきます。
その前に、ちょっとアジア全体を俯瞰して見ていったら、より(今後の話を)紹介しやすいのかなと思ったんですけど。アメリカは引き続きインドと中国をはじめとして活発に投資しています。
問題は、中国が中央アジアならびにインドでバンバン大規模な投資や買収、事業展開をし出したことであり、これは非常に大きいファクターだなと思っています。
もう1つ、東南アジアですが、私は元々5年前から東南アジアのベンチャー投資を始めたんですけど、2011年当時は正直ほとんど日本のインベスターしかいなかったという状況でした。
今は米系とシンガポール政府にかなり支援されたインベスターなどが増えていますので、(以前と同じような)日本だけの場所ではなくなったということはうかがっております。
その中で、驚異的なリアクションを遂げているインドが次の10年、20年、あるいはそれ以上(の年月)を率いる成長ドリブンにどう取り組んでいくかという話をするつもりです。
ここはご存知だと思うので、ちょっと早足でいきますけど、人口が10年後に世界一になる国に関する国連の発表がずいぶん前にありまして、(インドは)7年後に世界一になると。しかもその半分が24歳以下の若年人口(となるわけです)。
それから(国民の)質でいっても英語話者、プログラマー数が世界一、もしくは世界一に次ぐ国になるという統計が出ています。
経済規模でいうと、米国を抜くとか抜かないとかいろいろな統計があるんですけど、少なくとも中国に拮抗する形でアジアのツートップになることは間違いありません。日本に関していえば、すぐに抜かれます。
スマートフォンの出荷台数ではなく(所有する)人口ですけど、来年は2億から2億5千万人くらいがスマートフォンを使うと言われています。(インドは)アメリカを抜いて世界2位になるでしょう。
テクノロジー人材が極めて優秀だということがインドの大きな特徴の1つですが、ここのパネルにもある通り、外国人が立ち上げた企業の1/3がインドにある。(それに続く)2位以下というのは(もう)5パーセントくらいしかありません。
それから有名校であるインド工科大学が非常に優秀で、サン・マイクロシステムズの創業者が「ハーバードやMITより難しい」と言ったり、難関で(あることで大変有名です)。
世界のリーダー、有名なところでいうとグーグルの次期社長であるサンダー・ピチャイの出身校に当たります。ちなみに、当社の取引先の社長もほとんどここの出身になります。
彼に限らず、グローバルでハイクラスな人材のネットワークが非常に強いという特徴があると思います。
その結果、よく(インドは)「CEO輸出大国」と言われているんですが、ソフトバンク次期社長のニケシュ・アローラ、マイクロソフト現社長のサトヤ・ナデラにはじまって、特にIT産業に身をおくグローバル企業のトップを軒並み輩出していると。
加えて、金融でもかなり強いですね。あとはペプシコなんかも(CEOが)インド人のインドラ・ヌーイだったりします。非常に優秀な人材が出揃っている。
そしてソフトバンクが有名ですけど、アリババやテンセントのような中国勢が投資を発表したり、メディア王のルパート・マードックにみられるようにグローバルメディアがどんどんインドに進出し出したというのが、この数年の動きとして顕著になってきています。
スタートアップに関していうと、これもなかなか議論があるところで、必ずしも1つの指標に過ぎないんですけども、「ユニコーン」と呼ばれている10億円以上、8億ドル以上のバリュエーションを築いている会社は、全アジアでインドが3割を占めているという統計が今年に入って(発表されています)。なお、中国が50パーセント、そして日本はゼロという形になっている。
日本の場合は早期にIPOができるという、国際的にかなり特殊な市場も置かれていますので一概に良いとか悪いという話ではないんですが、事実としてこういう統計が出ている。
Eコマースを見ると、インターネットのプログレスがだいたいどれぐらいあるのかわかりやすいと思っているんですが、インド最大手のフリップカートの流通総額が今だいたい1兆円と言われています。
楽天は去年の流通総額が2兆円と言われており、半分ぐらいに迫ってきていると。インドにおけるEコマースの市場規模は、日本と遜色ないくらいになってきているのかなと思います。
今年上半期の比較は先ほど申し上げたんですけど。去年1年でいうと、日本がだいたい10億強なのに対して、東南アジアを代表するシンガポールが27億、イスラエルが36億、インドがだいたい40億くらいですが、多分今年は100億近くなると思います。
米国や中国は置いておいたとしても、これらアジアの国と比較していかにインドが大きいか、あるいは日本が相対的にいかに小さいかがみてわかるのかなと。
ここからは「インドがすごいのはわかった。じゃあ、どうしたらいいんだ」という話をしていきたいなと思います。
我々なりに「エマージング市場でなぜこんなに大きい金額の資金調達をして、大きくスタートアップが成長するのか」の解析を試みているんですが、やっぱり成長する機会がマクロで非常に大きいと、それに比して(企業も)プレミアムになるのかなと。
従って、同じようなポジションのプレイヤーでも小さい市場、あるいはこれから伸びない市場と今後大きく成長する市場にいるのとではバリュエーションがかなり変わってくるでしょう。それによって資金調達額も大きくなる。
その資金を使ってバンバン事業投資や企業投資をしていくというポジティブなスパイラルが今一番働いているのがおそらくインドではないかなと。ちょっと前までは東南アジアが非常に熱かった。その前は中国ですけど、そういうジオグラフィーの変遷が今起きているのじゃなかろうかなと思います。
ちなみに、フリップカートが過去に買収した一番大きい金額というのはだいたい5億くらいなんですね。5億円ぐらいの決済の会社を買収したんですけども、それぐらいの買収ができるぐらいの状況です。
対する日本は縮小予測となっているので、マーケットディスカウントになってなかなか大きな資金調達ができない。したがってこういう買収や出資のプレイに参加できないと。
こう考えてみた場合に(負のスパイラルを)断ち切れるのは、やはりマーケットディスカウントを解いていくということしかないでしょうね。
これを考えるにあたって具体的なデータや事例で見ていきたいんですけど、インドで一番成功している会社ということで名前が挙がる数社のうち、代表的な1社がスズキ自動車なんです。
(スズキは売上)全体に対する(インドでの)比率が24パーセントくらいでかなり伸びており、海外全体をみても64パーセントと日本よりも海外のほうが断然売上が大きいという構成になっています。
一方、(スズキとならんで)軽2強と呼ばれているダイハツでみてみると、(海外での売上比率は)1/3ぐらいでエマージング市場ではあんまり(営業活動を)やってらっしゃらない。
(両社とも)利益はほとんど変わらない状況なんですけども、この2社のPBR(株価純資産倍率)を比較してみた時にだいたい倍ぐらいの差がついていますね。
もちろん、これは個別要因がたくさんあるので必ずしもエマージング市場となっているインドで立てている売上比率が高いからとは限らないかも知れませんが、少なくとも参考にすべき、注目すべきデータなのかなと我々は思っています。
この中で具体的にインドへの企業進出についてデータで見ていきましょう。そもそも「長期的にどこで事業やりたいですか?」ってアンケートを取ると、1位がすでにインドになっています。
その前がインドネシア、さらにその前が中国だったのが、今はインドになっている。それからもうすでにインド進出が増えていて、1,200社くらいインドに進出しており、これから年に100社くらい増えていると(いう統計データもありますね)。
もう1つ重要なのが、さっきの話にも出た人材のクオリティです。日本政府と東大が、さっき言った理系の最高学府であるインド工科大学と連携して、日本の企業に対してどんどん優秀なテック人材を輩出していこうという旨のアライアンスがもう先週(2015年9月4日)発表されています。
官民挙げてそういう機運がだんだん醸成されてきつつあるのかなというところです。
あと、海外の企業の進出事情も見たいんですけど、台湾にある「世界の工場」と呼ばれるフォックスコンはインドに50億ドルの投資をして工場をつくるだけでなく、周辺のスタートアップにバンバン投資をしていくという大きな発表を現地でしています。我々にも「技術ソースはないか」という問い合わせがいっぱいきます。
ここから何が学べるのかなといった時に「製造調達の拠点だけではなくて、川上産業や周辺産業も含めたエコシステムをつくっていこう」ということを彼らは考えているのだろうと類推されます。
したがって、製造業に関しては、この後に強固なエコシステムをつくったとしても「そう簡単に価格競争力だけでは勝てない状況がきてるんじゃないかな」と思います。
あともう1つ注目したいのが、製造業の変遷ということなんですけど、スマートフォンであれば日本のメーカーでソニーとかが強かったんですけれども、そのあたりは韓国のサムスン、今は中国の小米(Xiaomi)や台湾のHTC。
ただし、小米は直近でいうと、低調な発表がなされたということがある一方で、インドにはマイクロマックスというローカルのスマートフォンメーカーがありまして、これが実はシェア1位です。
スペックの差とかいろいろあると思うんですけども、ローカルシェア1位を取っているということは、少なくともユーザーのニーズをとらえた的確なスペックだということです。
自動車においても、タタモーターズが1位ではないですけども、かなり高いシェアを持っている自動車メーカーになります。
やっぱり製造業や精密な自動車、スマートフォンなどにおいても、ジオグラフィカルな変遷があるということを前提にこれから考えていかなきゃいけないのかなと思っています。
最後なんですが、そういった中で「日本の企業はどういう進出をしたらいいのかな」という問いについて、我々は常に日本企業ともディスカッションしながら具体事例をつくっています。
例えば自動車のメーカーやJRでもいいし、精密機器のメーカーでもいいし、飲料やグッズのコモディティを扱う企業でも何でもいいんです。
あるいは金融サービスや銀行、そういった日本の大企業がここに書いてある巨大で成長する市場を当然とらえているわけなんですが、(本当に)重要なことは同時にそこの人材をとらえているかということなのかなと。
つまり、現地トップマネジメントを現地から採用しているか、あるいは日本から派遣しているか。これによって趣旨が変わってくるというのが1つあります。
特にトップマネジメントを中心にどんどん人材をローカルから登用していく、決定事項に関してはエンジニアなども含めてやっていくというのが重要かなと思っています。現地のイノベーションを活用していくということですね。
具体的にいえば、例えば車であればカーシェアリングとかコネクトとかそういうソリューションをもうすでにやっているスタートアップがインドにあります。
IoTだったり一般消費財をマーケティングする際のビックデータだったり、アドテクのようなものも全部あるわけです。
(こうしたものを)どうやって取り込んでいくかというと、現地のテック系の会社と協業していくのがいいんじゃないかなと。
最後になるんですけども、進出する場合の展開にしても独資でいくか、ベンチャーでいくか、出資または買収するか、この3つしか結局ないわけですけど、実のところ数字でいうと答えは出ているんですね。
JETROの統計なんですけど、一番下が「出資しないで買収」ですね。真ん中が「合弁会社」。(最後が)「ジョイントベンチャー」で(インドに)出たものです。
製造業と非製造業、それぞれで若干違いがありますけども、(両者)合わせてみてもやっぱり3番目の「出資ないし買収」の上で黒字化したって会社が8割ぐらいに及びます。
対して独資、ないしジョイントベンチャーの場合は赤字になる方が多いという結論が出ています。
やっぱりその違いは何かというと、買収や投資によってローカルの会社やそこが築いてきた事業やイノベーション技術を取り込んでいった結果黒字になれた。
そうではない日本のものだけを持ってブレーキを起こすとなかなか苦戦していると言えると思います。
ちょっと駆け足になりますが、以上で終わります。何かインドのことについてありましたら、また声をかけていただければと思います。どうもありがとうございました。
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