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IVSスタッフから世界No.1のベンチャーキャピタリストへ(全3記事)

佐俣アンリ氏「10年間毎日会えるかどうかが最後の基準」スタートアップへの投資を語る

IVS 2015 Springの本セッションを前に行われた特別インタビューに、ANRI General Partners・佐俣アンリ氏が登壇。モデレーターを務めるのぞみ・藤田功博氏と「IVSスタッフから世界No.1のベンチャーキャピタリストへ」をテーマに意見を交わしました。佐俣氏は、2007年〜2008年頃からのVC業界の急激な変化や今後の動向を注目している産業を紹介します。また、スタートアップを陰で支えるVCとして、その企業に投資するかどうかの最後の基準について語りました。

ベンチャーキャピタルのルールの変化

藤田功博氏(以下、藤田):今話された、2007〜2008年ぐらいから少しずつベンチャーキャピタルというものが変わってきてるというのは具体的にはどういうようなことなんですか?

佐俣アンリ氏(以下、佐俣):僕が大学生の頃のベンチャーキャピタルって、ほとんどが金融のファンドに近い感じで、MBAとかコンサルティングファームあがりのすばらしいパートナーたちが立ち上げたファンドがあって、そこが投資をしていくっていう。

僕が大学生の後半になったくらいに、Yコンビネータっていう全く新しい仕組みで、シードの会社に投資をするという仕組みができたりとか。

また、DST。Digital Sky Technologiesといって、巨大なファンドで上場もしていいはずの会社にどんどん投資をして上場を遅らせてどんどん大きくしようというファンドとか。

あとは、今だとTigerGlobalとうファンドはヘッジファンドですね。世界の巨大なヘッジファンドがだんだんベンチャー投資に降りてくるとか、いろんなところからいろんなものが現れるんですね。

このルールの変化がやっぱり激しい。もともとトップと言われたのはクライナー・パーキンスというところと、セコイヤキャピタルというところ。

その2つが必ずしもトップかというと今はむしろアンドリーセン・ホロウィッツ(AndreessenHorowitz)っていうマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)とベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)という起業家2人がつくったファンドが一番になっている。

金融のファンドというよりは起業家のファンドです、みたいになってて。ルールが変わるってすごいなって。この環境の変化は衝撃的です。

佐俣:僕も日本のトップのベンチャーキャピタリストの方に、「僕はこういうふうに考えてて、どうなるかと思ってるけどどう思いますか?」って言うと、みんな「わからない」と。「僕は今迷ってます」って言ったら、すごい大先輩ですけど、「僕も迷っているよ」と言われて。

「むしろこの産業、迷ってないやつのほうがダメだ」と。「なぜなら、世界中でベンチャーキャピタルのモデルが変わっているんだから。自分の最高の答えっていうのはずっと迷ってるぐらいじゃないと多分ダメなんだよ」って言われて、それは結構腑に落ちています。

投資家も経営者と一緒に戦っている

藤田:アンリさんの場合は、自分自身も起業家で、投資先の経営者と目線を同じくしてできるというところがひとつ大きいのかなと思ってるんですよね。

佐俣:何も無いところからスタートして、あらゆる人に「ダメだよ」とも言われないんですよ。無視される。なんかやってるなって言って、誰も怒っても批判してくれも応援してくれもしない。

このスタートからスタートして、気がつけば「お前を応援していたよ」って人とか、「おー、知っているよ!」みたいな人がだんだん増えてくる。

この無関心から始まる戦いを、僕もこの4年間やってきてるので、これをやってきたのが結構気持ちがシンクロできるんですよね。

「今、お前を見ている奴は誰もいない」と。「でもそのうち誰か怒ってくれたりしたら、それは成長だ」と。このスタートを一緒にやれてきてるし、常に自分自身も目標を決めて、一緒に共有するというのをやっているんですよ。これちょっと話していいですか?

僕毎年、年末12月31日に一緒に戦っているチーム一人ひとりにメールをするんですね。「今年もお疲れさまでした」って言って、「今年はこんな年だったね」って言って。

「お前はこんな年だったから、来年ここにチャレンジしようぜ。ところで俺はこんな年だったんだけど、去年はこんな目標だったけどこうだった。俺は来年こういう目標立てるから頑張るわ」というのを一方的に送り付けるというのを毎年やっていて(笑)。

これ、僕大好きなんですよね。お前も戦ってるし、俺も戦っていると。お前の目標も無茶だし、俺の目標も無茶かもしれんと。ただ、やろうよと。

毎年12月31日にどんどん一緒に戦っているチームが増えてきて、どんどん長くなってきて、最近だと4時間ぐらいかかっていて、結構悶々と考えるんですけど。でもこれをやるのがすごい大好きで。

自問自答できるんですよね。「俺、戦ってるんだろうか?」って。でも俺戦っているんだろうかって、戦っていないとなった瞬間に終わっちゃうなと思って。一緒に戦うという気持ちをずっと持っていたいなと思います。

投資家として、日々意識していること

藤田:僕から見てたら、アンリさんの武器っていうのは、まずすごくよく勉強してますよね。勉強という言い方が正しいのかわかんないけど、積極的にいろんな動向、それは現在の状況もそうだし、過去こうだったとか、もっと過去こうだったとか、そういうことをよくすごく調べて学んでいるし。

その先どうなるのかっていうことを、もう単純に今の状況から推測した未来というよりは、どっちかというとあるべきものを描いて、そこにどう近づけていくのかみたいな。そういう実現思考型というか、そういうところが人にない強みだったりするのかなと思うんですよ。

佐俣:ちょっと照れますね(笑)。ありがとうございます。

藤田:そういう面で、普段の仕事に取り組む上で意識してることとかっていうのは、それに近いことは意識してやっているようなことなんですか。

佐俣:人間の歴史っていろんな振幅を繰り返したりとか、スパイラルを巻きながら、上がったり下がったりするし。過去に起こったことと同じような状況、同じようなことが起こるみたいな。図形でいう「相似」みたいなものが結構あると思うんですよね。

ちょっとずつ歴史の波が動きながら、相似の形が何個も三角形がいっぱい重なっていくみたいなものをイメージしていて。

なので、過去にこういうことが起こったから、こういうことが起こるよねとか、きっとこの三角形がいっぱい重なった先にこういう未来が待ってるから、その未来に対してこういうアプローチでいこうね、みたいな。

右脳っぽいんですけど。図形がたくさん連なっていて、振幅しながら動いてるっていうのをずっとイメージしています。

「じゃあ今、俺はどこにいるんだっけ?」とか。「今、俺たちは上がっているんだっけ?」とか。

「マクロでは上がってるんだけど、ミクロでは下がってるよね」っていうのをお互い理解できていれば良くて。そういうのをぼーっと考えながら、いろんなニュース見ながらも、「これってこういうことかな?」みたいな。

「今日なんか法人税2兆円上がりました」みたいな。「あー、円安かぁ。でもって株全部上がってるけど、これって198何年のこれと近いのかな」とか、そういうのをずっと考えています。

シード・アーリー期のベンチャーに伝えたいこと

藤田:今ってベンチャーを取り巻く状況は比較的良いと言われていて、大型調達があったり、派手なニュースが飛び交う中で、本当に立ち上げ直後のベンチャーとか、なかなか結果が出ないベンチャーにすごく焦りがでやすい時期だと思うんですよ。隣がつい気になるというか。

そんな中で目の前のことに集中してもらうために、何か伝えていることとか。「気にするな」と言っても気になってしまうぐらい日々いろんなニュースがあり、多分このIVSの間でも、また大きいリリースが出たりすると思うんですけど……その辺は?

佐俣:気になっちゃうのはしょうがないんですよねぇ。気になっちゃっていいと思うんです。あるとしたら「ちゃんと嫉妬しようね」っていう。

すごいうらやましいじゃないですか。僕も先輩方のファンドがどんどん大きくなっていくのってすごいうらやましいし、悔しいですよね。

これは正しい感情だから、正しく嫉妬しようと。ただし、足を引っ張っちゃだめだと。どちらかというと周りが気になるのはしょうがない。ただ、それを良いエネルギーに昇華したほうがいいと話をしてます。

悔しい! 競合が調達した。競合がすごい伸びているらしい。採用したかった人が競合に行った。悔しくて仕方がない。わかるし、しょうがない。やっぱり人間だから。競争してるから。でもそれを恨みにしないというか、スターウォーズみたいな話でダークサイドに行かなければいい。

自分たちのコンプレックスとか、嫉妬の感情とか、悔しさ辛さを全部正のエネルギーに変えられるようにイメージしようねっていうのが、一番メインで言うことかなと。

目の前のことに集中してほしいんですけど、気になっちゃったら、気になってないとか、うらやましくなんかないという言葉でふたをしない。

藤田:そういうときにお菓子を持っていったりするんですか?(笑) この人たち行き詰まっているのではないかなというところを見計らって……。

佐俣:そうですね(笑)。お菓子を持っていくのも、まあ飯を食えっていう話もあるんですけど(笑)。ベンチャーキャピタルやってるとすごい気が弱いんですよね、やっぱり。「邪魔じゃねえかな?」みたいな。

オフィスに「こんにちはー!」って行くじゃないですか。行くと人がばっと来て、「あっ、どうもどうもー!」みたいになったりするんですよ。すごい嫌なんですよね。

藤田:なるほど(笑)。

佐俣:無視してほしい。仕事の邪魔をしたくない。とにかく怖い。オフィスに行くことで仕事の邪魔するんじゃないかって怖いから、せめてお菓子を持っていけば飯は邪魔にならない。飯は嘘をつかないです。カロリーなんで。カロリーは嘘をつかない。

なんで、せめてそれだけは持って行こうと。手ぶらで行くのがもう怖いのですよね、なんか。

藤田:それってお菓子を持って行くタイミングと、もしくはご飯を持っていくタイミングは何か違いがあるんですか?

佐俣:ご飯を持っていくとこは「死ぬな!」っていうメッセージです(笑)。「生きろ!」っていう(笑)。ご飯というか炭水化物ですね。パスタと米。

お菓子は、お菓子が好きそうなチームとか、もうちょっと高次元ですね。「モチベーション上げようぜ!」とかはお菓子でいいと思うんですけれども、米はよりダイレクトなメッセージですね。残キャッシュが5万とか……そこでパスタ! みたいな(笑)。

動向を注目している2つの産業

藤田:実際にさっきの話で、特に業界うんぬんていうのはあんまりないって言ってたんですけど、それでも今着目している業界というか、領域だったり、動きっていうのは何かありますか?

佐俣:いろんなものがあるんですけど、既存のルールが変わる瞬間の産業と、とにかくでかい産業で閉塞感がある産業。この2つです。

1つ目は、例えばビットコインとか、VRとか、ドローンみたいな、新しいものが出るときってわけわかんないですよね。

昔で言うとセカンドライフとか、携帯電話のコンテンツ産業とかもそうですけど、とにかくカオス。わけわかんないし、誰も正解を知らない。

けどすごくなりそうだ。すごくなりそうだけど、わけがわからない。ここはベンチャーが一番突撃するところなので、ここはいつも見てます。ここにとにかく突撃していって、一生懸命場をかき混ぜてみるというのがひとつ。

あとは巨大な産業で閉塞感がある産業。ラクスルという会社に投資させてもらってますけど、印刷業界とか、コイニーで決済の業界とか、比較的トラディショナルな業界に対してスタートアップができることがないのか、もう1回この産業を活性化できないかとか、新しい文脈でこの産業を見れないかみたいなもの。この2つが大きく見てる事業ですね。

藤田:その場合って、先にその動きとか領域に着目して、そこで頑張ろうとしてる人を見つけるのか、あるいはその逆なのか、どっちのパターンが多いんですか?

佐俣:両方あるというと格好悪いんですけど、どっちもあるんですよね。

最近はただ「やることないのかあ……んー、じゃあドローン!」みたいな(笑)。「よくわからないけど、でかそうだからドローン!」みたいなのとか。「それおもしろいじゃん」みたいな。

人によって、すごい優秀だけどアイデアが枯渇してる人とか、テーマが枯渇している人とか、いっぱいいるので。

テーマが枯渇している人には「今、俺コレとコレについて課題感持ってるんだけど、どう?」みたいな。「これどうよ?」とか。「あえてこれやれ」みたいな。「これやらなかったら投資しない。これやるんだったらその場で5,000万投資する」とか。

なんか適当に言っているわけではなくて、その人のフィット感。この人はこういうふうに決めてあげたほうがいいんだろうなとか。笑点みたいにお題を出したほうが生きるのと、フリーテーマでフリーで生きる人って違うんですよね。

内発性の中でしかモチベーションを保てないっていう人がいて、「自分が考えた」と思わないと戦えない人っているんで。これは人によって分かれるんで、それによって渡してます。最近は自分でテーマを渡してる人のほうが多いかもしれませんね。

投資基準は「10年間毎日会えるかどうか」

藤田:実際にやってたら「投資してください」っていう相談もあったりすると思うんですよ。そういうときに、投資する、しないはどこで決まるんですか?

佐俣:いろんな判断軸があるんですけど、一番最後のラインは「こいつなら10年毎日会ってもいいな」という話が一番です。

理由は、ベンチャーキャピタルって10年間のファンド期間。大体7〜10年ぐらいの期間でやってますけど、僕のファンドは10年なんですね。

10年で投資させてもらって、何かうまくいかないとかで、「またダメだ!」とかあっても、毎日会って「そうか、じゃあ次は井戸を掘ろう!」とか「川があるかもしれない!」「次こそ石油が出るかも!」とか。

毎日それをやれるか否か。「こいつはすげえ成功しそうだけど、会いたくないな…」だと辛いじゃないですか。

やっぱり何があっても一緒に会って、失敗を一緒に笑えるやつみたいな。それが僕が言う「10年間毎日会えるかどうか」。ここが最後の基準ですね。

藤田:あと、その前段階で、起業しようかどうかでモヤモヤしている人も結構多くないですか? そういう人って、何を求めてるんですかね?

佐俣:「起業しようと思ってます」「すればいいじゃん」っていう話で、別になんか、子供じゃないんで。基本みんな「いいんじゃない?」って言うんですけど。

おもしろくて「バンジージャンプしようと思ってるんですけど」っていうのを、東京で言われても困るけど、川の前で言う人もいれば、ヘルメットと縄つけた後に「バンジージャンプしようと思っているんですけど」って言う人もいるんですよね。

何が言いたいかというと、相談するにもフェーズがあって「絶対それする気ないでしょ?」みたいな、丸の内のビルで膝組みながら「僕、バンジージャンプ興味あるんですよね」って人って結構いるんですよ。

そういう人は「それ違う。勘違いだから大丈夫だよ」って言って、もう聞かないっていう。

もう明らかに会社辞める気ないのに起業しようと思ってる人っているんですよね。全く楽器とかできないんですけど「俺、バンド組もうと思ってるんだよね」みたいな。一切何の練習もしていないみたいな。

こういう人ってやっぱりいるんですよね。「起業しようか迷っているんですよ」って言いながら「それ、もう縄つけてんじゃん!」みたいな人はやっぱり本気なので。気持ちは前に行っちゃってるんだけど混乱してるみたいな人には「どんどん行こう!」って言いますね。

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