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起業家という人生 教育を変革し、世界を変える(全6記事)

「教師を年収1000万以上に」「公務員制度撤廃」優秀な人を教育現場で採用するには

学生や若手ビジネスパーソンを対象に行われた起業家育成プログラム「IVS SEEEDS 2015 Summer」。セッション3には「教育を変革し、世界を変える」をテーマに、教育業界で急成長を遂げたスタートアップ3社の代表取締役が出席。スマートエデュケーションの池谷大吾氏をモデレーターに、ライフイズテック・水野雄介氏、LITALICO・長谷川敦弥氏、Ridilover・安部俊樹氏が教育業界の問題点や、教育ビジネスの可能性について語り合います。このパートでは「教育現場と社会との整合性はどのように感じているのか」「社会的な側面とビジネス的な側面のバランスをどのようにとっているのか」といった、会場に集まった参加者からの質問に登壇者がそれぞれ回答しました。

いい先生を採用する仕組み作りが必要

池谷大吾氏(以下、池谷):他いかがですか? 他のセッションて結構手が挙がらないんですけど、じゃあ、一番後ろの。他の方も必ず指しますので、お時間あるのでよろしくお願いします。

質問者:今、高校生向けのキュレーションメディアを運営していて、それこそ「個性が生きる社会をデザインする」っていうビジョンで会社を立ち上げたんですけど、教育に携わる中でものすごく難しいなと思っている部分があって。

それは皆さんがおっしゃってた通り、社会があまりにも均質化させる教育を提供してる、と。それを変えようとしたときに、まず生徒達のマインドと、またその教育者である親と先生のマインドっていうのが、ものすごく保守的であると。

僕は、先生って世の中でもっとも保守的な職業の人たちだなと思っていて、例えば民間企業のことを「業者さん」て呼ぶんですよね。業者=ビジネス、悪だ、みたいなニュアンスを受けていて、その中で皆さんがビジネスで教育を変えていく難しさ。社会との整合性っていうところで、どれほど感じてらっしゃるのかなって気になっています。

池谷:本当はお三方から答えていただきたいんですけど、結構手を挙げている方もいらっしゃるんで、僕のほうでセレクトさせていただきます。長谷川さん、いかがですか?

長谷川敦弥氏(以下、長谷川):教師っていうところですかね? 教師の部分はあれですよね。多分、政治的になかなかテコ入れができない領域だなと思ってるんですけど。抜本的には公務員制度撤廃するくらいのことっていうのが、必要なんじゃないかなと思うんですね。

これいろんな政治家の方に話したり、官僚の方にも話すんですけど、あまりにも非現実的すぎて「あぁ……」って皆すぐ会話終了するんですね(笑)。ただやっぱりこれは、先生自体が1つの身分みたいなものになってしまってるんですね。

社会で優秀な人たちが先生になって、子供たちの前に座る。子供たちも本当にいい人格を持った人たち、多様な活躍をできている人たちの前に座って、その人の動き方や呼吸の仕方や考え方を、ちゃんと感覚的にも理解していくっていうのが、僕はすごくいい教育につながると思っているので。

教員の質を高めていくっていうのはすごく大事だと思うんですよ。極端なことを言ったら、本当は教師を年収1000万以上くらいにして、優秀な人たちが教員になっていくような流れ作りをするっていうことが大事なんじゃないかなと思うんですね。

現状は、僕も田舎で野球をやってたんですけど、野球部って卒業していくと野球のコーチやりたくなるんですよね。そうすると、何か僕の友達も「そろそろ疲れたわ、俺。教師やるわ」みたいな(笑)。「何教えるの、お前が」って言うと、「社会、地理」みたいな感じになってて。そういう循環を断つっていうのはすごく重要で。

会社の経営においてもすごく大事なのは、エントリーマネージメントなんですね。人材の最初の採用なんですよ。いかにいい人を採用するかっていうのは極めて重要なんですね。

学校の先生も一緒で、やっぱりいい先生たちを採用していけるような、いい人が教師になりたいと思って、いい人をちゃんと採用していけるような仕組みを作っていくっていうのは、難しいですけど、いずれ絶対に解決しなきゃいけない問題だなと思いますね。

安部敏樹氏(以下、安部):ちょっと乗っかってしまうと、多分教育を仕事にしたいと思ったときに、先生が保守的だからっていう批判はすごく意味がないと思っていて。そういうことをするんじゃなくて、じゃあなぜ彼らが保守的になるのか? っていうの、今言ったように原因の部分から取り除いていくと、それが仕事になるんじゃないかなと思います。

僕は結構先生方は頑張ってると思うし、その頑張ってる中ですごいペーパーワークも多い。業務時間も長い。じゃあ、そこの部分を誰かが改善してあげたら、その分もっともっと先生たちの能力開発に使えるし、意味が出てくるじゃないですか?

なので、仕事でやるというふうに考えるんであれば、やっぱり批判じゃなくて、どうやったら相手をもっとよくできるか? っていうふうな形。そうすると社会がよくなるわけなので、そういう視点のほうがいいんじゃないかなと思いました。

人はWin-Winじゃないと動いてくれない

水野雄介氏(以下、水野):高校生なんだよね?

質問者:はい。

水野:そうだよね。高校生からだと、保守的に見えるんですよね。僕もやっぱり先生と話してるけど、頑張ってる先生って多いんだよね。子供のことすごい考えてる人多いし。だけど、やること多くて外部環境もないから、成長もなかなかできない環境になっちゃってるっていうのが問題でね。

俺はすごい子供のことを考えている先生って多いなと思うから、先生に対して、どうやったらもっと便利になるかとか、楽になるかとか……、つまりWin-Winじゃないと動いてくれないんだよ、人って。そういうところを考えて設計してやれると、ビジネスにもつながるんじゃないかなと思います。

池谷:結構このジャンルは熱くなるんですよ。何でかっていうと、教育っていうのは公教育がメインなんだからなんですよ。国が司ってずっと仕切ってきましたっていうのがメインで、なかなか変えづらいんですよね。義務教育だったりとか、大学もかなり影響受けてますけど。

ただ、そこに愚痴言ってもしょうがなくて。僕は起業家にも共通することがあると思うんですけど、すごくイケてる起業家ってあまり政治の文句言わないですよね。そこ言ってもしょうがなくって、自分たちができることってもっとあるだろう、と。いわゆる資金調達して外部から変えていくことも、いくらでもできると思ってるし。

そういった意味では、変えるために先生たちがってことではなくって。自分たちがそういう機会を作ればいいんじゃないかって、充分できると思っているので。

本当に思い立ったら、自分でアクションを起こせば充分に変えられる可能性っていうのがあるのかなと、すごく思いますね。そうじゃないと本当に、人様が作っているものなんて一生変わらないよ、となってしまうんだけれど、そんなことはないですよね。

なので、ベンチャーの経営者とかと話してもあまり政治的な話題……例えば今だと、いろんなことを政治で議論されてますけど、そんなのは頑張らなきゃいけないところじゃなくって。自分たちがむしろ経済の側面で社会を変えていけばいいんじゃないか? とか、そういった観点に立つとずいぶん(違う)。人任せな人生なのか、自主的に(やるのか)。

それが本当に起業家の1つの意義というか、そういうものじゃないかなとは思うんですけど。そういった観点はあるかなと思いますね。

質問者:ありがとうございました。

お金を払ってでも来たくなるものを作る

池谷:他にいかがでしょうか? じゃあ前から2列目の。

質問者:お話ありがとうございます。皆さんは教育ということで、社会貢献的な部分がすごい多くあると思っていて、ただそういう活動をするにおいてはやっぱり「ヒト、モノ、カネ」というのが絶対的に必要になっていくと思うんですけど、そういった社会的な側面とビジネス的な側面というもののバランスをどのようにとっておられるのか、伺いたいです。

池谷:すごくいい質問ですね。本当にエデュケーションやっていて、ほとんどうまくいかない会社っていうのは、そのバランスがとれないんですよ。さっき言ったように教育っていうのはいくらでも社会的大義って言えるんですけど、やっぱり食わなきゃいけないですよね。皆さんはそのスペシャリストのはずなんで。水野さん、いかがですか?

水野雄介氏(以下、水野):まずは、価値あるものを提供するっていうことが大事なのかなと。教育って結構、エゴというか自己満足になりがちになっちゃうんですよね。だから、こんな教育あったらいいっていうのは、人によって違う。

それをやるんだけど、僕はNPOでも株式会社でもよかったんですよ。株式会社にしたのは、価値あるものを作りたい、と。ちゃんとお金を払ってでも、次もまた行きたいと。

教育って結局学びだから、次また学びたくなるのが本質じゃん? だから、次もまた学びたくなるっていうサービスだよね、いい商品。つまり、いい価値を作るっていうのが僕は一番大事なポイントなんじゃないかなと思っていて。

僕らも最初はまったくお金がなかったから。本当はいろんな人がたくさん受けられるようにしたいんだけど、お金がないからしょうがない。でも、1人でもそれで人生が変わる子がいるならやろうと思って、最初はお金をもらってスタートしてるんだよね。

少しずつ事業が大きくなってくると、外部からお金を入れてくれたりとかいろんな企業が提携してくれたりとかして、そうすると無料でもっとたくさんできたりとかWeb上の仕組み作れたりとか、いろんなパワーが持てるんだ。

だから、まず絶対に自分だったら、3000円でも5000円でもいい、1000円でもいい。高校生・中学生が、次にまた(お金を)払ってでも来たくなるものを作るっていうのが大事なのかなと思います。

池谷:スペシャリスト、一番キャリアが長い長谷川さんいかがですか?

長谷川:僕らの場合は戦略的に考えていこうと思っていて、ビジョンを実現するっていうのはもうマストなんですね。教育なら教育をしっかり変えていく。根本的に改革するんだっていうのは絶対なんですよ。

その手段として、ときにビジネスであり、政治であり、ときによくわからない活動だっていいし。この結果を絶対に成し遂げたいっていうのが強いんですね。

大きなことを実際に実現していくためには、僕はすごく戦略が大事だなと思っていて。基本の戦略の王道は、勝てる領域で勝ちを積み重ねて戦力値を高めていって、より難易度が高いことに挑んでいくっていう考え方で、ロールプレイングゲームとかと一緒なんですね。

「最初からラスボスいかないよ」みたいな、最初に弱い敵にだんだん勝って、アイテムとか自分の戦力値を増やしていって、戦力が上がったら次の難易度が高い領域に広げていって、最終的には大きなインパクトが出せるようにだんだんやっていくと。

そういうような形で、戦略的にどうビジョンを実現するのかというのでバランスとっている感じですね。僕はちょっとロールプレイングはやりませんけど(笑)。

池谷:安部さんどうですか?

650人のボランティアを動かしていた

安部敏樹氏(以下、安部):教育という文脈のみに限るんであれば、「ヒト・モノ・カネ」って本当にそんなにいるのかと、僕は思っていて。だって教育にモノはいらなくないですか? 紙と鉛筆があればいいだけでしょう。

大事なことって多分「ヒト・モノ・カネ」において、お金もなんでいるのかって、人を動かすためだよね。ってことは、基本的には、ちゃんと人が動いている状態っていうのが一番大事じゃないですか? なので、「ヒト・モノ・カネ」みたいなことをやるんじゃなくて、まずやっぱりいい人集めて、ちゃんと人が動いて、それで教育的な価値をつけましょうと。

価値がついてくると、今度お金がついてきますよね。そのお金を使って、もう少し人を増やせますよねという話なので。先にあるのは、やっぱり「ヒト」のところかなとすごく思います。非常に難しいですよ。

池谷:人を雇うのって金かかるじゃないですか? 人は無料では働かないから。

安部:僕ら、もともと無料からスタートしたんですよ。650人のボランティアがいて。

池谷:完全にブラック企業じゃないですか(笑)。

水野:すごいうまくやってるんですよ、多分(笑)。

安部:ブラックじゃないですよ!(笑) そもそも、たとえば皆さんFacebook使いますか? LINE使いますか? LINE使ってて、LINEで働いてる感じしないでしょ? でも、ユーザーだから、ある意味君らはそのプロモーションを助けているわけですよ。「ユーザー」と「社員」とか、本当はグラデーションが微妙なラインなんですね。

僕らはもともと学校、大学で始まって、ボランティアのスタッフだけでずーっと非営利で動かしてました。本当にお金なんて1円も動かさなかったけど、650人動いてたわけですね。今は、例えば学校さんが心配するからとか、あるいは企業さんが心配するから、お金を出して。長いキャリアとして見てもらいたいから、お金を払ってるけれども。

まずカネがなきゃ、みたいな話ってよくこういう所に来ると出てくるんだけど、本当にそうなのかな? そんなにお金もらわなくても、人が動きたいものって、本当に皆さん作れてるんですか? という話があって。

もちろん、お金は大事です。後々絶対必要になってくるんだけれども、まずは価値あるものを作っていって、人が動くような状態を作るっていうほうが、僕は意味があるんじゃないかなと思います。

教育はビジョンを失ったら終わり

池谷:この問題っていうのは、なかなかQAだけでは理解するの難しくって、ぜひ、一人ひとりとどっぷり話されるのがいいかなと思っていて。1つ言えるのは、皆さん非常にバランスがいいということだと思います。

やっぱり、教育ってビジョンを失ったら終わりなんですよ。クズ以下になってしまうんですね。だからビジョンもすごく重要で、ちゃんとそのストーリーに合ったマネタイズもしていかなきゃならないし、あと安部さんが言ったのは完全に工夫ですよ。僕からするとえらい賢いやり方でうまく回されてるなって思うんですけど。

そういういろいろなノウハウがあったりして。でもそうじゃないと本当続けられないですよ。なので、エデュケーションでやってて、結構潰れてる会社ってありますよね?

水野:池谷さんなんか、本当に資金調達もされてるじゃないですか? あれって僕的には、教育業界にベンチャーキャピタルのお金を10億円持って来てくれてる、っていうイメージなんだよね。

その10億円があると、また新しい子供たちで可能性が広がる子が増えるじゃん? だから、みんなでそこに持って来れるようないい会社がたくさんできれば、教育の全体の予算って増えるんだよね。

そういうビジネス感覚みたいなところは、超、大先輩なんですけど、すごいなと思っているんです。その辺どうなんですかね?

池谷:これ、ちょっと嫌な奴に思うかもしれないですけど、僕の観点で10億って……もちろんうちに無いですよ。見たことも触ったこともないですけど、小さいか大きいかって言われると、僕からすると大した金額じゃないと思うんですよ。市場に投下されてる金額として。

確かにエデュケーションやってて、「10億円とかよく集めましたね」って言われるんですけど、どんだけ日本って金余ってると思ってるんだ、みたいな。よく言うじゃないですか? 「日本人の貯金残高が数兆円あります」みたいな、国家予算支えられるじゃないかって話。動いてないお金っていっぱいあるわけですよ。

ただ、我々がやっている行為って僕はすべてが尊いと思っていて。チャンスがありますよ。この4社全部がうまくいくかどうかってまだわからないですけど、僕はすべてが尊いから全部が資金調達して、もっともっとこれが倍になってもいいと思ってるんですよ。

資金調達したときに話したのもそこが結構大きくって。変わらなきゃいけないっていうことは、教育を変えなきゃダメなんですよ。ということは、やっぱりそのためには人も必要だし、お金もどうしても必要だよねと。

もちろん、工夫してなるべくお金かからないようにするとか、それはそうなんだけれども。もっともっと資金が入ってきて、こういう会社が10社20社、100社あって、我々が競い合うくらいになったほうがいいんですけど、あんまりそういう環境ってないじゃないですか?

水野:そうですね、それはやっぱり作れるといいですよね。アメリカだと額も10倍とかだし、社数も多いし。そういった中で、それでもエデュテック業界って、まだまだうまくいってるっていうとこがないから、すごいチャンスだと、逆に僕は思うというか。

池谷:でもおかげさまで風潮が変わってきて、僕らは投資を受けられるようになったんですよね。うちは小林雅さんのインフィニティ・ベンチャーズからも投資を受けてるんですけど、非常に目線が高いですよ。投資してリターンを得るので、もちろんだけれども、決してやっぱり同じ目線で見てないです。

例えばゲーム業界であるとか、もっと垂直的な早くいく事業とは区別して投資いただいたりしますし、だんだん社会的意義とかも感じていただけるようになって、投資家たちも振り向くようになったというのが、結構大きいかなと思っていて。

水野:そうですよね。僕も株主との契約書のところに、「2023年までに、中高生の事業以外やりません」って契約書に入れてもらったんですね。そのくらい、ここだけは曲げられませんって。結構すごくないですか? でも、そういう投資家が出てきてるっていう。

安部:僕、それすばらしいなと思っていて。基本的に教育系で出てきてる会社さんとか、アクションしてる学生さんも多いよね。教育系ってイメージつきやすいから。

そういうのが潰れるときはどうなるかっていうと、出したビジョンと事業がずれてくんですよ。そうすると、やってる奴が、本当にこの事業やっててこのビジョン達成できるの? と、だんだん自分たちも疑ってしまって倒れていくんですね。

だから、そこらへんの部分、「ビジョンと事業をしっかり、絶対一貫性を持ってやります」っていうアナウンスを先にしといたのは、すごくいいことだなと思います。

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