2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
テーマ「グローバル化と税 国境を越えて行動する企業と個人は、国家の税体系の外を行く」について(全1記事)
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堀潤氏(以下、堀):このコーナーは専門分野に長けた論客の皆様に独自の視点で今、知るべきニュースを角度持って思う存分お話いただきます。
脊山麻理子氏(以下、脊山):改めてゲストをご紹介します。矢野経済研究所代表取締役社長の水越孝さんです。お願いします。
水越孝氏(以下、水越):よろしくお願いします。
脊山:そして、著述家の北条かやさんです。お願いします。
北条かや氏(以下、北条かや):よろしくお願いします。
堀:先ほど、ツェッペリンの話が出たり、ダリの話が出て。水越さん、なんと社会人一発目の就職先は、美術系の出版社!
水越:はい、美術書の編集者でした。
堀:そうですかぁ! どのようにアートから経済に至ったのかってのも気になりますけれども!
そんな水越さんから、テーマの発表をお願い致します。
水越:はい。今日は「グローバリゼーションと税」というテーマでお話をしたいと思っています。
(テーマ「グローバル化と税 国境を越えて行動する企業と個人は、国家の税体系の外を行く」について)
脊山:大手電機メーカーのシャープが大阪国税局の税務調査を受け、2014年3月期までの3年間で約103億円の申告漏れを指摘されたことがわかりました。
堀:昨日、少しお伝えしたんですが。このシャープの問題はどう捉えればいいのかということなんですけど。
申告漏れのうち12億円余りは所得隠しと認定。シャープが中国などアジアの子会社を支援するため、商品を値引きして卸して、その結果本社の売上を少なく見せかけていたというのが当局側の判断でした。
水越:今日はシャープの申告漏れにフォーカスするのではなく、グローバル企業の活動を国家と税金の問題として考えてみたいと思います。
堀:中小企業を含めて、多くの日本企業が海外に出て行ってますからね。
水越:はい、2013年度時点で日本企業の海外現地法人は23,000社を越えています。そして、このフリップを見てお分かりになるように海外の現地法人と日本国内の企業との取引は、すごく少ないんですね。今や現地で調達して、現地で生産して、現地で販売するのが主流です。
このように、企業は事業活動全体をグローバルにとらえ、最適な生産・販売体制を作っています。「最適」というのはもっとも利益が出るようにということです。
これを税金という視点から考えてみたいと思います。まず、国内の企業との取引が減っていくということは、国内企業に対する課税機会が減るということですね。
堀:そうですね。
水越:海外への拠点シフトが進めば進むほど、国内で税金をとる機会が減ります。これが1点目です。
水越:2点目。23,000社を越える海外現地法人の売上は242兆円を越えています。そして、純利益の総額は7.5兆円に達します。このうち、内部留保が2.8兆円、これは海外法人の中に留まるお金ですね。それから現地に再投資される設備投資が4.6兆円です。
また、日系企業は550万人にもおよぶ現地の人を雇用しているわけですけども、この方々の給与にかかる所得税も当然日本の税収にはなりません。
日本の親会社に入ってくるのは、ライセンス料とか配当金です。
堀:そうなんですよねぇ。ここですよねぇ。
水越:これ、2013年度で3.2兆円、昨年は4兆円を越えていると言われています。ただ、外国子会社配当益不算入という税制度があって、ここにはほとんど課税されません。
堀:そうなんですか! 海外から日本の本社に配当金支払っても課税されないんですか?
水越:はい、海外現地法人が稼いだ利益はその国の税制度に従って税金を納めます。日本で課税しないのは二重課税を避けるという国際的なルールにもとづくものなんです。
堀:なるほど。
水越:国内の税収機会が減る、そして、配当もほとんど課税されない。
水越:そして、もう1つ……。
堀:皆さん、大丈夫ですか、ついていってますか? 要は、今までは国内のいろんな関係会社や下請け会社から部品を仕入れて、国内で製品を作って、それを海外に輸出していた時代から、現地調達、現地生産、現地販売へ変わってきている。つまり、利益は現地で上がりますよねと。
そして、日本の本社は連結決算ベースで売上や利益が大きくなるけど、現地からの配当金は現地で税金を納めているので、国内では非課税という話。
水越:もう1つ。そもそも輸出には消費税がかからない。
堀:そうですね。戻ってくるんですよね。
水越:これは名古屋国税局 豊田税務署の平成25年度の消費税の納税額です。個人事業主のほうは還付より納税額の方が多い。税務署は税金を徴収する機関ですから当然「黒字」なわけですね。ところが、法人はどうかというと、1,164億円の支払い超過になっている。
これはなぜかというと、税務署の名前が示す通り、管轄エリアにトヨタの本社があるためです。トヨタは、日本国内で14兆円くらいの売上を立てていますが、その内の6兆円が輸出です。この6兆円のクルマをつくるための原材料購入に際して支払った消費税が還付されたということです。
トヨタは、グループ全体で27兆円くらいの事業活動を世界でやっているわけですけれども、その大半が日本にとっては課税対象外になっているというようなことですね。
堀:大企業はね、消費税が戻ってくるじゃないかっていう、そういう声はありましたけど。どっかでは払っているんですよね。
水越:そう、余分に払っていた税金が還付されるということ。別に、儲けているわけではありません。
ただ、こちらは少々違う意味を含んでいます。
2年前、スターバックスの節税がイギリスで大きな問題に発展しました。これはスタバを例にグローバル企業の複雑な節税方法を単純化した絵です。ちょっと、ヘンな絵ですがこれを眺めながら聞いてください。
オランダというのは、ライセンス料に対する法人課税が優遇されています。そこで、米国の本社はこの商標を……今日は上手く描けたかなと思うんですけど(笑)。
(スタジオ笑)
水越:まず商標をオランダの欧州本社に預けておくわけです。それから、スイスは法人税率が低いので、ここに豆をローストする子会社を作る。イギリスは一大消費地です。そして、税率が高いことで有名です。この取引全体で節税するためにはイギリスの販売子会社に利益が出ないようにするわけです。
つまり、スイスの子会社から豆を高く売る。商標の利用料を割高に設定する。こうすることでイギリス法人の利益を下げれば、高い税率でイギリスに納税しなくて済む。全体として大きな節税になるんですね。
堀:うわぁ、グローバル企業ってのは、すごいことやりますね。
水越:さきほどのシャープは海外の子会社に対して、本来の値段よりも下げたと言っているわけですね。ニュースでは、その理由を「海外市場の価格競争が厳しくなってきたことに対する措置」と説明していましたが、卸値を下げたということは、本社の所得が減る一方、子会社のほうに利益が出るということです。
その利益が本社に還流されても外国配当益不算入で課税されない、もちろん、税制というのは大変複雑なのです。こんな単純な話ではないと思いますが、大事なことは一国内の事業活動だけを見ていてもグローバル企業の実態は分からないということです。
堀:こういう、いわゆる多国籍企業のグローバルな節税のあり方っていうのは、G20などでも取り上げられていますね。
水越:はい、企業内取引価格の問題を含め、重要な議題になっています。いずれにせよ企業はすでに一国家の税の枠組みの外側へ出ていってしまっています。そして、個人、とりわけ、富裕層の動きも国家に収まらなくなりつつあります。
日本はもともと先進国の中でも相続税率が高い。すると海外へ資産移転という流れが出てくる。これを何とか押さえようと、この7月1日から富裕層の海外への資産持ち出しに対して出国税をかけるようになった。
ところが、国とすれば、企業や富裕層には出ていってほしくないから、企業には法人税の減税をやる。富裕層には出国税や相続税の課税範囲の拡大といった課税強化策を講じる一方で、子や孫への贈与における非課税枠を広げる、といったオプションが用意される。
堀:一見、世代間の所得移転を促すような施策ですが、富裕層への優遇策ともみえる……。
水越:そうすると、最終的には広く安定して課税できる国内の無防備な人たちがターゲットになってくる。10月1日からは国境を越えて行う電子商取引にも消費税が課せられますし、平成29年にはもう一段の消費増税も控えています。
堀:うわぁ、そうやって考えると、私たちはこういう知識を持っておかないと、取られるばっかりで、格差もぜんぜん縮まらない。国内だけ見てればよかったものが、企業や個人の海外における活動も見過ごしてはいけないということですね。
水越:税は国家のまさに存立基盤ですから、国際的なルールで統一するのは難しい。一方で、国家の枠内に留まらない企業や個人がいる。すると国内に残された側には、やがて不満がたまってくる、そして、不満をどう逸らすか、という問題になる。ナショナリズムの高揚はその1つでしょう。
いつの時代も、どこの国も、エスタブリッシュメント(権力をもつ階級や組織)にとって、これがもっとも安易な策ですね。
堀:そうですよねぇ。グローバル経済の時代における税金の在り方は各国共通の問題です。ただ、どこから手をつければいいのやらって話ですよね。
水越:はい、非常に難しいですね。
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