2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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岩瀬:ありがとうございます。2つお伺いしたいなと思いまして、1つはさっきのりんちゃんと一緒なんですけれど、パーソナルヒストリーで、松田さん、体育の先生だったんですよね?
松田:そうです。
岩瀬:体育の先生でハーバード大学に留学して、こういうのを立ち上げちゃったっていうので、なかなか、そういう方っていないと思うんですけど。例えばご両親の影響とか含めて、振り返ってみて、そこまでの歩みだとか、なんで自分、こういう風になったのかっていう、そういう話を少ししていただいていいですか?
松田:2つあるなと思っていて、1つが、そもそも自分が教育に携わろうと思った原体験です。中学校時代にいじめられてたんですよ。今は180cmぐらいあるんですが、当時は150cmぐらいしかなくて、毎休み時間、柔道部の同級生が来て、柔道技をかけてくるんです。
実は自分、片目がすごく悪かったり、首がまっすぐだったりするんですけれども、これも柔道部の同級生の指が目に入ったりだとか、バックドロップを喰らって首がムチ打ち状態になってしまったりだとか、今でも後遺症があるんですけれども。そういったなかで一番つらかったのが、同級生は見て笑ってるだけだし、なんか救ってくれる大人がいないっていうのは、すごく嫌でしたね。
で、両親にも言えないじゃないですか。「自分、学校でいじめられてるんです」とかって言えなくて、そんななかで自分と向き合ってくれた恩師との出会いが、やっぱり自分の人生変えてくんですね。どうすれば強くなれるのかっていうのを、半歩先を照らしながら一緒に考えてくれた松野先生っていう存在が自分にとって大きくて、それに恩返しをしたいって思いで教師になったんです。
でも教師になってみると、必ずしもみんな子どもに思いを持って接しているわけではない。思いを持ってる先生は多いんですが、いつの間にか、その思いが消えてってしまっている、というのはすごく残念で。どうすれば、子どもを中心に考える教員文化であり、そしてその文化で一生懸命働ける環境を作れるような社会を創れるかっていうのは、その頃から考えるようになったっていうのはあります。
もう1つは、なぜ困難を抱えている子どもたちに対してかっていうのは、やっぱり自分自身がそういった状況であったと共に、考えてみたら、自分の両親は一人親家庭で育ってるんですね、両方とも。ただ自分に、何不自由ない教育をしてくれたっていうのは、今振り返れば、1つ大きなところがあるなと、私思っていて。
で、両親が言うのは教育なんですよ。やっぱり自分を変えてくれた恩師がいただとか、学校の先生がすごく真摯に教えてくれただとか。だからこう、人とか、教育の枠組みにおいて、本当に誰かの人生変えられるんだっていうのは、身近な事例として感じていて、だからこそ可能性という部分は今でも持っていて、このモデルは大きくしていきたいと思っていますし、というところですかね。
岩瀬:ありがとうございます。もう1つですね、さっきのプレゼンの中で、親の年収と学力のグラフ、あったじゃないですか。それちょっともう1回出していただいていいですか。よく東大生の親は金持ちだって話は聞くんですけど、あのグラフ見て、ここまで如実に、やはりその親の年収と学力って出るんだっていうのが結構ショッキングで。
岩瀬:日本の中でもこんなに身近なところにこんな格差があるんだっていうのは、なんとなくは知ってたんですけど、結構ショックで。この辺って現場とか行ってみてどういう感じなんですか?
松田:すごくやっぱり深刻な状況で、何よりも深刻なのは、この問題があまり知られていないからこそ、課題解決が全然進まないんですね。アメリカと違って、日本がひとつ顕著なのが、アメリカの場合はスラム街とか、ニューオリンズとか(にかたまっていて)わかりやすいんですが、日本の場合はどこの学校にもいる、散らばっている。
で、あともう1つ被差別部落の問題の地域であったりとかに先生を送っているんですけれども、隠したがる習性がある。なので課題が表に出ないっていうのは、課題解決が進まない要因の1つなんだろうなっていうのは思っていて。
その子どもたちの状況を少しお話させていただくと、例えば、今私たちが先生を送っている学校の地域の近くにシェルターがあるんですね。シェルターというのは、どういったシェルターかというと、ドメスティック・バイオレンスから逃げてくる、ひとり親家庭が、まあ、身を匿う場所なんですけれども。親が若くして子どもを産んでいるので、全然親が帰ってこないと。遊びに出ていて、まだ25、6なんで。
じゃあ子どもたち、その小学生は誰と一緒につるむかというと、身近な中学生とか、高校生とつるむようになるんですね。いいロールモデルであればいいんですけど、必ずしもそうではないと。そういった子どもたちが、喫煙であったり、窃盗を覚えてしまう。
で、それがごく一部ではなくて、やっぱりそういうところには人が集まるというか、引っ越せないので。ここはちょっと問題だと思えば、経済的な余裕があれば、どんどん引っ越してくんですけども、必ずしもそうではなくて、留まってしまう。そういう地域的な色合いが出てしまう。
大人たちもどういった状況かというと、どうせできないって目で見てしまっているんです。子どもの可能性を全然信じてあげない。問題さえ起こしてくれなければいい。父親も母親も「お前、学校でタバコ吸わんでどうすんねん」とか、「窓ガラス何のためにあるか知っとっか、割るためだよ」とかってことを平気で言うわけですよ。
なので、こういった状況にいる子どもたちって、恐らく、また同じように自分の子どもにも接してしまうんだろうし、そういったところで、現場にいると、非常に課題の緊急性の高さを感じます。
これが本当にごく一部の1人、2人とかではなくて、今日本だと、だいたい6人に1人の子どもが貧困状態にあるという風に言われているので、それが数十万人いるってことは、すごく深刻だなと感じていますね。
岩瀬:ありがとうございます。またちょっと追って、色々お伺いできればと思います。
じゃあ、最後にHASUNAの代表取締役兼チーフデザイナーの白木さんということで。白木さんともわりと最近親しくさせていただいてるんですけど、みんなそうなんですけど、ダボスの若手グループの一員で、今年1月一緒にダボスなんかも行ったんですが。
非常に落ち着いた佇まいに隠された、ものすごい情熱と突破力が素晴らしいなと思っているので、HASUNAの話、ぜひ聞かせてください。
白木夏子(以下、白木):ありがとうございます。皆さん、はじめまして。株式会社HASUNAの代表取締役兼チーフデザイナーの白木夏子と申します。私の会社、株式会社HASUNAでは、ジュエリーの製作と販売をしています。ジュエリーと申し上げても、エシカルジュエリーというものを作っておりまして、エシカル、つまり倫理的な、道徳的なという意味を持ったジュエリーなんですね。
白木:見た目的にはこのように一般的なジュエリーと変わらないものなんですけれども、先ほどのようにネックレスやブレスレット、リングですとか、結婚指輪、婚約指輪なんかも作っています。
白木:この素材調達のところで、発展途上国の、いわゆる本当に貧困にあえいでいるエリアの職人さんですとか、あるいは鉱山労働者の方から素材を仕入れて、そしてより多く現地に還元できる仕組みを作りながら、ジュエリーの製作販売をしているんですね。
この会社を2009年の4月に立ち上げて、当初はまったく取引先がなくて、もう最初からつまずいてばっかりのビジネスだったんですけれども。ジュエリーの世界って想像してもらうと、おわかりになるかと思うんですけれども、ジュエリーメーカーと鉱山の間ってブラックボックス化されているんです。
例えばたくさんの宝石屋さんが並ぶ日本の御徒町で、そこで買える宝石が、ルビーとかサファイアとかダイアモンドとか、そういうのがどこの誰が持ってきて、どういう鉱山で誰が採掘しているかとか、まったくわからなくなってしまっている世界なんですね。
それが業界の中では、まったく誰も気にしないでまかり通ってしまっている。ちょっと気になったとしても、まあ、宝石はそういうものだからということで、無視されてしまっているような状態があるんですね。
でも今この時代って、スーパーなんかに行くと10円とか20円とかの野菜、きゅうりとか、にんじんとかの安い野菜でも生産者の顔が見える形で販売されているのに、数十万円、数百万円するような宝石が、どうして生産者の顔が見えないんだろうと。そういうのからすごく疑問があったりしたんですね。
元々なぜこのビジネスを立ち上げたかというと、私今31歳なんですけれども、私が学生時代、21歳の時に貧困問題の勉強をしてたんですね。ロンドン大学っていうところに行ってたんですけれども、そこで大学の授業を受けて、経済格差とか、貧困問題に関して勉強を進めるうちに、もっと現地の状況が知りたいということで、単身南インドのチェンナイという場所の近くにある、アウトカーストの村に住み込んだんですね。
2ヵ月間アウトカーストの村で、気温も45度を超えるような暑い時期だったんですけれども、そこで1人過ごして、30ヵ所ぐらいの村を回ったんです。アウトカーストの村っていうのは、本当に想像を絶するような世界が広がっていて、女の子たちが普通に日常的にレイプされていたりだとか、賃金がまったく支払われないなかで労働を強いられていたりですとか、子どもたちも学校に行けないですとか。
日本の生活からすると、まったく違うような世界が広がっていて、すごく衝撃を受けたんですね。それで、とある村に行った時に、鉱山労働者の人たちが住んでいるところに行ったんです。それまでは発展途上国の鉱山なんて、もちろん行ったこともなければ、想像したこともなかったんです。でもそこで見たものは、5歳とか6歳の本当に小さな子どもが、10kgも20kgもあるような、ものすごく重い石を運んで手から血を流しながらやっていると。
大人たちも、素手素足で鉱山に入って採掘をしている。そしてその採掘をしているものって何かって言ったら、レアメタルであったりだとか、ジュエリーの原材料となってくる宝石類だったりとか、金だったり、大理石だったり。そのレアメタルだったり、ジュエリーの原材料だったりそういったものって、私たちの豊かな生活につながっているものなんですよね。
そのなかで雲母(うんも)というものが採掘されている鉱山にも行ったんです。雲母って何に使われているかって言ったら、カメラのレンズだったりとか、化粧品だったりとか、私たちが日常的に使っているものだったんです。今まで生きてきた中で、携帯電話使ったり、カメラ使ったり、ジュエリーを身につけたりしても、その現地にいる人たちを想像することなんて一度もなかったですし、こんな世界が広がってるなんて本当に信じられなかった。
色々とそのあと調べていったら、この世の中で採掘されている金の約12%がそういった小規模な鉱山で採掘されていて、小規模な鉱山では子どもが働いていたりですとか、水銀が鉱山で使われていて、化学物質によって困っている人たちがたくさん、健康被害を受けている人がたくさんいるっていうことを知って、これはもうなんとかしなきゃいけないと。
こうした問題に対して動きを見せているようなジュエリーの会社が、日本にはまったくなかったんですね。もうみんなお金儲けをしているというか、やれマーケティングとか、ブランディングとか頑張ってすごいお金をつぎ込んで、物を作って。
どんどん物を作って、ゴミのようにたくさん作って、ゴミのようにって言ったらあれなんですけれども、本当にたくさんのモノづくりをする中で、まったく裏側の人たちのことを考えないっていうような状態になってしまっていたんですね。
これではいけないという風に思って、それで私は2009年の4月に、この株式会社HASUNAを設立して、現地とやりとりをしてジュエリー作りを行いたい、そして貧困問題にあえいでいるような地域の鉱山労働者の方たち、職人の方たちにより多くのお金が還元できるような仕組みを作りたいなと思って、やり始めたんですね。
当初は取引先を開拓するのも本当に大変で、私、昔NPOでインターンをしていたりですとか、あとは国連でもインターンをしていたりもしてたんですけれども、そうしたところで働いていた時の友人、知人のツテをたどって、現地の鉱山労働者の方ですとか、職人さんにどんどんアタックしていって。
そして今、アフリカはルアンダ、ボツワナ、そしてアジアの地域に行くとパキスタンですとか、そしてミクロネシア、あとは南米のほうに行きますと、コロンビアやペルーや、ボリビアと取引を行っているんですね。
白木:私も現地に行くんですが、ちょっと現地の例をお見せしたいと思います。今度の6月にパキスタンの石を使ったコレクションが発表になるんですね。こちら、パキスタンの首都のイスラマバードから車で約16時間掛けて行くフンザ渓谷という場所で、「風の谷のナウシカ」の舞台となったと言われている場所なんです。
この場所、7千メートル級の山や、8千メートル級の山もあって、電気もガスも水もないような村がたくさんあったりですとか、もう数百年前からまったく変わっていない生活様式を送っている人たちがたくさん住んでいるわけなんですね。少数民族の方ですとかたくさんいらっしゃって。白木:こんなようなレンガ造りのお家に住んでいるんですけれども、屋根の上にオレンジ色のものが見えると思うんですが、こちらがアプリコットなんですけど、こうやって乾燥させて売ったりとかして生活をしているわけなんですね。
白木:ここに住んでいる方たちが、自分たちの村の鉱山に行って、水晶やルビーやサファイアなんかを採掘しているわけなんです。これは私が現地の鉱山に行って採掘しているところを、見せてもらったりしているところです。電気もガスも水もないところなので、ハンドドリルで削り出していくんですね。
で、ここの少数民族の方たちが採掘した水晶だとか、ルビーですとか、サファイア。パキスタン国内にこのような鉱山が無数にあるんですが、今このパキスタン国内で採掘されているこうした宝石の90%以上が、隣国の中国やアフガニスタンに密輸されてしまっているということが起こっているんですね。
この少数民族の方たちが、中国ですとか、アフガニスタンから来たバイヤーに買い叩かれて、それが密輸されて、まったく別の国の物として販売をされてしまっているということがありまして、現地には結局お金が残らずに、村は貧困状態に陥ってしまっているという現状があるわけなんです。これをなんとか解決しようと、現地のNPOが立ち上がっているわけなんです。ここで採掘をした水晶を買い取って、
白木:この村に住んでいる女性たちが削って。これは研磨機なんですが、宝石の研磨をする女性たちです。
白木:彼女らが削った宝石を使って美しいジュエリーを作る。パキスタンのイスラムの女性たちって本当に働く機会もなくて、すごく差別をされて、日本みたいにどこでもバイトができるような、そういう社会ではなくて。
本当に男女差別が激しいエリアなので、仕事ができるということ自体がまったくないエリアなんですけれども、ここでジュエリーの職人として自立をして、そして一家を支えている、一家5人も、6人もの子どもを支えている女性が、たくさん働いています。こうしてジュエリーとなって販売をしているわけなんです。
今、南青山に本店があって、昨年名古屋栄にもオープンして、今年3月には新宿の伊勢丹本店の1階にも入ることができて。通常だと、なかなかソーシャルベンチャーって、こうして展開していくことってすごく難しいんですけれども、2年目からちゃんと黒字化していて、なんとか商売として回すことができています。
白木:今後の展開としては、やはり世界中の職人やアーティストですとか、宝石の生産者たちが笑顔でいられる環境作りや、自然に配慮した工程を取り入れたい。このすべてを含めて、私たちはジュエリーデザインだと考えているんですね。
つまり、この石とこの石を組み合わせたらこんなに美しいジュエリーができるとか、そういう見た目の美しさももちろん重要なんですけれども、その裏で何が起こっていて、どういう人たちが関与していて、どこから採掘されているのかっていうことを、そこの裏側までもすべてデザインしていくことが、私は本当のジュエリーデザインだと思っているので。
これからもそこに、ずっとずっとこだわり続けて、一流のジュエリーを作っていきたいと思っていて、そして近い将来世界に出て、トップブランドの仲間入りをしていきたいなと思っているところです。
岩瀬:ありがとうございました。伺いたいんですが、開発経済とかを専攻して勉強する人はすごく多いと思うし、そこで見た色々な不条理なものに、色んな事を感じる人も多いと思うんですけども、そこからアウトカーストの村に2ヵ月住み込む人ってなかなかいなくて。
ましてや、そこからさらに会社を作って現地で雇用して、あるいは雇用を助けてやる人って、なかなかいないと思うんですけど、白木さんを突き動かしている原動力って何で、それって、振り返ってみると、どうやって養われたと思いますか?
白木:私なんかこう小さい頃から、多分本質を探求するっていうことを、両親から教えられていたかなっていうことを思っていて。母親がファッションデザイナーなんですけど、本当に自分の気に入っている洋服しか着ないっていうスタンスで。
例えば、母とショッピングに出掛けた時に気に入った洋服がなかったら、布屋さんに2人で行って、自分の好きな布を買って、そこからミシンで作るっていう。妥協で買うとかじゃなくて、自分の徹底的に好きなものを追求していくっていうことで、そういう家庭環境だったんですね。
そこからやっぱり本質を見たいと思って大学で勉強していても、なんとなくこの開発経済の理論とかいうものを先生から教えられても、なんか雲をつかむような話で現実感が全然なくて。じゃあもう現地に行って私には何ができるのかっていうことを徹底的に追求したかったんですね。なので、なぜ、なぜをずっと繰り返していった結果、こういう形になっていきました。
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