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社会を変える事業を作る(全4記事)

社会問題の解決にITは生かせるか--起業家らが語る高齢者・中高生へのアプローチ

IVS 2015 Springの本セッションを前に行われた特別インタビューに、ライフイズテック・水野雄介氏、リディラバ・安部敏樹氏が登壇。たからのやま代表・奥田浩美氏をモデレーターに迎えて「社会を変える事業を作る」をテーマに意見を交わしました。本パートでは、それぞれの会社の主な事業内容と、社会問題の解決に向けた具体的なアプローチ方法について語られました。

IVS特別番組「社会を変える事業を作る」

奥田浩美氏(以下、奥田):IVS特別番組を始めさせていただきます。今回のテーマは、「社会を変える事業を作る」ということで、お二人の方をお呼びしています。

ライフイズテックの水野さんと、Ridiloverの安部さんです。よろしくお願いします。では、それぞれ詳しい事業内容・自己紹介含めてお話しいただけますか? まずは水野さんから。

水野雄介氏(以下、水野):僕らはライフイズテックという、中学生と高校生向けのITの教育をやっています。大学と連携をして、夏休みとかを中心に子供たちがiPhoneのアプリつくったりとか、最近だったらメディアート、プロジェクションマッピングみたいなのが流行っていて、そういうメディアートをやったりと、最先端のITを中学生、高校生が学ぼうというようなことを事業としてやっています。

奥田:安部さん、お願いします。

安部敏樹氏(以下、安部):Ridiloverという、一般社団法人と会社があるんですけど、いろんな社会問題あるじゃないですか? そういったいろんな社会問題の現場に旅行商品をつくるというプラットフォームをやっています。

現地のNPOさんとか、社会的な事業をやっていらっしゃる企業さんとか、個人の方と契約を結んで、そこの社会問題の現場を学ぶツアーをつくるという仕事です。一応旅行業を持っているので、旅行会社として全部のツアーをオーガナイズして、現場に人を送るという仕事が基本です。

奥田:わかりました。最後に私の自己紹介をさせてください。いつもウィズグループの奥田ですというふうに自己紹介をしてるんですが、今回このセッションに関しては、株式会社たからのやま代表の奥田ということで参加させていただいています。

株式会社たからのやまというのは、日本全国いろんな場所の社会課題を「たからのやまに」ということで。

もともとITの製品って、若い人であるとか、都会の人を中心につくられているのを、それぞれの地方の問題であるとか、高齢者がどう使いやすいものをつくるか、社会の課題を解決するためにITがどう使えるのかということで、そういった人たちと共同製品開発をするという事業を3年前に立ち上げて、今、日本全国飛び回っています。これが私の今日の自己紹介です。

安部:なるほど。

社会問題は個人の問題意識に端を発する

奥田:ここからは、私が1つひとつ質問をするというより、それぞれの事業に関してお互いぶっちゃけ話というか、今回「社会を変える事業を作る」というと、社会起業家として呼ばれているみたいな部分もあると思うんですが、社会起業家について、まず安部さん何か。

安部:本来事業っていうのは、常に何かしらの社会的なニーズに応えているので、全ての事業が社会的であるはずなんです。ただ実際のところ、これまであまり目を向けられていなかったとか、事業性がないように思われていた分野に関していうと、特に社会性が高く、かつ市場とくっつかないイメージがあったと。

そこに対して、新しいテクノロジーだとか、アイデアを通して入っていっている人たちを社会的な事業家と呼んでいるのじゃないのかなと僕は思っていますけど。

奥田:先ほどちょっと簡単な自己紹介だったので、社会問題に触れさせるツアーをつくるというところをもうちょっと詳しく教えてもらえますか?

安部:そもそも社会起業家とかみんな言うわけですよ。特に今の大学とか行くと。

奥田:何か講義も持っていますね。

安部:東大で「ソーシャルビジネスのためのチームビルディング」という講義やったりしてますし、僕自身大学生のときからスタートした事業なので、大学生とも接点があるんですけど、「社会起業家になりたいです」と言って来る人がとてもふえている。ただそう言う人に突っ込んで、社会問題ってどう定義されているのかと聞くと、ほとんどの人は定義されていないんですね。

「社会問題って何ですか?」という問いに、それをちゃんと定義せぬままにきているというので、ちゃんと定義しましょうと。僕の場合だと、まず「その問題」というのは、必ず常に誰かの個人の問題意識に端を発するので、個人の問題意識をベースにして、その個人の問題意識に対して一定のその社会が支持したもの、「これは問題だね」と支持したものが社会問題だよね、という定義をしていると。

例えば、僕に彼女がいないといったときに、それは僕の個人の問題になってくる。僕の問題意識に端を発しているわけです。これでは多分社会があまり支持してくれないので、社会問題にはならないわけですね。

けど、若者の草食化とか、少子高齢化とか言われると、急に社会問題っぽくなるじゃないですか。内容は一緒なんですよ。現場で起こっているのはモテない男とモテない女がくっつかないみたいな問題が起きているだけなんです。ただ、そこの部分をいかに社会性をもった文脈にそろえるかというのが大事かなという気がします。そこから社会が認める形に問題を昇華させていくということです。

高齢者・中高生それぞれの社会問題

奥田:私よく「3人寄ったら社会課題」というふうに言っているので、個人の問題というのは1人の問題だけれども、3人集まったらそれを社会課題として解決するもので、社会に問えるという形で。

私自身、まず一番最初に育児の問題にぶち当たり、夫の病気の問題にぶち当たり、そして今介護。毎月この宮崎空港に降りるんですけど、それは親の介護で帰っているんです。

だからそういう課題をどうやって解決するかというときに、例えば、ITで見守りとか、コミュニケーションができたらいいなという、1つひとつをITで解決できる方向に持っていくというのを事業にしているので、私は高齢者と一緒に事業を起こしているのですが、水野さんのほうは、中高生。

水野:そうですね。僕らは中学生とか。

奥田:そこでどういう社会をつくっていきたいですか。

水野:もともとは教師をやっていて、開成高校と早稲田高校というところで、高校1年生に物理を教えてたんです。

やっぱりみんな20世紀型というか、学校教育が遅れているというところもあって……でも現場の先生方とかはすごい頑張っていて。そういったなかで、子供たちがもっとやりたいこととか、学びたいものがあるなかで、特にパソコンとかITが好きな子ってすごい……。

奥田:少ない?

水野:いや、最近は多くて。男子校だとすると、大体クラスに45人いたら、昼休みに野球の話している子って45人中5人ぐらいで、野球部が2人ぐらいです。

つまり好きな子は5人で、プレーヤーが2人なんだけど、パソコンとかITの話してる子って10人ぐらいいるんです。けどプレーヤー、つまり作っている人は誰もいない。

みんなパズドラやっているとかYouTube見ているとか、僕が2010年に始めたときは、そういう子たちが、まだオタクって見られがちというか……でもみんなそこに対してすごい誇りを持ってやっているし。でも、みんな褒めてほしいという気持ちがあるから、それを伸ばしてあげられる環境をつくりたいなというところで。しかも今、社会ですごく求められている能力なので。

「ITで新しい価値をつくれる世の中って格好いいよね」と。「新しいものをつくれるって格好いいよね」と。そういう文化・社会をつくれたら、子供たちの可能性ってもっと伸びるんじゃないかなと思っていろんな仕事やってます。

中高生がITの楽しさを学ぶ、キャンププロジェクト

奥田:私は、経産省の未踏プロジェクトの審査委員をやっているんですけれども、国もそういうふうに、「格好いい人たちを出したい」「自分たちも格好よくなりたい」って思っているのに、そこに欠けている部分というのは何だと思いますか? 教育?

水野:教育もそうなんですけど、ちょっと華やかさがない感じかな? というイメージですかね。

奥田:それはすごく感じます。

水野:一般的になっていないというのがちょっと……みんながガシャッとやっているというか、あまり見た目を気にしないじゃないけども、ITやっている子たちに、「どんな人になりたいの?」と聞いたら、みんなやっぱり「ジョブズ」と答えるんです。

バリバリのエンジニアになりたいというのじゃなくて、ジョブズになりたい。ジョブズは超エンジニアじゃないけれども、新しい世の中に商品をつくって、プレゼンテーションをして世界を変えている。だから、そこに憧れを持つみたい。

ジョブズって派手というか、ヒーローじゃないけれども、そういう部分。みんなが「なりたい!」ってわかりやすく思うというところがちょっと足りないのかなと思います。

奥田:そういう課題に向かって、具体的にはどういうことをされてるんですか。

水野:具体的には今、まずキャンプで夏休みと春休みを中心に、京大とか、慶応とか、九州、京都、全国15大学と一緒にやらせていただいていて、子供たちが初めてITを学ぶと。

例えば、iPhoneのアプリつくってみるみたいな感じで、5日間学んでみるみたいなのをやっています。今まで1万人ぐらいの子が来てくれていて、まずITを好きになって、「アプリつくれるんだ」みたいな感じになっています。

その後にスクールとかに来て、次にアプリ。オリジナルアプリをリリースして、社会に還元してみよう。社会に何か自分のプロダクトを出してみようということをやってみて、もっとできる子とかは、アプリ甲子園とかをやったりするので、優勝したりとか。後は実際に起業する甲子園をしたりとか、そういったところまで支援している。

奥田:まずは触れてみようかなということですよね。

水野:そうですね。

社会問題に対する無関心の構造を壊す取り組み

奥田:安部さんは、まずは触れてみようという意味では、旅行を仕立てたという背景はどういうことがありますか。

安部:さっき奥田さんがおっしゃっていた、介護の問題とかがあったと思うんですけど、基本的に社会課題と呼ばれているものは、当事者だけでは解決できないから社会課題なんですよ。

「当事者で解決できるのは当時者の問題で、そうではないからこそ社会問題です」となったときに、非当事者の人たちが、どのようにその社会課題に関わるかというのが大事になってくると。だけど、その非当事者に関わらせる仕組みがないですよね、というのをずっと創業のときから思っていて。

世界中に「自分に関係ない問題を知らなくていいや」という無関心の構造みたいなのがあって、それを壊したいなというのが、創業したときの理由なんです。そういった現場にツアーという、ある種のエンターテインメントでもあり、(社会問題との)関わり方を提供することをしています。

奥田:例えば、どういうところに。

安部:例えば、風俗嬢の労働問題とか、児童養護施設とか。そういうわりとハードなソーシャルイシューもあるわけですね。あるいはホームレスのパトロールをすると。そういうものもやったりしますし。

あとは地域活性化とか、林業とか。体験を伴って、木を切ってみたりしながらわかるというようなこと、比較的エンターテインメントとか、小学校の修学旅行とかにも入っていくようなわりとライトな、楽しみながらやれるものもあります。

いろんなプラットフォームや社会問題を扱っているので、できるだけ中立にできるだけ多くの社会問題を体験してもらいたいと。

大切なのは社会問題を「可視化」すること

奥田:Ridiloverとしては、社会問題に触れさせた先というのは、何か描いているんですか。

安部:例えば、実際に現地に移住しますとか、そこで起業しますという人もいます。ただ、僕が一番大事にしているのは基本「可視化」です。社会問題って多分なくならないんです。

奥田:なくならない。

安部:何でなくならないかというと、人間はずっと問題意識を持ち続けるからです。ということは、常に社会問題というのは見えてくる、出てくるのだけれども、それはなぜかというと、差があるから。

差があると、誰かがそこに問題意識をもって、「これは社会問題だ」と言うのです。一定の人が支持したら社会問題になるんですよ。

ただ、いくつかの分野においては、そもそもそれが可視化すらされていない。ゆえに、当事者が泣き寝入りしているみたいなところが多くて、それを可視化する際、仕組みさえあれば、見えたら自然と税金も投入できるし、社会課題として取り組みましょうとなったりするんですよね。

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