2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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司会:塩沼様、ありがとうございました。それでは引き続きまして、質疑応答に移らせていただきます。モデレーターはグロービス経営大学院学長、堀義人が務めます。堀さん、お願いします。
堀義人氏(以下、堀):塩沼大阿闍梨、大変ありがたいお言葉、ありがとうございます。グロービスではリーダーとして意思決定をする力、能力を養うということで、さまざまなケースを使ってマーケティング、ファイナンス、経営戦略と、ロジカルに考えて意思決定をするということを行ってきました。
一方では、志を持った侍を育成するんだということで、陽明学、あるいは「代表的日本人」、さらには「武士道」を使って、芯となる人間の価値観や生き方を学ぼう、それが重要だということを言ってきました。
まずお伺いしたいのは、徳・徳望ということをおっしゃいましたが、自分の使命や志がわからないという人も結構いる。自分が何のために生きているかということを模索しているんだ、という方が結構いらっしゃいますが、大阿闍梨はそういった方にどのようなお声をおかけしますか?
塩沼亮潤氏(以下、塩沼):三度々々のご飯が食べられて、あまりにも幸せすぎるのでわからないと言っているんじゃないかなとよく言うんですけれども。本当に食うに食えない、明日どうやって食べていこうとなると、そういう考えはなくなるのかなとも思うんですけれども。
私も、奈良と仙台の山のなかにお寺を構えて生きていますと「なぜ生きるのか?」「人はどうせ死ぬのがわかっているのに、どうしてそんなに努力をしなければならないのか?」というようなことを、こういう都会に来ると聞かれることがあります。
「ああ、そうか」と思います。いまの日本ではこういうことに真剣に悩んでいる方たちがいるんだと、都会のなかの目線でふと気づかされることがあるわけですけれど。この日本に生まれてくるということは、いろんな捉え方はありますが、世界で一番幸せな環境だと言われています。三度々々のご飯が食べられるのは、本当に奇跡に近いと思うんです。
山に入って遭難した場合、あるいは山のなかに私も何年といましたけれど、まず何をするかと言うと、食なんですね。どうやってご飯を食べるかということが一番大切になってきます。それが満たされると、人間はいろんなことを、ああもいかないこうもいかない、ああもしたいと言って自分の欲望を満たす、そういう考えにいくと言われていますね。
ですから、環境に感謝して、なるべく不平不満を言わずに、いま自分が縁のあることを精一杯させていただくという気持ちを持っていただいて。「何をしたらいいのかわからない」というのではなくて、いまなすべきことを与えられた環境のなかで精一杯やっていると、1つずつ階段を上っていくように運が開けていくのではなかろうかなと思います。
堀:数年前に私が吉野山に訪問したときに、千日回峰行をやったすごい人がいるんだということを耳にして。そういう方に会ってみたいと強い願望を持っていたら、去年、仙台で開催されたYPOという会でご登壇いただいて。もう全てのスケジュールを蹴って参加して、お話を伺いました。それが縁で、こういう形で親しくさせていただいて、今回も来ていただいたわけです。
質問したいことの2つめが、よく「心が折れる」とか「挫ける」という言葉を使う人がいるんですね。かたや、大阿闍梨は千日間、雨の日も台風の日も、毎日1日48km、高低差千数百メートルを行ってきたと。片手に短刀を持ちながら、もしもできなかった場合には自分で腹を切ると。そういった気概を持ってやってきたわけです。そういった「挫ける」「心が折れる」と言う方には大阿闍梨はどのようなアドバイスをされますか?
塩沼:たぶん私は、追い込まれれば追い込まれるほど強くなってくるので……ちょっと異常なのかもしれないですけど(笑)。みなさんには、本当に心が折れそうになるときにはしょうがないから、100あるうち99がダメでも1だけは前を向いて生きていきたいというような気持ちは残しておいたほうがいいね、と言います。
心の部分は、神様仏様であってもみなさんの心をコントロールできないように、やはり「自分の意志」ですので、1でも持ち続けていると1がやがて2になり、2が4となって、どんどんと強くなってまいります。今日より明日、明日より明後日というふうに向上心を持つことが大切だと思います。
成長には必ず痛みが、どうしてもともないます。勉強でもそうです。勉強しているより遊んだほうが楽です。けれども勉強しないと高まっていかないものもある。技術の習得には必ず何かの痛みがともなう。でもこれはしょうがないんだと。そして、心の根っこの部分に自分の周りの人で1人、誰でもいいから、この人を喜ばせたいという人がいるといいかもしれませんね。
堀:大阿闍梨は、実はG1サミットにもご登壇いただいて、メンバーに対してメッセージも発していただきました。日本をよくしたいという気持ちで集まっているメンバー、リーダーがいる。一方でここにいるみなさんは、自分が世の中を変えていくんだ、創造していくんだと。そのために一生懸命努力をして自分で学費をはたいて学んでいる、という人たちが集まっています。大阿闍梨から、そういったリーダーに対してこういったことを心がけてほしい、あるいはこういったことに対して考えてほしいということがあれば、お願いします。
塩沼:「世の中を変えよう」と思っても、明日とか急にはなかなか変わらないと思います。「なぜ千日回峰行、こんな行をしたんですか?」と言われて、10代のときによく言っていた言葉は「世の中のため人のために、私は精一杯修行をしたい」ということでした。
ある日、そういう言葉をおそらく耳にした師匠が、お茶を飲んでいるときに笑い話で「坊さんなんていうのは、世の中のため人のためということはあんまり言わんほうがええな」と。
「世のため人のためというのは当たり前なんだ。まず自分自身がしっかりと心身ともに徳のある人間に成長すれば、自然と世の中のためになっている。『世のため人のため』という人間に限って、どこかで必ず自分のためになるような動きをしているものだ。だから人の為と書いて『偽り』と書くんじゃ」と。
そういう「世のため人のため」という大切な宝物の言葉は、心の奥底にしまって。そして、いろんな人との調和ですね。「自分だけが」ではなくて。自分自身もしっかりする。そして、しっかりした自分とみなさん、どんな人とでも相和して調和をしていく。この自律と協調性が大切だと思います。
志が強すぎて自我が強くなって孤立する場合がありますので、そこだけは十分に注意をしていただいて。「調和」という言葉を大切にしていただきたいと思います。
堀:会場からご質問があれば、2人だけご質問を受けます。簡潔にお願いしたいと思います。
質問者1:利自と利他について質問をさせていただきたいと思います。「誰かのために」という利他の心のなかに、「どうする」「これをやりたい」「どのようにやりたい」という心があると、それは利自になるのではないかと考えています。
つまり「誰かのためにやる」というのは100%それが全て利他になるのか、それともそのなかに「自分がこうしたい」というものも介在してもよろしいのかというのを質問させていただきたいです。
堀:ほかにもう1つ、質問を受けましょう。
質問者2:四無行というのを調べたときに、生存率が50%という信じられない数字が出てきて。もし死を具体的にイメージしたことがあれば、その先に見えたものは何か。見えた景色があれば教えていただきたいです。
堀:はい。じゃあその2つ、お願いします。
塩沼:まず自利と利他。これはあまり難しく考えずに「どうやったらこの人が喜んでくれるかな」とか「こうしたらこの人が喜ぶか」と考えもしないで、自然の成り行きで、そのときそのときで身の回りの人がニコニコ朗らかに喜んでいただいたらいいんじゃないかなと思って、いま私は生活をしています。
もちろん昔は、雨降れば雨、嵐になれば嵐、屋根もない大自然の暑さ寒さ厳しさがまともにくるような厳しい環境で修行をしていました。けれどもそのときの情熱と、いまそれほど過酷な環境ではない生活をさせていただいていますが、いまの日常生活の情熱は、同じかそれより上で毎日を過ごしています。
初めはいろんなこと、いまご質問にあったように、「どうやったらいいんだろう」「どうしたらいいんだろう」と考えたこともありましたけれども、いまは生かされた縁のなかで、向き合った1人の人を喜ばすことができたらどれほど幸せなことかと。そして、その人が幸せならば、今度は周りの人に幸せが伝播するような感じになりますので、あまり考えすぎずに、身の回りの人たちを喜ばせる。
会社を経営されているならば、社員の方が働きやすい環境を演出してやって、何か危機が訪れた場合は、全て自分自身が先頭を切って即断即決して問題を解決するというような、男らしい男になっていただきたいと思います。
塩沼:生死の境で見たものは、全て感謝に包まれている世界でした。もしかしたら自分が死ぬかもしれないという極限に追い込まれると、オーバーに言うと、何か体の周りを30センチくらい、ほわっとしたものにくるまれたような感じになります。
それがどういうものかというと、感謝の世界に包まれているんですね。死も怖くない。自分が死んだらどうするんだろうということも考えない。ただ感謝の世界に包まれている。けれども、行は必ず生きて終えなければ、行の意味がありません。死ぬために修行をするのでは、これは間違った行です。
ですからそういう世界のなかでも、はっと思って「自分は生きて帰らなければならない、生きて帰らなければならない」という強い気持ちでもって生還してくるわけですけれども。ほわっというような感謝の世界にくるまれたような世界になります。
堀:今日はエベレストを無酸素で登頂されている栗城(史多)さんがいらっしゃっていますが、栗城さんも同じことをおっしゃっていて。エベレストを登るときに感謝の気持ちで自分が満たされるということを言っていました。
みなさんがさまざまな世界で挑戦していくなかで、挫けそうになるとか、心が折れそうになるということを含めて、よい面を見ながら、そして自分自身がほかと調和をするということを考えた上で、感謝の気持ちを持って進んでいき、努力をしていくということを考えると……みなさんが千日回峰行をしなさいと言ってるわけではございませんので(笑)。高低差千数百メートルですよね?
塩沼:はい。
堀:深夜の23時半に起きるって、普通寝る時間なんですが(笑)。その時間に起きて行って帰ってくるということを考えると、僕らが挑戦していることはまだまだだなという気持ちでいっぱいになります。
私自身、大阿闍梨と何度もお話はさせていただいて、すごく感謝の気持ちでいっぱいです。僕が最も影響を受けたのは、陽明学の価値観と密教の世界観、宇宙観です。
なかなかそういった密教や仏教を大学院のカリキュラムのなかには入れることができませんが、こういう形で大阿闍梨の話を聞き、人生や哲学、自分なりの生き方、使命感、そして最後は「すいません」「はい」「ありがとう」といったシンプルな気持ちが大事であるというお話を伺いました。
みなさん自身がこれから生きていく上で、多くの示唆に富んだ45分間のお話だったと思います。この場を借りて私からお礼を申し上げて、そしてみなさんからも盛大な拍手でお礼を申し上げましょう。今日はどうもありがとうございました!
塩沼:ありがとうございました。
(会場拍手)
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