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森山高至「真国立競技場へ」(全6記事)

「コンペ選出案が却下になった前例は?」新国立競技場に関する様々な疑問に森山高至氏が回答

2020年の東京オリンピックを目指して建てられる新国立競技場をめぐっては、ザハ・ハディドのデザイン案や、下村大臣と舛添都知事との対決など、さまざまな論点が浮かび上がってきています。建築エコノミストの森山高至氏は勉強会で、会場からの質問を受けて、「ザハに新しい案を出してもらうことはできないのか」「JSCや有識者会議は責任を取らなくていいのか」「キールアーチにこだわる理由はなにか?」「世界的なコンペで選ばれたデザイン案が変更になった前例は?」などの疑問に答えました。

ザハに新しくデザインしてもらうことはできないか?

司会:時間通りに進めていただいて今、8時半ですね。先ほど質問書を出してもらったのですがいろんな意見、似たような意見というのもありますので、これから「手渡す会」の日置圭子さんが代わりに質問をします。もしかして、会場からも少し言っていただくかもしれないですが、こちらから指名させていただきます。

日置圭子氏(以下、日置):どうもありがとうございました。たくさんいただいたので、時間は割合ありますが、全部はご紹介できないかもしれませんので、まず大きく同じような質問を順番にお聞きしていきます。

前半のお話を聞いてだったので、やはりいちばん多かったのが責任の問題に対するご質問がたくさんありました。まず1つ目、ザハに正しい条件で責任を持って新しいプランを作らせることについてはどうお考えですか? 実現性も含めてですけど。

森山:それにはたぶんエンジニアリング的な裏付けを取った、言ってみれば元のホワイトモデルみたいなものをザハに提示してあげないとうまくいかないだろうと思います。すべてを自由にじゃなくて、ある程度裏付けを取った仕組みのもとになる設計を誰かがして、それをザハ・ハディドに与えて、ここから考えてみてくれないかっていう必要があると思いますね。

なぜ取り壊しの前に議論が進まなかったのか

日置:匿名の方とか何もない方はそのままいきます。お名前のある場合は申しあげますね。次に、やはり責任に関することで、要するにコンペとそこにまつわるいろんな失態が、わけのわからない、責任をとらない失態がたくさんできていたので、そのゴタゴタに関係することで、「なぜ国立競技場を壊す前に間に合わないことを言わなかったのでしょうか?」という、タイミングの問題はどうですか?

森山:そうですね。「恐らく間に合わないかもしれない」「お金はオーバーするかもしれない」という話と「解体しなきゃいけない」という話が年度末の3月にあったのかなと思います。

だから、「年度末の3月までに解体に手をつけてないとまずい」という人たちもいるし、だいぶん森元首相が「早くしろ、早くしろ」っていう声もあったから焦っていたのでしょう。

同時に、たぶん予算だとか工事の進捗、設計の進捗状況も3月年度末に全てが明らかになって、壊すほうも3月からスタート、ダメだっていうほうも3月から報告、たぶんそういうことがあったような気がします。

僕には根拠がありませんがそうかなと思います。役所の3月っていうのは1つのデッドラインですから。

JSCや有識者会議は責任を取らないのか

日置:あと、もう一つまた別の方ですけど、JSCに関する責任問題についていくつかありまして。JSCのビルを建て替えたいがために国立競技場が巻き添えになったのではという見方もあるようですが、いかが思われますか?

森山:いい質問ですね、JSCのビル。さぁここを皆さん注目しましょう。JSCビルっていうのが建て替えることになっていて、かなり高層の建物ですよ。JSCの組織ってそんなに大きくないから、大きなビルはいらないはずだけど、なぜかそのビルを建設することになっていて、この設計者は久米設計ですよ。

たぶんこういうこと決めた人は、将棋とかでいえばいい手を打っていると思うんだけど、果たしてそうかなと。こういうことになってくると、あのビル本当に作れるのかなと。ただJSCがビルを作りたいがために、それが目的で国立競技場を……では無いと思いますけどね。あの一帯の再開発の中にきっとそのビルのこともあってのことだと思いますけど。

日置:それともう一つ、そもそもさっきのお話でJSSは責任を取る構造になってないですけど、社会的な責任ということで、いろんな建築家が疑問を呈していることに真面目に向き合い、取り組むべきじゃないかというご意見をいただいています。

また、「質疑はちゃんと公開すべきだ」というようなご意見だったり、SNさんというペンネームの方からは「JSCだけではなくて、有識者会議は責任の範囲はどこまであるのか」という質問がありました。

さっき「責任がない」とおっしゃいましたけど、責任のことを、もう1回ご説明いただけますか。

森山:いわゆる違法行為とか、そういうことに対する責任を問うかというと、恐らく問えないと思うけど、今回の場合、道義的責任というものがあると思うのです。

有識者に選ばれている方々は、何も適当なところから選ばれているのではなくて、各界を代表する方が有識者として名を連ねてらっしゃるわけですから、このままこの状況で、本人たちが黙っているというのは、当然その方々のモラルの問題だし、その業界全体の問題になりますから。

法的責任について僕はわかりませんけれども、道義的責任はあるし、このまま黙っていても何もいいことはないと思いますけどね。

日建設計が設計者になった理由とは

日置:次にペンネームSHさんという方からですけど、「日建設計がそもそも基本設計者、一番よくわかっている設計者になったその理由は?」というご質問です。

森山:これは何の根拠もないですが、もともと久米設計が改修の設計者であって、競技場の全体、古くはそこのメンテナンスを久米設計がやっていたようですけど、日建設計も営業を頑張ったじゃないですか? 新築の設計を取るために。

まあ、僕はそういうふうに思っていますけど。日経設計が頑張って新築の計画をしていたらしいという話もありますけど、その話一旦コンペで消えて、コンペで選んで、なぜかそのまますっと日建設計ですよね。

そこはたぶん僕の仕事じゃなくて、建築系のジャーナリズムのジャーナリストの方か、その他のジャーナリストの方がぜひ追っかけていただけたらと思います。

現在の案は8人乗りで荷台のついたスポーツカーを作るようなもの

日置:じゃあ、宿題ということで。次にオオハラさんという方からですけども、ちょっと長いので、一部であれします。オオハラさんはブログの大ファンだそうですので、はい、そういうことです(笑)。

それで、今、64年の東京オリンピックの代々木体育館もものすごく困難だったということですけれども、建設が成功した。その時、「頑張って成功するんだ!」「困難だから頑張るんだ!」という主張がずっとあったんだと思うんです。その代々木体育館の時の困難さに比べて、今は何が違うのでしょうか? どのぐらい難しいのでしょうか? 成功体験にとらわれている人たちの信念って変えられないですよね、というご意見です。

森山:それはよく言われる問題なのでお話しておくと、丹下先生の代々木の場合は、基本的な考え方はエンジニアリングの基本モデルにあっているのです。吊り橋構造になっていて、柱が立っていて、真ん中にケーブルワイヤが吊ってあるという。ただ、それを具体的に建物化するのに苦労したということです。当時、コンピューターもない時代ですし。

同時に、あの建物を建設省も当時の東京大学もすべて官民一体になって取り組んでいるのです。今回と条件が違うのは建設省が入っていることと、設計者も官も民も一緒になってやっている。

それで構造の仕組みが、これは構造のエンジニアの人に聞けばわかりますけども、正しいモデル、それの難しい版っていう。

言ってみれば、例えばF1車で、「決まったレギュレーションでなんとか速い車を作れ!」と言われて、それで一生懸命合理的に考えて車体を軽くしたり、小さなエンジンなのにパワーアップしたり、そういうようなことを一生懸命にやった、ホンダが日本で初めてF1に出場したホンダF1みたいなのが、あの代々木競技場。

今回の競技場の難しさ新国立競技場の難しさは、スポーツカーなのに、8人乗りのワゴン車で、荷物も載せたいから荷台があって、小さなクレーンをつけて、それでレースに勝てっていう、そういう課題ですよ。

だから一つひとつは、スポーツカー造るのだったら頑張れるし、8人乗りのワゴン車でいっぱい人乗せるのも頑張れる、荷台にクレーンをつけて重たい物を運ぶトラックも作れるんだけど、それをミックスしているから走らない。だから難しいのです。本質的に技術的なチャレンジングな話じゃないのです。

世界的なコンペで選ばれた案が却下になることもある

日置:すっごい分かりやすかったです。ありがとうございます。あと、お名前ないですけども、「世界的コンペで1位になったものが、実際は違う案に設計されてしまったという例はこれまであるのでしょうか?」というご質問です。

森山:いっぱいありますよ。一番有名なのはアメリカの911のタワー。911の事件でああいうことになっちゃった跡地にビルをコンペしたわけです。

いろんなデザイナーが参加してダニエル・リベスキンドっていう人が獲ったけど、遠目にはね、自由な女神のようなシルエットを持った海から見た時の建築物のコンセプトは良かった。しかしダニエル・リベスキンドっていう人は脱構築の人で、近くまで行くと梁はねじ曲がっているわ、壁は倒れているわ。だから911の跡地にはみんな嫌だったでしょうね。だから却下されたようですよ。他にもありますよ、事例は。

日置:コンペにまつわる責任とかゴタゴタのお話はだいたい今のようなところです。次にお金にまつわるところ、財源のお話ですけれども、ペンネームJSさんからですが、「財源がそもそもこれは誰がこれはお金を出すのですか? それは現在どのような形でどの程度の額が担保されているのですか?」。先週の東京新聞で財務省はもう出さないと言っている記事には仰け反られたそうですけど、それについて。

森山:たぶん最初に決まった1,300億円というのからは動いてないんじゃないかと思いますよ。それ以外に「totoの売り上げから5パーセント」とかいっているようですけど。実際にこの財源はちゃんと決まらないまま見切り発車しているでしょうね。

だからあのことがオープンになったことで、たぶん相当困っているでしょうし、財務省とすれば、この件で今の問題、ゴタゴタを通じて逆に解決を図ろうとしている可能性はありますけどね。

ゼネコンが値段を釣り上げているわけではない

日置:次に私どもの「手渡す会」の共同代表の森まゆみから、よろしいでしょうか。「竹中や大成が値をつり上げていることがなぜわかるのですか?」「それをだれも引き受けなかったらどうなるのですか?」

森山:まず、値をつり上げているっていうことは、僕は無いと思っています。一部の人たちの中に、「ゼネコンは大工事で値をつり上げて、また私腹を肥やし」と言うけど、これ十何年ぐらい前からステレオタイプのように方々で聞かれる話ですけど、建設業はそんなに利益率の高い商売じゃないです。

皆さん何十億の工事とか、何百億の工事とか、めちゃくちゃ儲けてやがんなとかいうイメージを持ってらっしゃると思うけど、原価に対しての利益率は低い仕事です。他のジャンルに比べると。

ただ、長期的なメンテナンスのこともあるので、長期的な信用の中で仕事をするというのが建設業の元々のあり方なんですよ。あと業者同士の比較もあるので、ものすごく価格差が出ることがあんまりないです。

今、値段をつり上げているかどうかに関して言うと、1つは、それぐらいお金がないと合わない工事になりつつあると思います。

さきほど「人件費なんだ」と言いましたけれども、あのキールアーチをもし本当に作ろうとすると、陸上輸送してきますから、長さが全部で400メートルぐらいあると10メーター角って言ったでしょ? それを車に乗っけて4メートルぐらいに細かく輪切りにする。いぶりがっこみたいに切るのかな、ははは(笑)。

その細かくスライスした1個1個を運んできて、現場でつないでいくのです。片方ずつで100ピースみたいな。だからこれを造ること自体非常にナンセンス。もちろん、もうちょっと大きなブロックで作れればいいでしょうけど、運ぶ問題もあるし。だから、たぶん非合理なお金がいっぱい出ていく工事なると思います。

キールアーチを維持する理由は何か

日置:時間もちょっとアレなので、他の種類のものいきます。やっぱり気になられるみたいでキールアーチのご質問が多かったのですが、「キールアーチを構造体の一部として機能させることができないのでしょうか?」「キールアーチでないといけない理由をもう一回ご説明いただきたい」と。

森山:キールアーチじゃないといけない理由というのは、ザハのデザイン画の中で最も特徴のある部分がキールアーチであったがために、それをなくすと本当にザハ・ハディドのデザインのDNAというか、へその緒みたいなものがなくなってしまうのです。だからザハ・ハディドのデザイン監修というていを残すために、たぶんキールアーチにこだわっている。

あと審査過程中にキールアーチは難しいけど素晴らしいってこと。審査員の先生お二人、安藤忠雄先生も内藤廣先生も仰っています。だから、結果としてあれがやっぱりできませんでしたということに対しては、非常に内部で抵抗しているような気がします。

日本のゼネコンは安全性については担保するだろう

日置:じゃあ続きまして、ペンネームで千駄ヶ谷5丁目とお書きの、たぶん地元の方ではないかと思いますけれども。似たような構造の問題関係で、「ザハ案で建ったとして、安全性や耐震性はどうなのでしょうか? 避難所としての機能が期待されると思うのですが、それが心配です」というのはいかがでしょうか?

森山:ザハ案だろうが何案だろうが、安全性云々については、たぶん日本のゼネコンは担保するはずです、基本的には。最近事件が起きて、事故が起きて、「日本のゼネコン、大丈夫か?」みたいなことをおっしゃっているかと思いますけど、日本のゼネコンというのは内部に設計技術者を持っているという、世界的にも希有な建設組織なんです。

日本は何が一番素晴らしいかというと、さっきの鉄骨の話もしましたけど、工事する人と技術者が、日本全体にまんべんなく一定のレベル基準でいることです。

一概に言えませんけど欧米だとかの場合は、いわゆる技術屋さんと施工する人の意識の乖離も甚だしいし、契約によって縛ってパートタイマーを使うという仕組みの工事システムと比べると、日本の建設業の業界というのは、本当にどんな職人さんから、それこそハーバード出た都市計画の人まで含めて同じ言葉が通じるし、同じ図面なり同じ技術が共有されていますから、誰がデザインしても、安全性が変わるということは基本的には無い。難しいことをすれば、もちろんそれだけリスクは大きいと思いますけど。

スポーツ選手からの声が足りない

日置:はい、ありがとうございます。じゃあちょっと時間もないので、最後にスギウラさんという方からです。「競技者が競技しやすいこと、観客が見やすいこと。これを忘れてないですか?」という非常に根本的なご意見をいただいています。これについてもう一回お願いします。

森山:もうおっしゃるとおりだと思います。そもそもこの計画がスタートした時点で、競技者の方の意見が十分に組み込まれてない。

反対運動なり、この問題に異議を唱えている方々も、基本的にまだ建物の大きさだとか、建物のやり方だとかデザインとかに触れているだけで、競技施設としての問題点や競技者からの視点の意見というのが、ほとんど聞かれてないです。

おそらくスポーツ選手たちの間で、きっとそういう声を上げるのは非常に難しい立場や組織になっているのかなと思います。為末さんぐらいしか言ってないので。

だからむしろ、スポーツ選手じゃない方々も、スポーツ選手からの声を聞いて、スポーツ選手の代わりに、こういう施設に対するスポーツからの視点を、もっと意見をしてあげなきゃいけないなぁというふうに思います。

僕もだいぶサッカー関係の方とかサッカーの観戦が好きな方にヒアリングしていますけど、そういう意味では、スポーツ選手からの声が聞けないのだったら、代わりにみんなで言ってあげる必要があるじゃないでしょうか。

日置:ありがとうございました。じゃあまだちょっと質問は来ているのですが、ここで会場からのは一回締めさせていただきます。

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