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緊急シンポジウム「新国立競技場のもう1つの可能性」(全5記事)

「新国立競技場問題を国民的な議論の場に」中沢新一氏らがシンポジウムで訴え

ザハ・ハディド氏のデザイン案が採用され、2020年の東京オリンピックに向けて建築が進む新国立競技場。しかしその計画にはさまざまな問題を指摘する声が上がっています。2014年5月12日に開催された人類学者の中沢新一氏、建築家の伊東豊雄氏、建築エコノミストの森山高至氏、建築史家の松隈洋氏が登壇したシンポジウム「新国立競技場のもう1つの可能性」の後半では、

記憶を抱えつつ未来へ向かっていくのが保守思想

松隈洋氏(以下、松隈):残る時間で、ちょっとやりとりをさせていただきたいんですけど、お二人で話を聞いたうえで、感想を聞かせていただけたらありがたいです。

中沢新一氏(以下、中沢):森山さんのを見ていて、世界のひとつの大きい潮流として、修復というのを通して、記憶とか歴史を自分の中で残しつつ保存しつつ、新しい方向に向かっていくっていう建築が主流になりつつあるというのがよく見えてきたと思うんですね。

日本の今の建築の中には、そういう思想が活かされているケースが非常に少ないんじゃないかと思うんですが。

森山高至氏(以下、森山):そうですね、現代建築の中では少なくなりましたね。もともとの戦前とか江戸時代なんかは石垣の上の木造部分がどんどん入れ替わっていったりとか、平気で増改築したり、日本建築ではそういう変更は繰り返されていますから。

中沢:そういう歴史とか、最後にベンヤミンの言葉なんかも出てきましたけど、「無名の人々の記憶」というのを大事にした都市づくりをしようじゃないかということが、根本の考え方にあると思うんです。

僕もここのところこういう運動に関わっていると、自分が本当に保守的なこと言ってるのに驚くんですね。僕、本当に保守なんですよ(笑)。

ところが経済を動かしている方とか、あとは靖国神社なんかは行くけれども、そっちの方へ日本を動かしてく人たちというのが、記憶とかそういうものを自分の中で抱えつつ未来へ向かってくという保守思想とは一番かけ離れた人々が、国の重要なとこを決めていってるように見えて仕方ないんですね。

僕は若い頃、自分をすごい革新派だと思ってたんですけど、今になってみると本当に自分は保守なんだということが分かるんですね。でも、保守だと思って、いわゆる保守・右翼と言われてる人たちに握手を求めに行くと、こういう問題に関しては黙るんです。

たとえばこの問題は明治神宮の問題ですよ。明治神宮というのは神社です。神社というのは当たり前だけど神道の世界の話。その人たちの一番重要な部分にも関わっているにもかかわらず、そういう議論をしない。お上で決めたことでそれに従っちゃう。これは、もう僕くらいしか保守はいないのかなって思っちゃうくらいですね。

森山:結果として今そうですよね(笑)。

中沢:森山さんのブログなんか見てると、この人は素晴らしい保守主義者だなあと、感動しつつ見てるんですよね(笑)。やっぱり大きく時代の価値っていうのは変わっちゃってるんだなという感じがしています。

大きく時代は変わりつつあって、21世紀の建築や都市設計というものの思想が大きく変わってきている。その胎動はいろんなところに表れているんだけど、まだそれが大きな主流とか力を持った人たちのところには及んでいない現状が、非常に歪んだ状態を作っている。

その歪んだ状態が作りあげた一番の歪みが、この新国立競技場問題ではないかという印象を、僕は強く持ちました。

今の新国立競技場案ではワクワクしない

松隈:伊東さん、どうですか?

伊東豊雄氏(以下、伊東):私は先ほどの松隈さんの映像を見ていて、1964年のオリンピックですよね。みなさんよりちょっと歳とってますから、あのとき僕は学生で、建築学科の3年生だったんですけど、あのとき代々木のスタジアムができるのを、もちろん建築学科の学生だったっということもあるけれど、どれだけワクワクしながら見ていたか。

そしてまた、新幹線が通っていくことを。僕も新幹線の写真撮りましたからね。秋に初めて乗ったときに。それくらいやっぱり素晴らしいものだったんですよ、あの時のオリンピックっていうのは。

それに比べて今、正直に申し上げて、一枚の絵しか見せてもらえないけれども、あの建築ができることに対してまったくワクワクという気持ちがありません。

おそらく、ここに建築家の方々が何百人おられるか知らないけれども、みなさんほとんど同じような、僕が耳にする限りは同じような。

でも、そういうこと誰も言わないから。どうせやるんだったら、どうしてもっと……何かできるでしょう? それをやらなかったら、日本はいつまでも元気にならない。東北で僕はそう思ったんですよ。

あのなくなった町、あれだけの人を犠牲にして、それで今、復興するんだったら、どうしてこれからの21世紀のモデルをつくらないのだろう? それが不思議でしょうがないの。

もう、あれだけの予算があったらいくらでもできるのに。それとまったく同じことが行われてるというのが、もう本当に僕は嘆かわしい。

松隈:伊東さんの先ほどの案で大変象徴的だったのが、聖火台の位置が変わらないということですね。今日もなんか聖火台の火がついてたんですけど、たとえば、伊東さんがお孫さんと一緒に2020年のオリンピック行って開会式をした時に、同じ聖火台に火がともって「いやぁ、学生の時に見に行って興奮したんだよ」という話できるわけですよね。

でも今度は聖火台だけをどこかに持って行って、まったく様子が変わってしまうことになる。やっぱり歴史の流れからいうと、ずいぶん逆行しているような話になってますよね。

伊東:そうですね。21世紀に我々が何をしなくてはいけないのかという問いを、やっぱりここで探さなくては。

もうこの最後の土壇場でね。もう本当に、9回ツーアウトまで来てるような、そういう段階で、土俵際で、一本足で。そこでもう一回考え直すラストチャンスをなんとかしたいなあと思いますね。

新しいモニュメントとは何か

中沢:(客席に向かって)みなさんいかがですか、僕らが提案してる、この「改修でいこう」って考え方、リーズナブルだと思いませんか?

(場内から大きな拍手)

中沢:この声を国民的な議論に、もう一回引き出していきたいですね。槇先生たちが最初の火を投げ込んでくださいましたけれども、それが途絶えないようにしたいし、伊東さんが今おっしゃったように、もう本当に土壇場なんです。

これが土壇場で何の議論もないまま、今計画されてる方向に議論もない、案も出ない、予算もいい加減、そういう状態で進んでしまったら、私たちの国はどうなっちゃうんですか?

もう少しマシな国にしなければいけないと思います。自慢ができる国にしないといけないと思います。そのためには、今こうしていただいたたくさんの拍手が嬉しかったんですけど(笑)、この議論の大きな火を燃やしていく方向に向けていきたいと思います。

松隈:そうですね。伊東さん、先ほどご紹介してくださいましたけど、海外からのメッセージのことを忘れていたので、セラジ先生からのメッセージをご紹介いただけますか?

伊東:セラジさんという方は、パリにあるマラケ国立建築高等学校というところの学長ですね。高等学校というと高校みたいですけど、昔のボザールですよ。ですから、フランスの中でも一番重要な建築の大学なんですけれども、そこの学長の女性が、1ヶ月前くらいに僕がたまたまパリで一緒にお昼を食べていて、この話になって。

彼女もよくこの提案を知っていて「あれはマズイよ。一緒になって闘おうよ」と、むしろ向こうから言われたんですよ。それで、この文章を送ってくれたんです。

これによると「新しいモニュメントというのは何なのか」ということを非常に力強い言葉で書いておられます。

松隈:明日にはホームページにあげられると思うんですけど(※セラジ氏の声明文等、資料ダウンロードページ)、このモニュメントの役割のとこだけ、スローガンが面白いのでちょっと読みましょうか。

伊東:そうですね。

松隈:「排他的ではなく、包括的なモニュメント。浪費的ではなく機知に富んだモニュメント。非難するのではなく、聞き入れるモニュメント。抹消するのではなく、建設的なモニュメント」。つまり、全部転換していくことが、ここでできるはずだというメッセージですよね。

伊東:そうですね。それで、その改修をザハさんにやってもらってもいいじゃないか、という提案は成り立たないんでしょうか、というようなことまで書かれてます。そういうことが可能なら、僕も素晴らしいと思うんですけど。

メダルを名目に予算が使われてしまっている

松隈:これ、実際に今動いてる話は、平成25年度の補正予算で200億円というお金が、国立競技場の改築に伴う対応についていまして、解体費で70億、埋蔵文化財の調査費で4億、それから日本スポーツ振興センターの本部の移転費用で126億というお金がついております。

このお金の目的が、オリンピック大会におけるメダルの数を増やすためということなんですが、どうやったらこれがメダルが増えることの役に立つのかよく分からない予算が今、執行されようとしているということですね。

時間がそろそろなくなってきたんですけども、ちょっと会場からご発言をいただこうと思っておりまして、同じような形で地道に活動を続けてこられている「神宮外苑と国立競技場を未来へ手渡す会」の共同代表の森まゆみさんがいらっしゃいますので、ちょっとご発言を。せっかくですので上にあがっていただいて……。

森まゆみ氏(以下、森):いえいえ、ここで。長すぎる名前の会ですが、同じくまっとうな保守(笑)と思っております、森まゆみです。

『町づくろいの思想』という本を3年前に書きまして、あまり売れなかったんですが(笑)、これから町づくろいを広めていきたいと思っております。

改修案に対して自信が持てた

:本当に今日は伊東豊雄先生、あえて火中の栗を拾っていただいて(笑)、ありがとうございました。それから中沢新一先生も、伊東先生を口説いてくださってありがとうございました。

本当に今日いろいろ出たことで、私の頭も混乱しているし、いっぱい新しいことも思いつくのですが、今日はまだ話されなかったことをひとつふたつ申し上げます。

この計画によって、明治公園という緑が失われてしまいます。それからその隣の、先ほど松隈さんがおっしゃった都営霞ヶ丘アパートの方たちは、1958年に今のこれを造るときに一回どかされているんですけど、また上からの通告で引っ越さなければならない。

80歳を過ぎたようなお年寄りも多い220世帯があるわけで、そういう人たちのことも考えると、パラリンピックも含めてたった30日のことのために、そのように東京都民の生活が撹乱され、破壊されていいのか。

それから300日も使われない巨大な競技場がここに建つ必要があるのかと、つくづくおかしいと。やっぱり百害あって一利ない計画だと私は思います。

私はベルリンの競技場を見てきたので、こうやって80年前のものを大事にして使えるんだということが分かったんですけど、私たちが最初から改修案を言っても、「それでいいの? 本当にできるの?」というところをいっぱいツッコまれて、専門家でないのでなかなか辛かったんです。

今日、伊東先生がこういう改修案を発表されて、他の今までにも今川憲英先生や森山さんや、いろんな方が発表してくださって、どうにかこのみんなの知恵を絞って、改修できれいにして、食堂とかトイレとかエレベーターとか、バリアフリーとか、そういうのも充分この改修でできるということが分かって、とても元気づけられています。本当に今日はどうもありがとうございました。

これから7月までに、デモもやりたいとか、いろいろ思っておりますので、みなさんどうぞご協力ください。本当にありがとうございました。

(拍手)

松隈:実はこういうシンポジウムを開くことも、先行して会を続けておられる森まゆみさんのグループが、すべて受付から広報からやってくださっています。

それから、今ずっと画面に出ている写真は、清水襄さんという写真家が、去年と今年の5月4日に、とにかく私たちが何を失おうとしているのかという写真を丁寧に撮ってくださったものを流しています。清水さん、どうもありがとうございました。

巨大工作物は新国立競技場だけではない

松隈:それからもうひとり、五十嵐敬喜先生が来ておられるので、さまざまな形で都市の問題、開発の問題をご発言されている弁護士で、法政大学名誉教授ですけれども、五十嵐先生、一言お願いします。

五十嵐敬喜氏:五十嵐です。こんなところで発言させてもらって、どうもありがとうございます。

最近、つくづく変なことを感じます。もちろん国立競技場もそうですけど、防潮堤に私は復興委員会として関わっておりまして、あの防潮堤も非常にとっぴなことが起きてると思います。

もうひとつ、リニアカーってのがありましてね、これも非常に巨大な工作物でいずれも自爆しはじめているといいますか、まったく方向性が分からないものがひとりで自爆している、というような感じがあります。

ただ一方で気になるのが、これに対する国民の声がリニアについてもあがらない、防潮堤についても何回も現地に行ってもなかなか声があがってこない、この国立競技場についてもあがってこないと。

この落差はいったいどこから出てきているんだろうか、ということで、ちょっとイライラしながら、しかしまあ、どうにもならないのかなということも感じながら、今日ここにまいりました。

今日はいろんな先生方のお話をきいて非常に勇気が出ましたし、7月解体と言われてますけれども、1ヶ月の間できるだけのことをそれぞれやっていきたいと思っています。

私自身は大学を実は3月30日で辞めまして、いよいよ弁護士になりましたので、もうちょっとフィールドでも動けるのではないかと思っています。

もうひとつだけ、ちょっと宣伝なんですけれど、初代会長が黒川紀章さんだった、日本景観学会というのがございます。なんの因果かまったく正反対にある私がその会長になりましてですね、巨大工作物と景観といったものを一体どう考えていったらいいかということですね。

今あがっているのは、国立競技場とリニアと防潮堤。もうひとつですね、メガソーラーというのは一体どういうことなのだろうかというのがありまして、この4つを思いきって学会を全部市民に提供して、巨大工作物に対して、どういう立場で何を考えていったらいいかということも考えております。

9月23日に法政大学で行う予定ですので、ぜひうまく繋げていったらと。で、6月にある種のイベントに繋げてですね。7月解体がひとつのピークですし、防潮堤もいよいよピークになりますし、リニアもどんどん詰まってくるということですので、市民の力を持続しながら広げていけたらいいなと思っております。どうもありがとうございました。

(拍手)

新国立競技場問題を国民的議論の場に引き出して

松隈:どうもありがとうございました。それから近々のイベントがひとつあるのでご紹介しておきたいんですけど、5月15日に「みなとスポーツフォーラム〜2019年ラグビーワールドカップに向けて〜」というフォーラムがありまして、そこに山崎さんという新国立競技場設置本部長の方が講師でこられてご発言をされますので、ぜひみなさんこれにご参加いただければと思います。

最後にじゃあ、ちょっと一言くらい、中沢さん、伊東さんにご発言いただいて終わりにしましょう。

中沢:いや、もう十分しゃべりましたけど、この場にお集まりのマスコミの方々、ぜひ大きい記事を書いてください。TV関係の方、ぜひ放映してください。そしてこれを国民的な議論の場に引き出してください。よろしくお願いします。

(拍手)

伊東:私も、まったく申し上げることはございません。

松隈:ありがとうございました。最後にカンパのお願いです。こういう運営はまったくボランティアで、手弁当でやっておりまして、みなさまのお力をぜひお借りしたいと思います。カンパの箱も外に用意してございますので、ぜひご協力いただきたいと思います。

本日は本当に長時間にわたりご聴講いただきありがとうございます。拍手をされた分、これからみなさんが動いていただくことを期待して(笑)、今日の会を終えたいと思います。どうもありがとうございました。

(拍手)

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