2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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松浦茂樹氏(以下、松浦):スマートニュースに入った時も、やっぱりその仕組みがすごいんです。最終的に人に送り届ける、アルゴリズムのところにものすごい感動を覚えました。「あ、この仕組みがあれば、乗組員やってみたい」と思えたんです。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):なるほどね。そこの仕組みが今まであまり可視化されてなかったっていうか、特にメディア業界があまりそれを真面目に考えてこなかったっていうのがたぶん強いんじゃないかな。
雑誌の世界もそうですよね。編集長がいて強烈な価値観があって「俺のいいと思うものは売れるんだ」みたいなノリなわけです。それが確かに当たる時は、その時代の感覚で、その編集部の感覚が上手く合致すると、バンと売れたりして、よかったって話になるんだけど、それってでも言語化されてないし、なんでそれが売れたのか誰も説明できないので、ほとんど「当たるも八卦、当たらぬも八卦」みたいな世界だった。そこをどうやって仕組み化して、必ずある程度スキームに乗っければ、それが届くっていうことを作るっていう、その構造の問題っていうことですよね。
松浦:そうですね。構造でいうと、今の雑誌だって本当は書店員の方々が届けるところを担保しているじゃないですか、そういう日本の旧来のメディアビジネスには仕組み化された、フレームワークされたものがあるんですけど、そこの良さに全然注目が行かない。
新聞だって結局、販売店網っていうビジネスじゃないですか。世界の中でも特異なビジネス構造なんですけど、そしていま、確かに購買でいったら下がって来ちゃってますが、その特異なフレームを作ってきた背景とかから学べるところがたくさんあるのに、あまりそういう話がないのが、ちょっともったいない気がする。
佐々木:そうですよね。これがもうまさにコンテンツが少なかった時代に作れば売れたんだけど、ネット時代になって山ほどコンテンツがあって溢れ返ってしまうと、もはや作っただけで売れないのに、その届けるっていう努力が実は全体のうち、メディアが必要としているリソースの半分ぐらいになってきているっていう、そういう転倒した構造が起きてきているのは間違いない。
こういう話をすると「いやいや、コンテンツの話をないがしろにして、そんなマーケティングの話ばかりしていて、お前ら文化がわかってない」ってみんな怒るんだけど、それを聞いていても「あんたの作った記事なんて誰も読まないよ」っていう、そこの本題をちゃんと可視化しましょうっていうことですよね。
松浦:今までのメディアのブロードキャスト部分ってテレビが担保してたんですけど、数チャンネルで、しかもものすごい馬鹿デカイ土管で、一方向に伝えてたものが、インターネットの出現で双方向になったじゃないですか。さっきのAirbnbも昔だったらそのブロードキャストの上にコンテンツが載るかっていうと載らない。
でもコミュニティの部分で1対多のコミュニティ、相互コミュニティがあるからこそ、その先っちょにおもしろいコンテンツがたくさんある。ただ、今まであったブロードキャストは24時間って枠が決まっているとか、あと新聞でいうと何ページっていう枠が決まっている。雑誌にしたって、ボリュームでいうと昔のアスキーさんとかはめちゃめちゃ分厚くなっていましたけど、そうは言っても限界があるじゃないですか。電話帳にはできない。だからたくさんは伝えきれない、セレクションされた良さがある。
でも、ネットメディア上で言うと、この1対多の個人的なコミュニティ、ソーシャルコミュニティの中に載ってくる情報量が圧倒的に多くなっている。そこをやっぱり考えていかないと。ブロードキャストでやってた手段と一緒でうまくいくわけがない。
佐々木:なるほどね。きめ細かに送り届けることが技術で可能になったっていうのが大きいところですよね。
佐々木:今はスマートニュースで松浦さんどんな仕事をされているんですか? たぶん誰もイメージできていないと思うんですけど。
松浦:そうなんです。いつもメディアコミュニケーションディレクターってなにやっているのって話になるんですけど、スマートニュースはコンテンツを表示させていただいているので、そのコンテンツを作っているメディアの皆様方とお話はしなければいけない。コミュニケーションしなければならない。
細かなところも含めて、どういうふうに表示しているのかという説明が大事なんですね。そういうビジネスデベロップメントを具体的にはやってます。あと私の役目として、今こういうリアルな場での説明とかも大事だと思ってるんです。
ネットだけで完結していると、スマートニュースはなにやっているんだって、やっぱり伝わらない。こういうリアルな場に来ることによって、Face to Faceのやり取り、中の人の顔が見られる。こういう思想を持ってサービスをやっているっていうのは、なかなかテキストで書いているだけだと、ほとんど届かない。もちろん大事ですけどね。
伝達手段といったって限られている。ただ、こういうリアルなコミュニティ、リアルな場っていうのは1対多とはいえ、耳を塞いで聞いているわけじゃないので絶対に耳の中に入る。顔の印象も含めて入ってくる
重ね重ねリアルな場のコミュニケーションっていうのも、やっぱり大事にしたいと思っているので、私は自分自身のミッションとして、あちこちに出て、話をさせていただいてるっていうのはあります。
佐々木:なるほど。リアル感とかはもはやどうでもよくて、両方って感じですもんね。
松浦:そうですね。スマートニュースも渋谷と原宿の間にオフィス移転したばかりなんですけど、オフィスの下の2階に、立って200人ぐらい、座って150人ぐらいのイベントスペースを作りまして。ちょいちょいメディアの方々、広告の方とか来て、コミュニケーションは積極的に図るようにしています。
佐々木:そういう仕事もしながら、でも他は何をしてるんですか?
松浦:そうですね。あとは肝心要の、さっき言った素晴らしい仕組みがある、コンテンツを送り届ける仕組みがあります。アルゴリズムと言われているところで、コンテンツの評価とか、そういうのも行っていますと。
もちろんその表示するところまでは、アルゴリズムが全部やっているんですけど、全てが好き勝手に表示されると、例えばスマートニュースのトップページが人の欲望まみれになります。
佐々木:ニーズに合わせると。
松浦:ニーズに合わせ過ぎると、人の欲望まみれになってしまうので、その思想的な部分とかはやっぱり人の仕事。元々会長の鈴木とか、社長である浜本とかが作ってきたものがあるんですけど、今そこの部分をある程度引き継ぎながら、アルゴリズムの教育をする部分っていうのをやってるんです。
佐々木:そうなんですよね。メディアは衆愚化する問題ってよく言われていて、産経新聞が10年ぐらいウェブファーストとか言い出して、ウェブ中心で仕事をしましょうっていうふうにやったはいいんだけど、最初の頃はどんどん普通の記事が下に落ちていって。
上に上がってくるのがAKBの記事とか、そんなのばかりで。秋葉原の地下アイドルとか、そういうのもおもしろいんだけど「何で産経なのにそんな地下アイドルの話、AKBの話ばかり載ってんだ」みたいな。結局それはニーズに合わせ過ぎると、どんどんそっちに行ってしまうっていう問題って常にあって。
でも昔からよく新聞からインターネットへの批判の1つとして、ネットって検索エンジンなんかそうだけど、ニーズにすごい適合させやすいっていう。そうすると自分が見たいものしか読まなくなっちゃうっていうタコツボ化が起きるよねと。
一方で新聞っていうのは、何かの見出しを読んで、北朝鮮でこんなことが起きているって記事を「ほう」って読んで、そのついでにその横に何かルワンダで何かの事件が起きているっていうのがあるから、一応ちょっと読んでしまうよねっていう。
そういう読む気がないものもちゃんと目に入ることによって、ある種のセレンディピティというか、社会的に知らなきゃいけないような記事もちゃんと目に入るっていう、そういう公共的な役割があるのがいいっていって、そこをやっぱり人間の手である程度やるっていう。
松浦:大元の設定ですね。もちろん選ぶところは全部アルゴリズムがやっていますし、コンテンツで選んでから出すところまでは一切根底は変えないです。そこの大元の部分で、どういうふうに選ぶんだって、やっぱり式を書く人がいるので。
佐々木:アルゴリズムの設計部分っていうことですよね。
松浦:設計ですね。そこがちゃんとしてないといけない。
佐々木:なるほどね。
松浦:設計において例え話をすると、通好みのラーメン屋さんになっちゃうといけないんです。本当に凝り固まった通好みのラーメン屋さんって常連客ばかりになる。常連客がたくさん入って、例えばここがラーメン屋さんだとします。ドア開けますと、常連客がものすごい行列を作っていて、いつ来ても常連客がたくさんいて、同じラーメンをズルズル食っていて、寡黙なままにどんどんローテーションの機械のように常連客が入れ替わる光景。
「いや、おいしいんだろうけど、ここに私入っていけるんだっけ」「女子高生とか来られるんだっけ」っていうふうになっちゃうと、やっぱり雰囲気としてよろしくないじゃないですか。そこは雰囲気とかも考えて選んでいかないと、コンテンツを開いた時に、そういうイメージを持たせないようにしないといけない。
佐々木:なるほどね。よく反面教師的に言われる、テレビゲームの没落っていうのがあって、昔はゲームってみんなドラクエとかファイナルファンタジーとかをやっていたんだけど、最近あまりゲームをやらなくなった。
スマホでゲームをやっているかもしれないけど、あれの一因として、ゲーム好き、ゲームマニアのためのゲームをどんどんゲーム業界が作るようになったら、難易度の高い、複雑で難しいゲームばかりになっちゃって、そうすると普通の人がゲームに手を出せないっていう状況ができてしまう。
これがゲーム業界を収縮させる、小さくする1つの原因になったってよく言われているんですけど、それと同じで、いかに多くの人が敷居を低くして入れるようにして、なおかつ言うと、そこにはプラス、鈴木健さんなんかが言っていると思うんですけど、民主主義的な公共圏の礎になるものっていう発想がやっぱり重要なわけですよね。
松浦:はい。ちゃんとそこを考えさせることも含めて、やることが大事だと思っています。あと毎日、アプリケーションを開いてもらうんです。お弁当とかもそうで、毎日お母さんが作ってくれるお弁当、毎日開くじゃないですか。毎日左から白いご飯、おかず、野菜みたいな形で、これが毎日同じ構成だったら、飽きるじゃないですか。
佐々木:確かに。
松浦:でもそのコンテンツ自体のラインナップは、いろいろなコンテンツをアグリゲーションしているサービス上ではほとんど変わらないじゃないですか。
なので、開いたときに飽きさせないような仕組み。そういう届けるときの細かいところ。例えば改行もそうです。スマートニュースは表示する時に、句読点とかを調整して、綺麗に改行を入れて表示して、最後にお手元に届く時に、いかに気持ち良く見てもらうかというのを意識してます。
佐々木:よくできていますよね。新聞の記事レイアウトっていうか、紙面レイアウトに近い感じで。2段組みになっていたりとか1段になっていたり、そういうのが組み合わせになっていて、すごい入り口として見やすい画面になっているのが事実だよねと。そういうのを設計する、それもやっているのはアルゴリズムなんですよね?
松浦:そうです。組み合わせを決めているのはアルゴリズム。
佐々木:いちいち一片のところを切り直してって、手作業でやっているわけではないですよね?
松浦:そうです。ただ、その枠のバリエーションを決めるのは人じゃないですか。4段組みとか2段組みとか、そういうパッケージの、その見せ方のレイアウトの設計をするのは人です。
佐々木:なるほどね。
松浦:やっぱりそういうところが大事なんだなと。
佐々木:そういう仕事をする際に、それってやっぱり元プログラマーでコードが書けるっていうのは大きいんですか?
松浦:そうですね。係数とかもいろいろ、ざっくり言うと方程式なんですけど、例えばAに2が掛かっていたりとか、Bが3で割れたりとか、やっぱりそういう数字の塊ではあるので、そこの数字の感覚の部分が式として、ざっくり肌感としてわかるので。
佐々木:なるほどね。要するにコードが書けるって言うよりも、その方程式が何を意味していて、その方程式の係数をどう変えれば何が変わるかっていう、数学的な感覚があったほうがいい。
松浦:そうです。数学的な感覚ですね。文学的な感覚ではなくて、数学的にこういうふうな形で物事が展開されて、最終的にアウトプットされるので、アウトプットした後、そのあと結果があるじゃないですか。例えばですけど、読む前にどれぐらい時間がかかるのかとかっていうような、いろいろな数字が返ってくるんです。その数字を見るだけだったら、中学生でもできるんです。単純に。
佐々木:そうですよね。
松浦:PVが1万PVでした。2万PVでしたってだけだったら、別に中学生でも報告書を書くことはできる。この記事が上から何番目で3万PVでしたって書くだけだったら誰でもできるんです。
そうじゃなくて、なぜその記事が一番上に行ったんだっていう結果に対して、いろいろな数字を以て仮説立てをし、それが果たして今、我々の思想的なところに合っているかどうかを、やっぱり考えなければいけないんです。
佐々木:なるほどね。それって、いわゆるデータ分析をまずするってことですよね。
松浦:そうです。
佐々木:スマートニュースで流すと、それがどれぐらい読まれて、いろいろなデータが戻ってくるわけですよね。その戻ってきたデータをまず観察して、なぜそれが読まれたのかっていうのを、ある程度仮説を立てて分析するっていうことですよね。
松浦:そうです。通好みのラーメン屋になっちゃうよねっていうような問題に対して、アルゴリズムのチューニングのところを今度は開発者の人とかと話し込んでその仮説分析の話をする。
佐々木:なるほどね。それはもう本当に単にPVを伸ばすってことではないわけですよね?
松浦:そうです。
佐々木:要するにスマートニュースという会社の理念としては、単に読まれればいいっていうわけじゃない。
松浦:そうですね。世界中の良質な情報を必要な人に届けるっていうのが、我々のミッションなので。
佐々木:なるほどね。例えば社会的に重要だけど、なかなか読まれにくそうな記事とかあるじゃないですか、日本の相対貧困率が上がっているみたいな、ちょっと堅い記事。そういう記事を例えば読まれやすい記事の横に上手く並べることによって読まれやすくするとか、そういう。
松浦:アルゴリズムも含めて、アウトプットが、ミッションに導き出された設計思想によって出ています。今のスマートニュースのトップとか国内とかのチャンネルにはそういう結果として出ているという流れなんです。
佐々木:なるほどね。確かにスマートニュースってものすごくバランスが良くて、今やニュースアプリってたくさん出ていて、有名どころだけでも3つか4つあると思うんですけど、毎日それらとも比較して見てるんですけど、何かがやっぱり違う。あれ何が違うんでしょうね。
松浦:実際、やっぱりそこは本当に数字だけで全部追いかけるつもりはないです。そこはやっぱり思想の部分も多いかなと。自分もいろいろなネットメディアをやらせてもらってきましたが。自分、よくネットとテクノロジーと編集とっていう切り口で言うと、テクノロジーと編集の人って思われるかもしれないけど、どっちかっていうと自分はビジネスの人なので。
佐々木:なるほど。
松浦:どっちかっていうとビジネスの人なので、ビジネスのバランスも含めてやっぱり考えている。とはいえ、コミュニケーションも大事で、もちろんコンテンツ大好きですし、リスペクトを持って話をしています。
ただ、一方でちゃんと冷めた目で見てあげないと。思い入れがあり過ぎて自分の思想も何かしら入っちゃうのは、今のスマートニュースの設計思想ではよくないので。
佐々木:思い入れっていうのは例えば、すごい気持ちが入った記事だから、これを何でもいいから読んでほしいみたいな、そういう思い入れってことですか?
松浦:そうですね。「この記事いい記事なんだけどな」って、自分がこの記事いいよねって主観的に思っちゃう時もあるんですけど、とにかく主観を削る。客観性の部分を持って、やっぱり伝えていかないと、ユーザーの数が最大値にはならないかなと思います。
佐々木:難しいですよね。
松浦:難しいんですよ、これ。
佐々木:TABI LABOっていうメディアを1年ぐらいやっていて、その中でいつも議論になるのは、コンテンツに例えば見出しを付ける。あと読まれる動線みたいな、TABI LABOはサムネイルの画像ですよね。記事の入り口になる画像と、そこに付いてるテキストの見出しなんですけど、同じ記事でもその2つを変えれば、すごい読まれたりするわけです。
ちょっと見出しの文章を変えたりとか、画像の素材を変えたりとか。でも何でそれが読まれるのかよくわからないという問題があって、TABI LABOでもすごい優秀なマーケティングディレクターがいて、彼は見出し付けるのがすごい上手いんです。
上手いんだけど、彼も自分ではこの見出しがなぜこの文字列がいいのか、なかなか説明できない。今取り組んでいるのは彼が持っている、ある種の皮膚感覚的な知見をどうやって言語化、方程式に変えて、他の人にも共有できるようにするかっていうところなんですよね。だから松浦さんがやられてるのは、たぶんそういう言語化の部分をいかに作っていくかっていう。
松浦:そうですね。いかに作っていくかっていうところで、その言語化も含めて。もちろん社内で共有はするわけですよ。「今こんな現状になっています」「このような形になっています」「通好みのラーメン屋にしないようにするためにはどうしましょうか」っていうところも含めて、社内意見も含めて、そういうところは社内コミュニケーションの部分も含めてやっていかないといけないですね。
佐々木:なるほどね。最近メディアの世界でも、データ分析って重要だよってすごい言われるようになってきて。
松浦:すごい重要ですね。
佐々木:ディレクターとかデータサイエンティストはどういうふうに見ていらっしゃいますか?
松浦:数字を見る方は本当に多いなと、それは本当に技術的な話も含めて。ただ、読んだ時の仮説立て。いま言われたような形の部分で、結果が出ました。じゃあこれが何だったっていう仮説で、みなさん苦労しているなと感じます。
佐々木:仮説を立てにくいっていうことですよね?
松浦:立てにくいというか、立てられないというか。仮説ってやっぱり想像力を求められることもあるじゃないですか。全てのデータが揃って、これ100%の式だっていうのは簡単なんですけど、立てなきゃいけないじゃないですか。
佐々木:想像の範囲外の仮説っていうのもありますもんね。
松浦:メディアの人とだけ付き合っていると、その想像の範囲外になかなか行きにくい。お客さんってメディアの人だけじゃないんだっていうのも含めて。さっき「弱いつながり、強いつながり」ってあったじゃないですか。
強いつながりの中だけで話していると、どうしても今はインターネットメディアって強いつながりで繋がっている方々、もちろん私の友人もこの中にはいます。ただ、自分の今までの仕事キャリア上から、たぶん2~3ステップまで遠い方々もいます。
でもそういう方々も、ハフィントンポストとか、かつて自分がやっていたようなメディアや、今のスマートニュースを見てるかもしれない。でもそこの気持ちの部分に、ちゃんとインで入ってくるかっていう部分は重要かなと思っていて。メディアの中だけで話すのではなくて、本当に先ほどアウトドアとか、佐々木さんも、いろいろな違う弱いつながりで入ってきた、そういう人々と話すことが重要。
佐々木:そうですよね。
松浦:そこで仮説立てをするための経験値の部分が案外弱いんだなっていうのを思います。
佐々木:確かに。目線がどうしても、強いコミュニティの中だけで閉じちゃっている部分って結構ありますよね。そこで仮説を立てるっていうのは、ある意味自分の人生経験とか、繋がりの多さとか、知り合いがたくさんいるとか、そういうところからもたらされるところが多いってことなんですね。
松浦:そうなんですね。今だとアルゴリズムがいろいろな意味で人の仕事を奪っていると。GoogleとかAppleの自動運転もそうじゃないですか。そういう形でどんどん人の仕事を狭くしている中で、人の仕事で大事なのは、そういういろいろな経験値を重ねて、仮説立てしてモデル化をすること。それは人の頭じゃなきゃできない。
佐々木:そういうことなんですね。最終的に残る仕事は一体何なのかっていう。データ分析も入力するだけなら、そんなの機械でできるじゃんっていう。よく言われる逸話で、昔はシェイクスピアの全作品の中に「恋」って言葉が何個あるかっていうのを調べるだけで一生を終えた研究者とかいるんだけど、今はそんなもの電子書籍で検索かければ0.5秒で答えが出てしまうと。例えばこの作品に「恋」が何回出て、こっちの作品には「恋」が何回で、その2つを並べた時に、なぜその数字が違うのかっていう仮説をどう立てられるか。
その仮説を立てる時には、単に数字を知っているだけでも駄目だし、シェイクスピアの作品を知ってるだけでも駄目で、そのシェイクスピアが生きた当時の、近代の初めのイギリスの背景だったり、あるいは自分自身の恋をした経験とか、そういうものも様々含まれるからこそ、初めて仮説が立てられるっていう。そういう意味で言うと、テクノロジーと言いながら、やっぱりその向こう側にあるのは人間の力みたいな。
松浦:そこは自分もそうだと思っています。テクノロジー出身者ではありますけど、とはいえそれを生かすも殺すも、人の脳みその部分だと思っているので。そこの設計思想と考え方の部分が、アルゴリズムにどういうふうに影響を与えていくのか。今後いろいろなアルゴリズムが出てくると思うんです。
空調だってそうじゃないですか。今、この会場、「寒い」と思っている人もいると思います。「暑い」と思っている人もいる。でも、いろいろな意見を聞きながら、人の力で「わかりました」と言って、スタッフの人が「1度上げます、2度上げます」じゃなくて、最終的にここが上手くノーマライズされて、エアコンのコンピュータの中にあるアルゴリズムが細々やったら、そういう仕事はなくなるじゃないですか。
佐々木:そうですよね。だから後ろのほうと前のほうで温度がちょっと違う。前のほうは電気が点いているから暑いとか、いろいろなことを加味しながら、女性と男性のバラつきを見て、女性のほうがだいたい寒がりで、男のほうが暑がりだから、じゃ、あの辺に女性が集まってたら、少し温度を上げるとか、そういう設計ですよね。
松浦:そうですね。その設計思想のところの部分で、うちのオフィスはこの空間とかがあるから、ちょっと高めに設定してとか、そもそも動線のところで外気が入ってきやすいようにするとか。ここだとたぶん空気がこもりやすいんだったら、どっちかっていうとエアコンのほうを強くしましょうみたいなのが肌感覚の部分で。人の着るものとか、単純にここが東京だからいいんですけど、これが札幌とか鹿児島とかだったら、また違う話なので。経験の部分はアルゴリズムだけでは蓄積できないです。
佐々木:なるほど。よくテクノロジーの話になると、機械に人間が飲み込まれるとか、SF映画に出てくるような、コンピュータが世界を支配して我々が奴隷になるっていうイメージで語る人が多いんだけど、実はそうではなくて、結局コンピュータはツールにしか過ぎない。
アルゴリズムを使って、猛烈なスピードで計算してくれるんだけど、実はその大元の設計思想っていうのは、やっぱり作る人間の側にあるわけで。その思想をいかに高めるかっていうことが、たぶん今後の仕事においては、テクノロジーと融合する時代だから、人間の仕事においてすごい需要があるってことですよね。
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