「WE CHANGE AWARDS」が示した関係性からの変革
武田:体の調子も本当に日々思いますけど、人と比較できるものじゃないじゃないですか。ちょっと体調悪いなとか、ちょっと不調だな、もみんなにバロメーターがあるわけでもないし。
それでもバロメーターを設定するようになったら、それはそれでまずいじゃないですか。「お前の調子の悪さなんて俺の調子の悪さに比べれば云々かんぬんだから出てこい」となると、それも大変だから。
勅使川原:本当にそうですね。個人って違うんだという前提がなかなか持ちにくい社会ですけども、そこしか起点になり得ないのは、おっしゃるとおり大事なポイントだと思います。
さて、そうなってくると、多様な事情があったり多様な体力・体調を抱える私たちができる、自分を大事にしながら働くって、怠ける以外にどうしましょうかと思うんですけどね。最近のイベントで非常に大きなヒントをいただいたと思っていて、紹介したいと思います。
国際女性デーに関連するイベントで、いろいろ登壇したんですけども、中でもNewsPicksが主催している「WE CHANGE AWARDS」のアワードだったんですけども。これがおもしろかったんですね。
何がおもしろかったか申し上げますと、受賞者の取り組みのほとんど、全員と言っていいと思うんですけども、「強い誰か一人の女性が1点突破していく」物語が1つもなかったんですよ。「やったったぞー!」という感じは、ぜんぜんなくて。
武田:やったったぞー(笑)。
勅使川原:「やったったぞー」って噛みながら言いましたけど(笑)。そうじゃなくて、周りとの関係性。今まで「これしかないだろう」と思われていたものをもう一度見直した経験をされている方ばかりが受賞されていました。
例えば、エアロトヨタさん、ドクターヘリや飛行機の分野で、ドクターヘリの女性初の機長をされている方も受賞されています。この方も自分が優秀になってとか、声や権力を持ったからできたことではもちろんなくって、すごく素朴なお話からスタートされているんです。育ててもらった先輩や一緒に働くチームの存在への感謝を語ることから変革を始めたと。
あと、江戸切子をはじめとする伝統工芸の現場の方もいらっしゃいました。伝統工芸と言えば血縁中心じゃないですか。なんだけども、継承の仕組みを地域全体に広げていったり、これからやってみたい個人に開いていく取り組みをされている、熊倉さんがいました。
この方も関係性を変えていったストーリーなんじゃないかなと思うんです。私が声を大にしてジャンヌダルクのように変革してきました、ではなくて、うまいこと巻き込んでいった事例だと思います。
他にも、子育てや介護の関係の方や、駐妻キャリアnet(海外赴任に帯同する配偶者が、現地でもキャリアを諦めずに働き続けられるよう支援するコミュニティ)をされている、キャリアの中断ですよね。パートナーのお仕事によって中断された方、ケアの問題も多分に含んでいる事例もありましたけども、いずれも「あなたが選んだんでしょう」の話は一切なくて。
個人の事情じゃなくて、組織・社会として設計から変えられないか、関係性の編み直しから変えられないかを実践されている方々でした。
草の根の小さな社会運動で働き方は変えられる
勅使川原:なので、「レイジーだ、なんだ」にすっ飛ばなくても、自分を大事にしながら周りを巻き込むことによって十分変えていける一歩は存在しているのかな、もう萌芽はあるのかなの気がしています。他者との組み合わせの工夫、がんばるべきはこのへんなのかなという気がしました。
ちなみに、話をすると、「私はそんなに時間もかけられないし」とか「今ぜんぜん偉くないので、組織を変えられないんでちょっとできることないです」とおっしゃる方もいらっしゃって、そのお気持ちもすごくわかります。
わかるんですけども、若いうちから別にできることも草の根的にあるのかなと思っています。働き方の設計って組織の構造を変えるとか組織を変革するだけじゃないんですよね。大仰に言わなくても自分がやれる小さな日常的社会運動をお勧めしております。
最近の私の本『
組織の違和感』にも細かく書いているので、よかったら読んでいただきたいんですけども。例えば、超小さいことですけど「ん?」と組織の中で違和感があった時に、私も若い頃は「異議申し立て」をすると嫌われやすかったりするので、何でもかんでも飲み込んでいたわけなんですけども。
最近はけっこう言います。普通にわからないので聞く。「え? あ、ごめんなさい、ちょっと意味がわからなかったんですけど」とか。
武田:「どういうことですか?」とね。
勅使川原:そうなんです。怒る前に聞く。悲しむ前に聞くのはすごく小さな社会運動としてできることじゃないかなと思います。
ちなみに、国際女性デー関連のイベントで、コーチングの会社の「mento(メント)」さんでも女性経営者の方たちと一緒に登壇したんですけど。みなさん、30、40、50代の女性といろいろ対話したんですけど。
今偉くなっているとしても、やっぱり若い頃に男性社員のボールペンのインクの交換をさせられたとか。隣の席の人にサッと空のボールペンを差し出されてしまうと。そうすると文句を言わずにサッと変えている自分がいたお話をシェアされていて、「ああ、すごくわかるね」と。
なので、私たちは対話の締めくくりとして、「もう気の利く女であることは早々に降りちゃおうよ」の話をして終わったりもしました。あえて疲れることを怠けるところまで行かなくてもいいと思うんですけども、選択的に捨てるところは捨てていく意思決定もありなのかなと思います。
どうせ女は、とか、若いのに、下っ端のくせにとかは画一的な人間観の押し付けなんですよね、もともと。なんで、ことに対する小さな抵抗、「私が怠けているんです」なんて言わなくていいので、やっていきましょうというメッセージをお伝えしたいと思います。
「全力か怠けるか」の二択を超えたグラデーションへ
武田:めっちゃ働くか、怠けるかの2つしかないとなかなかしんどいわけで、自分が主体的によりものすごく働く選択肢があってもいいと思うし、怠ける選択肢があってもいいと思います。
その間に5段階でも10段階でもいろんな段階の働き方の選択があれば、当然何かケアをする場面もあるだろうし、女性であれば出産をしていったん休んでの選択肢も出てくるだろうし。そこに1か2しかないと、しんどいけれどもですね。
勅使川原:おっしゃるとおりですね。なんとなく0・1で考えがちなんですけども、ここは本当にグラデーションの話かなと思いますし、大きな変革はしなくていいんだと、小さなことから始められることはあるかなという気がします。
なので私、冒頭で挙げた日経新聞の記事の終わりのように、「怠けて怠けて怠けて怠けて怠けて参りましょう」とは言わないです。自分を大事に働く方法はあると思います。自分なりの方法もありますので、世間的にどうかじゃなくて探し続けていきましょう。
社会としても一部の誰かの問題じゃないんですよね、これ。私たち、WEなんですよ。私たちの問題として考えていきたいし。
あとは国際女性デーのイベントで何度も出てきた言葉として、みなさん失敗しまくっているんですよ。いっぱい試してめちゃくちゃ失敗している方々のお話を聞けたのは、すごく心強かったです。失敗していいんですよね。それが働くことのこれからを作るのかなという気がしました。
武田:2013年にシェリル・サンドバーグさんの『LEAN IN(リーン・イン)』という本が出て、けっこう影響を受けた言説がばーっと出ました。
もちろんガラスの天井をぶち壊していくのも大事なことで、その仕組みを作ったのはまさに非常に男性的な社会だったわけだから、それを壊すことも大事です。大事ではあるんだけれども、それが1つの規範となって、ぶち壊すことだけになってしまうと、「いやそんなのなかなかできませんよ」となってしまうんですよね。
勅使川原:そうなんですよ。ぶち壊す人がいてもいいんですけど、みんながみんな同じことをしなくてもいいんだよ、というのが大事なポイントかな、と思います。
武田:なんかそういう、国際女性デーでいろんな方の話を聞いて語りがいろんなバリエーションがあったことは、けっこう変わって、NewsPicksとか当初のイメージだと、ガラスの天井をぶち壊すぞ系って。偏見も込みかもしれないけれど、そういうイメージがありましたけど、やっぱり語りも徐々に変わってきているんでしょうね。
勅使川原:いやあ、なので本当に衝撃を受けました。イベントで感動することあるんだなと思うぐらい。
武田:そういう変化を見ていくと。
勅使川原:本当にそうですね。
西村:このコーナーはポッドキャスト「PodcastQR」でも配信しています。ぜひチェックしてください。ラジマガコラム、『勅使川原真衣の「今日もマイペースで」』でした。