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勅使川原真衣の今日もマイペースで(全10記事)

「言語化が得意=仕事ができる人」という評価は思い込み 人事評価に20年関わった専門家が明かす、組織が陥る本質的な誤り [2/2]

「あうんの呼吸」が失われたのではなく、消えたのは“余白”だった

勅使川原:先ほど紹介した日経新聞の記事、タイトルの中にも「あうんの呼吸」というのが出てきました。あうんの呼吸がなくなっちゃったよねとノスタルジックに語る前にぜひ考えたい。

あうんの呼吸がなくなって困るね、じゃなくて、これまでそう呼んでいたものは何だったのか。私は推察ですが、「言葉を省略してもわかり合える」という意味でのあうんの呼吸は、そもそもなかったんじゃないかと思っているんです。

そうじゃなくて、「迷いを共有できる時間的な余裕」が、実はあうんの呼吸と呼ばれているものには含まれていたんじゃないかと考えています。

うまく言えない時間を待ってあげるとか、後から言い直しても当たり前のように受け止めるとか、相手に合わせてやり方を変えるみたいな意味での「余白」と言いますか、そういったものを前提に、あうんというのは使われていたんじゃないのかなと思ったりします。

でも今、私たちはその意味ではあうんの呼吸がなくなったというか、とにかく時間がないんですよね。急かされております。タイパ良く生産的に生きないと駄目な人みたいに思われます。

「駄目な人って思われているんじゃないかな」って自分自身でもその評価を非常に恣意性があるのに内面化してしまうことが起きているように思います。そうなると「すぐ言え」「今言え」「すぐに表明しろ」。

沈黙しちゃったなら、あとは自己責任ですよというところまでセットになるわけですけど、どう考えても乱暴ですよね。そして今、優位にいる人の「勝ち逃げ」を許す構造に加担することにもなると思います。

武田:例えば勅使川原部長の下で僕が働いているとして、これまでだったら勅使川原部長が出勤してきて「あ、なんか忙しそうだな」とか「今日機嫌悪そうだな」とか、そういうのをちょっと察知しながら「あの仕事早めにやっておいたほうがいいかな」とか、自分なりに考えて、という仕事のやり方も嫌だなと思うし。

かといって勅使川原部長が出勤してきた時に「あの、今日僕は何をどこまでやればいいでしょうか」みたいなことを、最低限の話しかせずに、タスクをやりきるだけになると、いわゆる社の雰囲気みたいなものはかなりパキッパリッとしちゃうところがありますよね。

たぶん、昔ながらの働き方からすると、「同じ釜の飯を食う」って嫌な、好きじゃない言葉だけど、そういうちょっと顔色を察知しながら動かしていくみたいなこともあったりするわけですから、両方嫌だなっていう、だから一人で働いているのかもしれませんけど(笑)。

勅使川原:気持ちはすごくわかります。ただもう若い世代は、タイパ社会、SNSがある社会を前提としているので、ここは若い人にもっと察しろよは通用しないのかなという気はしますよね。歩み寄るべき場所はまだありそうな気が確かにします。

「モラルハザード」という言葉に潜む、政策的意図を読み解く

勅使川原:あと、今まで言語化ブームの話を、私たちが「思っていることを言える力」を求められているねという話をしてきたと思うんですが、まだ考えるところがあるように思います。

思うのは、「自分に合った形式を選ぶ自由」も同時に守られる必要があるなと思いますし、応用編としてはがんばるべき点として、「相手に合った形式」「相手に伝わる形式」を選んでみることも必要かなと思って、『組織の違和感』という本にも書いていますので、よかったら見てください。

「こういう人がいいよね」という世の評価軸って恣意的なんですよ。このからくりはぜひ知ってほしいなと思います。

そして今、発話者、話す人の側の言語化という話をしてきましたが、受け手側もできることがあると思っていて、その話を最後にしたいと思います。

これを考えたきっかけは、2月26日の参院代表質問の時に、高市氏(高市早苗氏)が奨学金政策を巡って「モラルハザード」という言葉を使ったのを覚えていらっしゃいますでしょうか。

武田:話題になりましたね。

勅使川原:立憲(民主党)から問われた時に、「必要のない奨学金を借りるモラルハザードが起こる可能性がある」云々かんぬんがあると答えて、慎重な姿勢を見せたというところなんですけども。

これに対してSNSを見ていると、「あなたのモラルで言ってほしくない」とか、「あなた程度のモラルだったらそっちのほうがモラルハザードでしょう」みたいな批判が、有力な論客と呼ばれるような方からも出ていました。

確かにそれもそうですよね、政治と金の話をしておいて何をやっているんだって感じがしますけども。一方で、もっと私たち国民も踏み込む必要があるんじゃないかなと思っています。

例えば、日本の政治でこの「モラルハザード」って言葉が出てきたら、これを調べないといけない。とっても怪しい言葉なんです。私の集英社新書の『働くということ』という代表作があるんですけども、そこでも詳説させてもらいましたが、1999年の同じ2月26日、当時の小渕政権の経済戦略会議の答申で出てきます。

ちょっと読みます。「がんばってもがんばらなくても結果はそれほど変わらない護送船団的な状況が続くならば、いわゆるモラルハザードが社会全体に蔓延する」。

武田:どういうことですか、これ。

勅使川原:そしてちょっと続けますね。「過度な規制・保護をベースとした行き過ぎた平等社会に決別し、自己責任と自助努力をベースとする小さな政府へ向かっていきましょうよ」ってことを、日本再生会議の中で言っているわけなんですよね。

武田:今につながってくるというか、ここから始まったんじゃないかぐらいの感じですね。

1999年の答申から続く、自己責任社会の流れ

勅使川原:本当におっしゃるとおりなんです。モラルハザードって別に経済用語の中のことを使っているわけじゃなくて、「社会保障を削るための理論的な前置き」として使われてきた歴史・過去としてあります。

実際に99年の答申の後どうなりました? 雇用を流動化して、非正規を拡大しました。自己責任論なんてまあ一般化しましたよね。すべて地続きだったことを思うと、今再びモラルハザードが出てくる、これは怖いですよ。

しかも奨学金の話から今回は出ましたけども、もう狙っているじゃないですか、社会保障。縮減しようとしています。そして自己負担を増大させようとしていますよね。これは高額療養費制度なんかを考えてもわかっちゃいますよね。予兆だと考えるべきだと思います。

もっと接続させると、先々週でしたっけ、裁量労働制の議論、最初のニュースで扱ったと思いますが、こういうのも「あ、裁量労働制か、まあそういう時代かな」とかじゃなくて。

やはり話を受ける側が「ん? 裁量って言っているのは誰にとっての裁量なんだろうか」とか、「自律」とか「柔軟な働き方」であるとか、「成長戦略」「規制緩和」という言葉とセットで語られますが、「これによって得するのは誰ですか?」と。

「国民会議」の「国民」も、しれっと下げて変えていますけども、そういった言葉に敏感になりつつ、言語化能力をつけましょうだけじゃなくて、我々が蒙るべき点というのはまだあるように思えてならないんですよね。

武田:まさに今回のモラルハザードという言葉が出てきた時に、かつてどういうふうに使われていたのかということを比較してみると。

今高市さんがどういうつもりで使ったのかわかりませんけれども、「昔はこういう使われ方をしていた」ということを比較してみると、「ん? 大丈夫なのか?」というふうに思うことができますもんね。

勅使川原:いや本当に、2月26日に合わせるというのも、なんか偶然と思えないんですよね。「いつか言ってやろう」って思ってたんじゃないかなって気もします。

難しいのはSNSは早くやらなきゃいけないので、「調べている時間が取れない」となってしまうのが、一番国民にとっても損なんですよね。ゆっくりやっていきましょうと思います、そこのところは。

武田:今本当に半日ぐらいで話題がどんどん流れていく感じがありますからね。夜寝て朝起きると話題がガラッと変わっている。その流れの速さで得をしてしまう人が、それこそ逃げ切るとか、そういうことが起きてしまうことがありますからね。

西村:このコーナーはポッドキャスト「PodcastQR」でも配信しています。ぜひチェックしてください。ラジマガコラム、『勅使川原真衣の「今日もマイペースで」』でした。

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