【3行要約】
・日本は「ルールに基づく国際秩序」を掲げてきましたが、米・イスラエルのイラン攻撃支持でダブルスタンダードが露わになっています。
・ 中島岳志氏は、1648年来のウエストファリア体制が今や崩壊し、強国が国際法を自国益のための道具に使う時代が到来したと指摘します。
・ 日本は日米安保・敵基地攻撃能力・メディア報道のあり方を、今回の事態を「他山の石」として根本から問い直す必要があります。
アメリカのイラン攻撃を「支持」した日本が、中国・ロシアをもう批判できない理由
西村志野氏(以下、西村):ここからは前半レギュラー、火曜日は中島岳志さんのコラム『中島岳志と解く』です。今日はどんなお話でしょうか。
中島岳志氏(以下、中島): アメリカとイスラエルのイラン攻撃についてお話ししたいと思います。
西村:先ほどニュースで、ホルムズ海峡周辺が事実上の封鎖状態とお伝えしましたが、新しい情報が入ってきまして、イランはホルムズ海峡を封鎖したと発表したということです。実際に封鎖したということですね。
中島:もう一段階踏み込んだという、重要なニュースですね。さらにここから我々がこのニュースを見ていくには、イランが「機雷」を仕掛けるかどうかです。これが仕掛けられると大変なんです。かなり長期化していくことになるので、そこをじっくりとニュースを見ていきたいなと思います。
武田砂鉄氏(以下、武田):はい。
中島:アメリカ・イスラエルの攻撃ですが、まず確認しないといけないのは、これは明確な国際法違反であることです。もう国際法があってないような状態になっていて、法の秩序とか、ルールに基づく秩序みたいなものが崩壊してしまっている。
本当にむき出しの強国、強い国のパワーゲーム、パワーポリティクスの時代に入ってしまっているということです。大変な、僕が生きている間にこういう状態になるとは思っていなかったですね。そんな状況になっています。
日本もこれまで国際社会における法の秩序とか、ルールに基づく国際秩序が重要だと言い続けてきたわけです。
こう言ってきた、こういうものを価値観として共有している国々のネットワークが重要なのだという価値観外交をやってきたわけですけれど、これは中国や北朝鮮に対する一種の当てつけで、「ちゃんと秩序を守りましょうよ」という言い分だったわけです。
ところが、アメリカのイラン攻撃に対して、日本はこれを支持しているわけですよ。とすると完全なダブルスタンダードであって、結局これから中国とかロシアに対して日本は非難できるんですかと。「結局アメリカがやっていることに追随しているじゃないか」と言われてしまうと、もう日本としては言い返すことができない状況になっているわけです。
これは日本だけではなくて、例えばオーストラリアの首相もアメリカと共に声明を出して、「イランの体制転覆を支持した」なんていうニュースがありました。ヨーロッパの西側諸国も足並みを揃えているわけですね。
こうなると国際法に基づく国際秩序っていったい何なんですかと。もう世界はこれを手放してしまったんですかという状態なんです。
一方でロシアのプーチン大統領が、今回のアメリカの行動は「人間の道徳や国際法を踏みにじった」と批判していて、もういろんなものがねじれてしまっている。
結局、国際法とか国際秩序という言葉が、自分たちの国益のために都合よく使うアイテムみたいなものに成り下がってしまっているんだと思うんです。こういう時代がやってきてしまった。無秩序というのは非常に怖い状態なんですが、こういう状態が来てしまっている。
1648年から築いてきた世界秩序が「ちゃぶ台返し」に、ウエストファリア体制の崩壊
中島:国際社会はずっとこれを育ててきたわけなんですね。「ウエストファリア体制」という言い方をしたりするんですが、ウエストファリア条約って昔学校で習ったと思いますが、1648年に三十年戦争というヨーロッパの戦争があって、これの結果、ちゃんと戦争しないでルールを決めましょうということでウエストファリア条約が結ばれました。
ここから内政不干渉とか、主権国家同士の国際法の順守とか、いろんなものを確認し合って、これを何世紀にもわたって育ててきたんです。これがまたちゃぶ台返しになっていて、ここからどうやって世界秩序を組み立て直すのというのが問われているような、そんな大きな状況に今直面していると思います。
じゃあ正当性がアメリカ・イスラエルの今回の攻撃にあったのかというと、差し迫った、イランがここで急に核開発を成し遂げるとか、あるいはイランがどこかの周辺国に対して攻撃をするなんていう予兆はなかったんですね。ずっと交渉が続いている中での爆撃ですから、正当性すらないわけです。
イスラエルはどう言っているかというと、先制攻撃については「イスラエルには自衛権がある」と、自衛権の発動だと言っている。アメリカも「イランによる先制攻撃の兆候を把握したために攻撃に踏み切った」と言っているんですが、じゃあ侵略戦争って何なのかという定義の問題になるんです。
あらゆる戦争は、やっぱり「自衛」を掲げて行われるんですよ。自分たちが脅威に感じた、だから攻撃をするんだとして、すべてが自衛なんだと言って今回の戦争も行われているわけですけれど、これを国際法に問えないことになってしまうと、あらゆる戦争が野放しになってしまう。こういう状況なんだと思うんです。
武田:トランプ大統領の動きをいろいろ追っていると、ベネズエラで、彼の言い分の中ではあれはうまくいったと。ああいうやり方ができるんだったら、じゃあ今回も同じように奇襲を仕掛けて、あとはそこにいる民たちでなんとかやってくれと言う。
これは明確な国際法違反なわけですけれども、これが彼の中でOKってことになってしまったら、じゃあ次はこの国、次はこの国。トランプがああいうやり方をやってるんだったら、じゃあ自分たちもこういうやり方をやろうかとなってくると、本当に中島さんの言うように秩序というものが、もう本当に瓦解してしまいますもんね。
中島:そうなんですよね。いわゆる「斬首作戦」と言われている、これはもうハンティングですよね、というのがどんどんあっちこっちで起こっている。
自分が気に入らないトップがいたら、その国のトップを殺してしまったり拉致してしまったりするということですけれども、その後はもう知ったこっちゃないという感じです。
「気に入らない元首を殺しちまえ」という戦前日本の方法、閔妃暗殺・張作霖爆殺が生んだ100年の恨み
中島:かつてのアメリカは、これも別に肯定するわけではまったくないですけれど、そこに民主主義をちゃんと導入するために、例えばイラクに対して攻撃をするとか、その後の秩序をアメリカが立て直すんだとか、そういう理念がまだあったんですよね。それがいいとは、ぜんぜん思わないですけれども。
しかし今回はもうそれすらないですよね。「気に入らない元首をとにかく殺しちまえ」という方法で、これは戦前の日本がけっこうやってきた方法だったんですよ。
例えば「閔妃(ミンビ)暗殺」がありましたが、日清戦争のあとに朝鮮半島の利権を手に入れようとして、実質上の政治を握っていた閔妃を王宮の中で殺害することをしたんですけれども。
結果どうなったかというと、閔妃の夫である高宗(コジョン)というトップはロシアに接近していくんですね。そのことによって日露戦争とか、今度はさらに強国と日本は戦わないといけないという状況に追い込まれていくわけです。
あるいは「張作霖(チョウサクリン)爆殺」もありましたけれども、これも結局のところその後の秩序をうまく立て直すことができなくて、満州事変、日中戦争という泥沼にはまっていくわけですね。
だからこの斬首作戦が後の見取り図を描けているかというと、ほとんどの場合描けていないんです。ベネズエラについても、じゃあ何かうまい秩序ができたかというと、ぜんぜんそんなわけないですよね。イランもやはり混乱が生じるとともに、やっぱり長い恨みを買うんですよ。
閔妃暗殺をやったことによって、日本は今に至るまで100年間にわたって、朝鮮半島の人たちからいろいろと恨みを買ってきているわけですよね。あるいは張作霖爆殺も同様だと思いますけども、そういう思いをイランの人たちに植え付けているのも、よく理解しないといけないですね。
武田:プーチンなりロシア、中国、そして北朝鮮、今回の行動についてこれはどうなるかと声明を出しますけれども。
その一方で、「これが可能だったら自分たちもこういうふうに同じことをやっても、さすがに何も言ってこないですよね、文句言えないですよね」という前提を作ってしまったことでもありますもんね。
中島:そうなんですよ。だからこれが日本にとって、東アジアにとってどういう影響をもたらすのか。台湾海峡の問題もありますけれども、非常に重要だと思うんです。
この時に注目しないといけないのは、イランの反撃なんです。イランは例えばドバイの空港が爆破されている映像って日本でもたくさん流れていると思います。あるいはUAEとかバーレーンもイランが攻撃をしているんですけれども、今アメリカがここを守れているかなんですよ。
ぜんぜん守れていないですよね。民間施設とか爆撃され放題になっているわけです。
日本は日米安保があって、どっかの国が日本を攻めてきたらアメリカが守ってくれるとみんな思っているし、それを前提にいろんなことを組み立てているんですけれど、アメリカは今回、ぜんぜんイランの攻撃からの防御ができていないんです。
さらに米軍は、イランの短距離ミサイルの射程圏内にある基地から実は退避しているんですよね。つまり自分たちの基地をちゃんと守らないといけないということで、そこを防御しようともしていないんです。つまりこれ、台湾有事とかがあったらどうなるんですかと。
米軍が日本を守ってくれていると思っているけれど、もし短距離ミサイルが届くような沖縄とかいろんな基地がありますけども、そういうところを最前線とするかというと、そこから撤退する可能性があるわけですよね。
そうするとやっぱり自国で守らないといけない。むしろ日米安保があることによって標的とされる可能性のほうが大きい可能性がある。それを現に今回示しているんだと思うんです。
ですからこの日米安保、あるいは日本の安全保障の問題も、今回のをよく見て根本的に考え直さないといけない事態なんじゃないかなと思いますね。
武田:今のところ日本政府は、今回の攻撃についてアメリカ側・イスラエル側を批判するということはなかなかしていないわけですけれど。
今月、高市さんがこのままの予定で行けばトランプ大統領と会って会談をするという流れもありますけれども、日本政府はなかなか具体的には批判できない。
その事情というか理由というか、わかる・わからないは別として、「ああ言わないんだ」という一つの事実もありますもんね。
中島:そうなんですよね。