「米軍は本当に日本を守れるか」台湾有事で沖縄基地から撤退するリスクと日米安保の限界
中島:ですからこれが中国とか、あるいはさまざまな周辺諸国にどういう理由付けを与えてしまうのかについても慎重にならないといけないですね。
だから結局日米安保って何のためにあるのか。「アメリカから攻撃されない」という、その約束事みたいなものにもう成り下がってしまっている。
それもわかんないですよね、アメリカが気に入らないところがあったら突然攻撃をしちゃうわけですから。そんなことが許されるのであれば、安全保障体制っていったい何なんですかということが問われていると思います。
もう一つはやっぱりこの「敵基地先制攻撃」という問題についても、日本はよく考えたほうが今回から見えてくる問題があるんだと思うんです。
要はイスラエルとかアメリカは「イランが攻撃しようとしている」と。なのでその先に敵基地を先制攻撃して、その攻撃をストップさせるんだというのが今回の「自衛」という名目なわけですね。それで攻撃をしたわけです。
しかし今さまざまな周辺国に対してイランの攻撃はずっと続いているわけです。つまり敵基地を攻撃しても、イランからの反撃がどんどん起こって、実はアメリカは対応が難しくなっているんだと思います。
トランプは当初「数日間のうちに収まるだろう」と言っていたんですけれど、昨日のニュースでは「4週間程度で」と言い直しているんですね。
これはやっぱり作戦がうまくいっていないという、想定外のことが起きているということなんだと思うんですけれども。それぐらい敵基地を攻撃してもどんどん攻撃(反撃)がなされていくわけです。
岸田内閣の時に、この敵基地先制攻撃について日本が踏み込むんだって話が出てきたわけなんですけれども、これ相当大きな報復を覚悟しないといけないことが今回示されているわけです。
圧倒的ですよ、アメリカとイスラエルとイランだと圧倒的な攻撃能力の差があるにもかかわらず、周辺国はものすごい大きな打撃を受けているわけです。
なので日本の場合、例えば中国が1つの想定になるわけですね。日本と中国だと中国のほうが圧倒的に軍事的な力を持っているわけです。なのでそこに対する敵基地先制攻撃能力を持つと言ったって、その仕返し・報復は日本国民にとって計り知れないような打撃があるようなことになるわけです。
これも非現実的な議論だということについて、よく今回起きていることを日本は他山の石として見つめておかないといけないと思いますね。
「数日で終わる」はずが泥沼化、経済合理性を超えたイランの「国を賭けた反撃」の意味
武田:最初は数日と言っていたのが数週間後、4週間か5週間は続くのではないかと言っていた。でもこれはそれ以上延びると、それこそ経済の影響とか、今トランプの国内での支持率というのはそんなに高くないし、今回の攻撃についても反対が世論調査なんか取るとパーセンテージ高いってことになると、どういうふうに終わらせようとするのかも、彼自身の中では現状わかってはない。
中島:ぜんぜんわかっていないと思いますね。で、さっきのニュースでイランがホルムズ海峡封鎖に踏み込んだというニュースなんですけれども、これも想定外だと思うんです。
というのは普通に経済合理性から考えて、イランがこのホルムズ海峡を封鎖することは自国の利益にもならないんですね。だって石油で生きている国ですから、やっぱり自分の首を絞めるということで「そんなことしないだろう」とみんな思ってきた節があるんですけれども。
経済合理性を超えた理屈が、イランの側で働いているということなんですよ。つまり「そんなどころじゃない」と。「自分たちはその国を賭けて反撃をするんだ、困らせてやるんだ」という、そういう意思表示なんですよね。
ですからこれけっこう、みんなが想定している以上にシリアスな事態に踏み込んでいっていると考えたほうがよくて、いったいこういう攻撃が何をもたらすのかということ。よく世界は頭を冷やしたほうがいいと思いますね。
武田:イランからの反撃によってアメリカの方が何人か亡くなられてしまった。そしたらトランプは言葉遣いとして「報復が必要だ」と。つまり自分たち側から攻撃を仕掛けておいて、その反撃によって亡くなられた方が出ると今度は「報復」という言葉を使うわけですよね。
そうするとやっぱりトランプの言い分もどんどん変わってきて、ここ数日の流れをきちっと追えばわかることさえも、彼の中ではなかったことにして「やられた側なんだ」みたいな言い分もこれから恐らく使っていくことになるわけでしょうけどね。
中島:そうですね。
戦闘シーンを流し続ける報道が「怖いイラン」イメージを作る、エドワード・サイードの警告
中島:それプラス、アメリカ、まあ日本も気をつけないといけないんですけども、これを巡る報道のあり方もすごい重要で、エドワード・サイードという思想家がいてもう亡くなってるんですけども、彼が『
オリエンタリズム』という本を書いたことで有名な人なんですが、この人が『
カバーリング・イスラム(イスラム報道)』という本を書いているんですね。
これはどういう本かというと、1981年に出版されているんですが、1979年にイラン革命があったんです。
今回ハメネイという人が殺されましたけれど、その前はホメイニさんという人がイスラム革命をやって、イランがイスラム国家になった。この時アメリカと敵対したんですね。アメリカ大使館が襲われたりしたのがあって、アメリカは徹底的にイランに対して、ネガティブな報道をずっとしてきたんです。
イランはとにかく民主主義だったものが突然イスラム原理主義的なものへと回帰しているということで、どんどんイランに対して非常にネガティブな報道をした。
この報道がどういう効果を持ったのかということを、このサイード氏は検証しているんですね。結局のところ、常にイスラム世界についてアメリカが報道で映す映像が戦闘シーンだったり、テロのシーンだったり、そういうものばっかりをずっと映し続けると。
そうしていると、それをずっとテレビで視聴しているアメリカ人はどういう感覚になっていくかというと、「イスラムってやばいな、好戦的だな、怖いな」となっていく。「あいつらとは違って、理性的に物事を判断できる俺たち」みたいな、そういう二分法をずっと描き続けると。
この報道が、顎髭の生えたムスリムを見ると怖いと思ってしまったり、というような潜在的な脅威の認識につながっていくと。
だから『カバリング・イスラム』、そのイスラムを報道することは、イスラムをカバー、見えなくしてしまうという行為そのものである政治効果を持っているんだというのが、『オリエンタリズム』を書いたエドワード・サイードの主張だったんですね。
日本のメディアも気をつけないといけないですね。やっぱりイランという国に対する一つのイメージ、「これ怖い国だ」と思ってしまうと思うんですけれど。僕自身一番初めに行った海外はイランだったんですけども、本当にテヘランに夜着いた時は怖いなとちょっと思ったんですけども。
次の日の朝、何かそういうイメージとしては好戦的なというのがどっかで潜在的には僕の中にもあったんだと思うんですが、テヘランの街に出て行くと、当たり前ですけれどもみんながニコニコしていて。
それで「今日のお昼ご飯何食べようか」と考えたり、普通に恋をしたり、いろいろなことをしているわけですね。当たり前の日常があるんだってことを僕は、当たり前のことを知って、「そりゃそうだよね」と思ったことがあるんですけれども。
やっぱりイランを巡って今、戦闘シーンばっかりが映っていると思うんですけれど、イランの本当に普通の日常があるってことも、僕たちはちゃんと理解をしておく必要があるなと思いますね。
武田:ベネズエラのことにしてもそうですし今回のイランもそうですけども。あの爆撃によって喜んでいる人たちも現地にいるんだよというような映像が出ますよね。
それはいろんな考えの人がいますけれども、でもそういった映像をそれこそたくさん見ることによって、国際法に明確に違反をしているあの爆撃・攻撃自体がどこかで肯定されてしまうというような、そういう流れにならないようにしないといけないなというのは、ここ数日見てて思いますけどもね。
中島:本当にそうですね。イランの中でも、ハメネイという人を全面的に肯定しているわけではないです。彼が人権侵害をやってきたこと、反体制派を抑圧してきたことは強調しないといけないですが。
だからといって、ハメネイを虐殺、暗殺することが正当化されてはならないということも、同時並行で言わないといけないと思います。
西村:このコーナーは「PodcastQR」でも配信しています。ラジマガコラム『中島岳志と解く』でした。