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中島岳志と解く(全5記事)

「なぜ息子が捕まったんですか」「それ自体が秘密です」と言われた父親の話 スパイ防止法と酷似する戦前「軍機保護法」が生んだ、見せしめ逮捕の実態 [1/2]

【3行要約】
・スパイ防止法の議論が夏にも本格化する一方、国民の自主規制を招く危険性が注目されています。
・ 中島岳志氏は、戦前の軍機保護法改正後に見せしめ逮捕が忖度の連鎖を生んだ歴史を踏まえ、「監視されている」という意識こそが最もローコストな支配装置だと指摘します。
・ 市民・メディア・学者は「普通の人は大丈夫」という言葉に安心せず、誰が「普通」を定義するのかを問い続け、権力側の透明性を厳しく監視すべきです。

「スパイ防止法はなぜ危ないのか」 この夏にも本格議論が始まる

西村志野氏(以下、西村):ここからは前半レギュラー、火曜日は中島岳志さんのコラム『中島岳志と解く』です。今日はどんなお話でしょうか。

中島岳志氏(以下、中島): はい。「スパイ防止法はなぜ危ないのか」というテーマでお話ししたいと思います。

今朝の朝日新聞に独自取材ということで、「スパイ防止法 夏にも本格的な議論へ」という記事が出ています。高市早苗首相が制定に意欲を示すスパイ防止法について、政府はこの夏にも有識者会議を設置する方向で調整に入ったと。

18日招集の特別国会で、インテリジェンス政策の司令塔となる国家情報局の創設に必要な法律を成立させた後に、スパイ防止法案の具体的な議論を始める見通しだというニュースがドンと出ているんですね。

武田砂鉄氏(以下、武田):はい。

中島: このスパイ防止法とはいったい何なんだということですが、朝日新聞でも、法案の内容次第では国民のプライバシーの侵害や表現、報道の自由の制約につながりかねないと出てきているんですね。現行法の特定秘密保護法が2013年に通っていますが、これが防衛や外交に限定されたものであるのに対して、もっと範囲が広くなると。

スパイ防止とはいったい何なのかという定義は非常に曖昧なので、私たちの日常生活にまで関係してくるんじゃないかという懸念が示されているんです。ただ、ちょっとピンとこないところはあると思うんです。

「いや、私は別にそんなスパイ防止とかそんなに引っかかることないよね。だから関係ないんじゃないか」と思っている方がいらっしゃると思うんですが、そういうわけにはいきませんよ、ということをちょっと考えてみたいと思います。

ニュースや今日の新聞でも、報道の自由や表現の自由の制約につながりかねないと出てきているんですが、どういうことかというと、実際に権力がこういうものを弾圧するということだけではなくて、私たちの中に自主規制が働いてしまうというのが、この法律の非常に大きなポイントだと思うんです。

フーコーが描いた権力装置「パノプティコン」 監視される恐怖が生む服従

中島: ちょっとだけ理論的なお話をしたいんですが、フランスの哲学者でミシェル・フーコーという人がいたんですが、この人が『監獄の誕生』という本を昔書いているんですね。政治学をやる時には必ず読まないといけないという、権力論の重要な本なんですが、フーコーという人は、刑罰の歴史を見ていくとその時代時代の権力のあり方がよく見えてくると考えて、刑罰の歴史をずっと追っかけていったんです。

近代になると新しいタイプの刑務所、監獄が生まれるというんです。これを「パノプティコン」と呼んでいるんですが、一望監視施設というんですが、このパノプティコンはどういう特徴があるのかというと、一つはドーナツ型の建物なんですね。

そこに個室がずーっと並んでいて、真ん中に監視塔があるという、ちっちゃい東京ドームみたいな感じを思い浮かべていただけたらいいと思うんですが、その中にもあるという。個人自身が、これまでは20人とかの集合で監獄に入れられていたのが、個室になっていくんですね。孤立させられるということです。

同時に真ん中に監視塔があるんですが、重要なのはこの監視塔の造りなんです。監視塔の中からは囚人が見渡せるんですね、360度。けれども、囚人の側からは監視塔の中が見えない仕組みになっているんです。ライトの当て方とかによって中が見えないと。

こういうようなパノプティコンを作ると、どうなっていくのかというんですね。囚人になってみるとですね、やっぱり一番気になるのは監視員ですよね。監視員が自分を見ているかどうかが気になるわけです。けれどもいくら目を凝らしても、真ん中の監視塔の中が見えないんですよ。

「俺のこと見てるのかな? どうなのかな?」とずっと思っていると、見られているということを前提に行動し始めるようなんですね。見られているに違いない、見られているということを前提に行動しよう、となっていくと、みんなが規律正しく、権力の思いを受けてどんどん規律化されていく、というのがパノプティコンだというんですね。

これ、「権力の眼差し」の内面化が起きているというわけなんですが。

武田:そこに監視する人が本当はいなかったとしても、「たぶんいるんだろうな」と思うってことは、そうすると監視する側は楽ちんですよね。いなくてもいいから。

監視塔は空っぽでいい 「見られている」と思わせることが最も効率的な支配

中島:おっしゃるとおりなんです。これが一番のポイントなんですよね。つまりこの監視塔の中は空っぽでいいんです。監視している人間がいるかどうかが問題じゃないんです。つまり統治にとって重要なのは監視することじゃなくて、監視されていると思わせることなんです。

「見られている」と思うことが、最もローコストで効率的で効果的に支配を進めていく方法であるというのが、フーコーがこの「眼差しの内面化」「権力の眼差しの内面化」といったことなんですね。

例えば監視カメラっておもしろいなと思うんですが、秋葉原に行って「おお、こんなの売ってんだ」と思ったのは、監視カメラってそれ自体はけっこう高いんですが、監視カメラの「ガワ」だけっていうのを売ってるんですよね。つまり中身が空っぽなんですよ。外見だけ売ってるんです。これ何千円とかで売ってるんですね。

つまりこれだけでけっこう効果があるわけですよね。家に監視カメラをつけると。本当に電気を引っ張って録画をするとなるとお金がかかるんだけれども、ガワだけつけてても泥棒側からすると、「あそこ監視カメラつけてる。見られてるかもしれない。やめておこう」となるわけですよね。

武田:もうガワだけじゃなくて、シールだけっていうのもありますからね。「録画中です」とかね。

中島:そうですよね。セキュリティ会社のね。そうすると、重要なのは本当に見ているかどうかよりも、「見られている」という思いを相手に内面化させることが効果的であるという作用だと思うんです。

こういう権力が実は戦前期に非常に大きく働いたというのがあって、これがスパイ防止法とよく似ているんですね。「軍機機密保護法」という法律が戦前にはありました。「軍機保護法」と略されたりするんですが、これは1899年に制定された法律で、日清戦争と日露戦争の間に制定されたんですね。

なんでこんな時に制定されたかというと、日本の軍人さんでロシアに情報を流しちゃう人とかが出て、これ「露探」と当時言われたんですが、これを防ぐために軍人に対する法律としてこの軍機保護法というのはできたんですが、この法律が1937年に改正されるんです。軍機保護法改正というのがありました。

大きな改正点は何かというと、対象者を広げるということだったんですね。軍人だけじゃなくて、公務員だけじゃなくて、一般市民もこの対象になりますよというふうに改正をされたんです。この時やっぱり日本国民もピンときてなかったんですよ。「いや、私そんな軍事機密とか関係ないし」と思っていて、けっこうあっさり通っているんですね。

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