【3行要約】
・選挙権は憲法上の権利として知られていますが、2回の引っ越しで投票できなくなる“制度のバグ”が問題視されています。
・ 弁護士を目指す司法修習生・井上氏は、非正規雇用増加などで転居が増える現代に、10年近く放置された欠陥制度を違憲と提訴しました。
・ 国政選挙における投票権は居住地にかかわらず保障されるべきであり、制度の抜本的な見直しを社会全体で求めていく必要があります。
引っ越し2回で“選挙権なし”に?司法修習生が国を提訴
西村志野氏(以下、西村):ここからは前半レギュラーのラジマガコラム、月曜日は三輪記子さんの『記子の気になる日本のほぉ~』です。今日はどんなお話でしょうか。
三輪記子氏(以下、三輪):今日は、2回の引っ越しで投票が不可能になってしまったことについて、司法修習生が違憲だとして国を訴えている事件についてお話ししたいと思います。
武田砂鉄氏(以下、武田):はい。
三輪:これですが、新聞などでご覧になった方もたくさんいると思います。能町みね子さんも、実は今回の選挙で同じことになったとつぶやいていらっしゃったと思います。
それが2月の5日くらいで、能町さんが「なんと今回私の選挙権がないことが判明した。選挙権ないとかあるの? びっくりした。わけがわからない。そんなことあるの?」と。そして「同じ内容がちょうど最近記事になっていて、さらにびっくりした」ということで、つぶやいていらっしゃいました。
先週、この前の土曜日にイベントでご一緒して、本当はそのイベントでもっと話そうと思ったのですが話せなかったので、今日に持ち越しました。
もう報道でご存じの方もいらっしゃると思いますが、今、司法修習をやっている井上さんという方が、選挙ができなかった、投票ができなかったということで訴訟を起こしています。それは去年の参議院議員選挙です。
それについて投票できなかったということで、投票ができない制度にしていることは、国がちゃんと制度を作るべきだったのにそれを怠ったからだ。それによって自分は投票できなくて傷ついたので、ちゃんと慰謝料を払ってくださいという訴訟を実はやっているという事案です。
これは「CALL4(コールフォー)」というところに資料、公共訴訟として全部上がっているので、今出ているものに関しては全部プリントアウトして、事件記録のようにつづって持ってきました。
まだ始まったばかりの訴訟なので、これから判決が出るにはまだまだ時間を要しますが、訴状について詳しく見ていきたいなと思います。
「3ヶ月ルール」が招く選挙人名簿の空白
三輪:これには「はじめに」が付いていて、なぜこういうことになっているかという説明がしてあるのですが、抜粋をしていきます。公職選挙法は、選挙の公示・告示の前日までの4ヶ月の間に、市町村をまたぐ転居を複数回した人の多くについて、その選挙権の行使を否定する構造になっています。
国政選挙と地方選挙はもちろん少しルールが違うというか、投票できる人の範囲が違います。違いますが、国政選挙において、国内、あるいは国外であっても同じだとは思いますが、偶然その直前に転居を繰り返したというだけで選挙権が行使できない。それは、まったく「それをしてもよい」という理由は見当たりませんよねと。
武田:そうですね。だって、その同じ国にいるわけですからね。
三輪:そうです。それに、選挙権を失われる、例えば選挙犯罪人とかでない限り、投票できないのはおかしいんじゃないですかと。ましてや参議院議員の比例代表選挙は、全国を一つの選挙区として投票が行われているわけですから。
国内、国外でもあったとしても、引っ越ししただけで投票できないというのはとても不合理ですよねということが書いてあるのです。
武田:そもそもの前提として、例えば港区に住んでいた人が千代田区に引っ越します。引っ越した途端に千代田区で区長選挙がありますよということになると、これはすぐにはさすがにはできないわけですよね。
三輪:そうなんです。そこが地方選挙と国政選挙の違いなんですが、これについてもけっこう詳しく訴状にいろいろ書いてあります。例えば、いろんな例外があって、都知事選が行われますと。東京都内で引っ越した人の選挙権を奪うことは妥当じゃないですよね。
武田:そうですよね。都内で引っ越しているわけですしね。
三輪:こういうパターンの場合には、投票権があったりするのです。だから、投票権がある・なしというのはけっこう複雑になってはいるものの、現状の公職選挙法上では、投票権がある人の名簿を調整するために、3ヶ月の転居で、どこの名簿にも名前がないことが生じてしまう。その名簿に名前が載らないことによって投票できない現象が生じてしまうというのが今の現状なのです。
国会では10年近く前から認識されていた“制度のバグ”
三輪:これについて、では国側はこの状況をまったく認識していなかったのかというと、実はそうではないということも訴状に書いてあるのです。例えばですが、2016年に公職選挙法の一部を改正する法律が成立して、この時に法案提出者の一人である北側一雄議員によって趣旨説明などがあったのです。そこにこういうふうな発言が議事録に残っています。
「現在、選挙人名簿に登録されるためには、選挙人名簿の登録基準日において、その住所地に3ヶ月以上居住していることが必要とされております。登録基準日との関係で、ある市町村に3ヶ月以上居住していても、登録基準日の直前に転居した者が、新住所地において選挙人名簿に登録されないうちに国政選挙があるようなケースがあります。そのようなケースでは、国政選挙の選挙権を有しているにもかかわらず、選挙人名簿に登録されていないため、実際に投票をすることができないこととなっております」
というふうに、この時点でもそういう制度のバグというか、制度の穴があるよということを認識されて、そういう質疑・議論がされていたのです。それはほかの議員からも同じような指摘がされていて、牧山弘恵議員の発言なんですが。
「実際、昔は定住が当然でしたけれども、今は非正規雇用も増えて住所が不安定化している傾向がございます。また経済活動の多様化によって、短期間に転居を繰り返す方も少なくないんですよね」
ということが指摘されているのです。これが10年近く前ですよね。そうであるにもかかわらず、この制度の穴について何も手当がされないまま2025年になっていて、この原告の井上さんは投票ができなかった。
なので、何も知らなくてこういうバグがあるということを知らずにその制度を放置していたのだったら仕方ないかもしれないけれど、そういうことをわかっていて、国会でその話も出ていたのに改正を行わずにずっと来た。
だからやっぱりそれを作為義務があったのに、手当をする義務があったのにしなかったから慰謝料を払ってくださいよというのが、この訴訟なのです。
武田:能町みね子さんと前にお話しした時に、能町さんのX(旧Twitter)に「そんなことも知らないんですか」みたいなリプライが来たみたいなことを、能町さんはちょっとお怒りでしたけど。でもなんか、その制度を知らなかった側がおかしいんだみたいなふうになっていて。
でも知らないし、そういうふうに例えば「え、自分選挙権ないんですか?」って言われた時に、何かいろいろバタバタ動いていたから自分がしょうがないんだみたいになって、声を上げなかった場合っていうのも、たぶんいっぱいあるわけですよね。
三輪:いっぱいあるし、今回の能町さんとかって特に、衆議院議員選挙があるって予測できないから。仮にこれを知っていたとしても、そこに合わせて、選挙に合わせて住民票の登録を変えるなんていう器用なことはできないと思います。
武田:そうですよね。だって誰も知らなかったですからね。ほぼ一人の脳内で決められた日程ですからね。
三輪:そうなんです。それは参議院議員選挙であったとしても、それがいつピンポイントで行われる選挙がここだということはわからないですし。