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木村草太の「今朝の一手」(全4記事)

「緊急事態だから仕方ない」で手続きが二の次になる危うさ 権力の濫用を防ぐ「立憲主義的な憲法らしさ」とは何か [1/2]

【3行要約】
・名人挑戦がかかる将棋の大一番で糸谷八段が放った初手「3六歩」は、通常の定石を外した衝撃的な一手として注目を集めました。
・ 木村草太氏は、この一手から「自分流を貫く姿勢」の重要性を読み取り、現在の憲法改正議論においても権力濫用を防ぐ手続きデザインの必要性を指摘しています。
・ 政治的な「風」に流されず、糸谷八段のように自分の役割を見失わないことが、今の日本社会に必要な姿勢ではないかと木村氏は問いかけています。

名人挑戦がかかる大一番で飛び出した、初手「3六歩」の衝撃

西村志野氏(以下、西村): ここからは前半レギュラーのラジマガコラム。火曜日は木村草太さんの『木村草太の「今朝の一手」』です。今日はどんなお話でしょうか。

木村草太氏(以下、木村):今朝の一手は、今年(2026年)1月27日、A級順位戦の糸谷(哲郎)八段の初手「3六歩」を紹介したいと思います。名人挑戦をかけた最上位のリーグA級順位戦で、ここまで全勝の永瀬(拓矢)九段と、1敗の糸谷八段が直接ぶつかる大注目の一局でした。

将棋の初手は、将棋に詳しい方や指したことがある方はよくご存じかと思いますが、角道を開ける「7六歩」か、飛車先を開ける「2六歩」から始まります。しかし、糸谷八段は「3六歩」というとても珍しい手を指しました。飛車の斜め横の歩を開ける手です。

このあと糸谷八段は、3六歩のスペースを利用して銀を繰り出し、迎え撃った永瀬九段が逆襲する展開となりました。最後に永瀬九段の攻めを振り切った糸谷八段が逆転勝利となる好一局でした。

この3六歩から私が受け取ったメッセージは、「大事な局面でこそ自分流を貫く姿勢の大切さ」です。糸谷八段は普段から、劣勢な局面で時間を使わずに強気に前に出るなど、他の棋士には見られないような手を連発します。この対局では、その強烈な個性が最後に勝利を呼び込む展開となりました。

武田砂鉄氏(以下、武田):この初手というのは、だいたい「7六歩」か「2六歩」で……。

木村:これで9割を超えるはずですね。

武田:へえー。

木村:なので非常に珍しい。野球でいうと初手バントぐらい珍しい手だと思います。

武田:9割がそれだと、やはり動揺は走るわけですか。

木村:「おお」と。しかもこんな大一番で、という衝撃のあるところでした。糸谷先生は、やはり意表を突いたり、他の人とは違う強烈な個性を発揮することが度々あるんですが、そういう局面でしたね。

武田:これで負けると「だからだよ」というふうに……。

木村:そこまで悪くなる手ではないんですけどね(笑)。

武田:簡単に真似てはいけないですよね、これは。

木村:そうですね。やはりかなり綿密な準備があってこそということです。

さて、先日の選挙の結果を受けまして、憲法改正まで議論されている状況ですが、この局面で強調したいのは憲法の「憲法らしさ」とは何かという点です。

立憲主義的な憲法は、権力に強い力を与えるときほど、その権力が濫用されないように慎重な手続きをデザインするところに「憲法らしさ」があります。

今話題となっている憲法の新しい提案の内容は、緊急時に国会議員の任期を延長できるようにしよう、選挙を延期して国会の機能を維持しようという提案、いわゆる「緊急事態条項」です。また、日本が武力攻撃を受けていない場合でも武力行使をできるようにしよう、いわゆる「9条改正」といったところが提案されています。

そもそも権限を与えるべきかという論点と同時に、もしその権限を与えるにしても、どんな手続きがあれば濫用されないかという論点についても注目することが重要です。

「自衛隊明記」は安全保障上きわめて問題のある提案

木村:例えば国会議員の任期延長ですが、現在の提案は自分の任期を自分で延ばせるようにする、つまり任期の延長を国会議員自身が決議で決められるようにしようという内容です。そうなると当然、権力者の濫用リスクは高くなります。

また、武力行使についても、隊員の安全をどう確保するのか、複雑な外交環境をどう調整するのかなど、慎重な検討と判断が必要です。その手続きとして、海外派兵の際に国会の事前承認を必要とするか、議会にどのような情報提供をするか、事態終了後の検証をどうやって行うかといったことを丁寧にデザインしなければいけません。

こういった任期の延長や武力行使について、「政権にすべてお任せします」「手続きなんてまどろっこしいことは気にしないでください」ということでは、やはり立憲主義的な憲法にはなりません。今後の改憲議論では、その改正提案はどのぐらい手続きを真剣に考えているかも問うてほしいです。

「緊急事態だ」「武力行使だ」と大きな話が出てきますと、ついつい手続きは二の次になってしまいがちですが、そういうときこそ「立憲主義的憲法らしさとは何か」を貫くことも大事ではないかということです。

武田:昨日、高市さんが会見を開いて、憲法改正についても当然考えていきたいと、「それは自民党の党是でありますから」とおっしゃっていましたが、これは実際に動き出す、踏み出そうとするわけでしょうか。

木村:そうですね。自民党だけで3分の2ということになると、当然従来から言ってきた憲法改正の提案を考えようということになるかと思います。ただ中身とは別に、今言ったように手続きのデザインというところもあわせて考えないと、まともに考えたということにはならないということです。

また手続き面でいうと、憲法に入れる手続きとは別に、言っていることを実際に憲法改正のプロセスに乗せるとどうなるかも考える必要があります。

例えば、「自衛隊は違憲の疑いがあるから明記しよう」という提案があったりするんですが、これは非常に浅はかな提案です。それは「自衛隊は違憲です」ということを国会が認めて憲法改正を発議することになるので、自衛隊に違憲の疑いをかけているんですね。

そういう提案をするということは、改憲が成立するまでの間は「自衛隊の活動を停止します」「解散します」と言わないと一貫しません。安全保障上きわめて重大な問題になる提案なんですが、それをけっこう気楽におっしゃる方がいるんですね。

「自衛隊明記提案」というのは、「私は自衛隊を違憲と疑っています」「違憲と判断します」という提案なので、そういう提案だということがわかってしゃべっているのかなということもあわせて考えてほしいですね。

武田:つまり「現状置かれている自衛隊の状態が違憲なんですよ」というふうに高らかに宣言しているようなことにもなってしまう。

木村:だから明記しよう、という話になるわけですから。それは安全保障上きわめて問題のある提案だということになります。

「緊急時」の定義はどこまで広がるのか

武田:憲法が議論されるときに、「緊急事態条項」「緊急事態」と最近よく言われるようになりましたけれども、この「緊急時」というのはどういうふうに定義されようとしているわけですか。

木村:これはあまり具体的な提案はないですね。災害とか武力行使とかということになりますけど、まさに緊急時なので、明確な定義はできないことになったりします、通常の緊急事態条項というのは。

ただ、そうすると、どんどん緊急時の概念は広がっていく可能性があるので、またそれを限定しすぎると、今度は「緊急時」ということがあまり意味がなくなってしまうことになってしまう。なかなか難しい問題ですね。

武田:どういうふうに定めていくべきなんでしょうか、その「緊急時」という枠組みは。

木村:まず国会議員の任期延長という形で対応すべきかという問題があります。現行憲法では、衆議院の解散と参議院選挙が重なったときでも、参議院議員が半分は残るデザインになっています。災害国日本なので、参議院半数改選にして、とにかく国民の代表が途切れないようにするデザインになっているんです。

そこで必要であれば緊急集会をやるという形をとっていますので、まずそもそも現行憲法で対応済みではないかという問題があります。

任期の延長については戦前に一例あるんですが、昔は憲法で任期が決まっていなくて法律で決めていたので、戦中に1回延ばしているんです。

それがすごくいいことだったかというと、なかなかいい例とは言えないケースですし、どう使われるか想定できないところはありますので、私はこれはあまりポジティブには評価できないかなと思っています。

武田:当然、その時々の権力者は自分の権力をそのまま保持したい、温存したい、拡大したいと思うわけですから、「これが今現状緊急なので、私もうちょっとやります」というふうには当然なっていくわけですよね。

木村:そうですね。自分の任期を自分で決めるというのは、別に国会議員じゃなくても、会社の社長とかラジオのレギュラーでもそうはなっていないはずです。

武田:そうですね。僕が局に「辞めろ」と言われても、「いや、あと5年やります」と言ってもね(笑)。すごい権限ですよね。その権限は残念ながら有してないですからね。

木村:(笑)。地方議会の場合は議員の任期延長、選挙の延期を東日本大震災のときにやったんですが、あれは国会のほうで地方議会の選挙のタイミングを決めているので、自分たちで決めているわけではないんですよね。

国会のほうで「この地方の選挙は本当に大変だから」ということで延ばしましょうとやったわけです。そういうふうにデザインするのであれば、やはり国会議員以外の、例えば最高裁判所とかが独立の立場から「確かにこの期間であれば」という設計にしないとまずいはずなんです。

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