自民党一党で3分の2、「信任」とは何だったのか
武田:今回の衆議院選挙で、高市氏が「今回の選挙は総理大臣が私でいいのかどうなのかを問う選挙なんです」と言っていましたが、「その設定からしてどうなの?」と思ったわけです。
「国を二分するような議論について信任いただけるのかどうなのか」というようなことを述べて、その「信任」って何のことを信任したんだっけ、してないんだっけということがよくわからないままになっていますけどね。
木村:そうですね。まさに非常に予測可能性が低い国会になっています。これまで「(自民党)一党で3分の2」というケースは確かなかったと思います。衆議院の3分の2なので、参議院を無視して法律も作れるという数値です。
なので、ここからはたして「実は普通に政権運営していきましたよ」という可能性もあるし、あるいはほとんど首相が独裁的に進めてしまうという可能性もあります。「人の意見を一応聞いて自分のことをします」みたいな、非常に独裁的な政権運営もできてしまうということです。
何が起きるか非常によくわからないという状況で、多分これは国会議員の皆さんも、あるいは官僚の皆さんも、あるいは国民自身もそうかもしれませんが、今回の結果に戸惑っているところはあると思うんですよね。
自民党が勝つ、といってもかなり勝ったわけですので、こういうときこそ原理原則の大事さというのも思い出してほしいところになります。権力の濫用には歯止めをかけておかないと危ないですよというのは、立憲主義の大原則ですので、そこはぜひ忘れないようにしてほしいと思います。
武田:これからいろんな局面でおそらく高市氏は、「私は信任されましたので」「こないだの選挙で圧倒的な支持をいただきましたので」という枕詞をいろんなところで使ってくると思うんですけれども、それに対して我々市民、国民、有権者はどういう反応というか対応していけばいいことになるんでしょうか。
木村:やはりルールに立ち戻ることが重要で、そもそも衆議院議員選挙というのは首相個人の信任を問うためのものではなく、あくまで国民の代表を選ぶためのものです。ご本人がそう言っていても、別に高市さんを国民投票で信任したわけではないので、「何を言っているんですか」ということです。
首相の立場は、あくまで「私は国民ではなく国会に信任されて首相になったんです」「国会の信任を失えば辞めなくてはいけない立場です」というルールにのっとってツッコミを入れていくことが重要かと思います。
武田:でも、なかなかそのツッコミに、今木村さんがおっしゃったように「これこれこうだから、別にそちらを信任したわけではないんですよ」という説明を毎度しなくちゃいけないというのと、今回は「高市フィーバー」というか、個人に対する熱がどこまで本当にあったのかどうなのかはいろんな検証が必要でしょうけれども、そういった高市フィーバーみたいになってはいるわけですよね。そこはやはり冷静にひもとかなくてはいけないところはありますよね。
「私が信任されました」は実質的な“脳内改憲”である
木村:そうですね。そういう時だからこそ、慌てずに普段の自分の職分というものをそれぞれの現場で考えるというところが大事かと思います。裁判官には裁判官、官僚には官僚、メディアにはメディアの役割がありますから。その役割が何か変わるわけではないので。
大一番だからといって自分らしさを失わなかった糸谷八段のように、皆さんもそれぞれの部局で、それぞれの自分の本来の役割が何なのかということを、一回冷静に考えてほしいという状況なんじゃないでしょうか。
武田:政治に対して非常に冷静に見ていくことは、非常に重要なことだと僕も毎度ながら思いますけれども、ここ最近の選挙を見ていますと、ある政党に風が吹くとか、ある政権に対して風が吹く、その風というのが半年一年ぐらい経ってみるとけっこう止んでいたりするわけですけれども。
毎度この選挙のたびにその風を読み解かなくちゃいけなくなるという、この感じはずっと続くんでしょうかね。
木村:さまざまな組織票とか組織というものが、だんだんと弱くなってきているとは言われますので、この傾向は続いていくとは思いますが。だからこそ、憲法上のシステムとか議会のシステムが何のためにあるのかという原理原則が大事ではないかと思いますけどね。
だから、内閣総理大臣が国民投票で信任を受けたかのような振る舞いをしていたら「それは違うんですよ」ということも重要ですね。
武田:それ繰り返し言ってきたんですけどね。なかなかそこが届かなかった感じはありますがね。
木村:ご本人はそうおっしゃるでしょうから、「そうではないですよ」と。別に高市さんの言いぶりにメディア側が説得される必要はないわけで、「あの人はこう言っているけど、原理原則はこうなので、こう振る舞ってくださいね」と言うこともまた、別に気を使う必要はないと思いますけどね。
武田:いや、別に信任したわけじゃないんですから、というふうに言うっていう…。
木村:信任したのは国会ですから。国民が信任するのは国会で、内閣を信任するのは衆議院ですから、という手順ですね。
武田:じゃあニュースを読み上げるときにも、「いや、別に信任したわけではないのですが、信任したと言っております」みたいな注釈が出てくるんでしょうか(笑)。
木村:そうですね(笑)。高市さんを支えている議員たちを信任したということですから。その経路が大事ですね。そういうことってくだらないようでいて、こういう手続きって実はやっぱりけっこう大事で、そう言うとちょっと落ち着きますよね。「あ、我々の国のシステムはこういう仕組みだったんだ」と。
武田:そうですよね。だから熱みたいなものを感じたときに、「この手続き、仕組みはどうなってるんだ」ってことは、やっぱり何度でも立ち返る必要があるということですね。
大一番でも自分らしさを貫いた糸谷八段に学ぶ
木村:ある意味で、「私が信任されました」という言い方は、ある意味では憲法改正というか、実質的な改憲なんですよね。「自分、大統領制にしました」みたいな、そういう言い方ですから。それは、いやいや、うちの国はそういうシステムじゃないんで、って言っていく必要があります。
武田:自民党の候補者たちも、「もうそういうことにしたほうが今回の選挙は勝てそうだぞ」ということで、勝手に頭の中の「脳内改憲」みたいなものを済ませた上で、スピーチしているなんていう場面が目立っちゃったってことでもありますもんね。
木村:そうですね。ですからやはり手順が大事で、自分は独立した国会議員として「この方を信任します」という立場でしゃべってくださいということになりますね。
武田:最初の将棋の話に戻ると、木村さんは一手を指すときに、この初手は「こういう外し方をする」ということは、可能性としてあるんですか。
木村:いや、3六歩は勇気がないですね(笑)。
武田:勇気ないですか。やっぱりそれなりの実力の人がやらないと、ただ自壊するだけというか。
木村:相当な準備があったということです。糸谷八段は今、連盟の理事・常務もされていまして、非常に組織運営面でもお忙しい方なんですけども、そういった中でA級順位戦で1敗でずっと上に来ているというのは、本当にがんばっておられるんだなという感じもします。
そうした中で、しかもこう自分らしい手を見せてくれるというのは見習いたいなと思ったところですね。
武田:さすがに将棋の基本的なルールというかやり方はわかっておりますけれども、最初に角の道を開けるのか、飛車の道を開けるのか、これはどっちが多いんですか?
木村:多分7六歩が最多ですかね。角道が一発で敵陣まで通るので、これが一番多いのではないかと。おそらく将棋の最善手ではないかと言われている手ですけど。
武田:それはもう揺るぎないんですか?そこの最善手であるってことは。
木村:いや、わからないです。ものすごい複雑なゲームなので、もしかしたら初手3六歩が最善かもしれませんが、今のところそういうことはまだ出てきてないですね。
武田:確かに素人からしても、ここを開けとくとビューンといけるって思うそのイメージ……。
西村:そうですね。
木村:気持ちのいい手です。
武田:これ開けとくと、なんか一発でいけるんじゃねえかって思うけど、じゃあそれはその素人考えとプロフェッショナルの考えと、質は違いますけれども、最初の一手としては狙いとしては同じということですね。
西村:表現は違えど。
武田:絶対次に将棋やるとき、「まずここ……まずこの一手は譲らない」とは思いますけどね。
木村:まあでも、ぜひ3六歩も研究してみてください。
西村:「3六歩」。覚えました。このコーナーは「PodcastQR」でも配信しています。ラジマガコラム『木村草太の「今朝の一手」』でした。