【3行要約】
・高市首相による解散総選挙は855億円もの予算を使うにもかかわらず、国民からの評価は低く、通常国会からの「逃げ」との批判が広がっています。
・ 政治学者の中島岳志氏によれば、統一教会との関係や消費税減税の発言ブレなど、高市首相は重要課題について明確な説明を避け続けています。
・ 自民・維新の大勝が予想される中、「白紙委任」による側近政治の強化や憲法改正の動きに対して、有権者は民主主義の本質を考え直す必要があります。
朝日新聞の情勢調査で見えた「自民・維新で300議席超え」の衝撃
西村志野氏(以下、西村):ここからは前半レギュラー、火曜日は中島岳志さんのコラム『中島岳志と解く』です。今日はどんなお話でしょうか。
中島岳志氏(以下、中島): 衆議院選挙の情勢調査が出てきました。そこから見えてくる危うい未来についてお話をしたいと思っています。
先ほど共同通信の調査の結果が出ましたが、朝日新聞の調査も出ています。1月31日から2月1日にかけて、約37万人を対象とした電話とネットでの調査です。これで中盤情勢が出てきました。
朝日新聞がなぜ注目をされるのかというと、2021年に各社が自民党苦戦だと出ていた時に、朝日だけが自民党が勝利するという情勢調査を出しました。「そんなわけないだろう」と、蓋を開けたら岸田内閣でしたが、そのとおりになりました。朝日の調査のあり方をだいぶ見直したそうで、正確なのではないかと言われています。
そこで出てきた中盤情勢が、けっこう驚きの結果でした。どういう数字が出てきたのかというと、自民党は単独で過半数を大きく上回る勢いです。単独過半数は233議席ですが、これを大きく上回ります。維新と合わせて300議席をうかがい、もっとそれ以上行くんじゃないかと言っています。
定数3分の2が衆議院の優越でいろんなことを通せるのが310議席ですが、これを自民と維新で超えてくる可能性が十分にあります。 中道改革連合のほうは振るわず、公示前の167議席から半減の可能性もあります。
国民民主党はほぼ横ばいで、参政党とチーム未来が増えるという結果が出ています。想像以上に自民党に議席数がついているという結果です。
国民が評価しない解散、855億円の支出と通常国会からの「逃げ」
中島:そもそもですが、この解散については世論調査を見ていても、国民は評価しないほうが多いです。おかしいじゃないかと。内閣の支持率も今下落をしていっています。
そんな中で行われようとしていますが、国民はなぜこの解散を評価していないのかというと、やはり高市さんがちゃんと通常国会を開いて議論することから逃げているんじゃないかという批判です。 さらに総選挙をやるには、予備費から約855億円の支出が今回なされます。855億円あれば、ものすごいいろんな政策ができます。
武田砂鉄氏(以下、武田):それはそうだ。
中島:今、国会議員を減らしましょうという議論がすごくあって、それは予算がと言っていますが、そんなどころの数字ではありません。ぜんぜん桁が違うくらいのお金を使って総選挙をやります。
こんなに国民が困っているのに、予算の問題を放り出してこんなお金を使うのかというのが、国民の率直な思いだと思います。
武田:この間、党首討論などで「これだけお金がかかるので、どうなんですか」と聞かれた高市さんは、「選挙をやるとどのタイミングでもそれぐらいお金がかかりますから」という言い方をしていました。
中島:どんどん短くしていくと、その分上乗せになっていきます。ですから任期がまだまだあるわけですから、そこでやったことについて審判を仰ぐというのが、普通のやり方だと思います。 そういった問題が出ています。
続々と明らかになる統一教会との関係、高市首相の「名誉毀損」発言の問題
中島:ではなぜこの通常国会から逃げているのかというと、この数週間続々と出てきているのが統一教会の問題です。 統一教会の内部文書が出てきました。これは韓国の検察の捜査によって出てきたんですが、いわゆる「TM特別報告」と言われているものです。
TMというのは「トゥルー・マザー」の略で、韓鶴子総裁、統一教会のトップのことです。そこに対する内部で報告を上げている報告書なんですが、これを見ると高市さんの名前が頻繁に出てくるし、特定の自民党の議員さんがかつて入っていたということも出てきます。統一教会と自民党の思いのほか深い関係がこれで見えてくるということがありました。
さらに高市さんの政治資金パーティ券の問題も出てきました。統一教会がこれを購入していました。そのことを高市さんの側は報告、つまり表に出していなかったということで、かなり深い関係がここにあるのではないかといわれています。
これはすごく重い問題です。韓国でも捜査が進んでいる非常に、特に外国の宗教ですが、そこにかなりお金、あるいは政治的な関係性が生まれていたことは、追求されるべきすごく重要な問題だと思います。
NHK『日曜討論』ドタキャンと、ブレ続ける消費税減税の発言
中島:例えば、1月26日のTBS『news23』の党首討論に出た時に、れいわの大石晃子さんがこの問題を追求したところ、高市首相が「それ名誉毀損になりますよ。出自不明の文書ですから」と言っています。 けれどもこれ、毎日新聞がファクトチェックというのを出していて、「高市首相 旧統一教会文書『明らかに誤り』『出自不明』はミスリード」としています。
毎日新聞が検証した結果、これは高市さんの明らかなミスリードであると。「報告書について『明らかな誤り』とする発言は、報告書の記載がすべて虚偽であるとの誤解を招く余地が大きく、ミスリードであると言える」と新聞社がファクトチェックをしています。
武田:しかも名誉毀損であるならば、その言ったれいわの議員に対してではなく、その文書を出している側に対して名誉毀損だと訴えるべきですよね。
中島:そうですね。権力を持っている人間が「名誉毀損ですよ、訴えますよ」で、しかもこういうミスリードだと新聞に書かれている問題ですが、やはり非常に圧力がかかるものなんですよね。
これは非常に問題のある発言だと思いますし、それを受けてなのかわかりませんが、週末のNHK『日曜討論』に高市首相はドタキャンをするということになりました。 演説中に痛めた腕の治療だということになっているんですが、この日の午後はしっかりと岐阜と愛知の遊説で、予定どおりの日程をこなしたということです。
これ共産党の田村委員長が、「早く回復されることをお祈りします」とおっしゃった上で、「首相自ら『自分の、私を信任するかどうか』と言っているのですから、有権者に判断基準を示すためにも党首討論を再設定してほしい」と言っていますが、これは当然ですよね。
非常に貴重な機会で、国民がアクセスできるNHKでの討論会ですから、やはりこれは再設定というのが最低条件だと思います。ですから、これはしっかりとやらないといけません。 さらに社民党の福島党首も、「党首討論は欠席するが街頭演説は可能という理由がわからない」と言っています。
やはりどうしても逃げているというふうに見えるわけですよね。特に統一教会の問題とか、今ちゃんと選挙前に明らかにしておかないといけない問題、選挙のすごい重要な材料になる問題というのを避けているように見える。どうも情勢調査が非常にいいから逃げ切ってしまえ、と見られても仕方ないような姿勢ですよね。
武田:今回の解散自体が、そもそも逃げているんじゃないかと。国会を開かないことによって、開くといろんなことを問われるだろうから、開かずに解散をしよう。
「逃げているんじゃないですか」と問われて、こうして選挙戦が始まっても、なるべく自分が壇上の上からああだこうだ言う場面は作るけれども、問われる場面を作らないようにしているのではないかというのは、この一連の流れを追いかけてみると共通しているなと疑ってしまいますけどね。
中島:本来「保守」というのは、自分自身が間違っているかもしれないと認めることです。人間というのは完成された動物じゃないから、間違いとか誤謬を含んでいるかもしれない。だから特定のイデオロギーに基づいて全部世界を抜本的に改造するんじゃなくて、これまで長い間ずっと培われてきたものに依拠しながら、ちょっとずつ話し合いによって手を入れていきましょうと。
「自分が間違っているかもしれないから、他の人の言い分に耳を傾けて、なるほどと思ったら合意形成をしていく」というのが保守政治なんですね。 けれども高市さんはやはり、自分と異なる意見、耳の痛い話に耳を傾けようとしていないんです。
それよりも一方的に壇上に立って、一方的な演説をするというのに注力をしているのであれば、これは本当に保守政治と言えるのかなと思います。
武田:先ほどトゥルー・マザー報告書の話がありましたが、内部の文書ですから、盛ったりとか事実誤認があったりするかもしれません。これだけ今政治的な議題に持ち上がっているわけだから、そこに書かれている自分に対する記載が間違っていたとしたら、「どこがこういうふうに間違ってます」と一個一個立証すればいいわけですよね。
例えば中島さんにしろ僕にしろ、何か悪く書かれたとして、それが事実誤認だとしたら「いやこんなこと書いてませんよ」と。「これ250ページに書いてある」と書いてあっても、「自分が250ページに書いたのはこういう意図で書いてますから」ということを反証していかないと、我々の評判とか書いていることが変な方向に流れていくわけじゃないですか。
だからそこが書かれているものが間違っているんであれば、それは間違ってますというふうに具体的に一つひとつ潰していけばいいだけの話であるわけですよ。今その文書全体を「いやこんなの全部嘘ですから」というふうに言って片付けようとしているというのは、非常に不誠実ですよね。
中島:パーティ券の問題もですね。やはり出てきた問題についてはちゃんと答えるのが、最高権力者ですから当然の義務であるわけですし、選挙で我々が投票する時のすごい重要な指標なんですよね。
他にも消費税減税の問題ですね。各党が言い始めているわけですが、食料品の2年間ゼロというのを高市さんは訴えているわけですが、この発言もずっとブレ続けているんです。本当にどういうふうにやるのかというのがよくわからない。
昨年(2025年)の11月の国会では、レジのシステムの改修に1年以上かかるというふうに国会で言っているんです。しかし突然選挙だということになって、2026年度に実施すると言いました。
武田:「レジの改修はどうなったんだ」と思いましたが。
中島:しかし、いろいろと自民党の中から議論が出てくると、「来年度の実現を目指している」というふうに言葉が変わり、さらに「国民会議」で結論が出ないということになればどうしようもないと。
「やるのやらないの? どっちなの?」みたいな感じにトーンダウンしているので、やっぱり討論会をやってもらって、高市さんの考え方をはっきりさせてもらわないといけないわけじゃないですか。最大の争点の一つですよね。
けれど自民党がやるのかやらないのかがわからない状態で選挙に臨まないといけない。これはやはり非常に大きな問題だと思いますね。