【3行要約】
・プルデンシャル生命で106人が約31億円を詐取した事件は、「売れていればいい」という価値観と一国一城型の組織構造に根本的な問題がありました。
・ 組織開発コンサルタントの勅使川原氏は「性善説だったから」という経営陣の分析よりも、報酬制度と組織構造の見直しが必要だと指摘します。
・ 業績が良い時こそ「この成果は何かを犠牲にして成り立っていないか」と問い続ける組織文化の構築が、あらゆる業界で求められています。
プルデンシャル生命、106人が約31億円を詐取した事件の背景
西村志野氏(以下、西村):ここからは前半レギュラーの「ラジマガコラム」。水曜日は、勅使川原真衣さんの『勅使川原真衣の「今日もマイペースで」』。今日はどんなお話でしょうか?
勅使川原真衣氏(以下、勅使川原):はい。今日はやはり、先ほどの冒頭のニュースでも扱いました、外資系生保大手の巨額詐取事件が話題になっていますので、そちらを組織開発をしている者として、どういう視点で見るかという話をしてみようと思います。
時は2026年1月ですね。プルデンシャル生命保険で、社員と元社員を合わせて106人が、顧客498人から総額約31億円を詐取していました。これは保険金がどうこうということではなく、架空の投資や儲け話を持ちかけて、金銭を不当に借り受けるなどして不適切に受領していたことが判明しました。
これは、いきなりわかったことではありません。もう2024年6月に、金銭詐取で同じように逮捕者が出ているんですよね。ちなみにこの方は猛者でして、1991年から、もうとっくに辞めていますよ、それでも詐取を行ってきたという方でした。
武田砂鉄氏(以下、武田):すごい。30年以上やっていたということですね。
勅使川原: そうです。辞めた後もずっとやっていたということで、その後の実態解明の内部調査であるとか、お客様調査みたいなものをずっとやってくる中で、あらためて明るみに出てしまった、芋づる式にわかってしまったことになっています。
これを受けて注目したいのは、先週の金曜日に経営陣による会見が開かれました。ご覧になりました?
武田: 部分的になら見ましたけど。ニュースで報じられたところはね。
勅使川原: もちろんこれは、許されざる巨額詐取事件でございます。プルデンシャルが全額補償すると一応明言はしていましたけども、これはどうなるかわかりません。とりあえず全額補償すると言ってくれたからこそ、私も今日コメントできるというぐらいの話なんですけども。
経営陣の会見で語られた「見どころある現状分析」
勅使川原:経営陣が会見で語った内容、正直、組織開発コンサルタントとしては、かなり見どころはあったように思うんですよ。学びがありました。
ちなみにテレビ朝日の記者の方でしたっけ、「あんたら反省する気あんのか」みたいな質問を投げている方もいらっしゃいましたけども。組織開発を見てきた者としては、なかなか考えられた現状分析、並びに再発防止策をいったんは言っているなという感じはしましたよ。
例えば会見でこんな発言がありました。ちょっと読みます。「過度に業績と連動する制度で、金銭的利益を重視する人材を引きつけたり、入社後にそのような考えを持つ人材を生んでしまった」であるとか、「ビジネスモデルを絶対視し、高業績者が大いに称賛されるという組織風土があった」。
「新契約の業績や契約の継続率、顧客満足度といった指標が高い水準を維持していたゆえに、現在のモデルを変更する思考に至らなかった」。なるほどな、という感じなんですけども。
これを受けて気づきたいのは、これまでこういう不祥事があった際によく言われるのは、「うちの一部の社員の倫理観に問題があって申し訳ございませんでした」というカタチの切り捨て。よくあるんですけども。
武田: 「ほとんどの人はみんな頑張っているのに、一部の人が」という言い方ですよね。
勅使川原: そうなんです。その言い方とは明らかに今回は違ったんじゃないかと思います。ないしは「組織風土」という言葉も使っているわけなんですけども、ビッグモーターさんの件を思い出すと、組織風土改革一辺倒だったんですよ、あの時。第三者委員会も、組織風土に問題があったということになっていたんですけども。
組織風土って難しいんですよ。風だか土だか何だか知りませんけど、それを改革するのは難しいので、わかりにくい言葉に逃げずに、一応報酬制度の改革をしっかりしていくんだと言ったのは、一定の見込みがあるのかなと私は見ました。
具体的には、フルコミッションと呼ばれる完全歩合制への依存を弱めていくことであったり、表彰制度。すごく盛んにやってきたそうなんですけども、例えば成績上位者にはハワイ旅行プレゼントとか、ラスベガス旅行プレゼントみたいなことをやってきたみたいですけども。そういったことも新契約に偏重して評価してきたということですけども。
やっぱり保険は付き合いが長いので、アフターフォロー、業界では保全活動と呼びますけども、保全活動をちゃんとやっていきましょう。それからコンプライアンスの順守も評価軸としてちゃんと見ていきますよ、というようなことを言っていました。
私、かねてより不祥事のみならず、世の中の問題を個人に落とし込んでも意味がないんだよということをお話しさせてもらっています。
今回で言うと、「一部の社員の倫理観があって」と言ったらどうしようかと思ったんですけど、まあ言わなかったと。また「組織風土が、組織風土が」と言ったらどうしようかな、変わる気ないんだなと思うところでしたが、それも一応違いましたという意味で見どころと申し上げています。
「性善説だったから起きた」は本当か?
勅使川原: が、やっぱりちょっと立ち止まったほうがいいかなという点はあります。今日は時間の関係で2点にとどめてお話ししたいと思うんですけども、1つは、次期社長の徳丸さんが、「これからは性悪説でやっていくぞ」という言い方を会見でした点について。
武田: これからは性悪説。どういうことですか、これは。
勅使川原: そうなんです。ちょっと読みます。「性善説に基づくマネジメントに課題があったと思う。どうしても負荷がかかると人間としての弱さが出てくる。これからは性悪説に基づき、報酬制度やマネジメント方針を考えていきたい」。ここですね。
お気づきのとおり、性善説だから今回の事件は起きたんですかね?
武田: 性善説というのは何ですか? 会社を経営する側が、個々の営業部員はそんなに悪いことはしないだろうと思っていたけど、蓋を開けてみたらこうでしたよということ?
勅使川原:ということなんじゃないでしょうか。まあ、そもそも善とは悪とはというのは大いに確かに疑問なんですが。
でも、この問題を性善説だったからと置いてしまうと、当然性悪説にすればいいんじゃないかという話になるでしょうけど。性悪説にすれば解決しそうですかね? ちょっと怪しいかな。
武田: その表裏は危ないですよね。
勅使川原: 危ないと思います。ここのコラムでも繰り返し述べていますけども、私から見ると、教育社会学と組織開発の立場から言うと、やはり問いの立て方自体にいささか疑問があるなと思います。組織は「うちの社員は善なのか悪なのか」みたいな前提では動いていないんですよね。何事もグラデーションですし、スペクトラムなんじゃないかなと思います。
それより組織は、個人のどんな行動が報われて、どんな行動は咎められたり見過ごされたりして、ないしはどんな行動が称賛されるのか。そういう、暗黙の積み重ねで形作られていくものじゃないかなと思うんですね。
なので今回のケースで言うと、新契約の数字が称賛されて、業績上位者がヒーローになる構造。これが長年続いていれば、それは当然起きてしまうだろうとみんな思っていたことだと思います。
で、それは「性善説だったから起きちゃった」ということじゃないですよ。「成果が出ている限り、問い直す必要はないと思っていた」と正直に言っちゃってますから、経営陣も。そこがポイントだと思います。
いまだに、もしかして「売れていればいいじゃないか」という考えがないかどうか。これを本当に改革をするなら、その前提から見直していく必要があるんじゃないかなと思います。