「軍拡」や「核保有」に進む日本のリスク
武田: ここまでで、中島さんの言うように帝国主義が跋扈してしまった背景というのは、これまで外交というのは、そうは言っても対話によって微調整していくことが重要だったわけだけれども、これだけの為政者があれだけ暴走してしまったら、もうそういうものは無理なんだと。
そうなったらじゃあ自分たちでそれこそ軍備を強めなくちゃいけない、ともすれば核兵器も持たなくちゃいけないというような、そういう人たちの持論の栄養剤みたいになってしまう可能性もあるわけですよね。
中島: もう十分に、そういう方向に流れていく可能性が非常に大きい事態なんだと思うんですね。日本は軍事産業に頼らない戦後を送ってきたことのメリットはすごく大きいんですね。
アメリカはやっぱり軍産複合体、あるいは軍産学(大学もそうなんですけれども)が、非常に大きな経済的な枠組みを持っているために、軍事費を減らすとか、軍縮をやっていくのはアメリカ経済に響いていく構造があるので、軍縮ができない構造になっているんですよね。
日本も本当にそういう道に進んでいくと、やっぱり経済的な不況がやってきた時に、軍縮ができなくなるんですね。むしろどんどん量産していく方向になっていくのが非常に悪循環なんですけれども、そこに日本も踏み込んでいくんですか、という問題が出てくると思います。
同時に核武装はやっぱりNPT(核拡散防止条約)体制からの脱却という問題になってくるので、これはものすごい経済的な損失というか、さまざまな圧力がかかるわけですよね。そんなことまで覚悟するんですか、ということをちゃんと考えて、今後の方針を見ていかないといけない状況だと思いますね。
武田: 年末に高市首相の側近の人が、核保有発言みたいなものをオフレコで言ったというのが問題視されて、あれちょっと年末の話だったんで、みなさんも忘れてらっしゃる方もいるかもしれませんけど。こういった事態が起きると、そういった発言がグロテスクに光りだすというのがちょっと心配になってきますもんね。
中国・ロシアが「猛烈に非難しない」理由
中島: やっぱり僕、10年ぐらい前にキューバに行ったことがあるんですけれども、キューバもアメリカとずっと対立をしてきた国なんですけれども、やっぱり中国がすごくたくさん入ってきているんですね。
例えば、新しいバスとかはほとんど中国製だったりとか、キューバってクラシックカーが有名な国なんですけれども、どんどんそういう新しいものが入ってくると「あ、中国製なんだ」とか、中国がなになによっていうのがたくさん入ってきているところなんですね。ベネズエラもそうなんですよ。
なので今回の攻撃は、中国にとって非常に大きなマイナスというか、自分たちのずっと積み上げてきた利益が失われる事態なんですね。けれども中国、確かに非難はしているんですよね。けれども猛烈な非難ではいかないんですよね。
ロシアもそうで、猛烈な非難まではいかない。非難はしてるんですけれども。つまり、これバーターだなと思っているんだと思うんですよね。
つまりこういうアメリカのスタンスが、総合的に考えると自分たちの国益に合致するという感覚がないと、今の中国の反応にはならないと思うんですね。つまり、中国にとってはものすごい損失を被っているにもかかわらず、これが得になると見ていること自体の危うさですよね。これをもう1回考えたほうがいいと思いますね。
武田: やっぱりその強引に裏庭化していく手口、こっちもやっていいってことなんですね、という合意をアイコンタクトでかわしてしまっているんじゃないかということですね。
中島:そうですね。 ですから、こうなると本当に世界の秩序の根底が揺らいでしまう。これをちゃんとなんとかしないといけないんですね。
ある程度こう、そういった戦後の秩序について「大切ですよ」と言っているのが、例えばヨーロッパの国々とか、あるいは東南アジアだって中国の脅威があるので、そういった認識が非常に強い。そういったところとちゃんと連携をしながら、この体制を維持していく枠組みも僕は非常に重要だと思うんですね。
先ほどのニュースで韓国が中国と仲良くやってるとか、それによって分断されるとかそういう話ではなくて、もう少し巨視的な観点からアジアの安全保障の問題を日本が主導して考えていくことをやらないと、ちょっとまずいですね。
アメリカ国民も「イラクの失敗」を忘れていない
武田: 昨日の時点でワシントン・ポストが世論調査をして、このベネズエラ攻撃について賛成か反対かを聞いたら、40%ずつぐらいで、わりと賛否が割れた、反対のほうが少し多かったと読みましたけれども。このベネズエラ攻撃に賛成というか理解を示している中には、やはり麻薬の密輸の問題が大きく影響していると思うんですよね。
でも実際にそれがどこまで行われていたのか、そしてこのマドゥロ大統領が本当に中心中核として関与していたのかはまだわからないわけですけれども。今のトランプの世論の作り方からすると、どんな力技でも「もうこいつが中心人物だった」という結果に持っていきそうな気がするわけですよね。
中島: そうですね。同時にアメリカの世論が割れているのは、やっぱりこれまでの20年間ぐらいはイラクで失敗をしてきたりとか、さまざまにアメリカがテコ入れをして、そのとおりにその国政が動くかというと、ぜんぜんそうはならない。それによってものすごい痛手を受けてきたわけですね。
アメリカの若い人たちが戦場に行って、帰ってきてたくさんPTSDになっている人たちがあふれているような状況で、それがアメリカの疲弊にもつながっている。それは肌身で感じて理解をしている状況なんですね。
僕も2005年から6年にかけてアメリカに1年弱いたんですけれども、やっぱりアメリカがすごい傷ついているなっていうのは肌感覚、街の感覚では非常によくわかったところなんです。
なので、ベネズエラにいくらアメリカがテコ入れをするんだと(言っても)。今ロドリゲスという副大統領が一応大統領の代わりをやるということになっていますけれども。
このロドリゲスもやっぱりアメリカに非常に厳しい見方を提示していて、やっぱり「マドゥロが同国の唯一の大統領である、ベネズエラはいかなる国の植民地にもならない」と表明をしているわけですね。だから本当にアメリカがテコ入れをしてベネズエラがアメリカの思いどおりになるかというと、そんな単純なものではないですね。
まだまだベネズエラでは混乱が続くし、場合によっては反米みたいなものがより強まる可能性があって、ベネズエラの安定がこれによってもたらされるか、民主主義の運用がうまくいくかはものすごい不透明だし、アメリカ人はそのことはわかっているんだと思いますね。
西村:このコーナーは
PodcastQRでも配信しています。ラジマガコラム『中島岳志と解く』でした。