【3行要約】
・東日本大震災をきっかけに『週刊少年ジャンプ』は初めて電子版の無料配信を実施しました。
・「ジャンプ+」編集長の籾山氏とニッポン放送メディアプロデュース部の冨山氏は、震災やコロナ禍を経て作り手と受け手の関係が劇的に変化したと語ります。
・この経験が後の「ジャンプ+」での電子配信や読者との関係づくりに活かされています。
同じ時間に読んで盛り上がる“連載のリアルタイム共有”
入江美寿々氏(以下、入江):みなさん、こんばんは。番組MCの入江美寿々です。『混沌前夜』は、ビジネス書の出版社クロスメディア・パブリッシングがこっそりお届けするPodcastです。
この番組では、異なる領域で活躍するお二人に話していただきます。前回に引き続き、『ジャンプ+』編集長の籾山悠太さん。そして、ニッポン放送メディアプロデュース部の冨山雄一さんをお迎えしています。よろしくお願いいたします。
前回も大変盛り上がって、話が止まらない感じだったんですけれども。まだまだ籾山さんが、話してくださるんじゃないかなというところもありつつ、お二人が雑談している中でも、本当に共通点が多いよね、ということでしたよね。
冨山雄一氏(以下、冨山):そうですね。1990年代が青春時代だったと思うので、今思うと毎週月曜日に、『SLAM DUNK』とか『幽☆遊☆白書』とか『DRAGON BALL』をリアルタイムで週刊連載で読めていたのは、すごく幸せなことだと思います。
今の『ジャンプ+』も更新時間になると最新の読み切りが出たり、連載中の作品が読めたりして、あの頃と同じ体験ができているのがすごいなと思っています。『ジャンプ+』で12時解禁とか、読み切りや連載がアップされて、みんながどこよりも早く読んで、SNSで沸く感じとか、なんかいいなぁと思っているんですよね。
籾山悠太氏(以下、籾山):ありがとうございます。それは本当に、できればそうしたかったと思って、あえてやっているところです。自分が子どもの頃に『ジャンプ』を読んで、月曜日にクラスで、「今週の『DRAGON BALL』はこうだった」みたいな話をする体験がおもしろくて。
毎週どんな話なのかわからなくて、毎週の連載をライブを見るかのように追っていました。これは集英社に入ってからわかったんですけど、作家さんや編集者も、読者の反応を見ながらどういうストーリーにするかを、本当に生き物のように変えていくんですね。
そういうことが、おもしろい漫画を生むのにもすごく意味があるし、その追っていく体験がおもしろいなと思ったので、そうしました。ラジオも、『オールナイトニッポン』が放送されて、すぐネットニュースになったりすることが多いと思うんですけども。
冨山:リアルタイムで聴きながら番組ハッシュタグで、SNSでどんどんつぶやいていくみたいなところはすごく近いと思います。僕は『呪術廻戦』が本当に好きなんですが、呪術の最終回に向けて、「呪術本誌」というハッシュタグが、月曜日の0時にトレンドでずーっと上がっている感じとかは、今の時代っぽいですよね。
籾山:いやー、そうですよね。「最新話がこうだった」みたいなことをSNSでみんなで感想を言い合えるので、スマホで読むことのおもしろさというか、インターネットが発達したからこそ、楽しい時代になっている部分もあると思っています。
入江:昔だと、学校とか会社にいて、一緒に共有するかたちだったかもしれないんですけれども、今はそれがリアルタイムで、SNSとかでコメントしたり、つぶやいたりできますものね。
SNS時代のネタバレ文化と共通ルール
冨山:2010年代のラジオって、けっこう何でもかんでも記事にされちゃって、「しゃべりにくいな」という時期があったんです。2020年代に入って、ラジオはトンマナ(トーン&マナー)が整った感じがするんですけど、漫画もネタバレとかの面でそういう感じなんですか?
籾山:そうですね。ネタバレについては作家さんや読者によってもいろいろ意見はあるとは思いますが、スマホで漫画を読むことが始まったばかりで、みんなどういう感じになっていくのかわからずに、いろんな動きがあった時代と比べると、「だいたいこんな感じで、こういう時はこういうことは言わないほうがいいんだな」とか、「これぐらいはここで言ってもいいんだな」という空気は、昔よりかは少し定まってきている感じがある気がします。
震災がきっかけとなった電子版配信の転機
入江:お二人は、今のSNSだったり、今の時代に合わせたデジタルになってというところでも、共通の部分があったかと思います。本の中でも、東日本大震災の際の経験に触れていらっしゃったと思いますが、そこでも共通している部分がありますよね。籾山さん、いかがですか。
籾山:そうですね。震災の時は『週刊少年ジャンプ』が発売日に届けられない、もしくは簡単に買えるような状況じゃなかったので、無料で配信をしました。
それまで、『週刊少年ジャンプ』は電子版を配信をしたことがなかったんですね。なので、挑戦だったんですけども、予想したよりはるかに被災されていた方から「『ジャンプ』を読めて良かった」「自分の好きな作品の最新話を読めておもしろかった」「楽しい時間が過ごせた」という声が多かったんです。
漫画は食べ物とかとはちょっと違って、なくても生きていける気もします。とはいえ、いろいろな人の救いになったり、大事なものなんだな、大事な仕事なんだなと思ったのが1つです。
もう1つは、そのあと「ジャンプ+」から『週刊少年ジャンプ』の電子版配信を始めるという流れの中で、震災の時に電子版を出していた経験があったから、スムーズにできたというのもあって。そういう意味でも、すごく大きな出来事だったなと思います。
冨山:そうですね。僕も本を読ませていただいて、避難所で『HUNTER×HUNTER』を読んでいる方がいたというのにすごくグッときました。やはり震災時、テレビとかスマホとか、電池や電源がなかなか使いにくい時、ラジオは乾電池1本で何十時間も聴けるということと、「あ、本って電気が要らないのね。触れられるエンタメなんだな」というところに、気づかせてもらいました。
籾山:そうですね。1冊の『ジャンプ』をたくさんの方に回し読みしてもらうというのも本当に、僕たちとしてもうれしい話でした。
エンタメが人を支える「ラジオの特例配信」
冨山:僕、本に書き忘れていたことを思い出したんですけど、2010年に「radiko」が始まって、その翌年に東日本大震災が起きたんです。
基本的に「radiko」では、東京に住んでいる方は東京のラジオ局、北海道の方は北海道のラジオ局しか聴けないのですが、2011年に、「radiko」とたぶん全国のラジオ局が話し合って、そのエリアを3ヶ月ぐらい聴けるようにしたんですよ。
東日本大震災の時、基本的に地元のラジオが生活情報を流している中で、「難聴取対策も含めて、『radiko』なら全国どこでも聴けるよ」となった時に、実は被災地の方は、大阪の芸人さんのラジオとか、ニッポン放送の夜みたいに普通に通常放送をしている番組をけっこう聴いていたんです。
お笑いやアーティストの話など、いわゆるエンタメに触れられることへの感想がすごく寄せられて、こういうふうに、1つの決断でコンテンツの幅が一気に広がるというのは、すごく共通する部分があるなと思いました。
入江:確かにそうですよね。震災が発生して、余震も続いている中で、ライフラインとか命を守る情報が最優先という状況下で、エンタメを流すことへの葛藤も本に描かれていたと思いますが、それでもやはり、人は(エンタメを)求めているものなんですね。
冨山:そうですね。やはり大事だなと思いましたし、東日本大震災が1個の大きなきっかけになりました。
コロナ禍と海外で広がる「ジャンプ+」の読者
冨山:ラジオは、コロナ禍でみなさんのおうち時間が増えたところで、また聴いてくれる人グッと増えたんですけど、「ジャンプ+」は、どうだったんですか?
籾山:コロナ禍で読者が増えたというのはあります。ジャンプ+編集部では、海外にも日本と同じタイミングで、翻訳して『週刊少年ジャンプ』や「ジャンプ+」などの漫画を公開しているんですが、その読者数が本当にコロナ禍で、ものすごく増えたのが顕著でした。
おそらく、海外の人が家に居て楽しめるエンターテイメントとして、まず動画の配信サービスでアニメをたくさん見て、さらに漫画を読むということで、数年本当に増え続けていきました。この5年ぐらい、ものすごく読者が増えています。
あと、今少し思い出したのですが、海外だと国別に読者数がわかるんですね。ウクライナとか、シリアとか、ミャンマーとかは、必ずしも現地の言葉では配信できていなくて英語とかなんですが、それでも例えばウクライナでは、マンスリー・アクティブ・ユーザーで1万人以上の人が「MANGA Plus by SHUEISHA」というサービスに来て、『ジャンプ』の漫画を楽しみに読んでくれているんです。震災もそうですし、いろいろ苦しいことがある中でも、漫画を楽しみにしてくれているということを実感できました。
冨山:要は戦争とかの中でも、やはり漫画は読まれているものなんですね。
籾山:そうですね。数字で見ると、大変な状況にある国でもたくさん読者がいるので、少しでも楽しい時間を過ごしてもらえたらうれしいなとは思っていますし、そういう話を新年会で作家さんにも話しました。
SNSがつなぐ、作品とファンの双方向コミュニケーション
入江:作家さんとか編集者とか、ラジオだったらプロデューサーの方とか、そこに携わっている方は、そういう話を聞く時が、やはり一番うれしい瞬間なんですか?
冨山:そうですね。もちろん今までもメールとかFAXとかお手紙とかでリスナーから「番組を聴いて楽しかった」とか、反応はいただいていたんですけど、それって要はこっちに向けて発信するという、ある程度かしこまったかたちで届くものだったんですね。
やはり「X」とかが大きいんですけど、別にこっちに向けて書いていない、「楽しかった」とか書いてくれている感想が、本当にSNSで大きくなったので、そのあたりで可視化できたのは、モチベーションを含めて、すごくラジオにとっては大きかったですね。
籾山:本当に漫画も一緒ですね。漫画を描くのはすごく大変で、それでもやはり「読者が読んでくれているのであれば」ということで、読者の反応、コメント、SNSのメッセージは作家さんにとって本当にエネルギーになっている。昔よりもそれが伝わりやすくなっているのは、非常にいいところだなと思いますね。
入江:今までだったら埋もれてしまっていた、そういう1コンテンツを楽しんでくださっている方の声が、ダイレクトに届くということですものね。
冨山:そうですね。