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自分と社会をアップデートするための倫理観と実践 ~クリエイティブ・エシックス~(全3記事)

DEIの“逆風報道”ばかりが目に付くのはなぜ 電通コピーライターが指摘する、実は激変している価値観 [2/2]

親として、子どもにかける言葉で意識したいこと

なつみっくす:あと、我々は「母親アップデート」という団体をやっているので、橋口さんも親としての考えがあるかなと思っています。親として、クリエイティブ・エシックスにつながるようなお話とか、意識されていることはありますか?

橋口:今も話題になっている『機動戦士ガンダム』を作った富野由悠季さんという監督がいるんですけども、富野さんは「ディストピアSFを作るのはものすごく簡単なんだ。だけど、子どもたちには絶対、絶望論を語ってはいけない」って言っていて、クリエイターの矜持としてすばらしいなって思いましたね。やはり子どもに希望を見せることが大人の仕事なんじゃないかなと思います。

なつみっくす:なるほど。

橋口:あと、自分の中にある無意識なバイアスを子どもに伝えちゃいけないなということは自分なりに意識していて。わかりやすく言うと、「男だからこうしなさい」とかはなるべく言わないようにしているし。

「親の意見は親の意見であって、君は君の意見を持ってね」ということを言うようにしています。今、自宅で話していて、上の階に子どもがいるので、彼が聞いたらどう思うかわからないですけどね(笑)。

いろいろ会話をしている中で自分も強めの意見を言ってしまうこともあるんですけれども、その後は、「いや、お父さんはこう思うけど、君は君の意見や、ぜんぜん正反対の考えを持ってもいいんだよ」と言うように意識しているつもりですね。

なつみっくす:そうですよね。自分がバイアスまみれなので、知らず知らずのうちに発言しちゃうことの影響があると思います。

橋口:僕はそもそも親とも仲がいいですし感謝しかないんですけれども、自分の子ども時代を思い出すと1つ嫌だったのが、バラエティ番組を見ていると、「こんなくだらないもの」とか、「暴力的で良くない」とか「差別的で良くない」とか、親がすごく言うんですよ。まぁ、実際そのとおりじゃないですか(笑)。

なつみっくす:いやぁ、今はもう、そう思いますね(笑)。

橋口:昔のバラエティなんて現代の感覚からすると暴力的で差別的で子どもに見せるものじゃないというのはまったくそのとおりなんですけれども、昔は嫌だったんですね。今でもあまり楽しい思い出ではないんですよ。 
 
なので、「こんなしょうもないYouTuberを見て……」とか言ってしまっても、「それはあくまで僕の考えであって、君は自分の意見を持っていいんだよ」と言うようにしています。

なつみっくす:大事なメッセージですね。親の世代だったら、自分とぜんぜん違う考え方をしてもしょうがないなと思っちゃいますね。それを言うのと言わないのでは受け取り方が違うので、使わせていただこうと思いました(笑)。

人口減少社会では、ビジネスに倫理観が求められる

なつみっくす:残り時間もわずかになってきたのですが、今回の『クリエイティブ・エシックスの時代 世界の一流ブランドは倫理で成長している』は、広告業界とか、クリエイティブを作られている方に向けての意味合いもありますが、それ以外の「ビジネスパーソンとしてのOS」のような表現もありました。あらためて、どんな方に読んでいただきたいか、おうかがいできますか?

橋口:一義的にはクリエイティブな仕事をしている人に向けて書いた本ではあるのですが、基本的にはビジネスパーソン全体に読んでほしいなと思っています。

というのも、これからビジネスの領域がすごく広がっていくと思っているんですよね。ポジティブな意味でもネガティブな意味でも、やはりこれから人口減少社会になっていくと、政府の機能がどんどん弱くなっていくと思うんですよ。

今も減税ポピュリズムみたいなことが起きていますけれども、誰かが稼がなきゃいけないんだから、減税して高度医療費や教育費をタダにしたりとか、絶対にできないじゃないですか。

なので減税すれば政府の力は弱くなるし、減税しようと増税しようと人口が減っていくから政府や行政の力が減ってしまうのはもう避けられないことなので、その欠けたピースを誰が埋めるかというと、やはりビジネスパーソンだと思うんですよね。

なので、良くも悪くも公共の領域にビジネスが踏み込まざるを得ない時代になってきているので、公共的な仕事が増えれば増えるほど倫理観を持っていないとまずいと思うんです。そういう意味では全ビジネスパーソンに読んでもらえると、僕としてはすごくうれしいですね。

ビジネスは“いつの間にか”社会に変化を起こすことができる

なつみっくす:なるほど。国家とか政府の力が弱まるという表現がいいかどうかはあれですけども、もっと我々個人としてとか、ビジネスパーソンとして、できることが広がっていくんでしょうか?

橋口:そうですね。あと、これから世の中を変えていく上で、ビジネスのほうがやりやすい部分があると思っています。やはり政治で何かを変えようとすると、どうしても対立になってしまうわけですよね。

例えば選択的夫婦別姓であっても、どうしても賛成派と反対派との対決になってしまいます。その点、ビジネスってなんかヌルっと、「気づいたら変わっていた状態」を作れるじゃないですか。

今の職業上の旧姓使用も、たぶんぜんぜん完璧じゃないですが、まったくないよりははるかにいいと思うんですよね。

女性が前の姓のままで社会的に活躍したいというニーズがあった時に、それを法律にしようとするとどうしても対立が起きるんですけれども、ビジネス(サイド)が制度として整えると、気づいたらそういう状態になったっていう既成事実を作ることができて、政治はいやでもそれに合わせなきゃいけなくなると思うんですよ。

同性婚もたぶんそうだと思うんですよね。そういう、ビジネスには対立図式を作らずにいつの間にか世の中を変えてしまう力があると思うので、その役割が求められるようになると思います。

僕自身はわりと政治の世界とかで「ダメなものはダメ」ってぴしゃりと言う人にすごく憧れがあって、そういうふうに生きてみたいと思うことも正直あるんですけれども、なかなか自分の広告の仕事では難しい。だから、いつの間にか世の中をいい方向に変えちゃうことをやっていけたらいいなと思っています。

例えば本の中で紹介した「ジレット」のCMがあるじゃないですか。「ジレット」が、いわゆる古くさいマッチョな男らしさをやめようというCMを何年か前に作ったんです。

当時としては正解だったんですけども、いわゆる古い男性像をあまりにも敵にしてしまっているので、今はたぶんダメだと思います。今やるんだとすると、「いつの間にか格好いい男の定義が変わった」みたいな状態を作ることが必要だと思いますね。

なつみっくす:なるほど。確かに、正論を声高に言うアプローチも、もちろんいいんでしょうけども。

橋口:そう、それはそれで必要なんですけど。

なつみっくす:ビジネスでぬるっと既成事実を作って、良い方向に変わっていくのがいいですね。ありがとうございます。あっという間に1時間が経って、残り時間があとわずかということで。

橋口:本当だ、もう。

なつみっくす:今日はたくさんのお話をうかがえて、とても楽しかったです。

橋口:こちらこそ、ありがとうございます。

「褒められてマイナー、けなされてメジャー」

なつみっくす:チャットでご質問をいただいていますが、最後にこれだけうかがって終わりにさせていただければと思います。

「人権を大切にする考え方を職場に広げていきたいのですが、橋口さんはご自身の職場においてどのような取り組みをされていますか?」。

橋口:僕は自分の職場において、こういう話をけっこういろんなところでするようにしているんですよね。自分の会社の中でもすることが多いですし、あとは最近、広告主の企業の方に招かれて話をする機会が増えています。

もちろん、広告クリエイティブの現場で実践することも必要なんですけども、現場に降りてきた時点でもう手遅れなところも大きいので、その手前でいろんな人と会って話をしています。自分の取り組みとしてはそれですね。

あとは、それに対するバックラッシュは正直、僕程度の影響力だとそんなになくて。よく「褒められてマイナー、けなされてメジャー」という言い方をするんですけれどもバックラッシュが来るところまで行けたら成功かなと思いますね(笑)。

なつみっくす:なるほど。ということで今日は1時間、みなさまたくさんのチャットもいただきまして本当にありがとうございます。橋口さんもお忙しいところありがとうございました。

橋口:なつみっくすさん、今日はお招きいただきありがとうございます。

なつみっくす:ぜひ本も手に取っていただければうれしいです。ありがとうございました。

橋口:ありがとうございます。

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