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自分と社会をアップデートするための倫理観と実践 ~クリエイティブ・エシックス~(全3記事)

炎上広告をめぐる議論に欠けている「本質」 電通コピーライターが語る、本当に変えるべきもの [1/2]

2025年2月に新刊『クリエイティブ・エシックスの時代 世界の一流ブランドは倫理で成長している』を出版した橋口幸生氏をゲストに迎えたトークイベント。広告の炎上などをヒントに、クリエイティブと倫理観の関係性について語ります。

炎上広告の根本にある課題

なつみっくす氏(以下、なつみっくす):ちょっとテーマに挙げていた、(スライドの)左から2番目ですかね、「倫理観とクリエイティブ性がぶつかった経験」と書いたんですが。

橋口幸生氏(以下、橋口):はいはい。

なつみっくす:橋口さんはずっと広告のお仕事をされていて、クライアントが求めるものとご自身の倫理観というか、「もうちょっとこうしたらいいのに」みたいなものがぶつかることがあるんじゃないかなと思っています。

言える範囲でかまわないんですけれども、お仕事をされている中で「こういうことに気をつけている」とか、そういうご経験はありますか?

橋口:僕自身の経験ではないんですけれども、一般論としてよく言われるのは、例えば、(Web広告の)バナーを作るとするじゃないですか。バナーってクリックされればクリックされるほど広告クリエイティブとして優れているわけなんですけれど、やはり若いかわいい女性をバナーにすると、顕著にクリック率が上がるらしいんですよ。

なつみっくす:なるほど(笑)。

橋口:そうじゃないものを作ってABテストをやっても、結局は若い女性のほうにクリックが集まっていくから、クリエイターとかクライアントの意図が必ずしもジェンダー差別的なものはなくても、どうしてもそういうクリエイティブの色が出てしまうのは、一般論としてはあると思いますね。

なつみっくす:悩ましいですよね。

橋口:はい。なのでいつもこういう場で話すんですけれども、「こういう映像にしよう」とか「こういうコピーにしよう」って、表現にまでたどり着いてしまったら、はっきり言ってもう手遅れなんですよ。表現って一番最後に出てくるものなので、もっと根っこの部分を変えなきゃいけないなと思っていて。

なので現場のクリエイターだけにすべての責を負わせるのはやや酷なことではありますよね。表現の問題ではなく社会構造の問題だと思ったほうがいいと思っていて、例えば先日もアニメのCMで女性が頬を赤らめるのが性的か性的ではないかみたいな議論になっていますけれども。

なつみっくす:はいはい、ありましたね。

橋口:あれは本当に不毛といえば不毛な議論で、そういう些末な表現の問題ではないと思うんですよね。じゃあ、頬を赤らめなかったら性的じゃないのかと。

要は、アニメにおける女性の表象が基本的に男性によって作られてきたという問題だと思うんですよ。だから当事者である女性が見た時に、あまり気持ちいい思いがしないということだと思うんです。

もっと手前のところに本質があるので、そこまでさかのぼらないと、「あそこでこの表現がどうだ」とか、「あの表現が性的なのか、そうじゃないのか」みたいな議論をしてもあまり意味がないと思うんですよね。

倫理観とクリエイティブがぶつかった時こそ、進歩のチャンス

なつみっくす:確かに。橋口さんもたまに炎上していることにコメントされていると思うんですが、この本の趣旨として、炎上を抑えるみたいな、要はガバナンスとかコンプラみたいなことだけではなくて、攻めのクリエイティブを表現されていたと思います。そのあたりの意図をもうちょっとおうかがいしてもよろしいですか?

橋口:たぶんこの流れで言うと、倫理観とクリエイティブがぶつかるというものでもなく、「ピッカピカの一年生」とかを作った伝説の広告クリエイターで、僕の尊敬している杉山恒太郎さんが、「倫理観と広告クリエイティブのアウフヘーベン」という言い方をしていたんですよね。

なつみっくす:なるほど。

橋口:アウフヘーベンってものすごく雑に言うと、A案とB案がぶつかってC案ができるみたいなことだと思って。

ある意味、倫理観とクリエイティブがぶつかった時こそクリエイティブが進歩するチャンスだと思うんですよ。この本の中で挙げた事例としては、パラリンピックCMの、12年の進歩の歴史を書いています。

最初、パラリンピックのCMっていうのは、障害のあるパラリンピックのアスリートを、英雄とかスーパーヒーローみたいに描いていたのですが、障害のある当事者から「そういうのはやめてくれ」っていう声があったんですよね。

「自分は人間らしい暮らしをしたいと思っているのに、一部のパラアスリートだけ英雄や超人みたいに描くのは良くない」っていう批判が当事者から入って。そうするとパラリンピックCMもそれを炎上として捉えずに、その次のパラリンピックではその声に応えた広告を作るんですよ。それはやはり前のものより良くなっているんですよね。

なので倫理観とクリエイティブのどっちかを立てたらどっちかは立たないものではなく、ぶつかった時こそ、表現をアップデートするチャンスなんだと思うようにしています。

なつみっくす:なるほど。今、チャットにも書いてくださっていますけれども、「橋口さんの本の中で、人権をOSと表現されていたのが、今の日本社会に必要な言葉としてぴったり」というコメントをいただいています。

橋口:ありがとうございます。

なつみっくす:まさに人権で守らなきゃというだけではなくて、人権とか倫理観とクリエイティブがぶつかった時は、クリエイティブが進化すると捉えていらっしゃる?

橋口:そうですね。今、例えばメーカーであれば人権デューデリジェンス(人権に対する企業としての適切で継続的な取り組み)って当たり前になっているじゃないですか。貧しい国で子どもを働かせて作ったものは買い付けないとか。そういうことを表現でもやればいいだけの話だと思うんですよね。

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