2025年2月に『クリエイティブ・エシックスの時代 世界の一流ブランドは倫理で成長している』を出版した橋口幸生氏が、クリエイティブ・エシックス(世界をより良い場所にするかどうかで判断するマインドセット)をテーマに、今の時代に求められる倫理観をインプットするためのヒントを語ります。
多様性への反動を乗り越える

なつみっくす氏(以下、なつみっくす):あらためまして、なつみっくすと申します。今回のイベントを主催しております、母親アップデートコミュニティの発起人で、団体の運営をしております。前から橋口さんの書籍を拝読しておりまして、ずっとSNSをフォローしていました。
橋口幸生氏(以下、橋口):ありがとうございます。
なつみっくす:2025年に橋口さんほか、電通のみなさまが企画されているDEIの講座「BORDERLESS CREATIVE」に参加しまして、そのご縁で今回のイベントを企画しております。
すでにご登場いただいていますけれども、あらためて私から橋口さんのご紹介をさせてください。プロフィールは見ていただいてのとおりですし、橋口さんの作品を後ほどご紹介いただければなと思っております。今日はよろしくお願いいたします。
橋口:よろしくお願いいたします。
なつみっくす:今日の目的はすでにイベントページを見ていただいているかなと思いますが、100名以上の方にお申し込みいただいています。本当にありがとうございます。
今回、「自分と社会をアップデートするための倫理観と実践」というテーマにいたしました。その上に「DEIバックラッシュを乗り越える!」と書いているんですけれども、特にアメリカで、日々の変化が激しいなと思っています。
DEIとかダイバーシティがバックラッシュ……揺り戻し、反発という言葉ですけれども、見え隠れしています。
あらためて今、このテーマでお話しすることが非常に意味があるかなと思っていまして、ぜひみなさまと一緒にぜひ考えたいと思い、今回の企画をしております。
「クリエイティブ・エシックスとは何か?」ということをひもといて、橋口さんにおうかがいしていきたいなと思っております。個人的にはこのタイトルに入れているように、自分と社会をアップデートするためのヒントとか、前向きな倫理観の実践法について、一緒に深めていきたいです。
倫理観を持った、攻めのクリエイティブ

なつみっくす:今回のテーマに直結する本ということで、橋口さんが2月にリリースされたばかりの『クリエイティブ・エシックスの時代 世界の一流ブランドは倫理で成長している』について、私から少しだけご紹介させてください。
私自身はクリエイティブ界隈の人間ではなく、そういった仕事はしていないですが、なんでこの本を読んだかというと、クリエイティブの力をすごく信じております。
最近は「炎上しないために」みたいな、守りの視点がけっこう色濃く出ていると思うんですけれども、攻めに活用していくための本だと思いました。社会をより良くしていく視点でクリエイティブの力を使っていったり、倫理観を必須教養として身につけていくことが大事だなと思っております。
(チャット欄の反応を見て)あっ、すでに読まれている方もおられますね。
橋口:ありがとうございます。
なつみっくす:私からは3点、「『歴史』から学ぶ」、「豊富な『事例』から学ぶ」。海外、国内を含めて本当にたくさんの事例があって、勇気やヒントをいただけるかなと思っています。
最後に「当事者じゃない視点から学ぶ」とあえて書かせていただいていますけれども、橋口さんの視点でジェンダーの問題について語ることが非常に大事で、だからこそ多くの人に届くんだなと感じております。今日はいろいろと深掘りしていけるかなと思っております。
ということで前段が長くなりましたが、今日はこんなテーマを行ったり来たりとかしながらお話をしていければなと思います。
まずは橋口さんからご紹介を兼ねて、どんなクリエイティブを手掛けられてきたかとか、どういうことを考えられてきたかを入り口にしながら始めていければと思いますが、いかがでしょうか?
話題の企画を手がける、電通の広告クリエイター

橋口:はい。みなさん初めまして、橋口と申します。ふだんは電通という会社で広告のクリエイティブ・ディレクター、コピーライターをやっています。ニデックやネットフリックスといったクライアントを担当しています。

その他の事例だと、岸田奈美さんの本の広告で、「世界ダウン症の日」の新聞広告をつくりました。この前(2025年3月21日)、世界ダウン症の日にヘラルボニーの新聞広告が出ていましたけれども、これは3年ぐらい前にやったものですね(2021年の事例)。
また、「キミのなりたいものっ展?with Barbie」という展示をITOCHU SDGs STUDIOでやりました。

ここ2年間は、「世界えん罪の日」の仕事もしています。毎年10月2日って「世界えん罪の日」になっていて、世界中で冤罪への意識を高めるための啓蒙活動が行われるのですが、それの一環として2023年、2024年に作った新聞広告です。

2019年には『言葉ダイエット』という本を出しています。宣伝会議さんから出した文章術の本になります。
なつみっくす:ありがとうございます。ちなみにこの(スライド)右下の文字の意味をおうかがいしてもよろしいですか?
橋口:小さいから本文が読めないですね。これ、実際は新聞の30段(見開きの全面)なので相当に大きいものなんですけれども、キャッチフレーズは、「『正義』は暴走する。私たちが止めないかぎり。」なんですよ。
真ん中にダーッとある、豆粒みたいな字は、漢字の「正」の字が並んでいます。これは画数が1万7千388字あって、袴田事件の袴田巌さんが収監されていた日数を表しているんです。
キャッチフレーズに「『正義』は暴走する」って書いてあるんですけれども、英語では司法のことをhostage justiceって言うんですよね。なので司法システム、justiceが暴走するとこれほど酷い人権侵害が起きるんだよということを伝えたくて作ったものです。
無実の罪で48年間とらわれたと言っても、数字があまりに酷すぎて実感が湧きにくいと思うんですよ。48年ってさらっと言うんじゃなくて、少しでも身体感覚を持って、袴田さんがどれだけ酷い目に遭っていたのかを伝えたくて作ったのが右下のものですね。
これは2024年の世界えん罪の日、10月2日に出したものですが、2024年の9月26日に袴田さんの無罪判決が出たんですけれども、検察が抗告をするとまた裁判が始まってしまうわけですよ。無罪が確定しない。なので検察に控訴させないための世論を高めるために10月2日に出したんです。
検察の控訴の期限が10月10日で、それまでに出す必要があったので10月2日に出しました。ほかにもいろんな方がすごくがんばって世論が高まった結果、検察が控訴を諦めて無罪が確定した背景があります。