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IPOの課題に切り込む!ひふみが生み出す新たな投資、大企業の役割とは?(全1記事)

大企業の意思決定スピードがすごく早くなっている 今日本の経営者が変わってきている3つの要因

レオス・キャピタルワークス株式会社のYouTubeチャンネル『お金のまなびば!』は、ふだんは語りにくいお金や投資、経済の話について、ひふみシリーズの最高投資責任者の藤野英人氏や、ひふみシリーズのメンバーと一緒に学んでいくチャンネルです。今回は、日本の経営者を覚醒させている3つの要因について語ります。

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シナモン加治会長が語る「スタートアップ5か年計画」

藤野英人氏(以下、藤野):僕らの文脈だといきなりじゃないんだけど、たぶん世間の文脈だといきなり、政府が「スタートアップ育成5か年計画」を出したわけですよね。これからスタートアップ中心にやらなきゃいけないってことで、スタートアップ支援をするんだという話ですけれども、僕らからすると「当然だよ」と。この「スタートアップ5か年計画」についてどのようにお考えでしょうか。

加治慶光氏(以下、加治):はい。まず、この計画自体は「新しい資本主義実現会議」という、岸田文雄総理が始められた会議の中で生み出されたものなんですけども。15人ほど民間人が委員になってまして、そのメンバーがすごく良かったということと、あと事務局の人たちがとても一生懸命な官僚の方たちです。

総理もよくお話を聞かれて、それを毎回反映されて磨き込まれた計画なので。経済産業省も内閣官房も「これは日本においてはかつてないスタートアップ政策である」と言っていて、私としては100パーセント支持をしています。

税制に踏み込んだ部分とか、我々が「これを入れるのは難しいんじゃないの?」と思っていたことも、かなり入っていたりするんですね。

世の中には政策があって、戦略があって、戦術を決めると思うんですけど、その政策面ではかなり整ったものだと思います。あと、なんと言ってもすばらしいなと思うのは「5か年」と言ってることなんですよね。



どうしてもその政策って、政権が変わったり総理が変わったりすると、持続性がないわけなんですけれども。これは長くやって我が国の形を変えていこうという情熱を、みなさんが持っておられたので、5か年と言っているわけです。

そういう意味においては、とてもがんばってるんじゃないかなと思いますし、これをうまく使ってスタートアップのムーブメントを広げていけるといいなと思います。

政府から民間へ、いよいよボールが渡ってきている

藤野:現在までのところで、良かったところや課題だと思ってるところはどこですか?

加治:そうですね。税制のところまで突っ込んでいろんなことをやっていたり、個人負担の部分も改善があったり、ストックオプションの税制のところもタイミングをずらしたりできるようになったり。非常に細やかですごくいいなと思っています。

私は基本的には、あまり足りてないところはないんじゃないかなと思っていて。むしろさっき申し上げた、政策が整って、戦略もある程度できてきている。なので、むしろ戦術のところで、民間側にいよいよボールが渡っている認識がすごくあります。

この「5か年計画」のうちの3つの柱のうちの1つが、オープンイノベーションとなっていますよね。これって、日本の大企業がスタートアップとうまく連携をして、自前主義じゃないものをうまく動かしていこうってことだと思うんですけども。これはすごく大事だと思っています。

これをきちっと政府が宣言しているので、例えば経団連とか経済同友会が受け取って、どんどん実行していく。それがミクロレベル、会社レベルで実行されていくタイミングになっているんじゃないかなと思います。

藤野:ちょうど先週、東京都が主催してる「SusHi Tech Tokyo」に行ってきまして、それでいろいろ見てきたんですけれども、すごく感じたのは、まず熱気です。

スタートアップのイベントですけれども、非常に人が多かったと同時に、今お話しになられたオープンイノベーションという面で見れば、けっこう名だたる大企業がブースを設けていて。

それで投資だけじゃなくて、自分たちがこのスタートアップとこれから関わってくるんだという意志を見せていたところが、今までと違う色合いがあったなぁと。日本の「5か年計画」が少しずつ浸透しているのを強く感じましたね。

アメリカはM&Aが9割だが日本は…

藤野:ただ一方で、今の日本国そのものの大きな課題で言うと、よく日経平均が4万円なりましたとか、だいぶ株が上がったということなんですけれど。一方でグロース市場がぜんぜんダメで、せっかく上場しても鳴かず飛ばずになってしまうと、結局また日本のスタートアップであったりベンチャー市場に響いてくる。

そうすると、どうやってこの市場を一緒に作っていくのかが大きな課題なんです。上場した瞬間に絶対零度の世界になって、みんなで会社を伸ばしていくような空気がないんですよ。上場株の世界の海温の冷たさと、トロピカルな海の温度とのところにすごくギャップがあるんですよね。

この両方に携わっていて、かつ上場株で最大のファンドを持っている人間としては、ここはなんとか変えていきたい、コミットしたい課題なんですよね。

加治:「スタートアップ5か年計画」の基本的考え方の中でもイグジットについて述べている項目があるんですけれども。

日本はだいたい9割がIPOですね。アメリカは9割近くがM&Aなので、M&Aが成長の1つの戦略であるという発想を、日本の大企業が持つのはすごく重要だと。これは「スタートアップ5か年計画」でも言われていますし。

一般的に日本の企業は、そのM&Aとスタートアップに対する投資を同じ目線で見てるんですね。例えばROIで見るとかEBITDAで見るとか収益性で見るとか。

それに対して、アメリカでのM&Aは、もう本当に赤字のところで、その技術が欲しいからとか、そこで働いてる人たちを雇いたいからという発想でやっている。会社をM&Aの延長線上で見ないんですよね。

なので、日本の大企業の人たちがM&Aの延長線上でスタートアップ投資を見ないという、ちょっと違う視点を持ち込む。ある程度打率は悪くなるに決まってるので、意思決定の仕方ももっとクイックにする。それをちゃんと許容できるような仕組みを、日本の大企業側が持つようにしないといけないんじゃないかなと思います。

大企業の意思決定のスピードがすごく速くなっている

ナレーター:計画が打ち出されてから2年が経ちますが、現在の状況はどうなのでしょうか。

藤野:「5か年計画」には、スタートアップ企業で5倍~10倍の(成長をするような)会社を作りたいという思いがありますけど、今どんな感じなんでしょうか。

加治:感覚としては淡々と全体が上がっていってる感じはしていますね。

藤野:まぁ、日本っぽいですね。ぜんぜんネガティブじゃないですよね?

加治:ええ。なのでどこかで急に「スタートアップが活躍するのが普通だよね」という時代がやってくる。例えば最近起こったことで言うと、DXとかSDGsもそうなんですけど、一般的に言われるキャズムですよね。17.65パーセントを超えたあたりから、同調圧力が効く。我々の国は、それで急激に一般的になっていくという。



なので、スタートアップに投資するのを、それこそ大企業の中でも何社かやり始めていくと、たぶん1年後ぐらいには、だいぶ風景が変わってくるんじゃないかなと思いますね。

私はNTTでも一部仕事していまして、NTTは「tsuzumi」というAIを出しているんですけれども。今NTTとシナモンはすごくクイックにパートナリングを結んでいます。NTTの「tsuzumi」をどう使うかという議論をしてるんですけど、その大企業の(意思決定の)スピードがすごく速くなってる感じがします。

日本の経営者を覚醒させている3つの要因

加治:どうしてこういうふうになってきたのかを考えてたことがあるんですけども。まず、我々の世代の経営者はバブル時代を謳歌した人たちなので、「明日が(今日)より良くなる」というのを、実感的に持っている。これはすごく大きいのと、あと2つあります。

1つは国内における人口減少がリアルにやばいというのがもう実感としてわかってきているので、海外で商売しなきゃいけないという話と。

それから、かつては市場としか見ていなかった中国のテクノロジーがすごく脅威であるというコンセンサスができてきた。この3つが日本の経営者を覚醒させていると思うんですよね。

世界に出ていこうという、トピックスの組み替えがプライム市場で起こった。これはある意味、すごく日本の大企業が鍛えられているところです。例えばガバナンスとかサプライチェーンとかヒューマンライツとか、私はある種、青春の門をくぐったと思うんですけど。

藤野:(笑)。青春の門ですか。いいですね。私も使わせていただきます。

加治:ええ、ぜひ。ある意味で、日本の大企業は青春の門をくぐって大人になりつつあるんだなぁと思っています。もともと日本は、すごく社会に対する責任感を持ってる会社が多いので。アメリカで言うと、どちらかというとワイルドなスタートアップが暴れたというような事態が、2005年から2015年ぐらいの間であったわけなんですけど。

例えば、Facebookなんかは(創業時)「Move fast and break things」と言っていますが、最近は非常にMetaも社会性を意識しだしてますから。そういう動きと、日本が世界に出ていく動きが合致して、日本の大企業も本当に大人になってきた感じがします。

藤野:そうですね。

これからの日本のスタートアップの展望は

ナレーター:これからの日本のスタートアップの展望をうかがいます。

藤野:「スタートアップ5か年計画」がありますが、5年経ったらどんな日本になってると思いますか。もう2年経ってるわけで、「ユニコーンを100社作るんだ」「スタートアップを10万社創出だ」といった目標そのものがどうなんだってのはあると思うんですけど。どうなっていると思いますか。

加治:掛け声としてはすごく魅力的に映ってますし、わかりやすいので、とてもいいんじゃないかなと思いますが。

むしろそれに引っ張られて、地域で課題に向き合ってる人たちが、「スタートアップは1つの課題解決の仕組みだ」と気づきだしていることが、すごく重要だと思っています。

どうしても日本のスタートアップって、東京と京都、大阪、福岡とかに集中していたところがあったんですけれども。ますます地域における人口減少が深刻になってきていますし、これから加速度的に深刻になるので。

そうすると、スタートアップをそれぞれの地域で作りましょうという動きがどんどん広がっていく。なので、もっと底上げがすごい、ロケットのようなもの(スタートアップ)がいくつかできると、全体のかさが増していくんじゃないかなと思っています。

そうすれば、アメリカ型の、派手なスタートアップがどんと出て、「GAFAMプラス、テスラとNVIDIA、以上」みたいな感じにならないと思ってますし。結果的に日本の株価全体が上がって、それぞれの選択肢が増えていくといいなぁと思います。そういう世界を作れる可能性はあると思います。

藤野:もう最後の質問になると思うんですけれども、僕らはこれから50年も生きられないと思うので。たぶん全力投球できるのは、10年から20年だと思うんですけど。加治さんは、どんな感じでスタートアップと関わりますか。

加治:まぁ、やっぱりヨーダですね(笑)。

藤野:ヨーダ(笑)。ヨーダに始まってヨーダに終わるという。

加治:若い方たちがどういうふうにプレイしていくのか(見守りつつ)、ヨーダも時々一緒に戦ったりしますから、少しでも役に立てるといいなと思います。

藤野:そうですね。

加治:なので一緒に営業に行ったりはするんですけど、我々ぐらいの世代の人たちが若い人たちを支援するのは、あと10年だとしてもやりがいがある仕事じゃないかなと思います。冒険をしながら少しでも若い人の役に立てるといいなぁと思います。

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