2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
ハーバード大学2024卒業式 マリア・レッサ氏(全1記事)
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マリア・レッサ氏:ガーバー学長、ありがとうございます。そして、昨年この申し出のために電話してくださった、ゲイ前学長に感謝いたします。
(会場拍手)
ハーバード大学の著名な教授陣、謎めいたハーバード大学理事会。そして、今日ここに卒業するみなさまの晴れ姿を見るために遠方や近くからお越しになった、ご友人やご家族のみなさまにスピーチさせていただくことは、この上ない光栄です。
何はさておき、懸命な努力を重ね、試練に耐えぬいた2024年度卒業生のみなさまを祝福できることを心よりうれしく思います。ありがとうございます。
今日のスピーチは、ノーベル賞受賞式のスピーチよりもずっと書きづらいものでした。なぜなら、2021年以降世界は悪化の一途をたどっているからです。私たちは、一瞬にしてすべてが変わり得る陰惨なSFの世界に生きており、そんな世界では危機をチャンスに変え、やり過ごさざるを得ないのです。
このことを2024年度の卒業生より、よりよく語れる人はいません。パンデミックにより高校の卒業式は中止されました。大学入学1年目はロックダウンがあり、マスクを着用し、接触を恐れ、みなさんは、今日私たちが直面するすべての実存的な問題を明確にしました。
私たちは仮想世界のオンラインへ押しやられ、それが事態をさらに悪化させました。なぜなら、何万人もの命を奪い、歴史的なキャンパス抗議行動を引き起こした戦争、衝突と暴力、私たちと彼らの対立など、加速させたのはテクノロジーだからです。
かつての文明的なハーバードの、じっくりと時間をかけた公開討論であったものが、生死をかけた剣闘士の戦いとなったのです。
私は、自身の経験により知っています。アメリカの旧植民地で、人口1億1千万人のフィリピンはソーシャルメディアのペトリ皿(実験場)でした。極めて重要な6年間という年月を、フィリピンの人々は世界で最も多くの時間をオンラインやソーシャルメディア上で過ごし、アメリカのIT企業の実験場となったのです。彼らのプラットフォームの設計は、情報戦争において権力と金により悪用されているのです。
TikTokが争いに参入し、状況はさらに悪化しました。戦略が私たちにうまく機能すると、みなさんにも実行されました。2016年に1億2,600万人のアメリカ人がロシアの偽情報の標的にされたのは、まさにこれでした。
そして(2021年)1月6日に起きたキャピトルヒルの暴動は、シリコンバレーの罪を浮き彫りにしたのです。今日ここに来る招待を承諾したことにより、私はオンライン上で攻撃され、権力と金により反ユダヤ主義者と呼ばれました。なぜなら、彼らは権力と金を欲しているからです。
もう一方の側は、私がヒラリー・クリントンと一緒に壇上に上がったことにより、すでに私を攻撃していました。勝つのは厳しいですよね? しかし、私は自国の政府による情報戦を生き抜いていました。
言論の自由は、人々を押し黙らせるのに利用されていました。2016年には、1時間に90通ものヘイトメッセージが届きました。8年も前のことです。“朝食”のように殺害予告を受けました。私の見かけや話し方を攻撃し、彼らは私を人間として扱いませんでした。
攻撃対象にされた時は笑うしかなかったのですが、一番おかしかったのは、私がCIA(米中央情報局)であり共産主義者だとされていたことです。そこに真実はありませんでした。これだけは知っていてください。
彼らの最終的な目的は、大混乱を起こすこと、信用を壊すことなのです。正しい情報がなければ行動することはできません。ジャーナリストが最前線に立つ理由の一部はこのためです。
私たちに対し、世界規模でメタナラティブや偽情報ネットワークが種を蒔き散らしました。それは「ジャーナリストは犯罪者と同等」というものでした。その後、フィリピンではソーシャルメディア上で私たちに対するボトムアップ攻撃が始まり、その1年後に法規制の武器化が起きました。
2019年、私は約1ヶ月の間に2度逮捕され、保釈金を8回支払いました。約3ヶ月のうちに私は逮捕された時のワークフローをまとめないといけないと思っていましたが、終わらないうちに10件もの逮捕令状を突きつけられました。
(ニュースサイトの)「ラップラー」と私は、フィリピンの独裁者の妻、イメルダ・マルコスよりも多額の保釈金と保証金を支払いました。イメルダ夫人の靴を覚えていますか? 彼女は汚職で有罪判決を受けました。
しかし、私は何も悪いことをしていません。私の職務、つまり事実を報道し、権力にその責務を負わせるのです。この職務を続けるために、私は残りの人生を刑務所で過ごす覚悟を強いられました。
一時は1世紀を超える刑期が提示されていました。今日ここに来るために、合衆国最高裁判所に旅行の許可申請をしなければなりませんでした。この会場の中に、保釈中の方はいらっしゃいますか? 私だけかしら?
(会場笑)
これは貴重な教訓になりました。今日の学生たちのスピーチはすばらしいものでした。このような時代が、私が学んだ教訓と同じことをみなさんに教えることを願っています。
試されるまで、信じるもののために戦うまで、自分がどんな人間かはわかりません。それがあなたという人間を定義づけるからです。ですが、あなた方はハーバードの人間です。事実を正しく把握した方がいいでしょう。なぜなら、あなた方は今、試されているからです。
萎縮効果とは、声を上げると嫌な結果が伴うため、多くの人々が口をつぐむことを選択することを意味します。被害妄想は、社会の大きな裂け目を開き、人々は耳を閉ざして聞き入れないことに、恐れと同時に怒り、ショックを受けています。フィリピンで私たちに起きたことが、ここで起きているのです。
キャンパス抗議行動は、アメリカに住むすべての人を試しています。抗議は健全なもので、攻撃的であってはなりません。抗議は声を与えるのであって、沈黙させられるべきではありません。
(会場拍手)
ですが、我々は複雑で一筋縄ではいかない時代に生きており、学校経営者や学生のみなさんも認識していない危険に晒されているのではないかと思います。その危険とはテクノロジーであり、すべてをより速く、より卑劣に、世代を分断する陰湿なオンライン情報操作により二極化が進んでいます。
ラップラーは、これを文書化したものを今後数週間のうちに公開します。ラップラーの経験があなた方の役に立てるかもしれません。結局のところ、我々は地獄にいた。そして、今は煉獄にいるんでしたっけ? (これから)よくなっていきますよ。
そして、これが私たちが学んだ3つの方法です。1、最良の自分を選ぶこと。2、危機をチャンスに変えること。3、弱者であること。最良の自分を選び、目標を定め、ひた向きに進むことです。
ですが、信条とする自分の価値観を知っておきましょう。権力はどれほど重要か? どれだけお金があれば、あなたは満ち足りるのか? この世界でコントロールできる唯一のものは、あなただけなのですから。
自分のことは棚にあげ、自分自身の見たくないことや欠点から目を逸らしてしまうことはよくあることです。自分の悪い行動を正当化します。ですが、小さな選択の積み重ねが人格を形成することを覚えておいてください。
価値観が明確でなければ、ある朝起きて、その時の自分が好きでないことに気づくかもしれません。ですから、最良の自分を選びましょう。あなた方は、かつての世界の瓦礫の上に立っているのです。そのことを認識してください。
これはノーベル賞授賞式のスピーチで申し上げたことですが、「ソーシャルメディアが世界を混乱に陥れ、嘘が事実よりも速く広まり、恐怖と怒りを増幅させながら、利益を得るために意図的に憎悪を煽ったことにより、情報エコシステムの中で原子爆弾が爆発したのです」と。
ソーシャルメディアのAIであれ、生成AIであれ、我々に情報の完全性はありませんし、事実の完全性もありません。私が繰り返し申し上げている3つの文がこれです。事実なしに真実はない。真実なしに信頼は築けない。これら3つなしに共有された事実も、法規範も、民主主義もありません。
気候変動のような実存的問題の解決に着手などできません。この暴力的な経済は、私たちのデータをもとに構築され、我々を微小なターゲットとし、世界を変貌させ、人間の最悪な部分を褒美とします。オンライン上の暴力は、現実世界の暴力なのです。
そして、あなた方が指摘したように、国連とMetaの報告によると、Facebookに焚き付けられ、ミャンマーでは大虐殺で人々が亡くなり、ウクライナでも、スーダンでも、ハイチでも、アルメニアでもガザでも人々が亡くなっています。
今日の課題は、「規則に基づいた国際秩序はまだ機能しているのか」ということです。機能していますよね? 課題は、人間性の中核をなす正義です。国家から企業まであまりに多くの権力者が免責特権を享受し、不問にふされています。そして、それが文字通り我々を破壊し、民主主義を破壊し、信用を破壊することで我々を分断しているのです。
ちょうどあの門の向こう側のケンブリッジ・コモンズには、アメリカ合衆国パトリオットであるウィリアム・ドーズの墓碑があります。彼は、彼よりもっと著名な友人であるポール・リビアと同じように「イギリス軍がやって来るぞ!」と警告を発しながら馬に乗り、ここを通り抜けました。
今日のそれに相当するのは、カサンドラとシーシュポスが合わさったような気分にさせる警告です。なぜなら、2016年にフィリピンで我々の法制度が瞬く間に崩れ落ちて以来、私はずっと叫び続けているような気がするからです。
私は今、申し上げます。ファシストが近づいてきています。2023年の世界の民主主義指標は、これまでにない最低水準に落ち込みました。今日、全世界の71パーセントが独裁政権下にあります。我々は非民主的な指導者を民主的に選出しており、これらの独裁主義者は、一度権力の座につくと自国の制度を壊すだけでなく、同盟を結び、国を私物化するシステムを作るのです。
これがあなた方の挑戦であり、私たちの挑戦です。そして、ハーバードは我々がここにたどり着くよう導くという役割を果たしました。7年前、マーク・ザッカーバーグはこの壇上に立ち、ようやく学位をとり、彼の人生の目標は世界全体をつなぐことだと言い、「速く動き、物事を壊せ」と言いました。しかし、それは民主主義を壊してしまいました。
私の著書である『偽情報と独裁者 SNS時代の危機に立ち向かう』で、私たちは戦っていました。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテだけではなく、私は2名の名前を挙げました。
ドゥテルテは法規制を崩壊させた1人の人物ですが、もっと強大な力を持っていたのはマーク・ザッカーバーグです。彼とIT企業の盟友たちは、世界をコントロールしていたのです。わかりました、これ以上は言いません。十分でしょ? 信用を取り戻すための戦いは、あなた方を巻き込んで今始まるのです。
ハーバードは「世界の未来のリーダーを育成する」と言っています。あなた方未来のリーダーが、今、民主主義存続のために戦わなければ、将来あなた方が率いる道はほとんど残らないでしょう。
では、どうすればいいのか? これが、2つ目の「危機をチャンスに変える」につながっていくのです。みなさんは、これを実践してきたと思っています。危機がこれからも存続することを受け入れてください。
ラプラーの共同創始者の1人であり、ニーマン・フェローを2018年から勤めているグレンダ・グロリアが、今日ここにきています。私たちは、想像しうる最悪のシナリオを受け入れることを学びました。これは、我々の最も暗澹たる時期に起きたことでした。
その後、我々はラプラーが何をすべきかワークフローを作りました。チームを訓練し、最悪のシナリオに備えました。私たちは司法を中傷したくなかったので、おかしなことに“サンドバッグ”になることを学びました。政府を中傷したくありませんでした。
私たちは、恐怖がどんなに強力か知っていたので、介入しようとしました。ある時点で沈黙が承諾を得た時、あなたは憤慨するでしょう。ですが、いいニュースもありました。
覚えていますか? 私たちはあらゆる最悪のシナリオを準備していました。そして、私たちが経験した現実は、私たちの想定よりもずっといいものでした。地獄、煉獄だったでしょう? 私たちが怖がらなかったわけではありません。ラプラーの四人の共同創始者の間で「怖がれるのは1度に一人だけ」という約束を取り交わしたのです。
私たちは恐怖を順番に回しました。しかし今、あなた方にとっても、私たちにとっても、情報エコシステムの腐敗は悪化しようとしています。ディープフェイクのせいで、いまや自分の目や耳も信用できなくなっています。チャットボットのせいで、会話している相手が人間かどうかも信用できなくなりました。
イーロン・マスクがTwitter(現X)を買収した後、信頼性と安全性を担当するチームを解雇してしまいました。MetaとGoogleも同じように、信頼性と安全性を担当する部署を削減しました。
今年、世界の半分が投票所に行って投票を行うことになりますが、私たちを守る安全措置は従来より少ないことでしょう。大手IT企業はニュースサイトのアクセス量を絞っています。それは、フィードに表示されるニュースの数が少なくなるということを指します。
あなた方の感情が操作され、生理的側面から不正侵入されているのに、何が本当かをどうやって見分けるのですか? 事実の代わりに、インターネットの改悪化が全盛を迎えていて、ごみ情報、プロパガンダ、私たちの感情のボタンを入れる情報操作がより多くなっています。
パリ市長のアンヌ・イダルゴは、Xを「人間の下水道」と呼び、アカウントを昨年削除しました。私たちは主体性のために、独立した思考のために、もっと奮闘しなければなりません。
そして、私たちを守る責任を放棄したのはIT企業だけではありません。アメリカなど民主主義政府も同じです。IT分野は世界中で最も規制の緩い分野なのです。だからこそ、アメリカ合衆国は1996年制定の通信品位法230条を無効、もしくは改正する必要があったのです。
私たちは処罰の免責を廃止しなければなりません。また、信仰の危機にあることを認識する必要があります。私はいつも人間に備わる善良さを信じてきましたが、今日ほどそれが試されていることはありません。私たちをつなぐテクノロジーのインセンティブ構造が悪を奨励し、私たちがなりえる最良のものを排除してしまうのです。ですから、私たちは人間に対する信頼を回復させる必要があります。そして、それは思いやりから始まるのです。
南アフリカには、共感を超越する「ウブントゥ」という言葉があります。私はこの言葉が大好きです。私が存在するのは、私たちが存在するからという意味です。他の人に対するより深い信頼で、他の人の気持ちになって考えるよりもより深いものです。しかし、「ウブントゥ」の領域に到達するには、我々の盾を下げる必要があります。これが3つ目の弱者であることにつながっていきます。
今日ここにいるということは、みなさんは多くのことを成し遂げてきました。弱者であることは弱いことであり、信用されにくいと思うかもしれません。しかし、どのような関係性であっても、どのような交渉でも、何か意味のあることをやり遂げよう、先へ進めようとするためには、まず誰かが盾を下げ、エゴ、防衛装置を緩めるのです。そうすれば、他の人は後に続きます。
あなたがその人になってください。あなたが弱者であれば、最強の絆を築くことができるからです。信頼を回復し、解決困難な問題に独創的な解決策を見つける能力が備わります。打たれ強くなることで、困難な状況や課題に挑戦し、困難をチャンスに変え、すばらしい結果を導くことができるのです。だから、最良の自分を選ぶのです。危機をチャンスに変えるのです。そして、弱者であるのです。
さあ、いよいよです。今が重要で、あなたの行動が重要なのです。戦争はガザや遠いどこかで起きているだけではありません。スーダンでも、ウクライナでも、あなたのポケットの中にもあるのです。私たち一人ひとりが、事実や誠実に対する戦いに挑んでいます。なぜなら未来の独裁者は、私たち一人ひとりに照準を合わせ、標的にすることができるのです。
最後に「私たちは、かつての世界の瓦礫の立っている」という言葉を思い出してください。私たちは勇気を持ち、先見の名を持ち、あるべき姿の世界を想像し、作り出さなければならないのです。より思いやりがあり、より公平で、より持続可能な世界を。あなた方が学んだハーバードの教育は、みなさまにツールを授けました。ファシストや暴君のいない安全な世界を実現させましょう。
あなたがどれだけのスーパースターであったとしても、1人で成し遂げられることは非常に少ないのです。我々は、1人ではほとんど何も成し遂げられないのです。私たちを結びつけるものを見つけるために、一緒に何ができるのか? ということです。世界は炎上していて、あなた方を必要としています。2024年度卒業生のみなさん、戦場へようこそ! 共に戦いましょう!
(会場拍手)
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