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新刊!『世界がかわるシマ思考 ― 離島に学ぶ、生きるすべ』出版記念対談(全4記事)

都市部への一極集中が起きていないイタリアと日本の差 持続可能な社会をつくるために見直したい、本当の豊かさ

『世界がかわるシマ思考 ― 離島に学ぶ、生きるすべ』の刊行を記念して開催された本イベント。NPO法人離島経済新聞社代表理事、有人離島専門メディア『ritokei(リトケイ)』統括編集長 の鯨本あつこ氏が登壇しました。本記事では、持続可能な社会を作るためのヒントについてお話しします。

都市部への一極集中が起きていない、イタリアの豊かさ

筧裕介氏(以下、筧):僕は『世界がかわるシマ思考 ― 離島に学ぶ、生きるすべ』の編集を手伝わせていただいたので、たぶんすごく早い段階に原稿を読ませていただいて、すごくラッキーだったんですけど。この島にある豊かさを確認するように読み返していて、けっこう深く考えさせられたのが、イタリアの話です。

イタリアでは、人口5,000人未満のすごく小規模な自治体に全人口の20パーセントが、2万人未満の自治体に48パーセントが住んでいる。一方日本ではそれぞれ0.36パーセント、6パーセントにすぎない。

僕は、特にイタリアやフランス、スペインみたいな南ヨーロッパには、日本のローカルと共通する豊かさをすごく感じていて、日本が目指すべき社会の姿に近いなと昔から思っていました。

北欧に行くと、「日本はこうはなれないだろうな」という絶望を感じるんですけど、スペインやイタリアは、比較的経済的にもしんどい状況の中で、すごく豊かだなと感じています。僕の中でイタリアは日本のロールモデルのイメージがあったので、イタリアと日本がこれだけ違うことが、けっこう大きな衝撃でした。

先ほど、島の人口が(毎年)1万人減っていっているとおっしゃっていました。それはすなわち、ある意味島に暮らしている人で、この島が持っている豊かさに気づけていない人たちがある程度いる。そして大都市で暮らしている人々が、今のこの資本主義社会の豊かさに未だにしがみついている。本来島にあるような豊かさになかなか気づけていないんだろうなと、すごく考えさせられたんですよね。

「離島」という言葉を差別的に捉える人も

:特に聞いてみたいなと思ったのは、島で暮らしている人が、その島の豊かさに気づけていないのか、気づいているけどなんらかの理由で出ていってしまっているのか。鯨本さんから見て、島の人口減少と、島が持つ豊かさの関係性はどう捉えられているのかを、お聞きしてみたいです。

鯨本あつこ氏(以下、鯨本):島も本当に多様なので、本当は離島と一言でくくるには、けっこう乱暴なところがあるんですね。ただ日本社会の中での離島地域というところで言うと、今の資本主義的な何でも揃う都会と比べて、よくも悪くも、のんびりと発展してきたんですね。

今はもう、一周回ってのんびりと発展してきたおかげで、都市ほどなくなっていない(ものがある)。例えば地域コミュニティが残っているので、自分自身はぜんぜん悪いと思っていないんですけれども。

これは世代によって感覚が違うんですけれども、ちょっとご年配の方になってくると、やはり戦後から日本が勢いよく経済成長していって、どんどん発展していく中で、島はずっと取り残されてきたという感覚をお持ちの方もいらっしゃる。

場合によっては、この「離れる島」と書く、離島というのは法律用語と言われています。離島振興法という法律ができた時から、一般的になったと言われているのですが、この言葉自体を差別的に、卑屈に捉えている島の方もいるんですよ。

島だけじゃなくて、例えば田舎出身の人が都会に出て、また帰ってきたら「都落ち」みたいに言われるのとまったく一緒なんです。だから都会が優れていて、そうじゃないところは劣っているみたいな価値観が、日本で一定の時期にワーッと言われていたはずなんですよ。

:そうですね。

島の住民が自尊心を持ちにくい環境がある

鯨本:その弊害が今も島にはあります。島だけじゃなく、日本のどこにでもあると思うんですね。でも、その価値観が変わっている、新しい世代の人もたくさんいらっしゃるんです。このシマ思考的な豊かさを再考することこそが、日本の未来の可能性になると信じている人も、若い世代や先輩世代の方にもたくさんいらっしゃるんですね。

ただ経済的なことで言うと、離島地域って、例えば何か物を作って売るにしても、流通コストが高かったり、いろいろとコスト高なんですね。そうすると国の補助を必要とするので、「いかに困っているか」を言わなきゃいけないところもあるじゃないですか。

:「豊かです」って言っていたら、補助がもらえないから、言えない(笑)。

鯨本:そうそう、言えないんです(笑)。だからその法律制度を整備するために、ちょっと劣っているアピールをしなければいけないみたいな。それによって、さらに自尊心が削がれていく地域の人もいるんじゃないかと。そういう弊害があると思っています。

:なるほど、今の環境の中では(島の住民が)自尊心を持ちにくい。

鯨本:いわゆる人間の自己肯定感が低いみたいな感じですかね。自己肯定感を高く持ちにくい環境にあった方も、たくさんいらっしゃると思います。でもそれも人によっても違いますよね。どれだけ劣っているとか馬鹿にされても自己肯定感の高い人は高いので。

だからどの時代にあっても、「島がすばらしい」って言い続けられる人もいれば、やはり都会がいいと、島は劣っていると口にする方も、今でもたくさんいます。

シマ思考的な価値観としては、私が住んでいた田舎も都会の人も、1回本当の豊かさを見直さないといけないと思っているんですね。それは別に離島だけの話じゃなくて、持続可能な社会を作っていこうとすると、必要なんですよ。

離島に住む人が島の豊かさに気づくには

鯨本:だから、シマ思考的な豊かさに照準を合わせていくと、離島地域ってものすごく先端だよねと。その希望や可能性を大いに膨らませたいんです。例えばこの本を読んで、離島地域にあるような現象的な豊かさを見直す方が増えていってほしいと思います。

単純に島と言うと、例えば景色が美しいとか珍しい文化があるみたいな観光的な要素で注目されることが多かったんですけれども。そうじゃなくて、シマ思考的な観点で注目されることが増えていったら、離島地域に住んでいる方々で、「うちらの暮らしってけっこういいんじゃない」と思ってくれる人が増える。

:自己肯定感が上がると。

鯨本:そういうかたちになっていければと思っています。離島地域に対して本当にネガティブに思っている方は、どうしても出て行くんですけど、それはそれでもう仕方がない。これから先の社会は、このシマ思考的なものを「いいね」って思って残る人たちが、離島地域を作っていくと、さらにおもしろいことになっていくと思います。

過去半世紀以上、人口がほとんど変わらない島もある

:感覚としては離島に限らず、いわゆる日本の地方や中山間地域が、この10年で非常に見直されてきているように感じます。若い世代でそういうところに関心を持って移住するとか。でもその肌感覚があるのも、そういう狭い世界で生きているからだという感覚もあって、やはり都市部への人口集中がまったく止まっていないのが、日本全体の傾向ですよね。

離島におもしろい人たちがいっぱい行っていることはよくわかったけど、離島からの人口流出は、実はまったく止まっていないのが現状なのかなと。この状況に対して、どんなアプローチや、一緒にできることがあるんでしょうか。

鯨本:そうですね。実は過去半世紀以上、人口がほとんど変わらない島もあるんですよ。ですから結局、人口は減ってもいない。あとは人口流出の話で言うと、近年社会増(転入の人口が転出を上回っていること)になっている地域もある。

結局自然減(出生と死亡の差がマイナスの場合のこと)で言うと、自然増が減っちゃっているとか、いろいろとまだ課題があります。あとやはり高齢者のボリュームが多いので、そこが一気にガッと減っちゃうのがどうしてもある。

だからその自然増減の話はちょっとあれですけど、社会増減で言うとプラスになっているし、実際は近年はまあまあ増えているんですよね。一般的にはあんまり知られていないだろう、マニアックな島でも、人口が減らないところがあるんです。そこがめちゃくちゃおもしろいんですよ。ものすごく柔軟な政策とか、あとは島の人たちの価値観がびっくりするぐらい柔軟なんですよね。

そういうところがもう少し注目されていって、「ああ、みんながもっと柔軟になれば、こんなにおもしろくなるんだ」みたいな認識が広がっていくと(いいかなと思います)。一気に(人口の)ボリュームゾーンが変わるのは、それはそれでちょっと怖いことだと思うので。

:うん、そうですね。

集落レベルで地域を豊かにしていく人をいかに増やしていくか

鯨本:ただ今の人口減少のスピード感は激しいので、島にとっては、例えば人口が100人いる島で1年間に20人も減ってしまったら、ものすごい減少なんですけれども。その20人減るところに対して20人プラスする。

人口の何万人とか何十万人とかの話じゃないので、統計的に見たらすごく小さく見えるんですけれども。そういうマイナス20人をプラス20人にするみたいな、ちっちゃい流れが日本中で起きていくと、結果的に豊かな地域が増えることになる。

本当に集落レベル、「シマ」レベルで自分の地域に必要なヒト・モノ・コトを集めて、そこを豊かにしていく人をいかに増やしていくか。その事例は、実際に島とかにたくさんあるので、具体的にアクションする人が増えてほしいと思います。

我々NPOもそうですし、(そのための)いろんな取り組みを「やりたい」という人を支える制度はそれなりにあったりしますので。その制度を柔軟に活用するために必要なノウハウとか人の問題があります。

その地域に住んでいない人が手伝う、いわゆる関係人口というものが最近よく言われています。このシマ思考でも、人口が本当に少ない島の場合って、その(島に住んでいる)人たちだけでやれることはやはり限りがあるんですね。

でも、そこに住んでいない人がそのコミュニティの一員、関係人口として関わったり支えたりすることはできます。その地域に住んで地元を支える人と、住んでいないんだけれどもその地域を支える人で、豊かなカタカナの「シマ」が増えていく状況を、いかに作れるかだと思います。

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