2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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鯨本あつこ氏(以下、鯨本):『世界がかわるシマ思考 ― 離島に学ぶ、生きるすべ』の成り立ちはクラウドファンディングなんですよ。実は我々は2012年から、Webサイトと一緒にタブロイド紙を出しているんですけれども。季刊発行で、今だと全国1,300ヶ所ぐらいに設置しているフリーペーパーとして発行しています。
Web媒体からスタートして紙媒体という過程を踏んでいるんです。私たちが情報を届けたい、あるいは情報を集めている島って、2010年〜2012年当時、まだ電波の弱いところもありましたし。「島でのんびりとしている中で、せかせかとWebサイトで情報を得るかな」みたいな意見もあったんです。
ちょうど私は、2011年の震災後に東京の島をぐるっと1周していたんですね。東京の島をぐるっと1周って、近いように思うんですけど、一番遠い母島に行こうとすると、27時間半とかかかるんですよね。
まだブラジルのほうが早く行けるんじゃないかというぐらい、行くのに時間のかかる島に行って、めちゃくちゃきれいなビーチでWebサイトでせかせか情報を得たくないだろうと。それで、紙媒体があったらいいなと考えました。
あと紙媒体って、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、同じひとまとまりの情報を見ていただけるんですよね。Webサイトって言っても同じページを見ているかわからないですし、同じ流れでその情報を見ているかはわからないんですね。
この新聞の24ページから32ページぐらいの間に大切なことを詰め込んで、3ヶ月に1回ぐらいのんびりと届けて、島の方々に見ていただく。
しかもこれは観光情報ではなくて、最近だと全国の島の人口の3ヶ月ごとの推移とか、地域作りをしていくためのヒントとか、先進事例を載せています。今情報がありすぎる世の中で、「何を見ていいかわからない」とか、思考停止で情報を得ることにちょっと疲れている方もいらっしゃると思うんですけど。
少なくとも3ヶ月に1回ぐらい届く『ritokei』(離島経済新聞)だけを見てもらえれば、他の島のちょっとイケている島作りや素敵な考え方を持っている人たちの姿が見えてきます。「自分も明日からがんばろうかな」と考えていただきたくて、そういった新聞を出しています。
鯨本:その経緯で、累計で言うと本当に1万人ぐらい、島の人や島が好きな人と交流しているんですよね。その中には、ものすごく素敵なおもしろい人たちがたくさんいるんですよ。例えば同世代の島の方と夜中までお酒を飲みながらしゃべるのと、比較しちゃ申し訳ないんですけれども、東京の大企業に勤めている同世代のお友だちと飲んでいるのでは、ぜんぜんおもしろさが違うんです。
筧裕介氏(以下、筧):言いにくいことですけど、よくわかります。
鯨本:いや、仕方がないと思うんですよ。例えば会社のことや、お金のこと、その(会社の)仕組みのこととか、どうにもならないことでグダグダ言っていることが多い方。あるいは本当に人間や暮らし、地球とか、いろんな本質的なことを語っている島の人。島の1つの魅力として、こんなところに私自身も惹かれているんですよね。
とはいえこのクラウドファンディングは、最初は「人口減少を可能性に変える本を作りたい」という、「島の未来計画」という仮の名前がついていたんです。そんなめちゃくちゃおもしろい方がたくさんいる島でも、もう人口が減ってきていて、けっこう本当にギリギリなんですよね。
(日本に)400島あっても、橋が架かっている淡路島とかもカウントして400島なんですね。本土から橋が架かっていないのは305島なんですけれども、その橋の架かっていない島だけで、今人口は57万人ぐらいです。
私たちはいつもその人口の推移を追いかけているので、これが1年に1万人ぐらい減っていることに気づいているんですよね。このまま1年に1万人減っていったら、島に住んでいるすごくおもしろくてかっこいい人たちがいなくなってしまう。それは私としてはすごく嫌なんです。
筧:今日本の(本土に橋が架かっていない)有人離島の人口は57.6万人で、年間1万人のペースで消えていると。
鯨本:そうですね。2023年の2月時点で57.6万人で、その1年前が58.6万人だったんですよ。本当に1年間で1万人減っています。
筧:このままのペースで減ることはないにしても、約60年後に島がなくなってしまうペースで減っているということですね。
鯨本:はい。特に危惧するのが、子どもたちの数が本当にすごい減り方をしていることです。学校も減っていますし、子どもたちがいないということは、例えばその風土や文化を肌感覚として覚えて育てる子がいない。後から移住者をたくさん増やして、その地域を残すことはできるんですけれども、まったく変わってしまうし。
あとその地域社会も常々変化しているので。変化すること自体は悪くはないんですけれども、やはりその地域それぞれの伝統文化って、その土地の風土で生きていくための知恵がたくさん詰まっているので、それが消えていくのはちょっとよろしくないなと。残ってほしいなと思います。
そうすると、やっぱりけっこうギリギリだと思っています。だからこの本の立ち上がり自体は、島で生きている人たちがどんどん減っているという、私たち『ritokei』的な問題意識もあります。でも、この離島で(年間)1万人ぐらい人口が減っているというのは、私たち離島業界の人にとってはわかる数字でも、多くの日本人にとってはものすごく遠い話です。
筧:そうですね。
鯨本:簡単に言うと、島の問題だけで語るとすごくわかりにくいんですよ。さてどうやって届けていこうかなっていろいろ思った時に、逆に課題や課題を解決する話だけをするのではなくて。これから先の人口減社会を迎えるにあたっての可能性や希望も、島にたくさんヒントがあると思うんです。
なので、その課題と可能性が両方あるところをどうにか言語化したいと思いついたんですね。だから言ってしまえば、SDGs時代に注目すべき可能性がたくさんありますよとか。そのあたりを、今までの『ritokei』の記事から集めたりするのですが、とはいえそれだけではおもしろくないなと思って、島の人と一緒に(本を)作りたいと思いました。
『ritokei』としてはもう10年以上も縁のある方で、編集やデザイン分野で仕事をしている3人に製作委員会に入ってもらって、みんなでああだこうだと話しながら書籍の中に入れ込む内容や、企画の軸を一緒に作っていきました。
だから最初は島の事情からスタートしています。離島地域の方々に、これから本当に人口が減ってギリギリになるけれども、他のうまくやっている地域の事例を紹介しながら、どうしていこうかと考えるヒントにしてもらいたいと。クラウドファンディング自体はこれでスタートしたんですね。
けれども作っていくうちに、最終的なシマ思考に行き着いたように、「いや、これは離島地域の方々がヒントにするだけではなくて、日本社会の人たちにとって重要なことがたくさんあるぞ」とうまく伝えたくて。
鯨本:離島地域って、橋の架かっていないところだと、1人しか住んでいない島から6万人ぐらい住んでいる島まで規模感が違ったりするんですね。例えば佐渡島とか石垣島、宮古島とかになるとコンビニもありますし、大してシティと変わらない。でも本当に2〜3人しか住んでいないところもあるので、最初は人口規模順の事例を集めようと思っていたんですけど、そうじゃなくて。
いろいろ考えた結果、今のこのカタカナの「シマ」というもので、人と人が支え合うコミュニティを軸にしようという方針に切り替えました。離島地域には、人と人が支え合うコミュニティの先端的な価値観や事例はめちゃくちゃたくさんあるんですね。
そのカタカナの「シマ」という軸を立てて編集をしていくと、もう本当に日本人だけじゃなくて世界中の人にとって必要な情報として編集できると気づいて、それでいろいろ考えてシマ思考になったという経緯です。
なので、最初は「日本の島々が行ってきた地域づくりの中から、中長期的に見て成果のあったものをまとめたい」と言っていました。そこから、「普遍的な島らしさの要素を入れたい」とか「島でがんばっている人の背中を押すものになってほしい」という島寄りのスタートになりました。
最初は「この本を誰に届けたいか」という話も、製作委員会のみんなとしていたんですけれども。いわゆる地域づくりで言うと、地域おこし協力隊とかがあちこちで活動しているんです。そういう方々の活動のヒントにしてもらう役割とか、あとは島あるあるなんですけど、離島地域って学校の先生が外から赴任してくるんですね。
だから地元の方じゃない先生に、子どもたちはいろんなことを教わるんです。場合によっては、その学校の先生が、島に対して「何もないから」とか、けっこうネガティブなことを言われるんですね。
そうすると、やはり子どもたちにものすごく影響するんですよ。でもそれは、外からやってきた学校の先生が島のよさを言語できていない、どう表現していいかわからないだけであって。
このシマ思考的な感覚で言えば、島には何もないんだけれども、むしろそれが人の支え合いを発達させて、都会よりある意味では豊かに暮らせるんだよ、と。こんなことを学校の先生が教えてくれる状態にしたい、そのヒントになればと思っていました。
狩野:あと今回実践ワークブックみたいに、ご自身でも1回立ち止まって考えてもらうコンテンツが入っていますよね。
鯨本:そうですね。今の実践ワークショップで言うと、そのカタカナで言う「シマ」というのが、離島に住んでいる方に限らないものなんですね。人と人が支え合えるコミュニティが島なんです。元京都大学総長の山極壽一先生に、『ritokei』でインタビューさせていただいた時、山極先生は「人間の脳の容量からして、信頼関係を結べる人数の上限は150人ぐらいだ」とおっしゃっていました。
150人というのは、私はなんとなくストンとくる数字でしたが、例えば本当に信頼のおける人が150人だとして、その150人がギュッと集まったコミュニティが1個あればいいかと言うと、ちょっと違うんです。
その信頼できる30人ぐらいのコミュニティが5個あるとか。例えばその中の1つが家族とか親戚とかのコミュニティで、もう1つが子育て仲間やその地域の自治会とか集落のような「シマ」。まずは自分にとっての「シマ」を思い浮かべて書き出してみましょう、と実践ワークショップの最初に出しています。
ここに書いてあるとおり、家族や親戚、町内自治会とか、地元の仲間とか、趣味のお友だち、人によってはSNS上にその(信頼できる)人がいっぱいいるかもしれない。自分にとっての支え合えるコミュニティや、大事にしているコミュニティを書き出した時に、その「自分自身が本当に心豊かに生きるために欠かせないシマって、どこだろう」という優先順位をつけてみます。
「それってどこなんだろう」と思考を巡らせてみてもらうと、この本を読む時に入ってくるものが違うと考えて、このワークショップを入れました。
筧:先ほど鯨本さんが、東京の同年代のビジネスパーソンと飲んでいるのに比べて、島の同年代の若者と飲んでいたほうが絶対的に学びも気づきもあるし、おもしろいと。
いや、本当にそのとおりだなって思っています。これは島の人もそうだし、島に限らず日本の中山間とかにいる人たちのほうが、すごく同一性が高い印象があるじゃないですか。都市のほうが多様性が高くていろんな人が集まっていて、離島とか中山間のほうが画一性が高いみたいな、一般的なイメージがある。
なので都市に行ったほうが刺激があったり新しいものが得られるという幻想があるんですけど。今の都市にはもちろん多様な人はいるんだけど、そこで暮らしている個人はすごく画一的な人種で、それが都市での生活なんだなと。
離島では、すごく狭いコミュニティの中に非常に多様な人たちがいて、すごくいろんな気づきや学びがあり、そこが離島の豊かさ(だと思います)。人間関係の豊かさという時に、密度の話がよく言われるじゃないですか。
すごく関係が深いことが(地方の)よさだと言われて、逆に都市は狭くて広い関係だと言われるんだけど、実はそんなことはないなと。狭くて密度が高くて多様なのが島の人間関係で、広いけど薄いのが都市の人間関係なんだなと気づかされました。
鯨本:そうですね。つい先日、この本の製作委員会の面々と、内々でクラウドファンディングにご支援いただいた方と、あらためてこの本について話をしていたんですよ。
製作委員会に入っている人で、山下賢太という鹿児島の甑島(こしきしま)に住んでいる若者がいるんですけど。彼が言っていたのは、例えば都市の人との関係性でなんとなくモヤっとしている人に、シマ思考的な感覚でアドバイスするとしたら、その関係性にある温度的なもの(が問題)だと言っていたんですね。
例えば都市部にいて、自分が出したゴミがどこにいっているか知らない人たちがいると思います。あとは電気とか、ガスとか、食べているお魚や野菜がどこから来ているかわからない。それに対して、島の方はみんな知っていると。
例えば今食べている魚はどこどこのおじちゃんが獲ってきたものだとわかったり、あるいは自分が歩いている道を作っている人を知っている。だから夜中に道路工事の音がした時に、それは騒音じゃなくて「どこどこ建設の誰々兄ちゃんが深夜作業している音」として聞こえる。
夜中に、船の音がボボボボボっていうのも騒音ではなくて、船の音でどこの船長かわかるから、あの船長が働きに出ている音だとわかる。つまりそれは信頼の音というか、温かみのあるものだという話をしていて、それがわかることの豊かさ(を感じました)。
都市部だったらたぶんただの騒音になるものも、そうじゃない捉え方ができるんですね。それは人と人との間に温度感のある関係性があるから、騒音じゃなくて信頼の音に変わる豊かさがあるんです。
都市部でも例えば下町とかで、温度感のあるコミュニティってたくさんあると思うんですね。そういうところはすごくすばらしいと思うんですよ。でも多くが、例えば1日の間で一言も言葉を発しなくて、コンビニに行って必要なものを買う。そんな、一言も話さなくても食べ物が得られるところに住んでいる人は、なんの温度のやり取りもないんですよね。そうしているうちにモヤっとなっちゃう。
なんとなく幸せじゃないみたいな人は、その温度感のあるコミュニティに学ぶというか、触れてみることで何か変わるんじゃないかなと思っています。シマ思考でそのきっかけを与えることができるといいなと思っています。
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