2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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狩野真実(以下、狩野):あらためまして鯨本さん、今日はよろしくお願いいたします。
鯨本あつこ氏(以下、鯨本):よろしくお願いします。
筧裕介氏(以下、筧):よろしくお願いします。
狩野:さっそく本のお話をうかがえればと思っております。
鯨本:まずは本の成り立ちをお話しします。今回、著者名は「『世界がかわるシマ思考 離島に学ぶ、生きるすべ』製作委員会」、編集としては離島経済新聞社と名前を並べさせていただいています。私は2010年に離島経済新聞社を立ち上げて、今まで日本の離島の話をずっと発信しております、鯨本と申します。
ではまず、この本がどうして出来上がったのか、制作過程や、イシュープラスデザインさんとご一緒させていただいた経緯についてお話しさせていただきます。離島経済新聞社を略して『ritokei(リトケイ)』って呼んでいるんですけれども、今から14年前に(生まれました)。たまたま私自身が東京の「世田谷ものづくり学校」の社会人スクールに通っていまして。
その時の仲間内で、「日本の中で埋もれているけれども、いいものを紹介するメディアを作りたいね」という話をしたところから始まっております。それでテーマを探していた時に、たまたま(その仲間の)同級生で瀬戸内海の大崎上島に移住する方がいました。
その方のところに遊びに行った時に、日本の離島がおもしろいことに気づきました。調べてみたら、離島に関係するメディアって、当時はほとんどなかったんですね。ですので「これはブルーオーシャンじゃないか」と考えて、そのまま勢いで、半年後にこのritokei.comという離島のことを発信するWebメディアを作りました。
筧:鯨本さん、すみません。僕が途中で口を挟んだりしてもいいですか?
鯨本:いいですよ、どうぞどうぞ。
筧:すみません、ちゃんと段取りを相談していなかったので。僕は『ritokei』が出た時に「うわあ、すげえいいところに目をつけるな」「やられた」という感覚を持ったんですよね。その時、離島に目をつけたポイントとか、鯨本さんの中に刺さったのはどういうところなんですか?
鯨本:うーん、旅先で離島に行ったことがある方で、しかもあんまり有名じゃないところに行ったことがある方だったらなんとなくわかるかもしれないんですけれども。離島って、ぱっと見で何もない場所があるんですね。
例えば店が多くない、人が多くない、情報が多くない。そんな何もないように見えるんだけれども、「なんか豊か」みたいなのがあるんですよ。その「なんか豊か」というところに私たちは引っかかって、離島に行き着いたんですね。
「なんか豊か」を書籍の中にも書いているんですけれども、最初に大崎上島に行った時に、たまたま移住したお友だちから、地元の農家さんたちがランチバーベキューをしている会にお誘いいただいたんですね。今はそうではないですけど、2010年当時、その島はネットで調べても大した情報が拾えなかったんですね。
「何もないだろう」と思って行ったら、本当に「あっ、何もなさそうだ」となるような、おっとりとした島だったんです。でもその島のランチバーベキューをしているおじちゃんたちは、すごく幸せそうでした。本当に春の気持ちのいい農園の中でランチバーベキューをしていて、何人かのおじちゃんたちが朗らかにビールを飲んでいるんですよね。
そのおじちゃんたちに、「この島はどういう島ですか」と島のいいところをうかがったら、「この島は宝島なんだ」とすごい自慢をされました。例えば、朝起きたら玄関の前にタケノコやお魚が(おすそ分けで)置かれているとか、こんなふうに仲間と一緒に飲んで語って、みかんを作ったりしながら夢を追いかけて。そういういろんなお話をしていただきました。
鯨本:それって世の中で言う、例えばたくさんの物の中から選んで買えるとか、より大きなお金を儲けるとか、そういう話とはちょっとずれるんですけれども。なんかすごく地に足がついた、本当に確かな豊かさをうっすら感じたんです。
そのおじちゃんが言う「宝島なんだ」というのを、「そうだな」と思いつつも、どう言語化するかがわからない。あとはそのおじちゃんもその「宝島なんだ」って言いつつ、そのよさをわかってもらうのは難しいというか、「なかなか伝えられないんだよね」って言われたんです。
私はその時は経済誌で広告を作る仕事をしていたんですけれども。編集して何かを伝えていくと考えた時に、そのおじちゃんが抱えている宝島(という思い)や、ぼんやりとしたいいものを、離島のメディアもない中で、どうやったら伝えられるのか。そんなところをいろいろ考えながらメディアを作りました。
筧:なるほど。やはり島民の方々が宝物だと言い切る、そこにそれだけの豊かさがあるということがすごく刺さった。そして、それを世の中に伝えることを誰もやっていなかったし、できていなかった。それがある意味、鯨本さんの使命なんじゃないかなと直感的に感じたんですかね。
鯨本:たぶんそうです。使命というか、その時は使命とも思っているかわからないんですけれども、楽しかったんですよね。最初に『ritokei』を作ろうって言い出した4人、私ともう1人の編集者とアートディレクターとデザイナーの、もう本当にクリエイターだけの集団なんですが。
「いいね、いいね」って言いながら、本当に数日おきに夜な夜な飲みながら、「あれしよう」「こうしよう」みたいなことを考えていました。それ自体が楽しかったので、もう本当に勢いで作ってしまったんです。だからその成り立ちを聞かれると、その島のおじちゃんが言う宝島というところに興味・関心(を持ったんです)。
鯨本:あとは島を調べていくと、どうやら(有人島は)400島以上あるんですが、その当時の私は知らなくて。知らないところに400島もあるってすごいじゃないですか。
おじちゃんの言う宝島みたいな要素が都市部ではなく島にたくさんあるって思うと、私たちが知らないだけで、日本って本当は豊かなんじゃないのと。これは、どうも人口過密地域に居過ぎると失われてしまうものだと思ったんです。
私自身は大分県日田市というすごい片田舎で生まれて、本当に集落のおじちゃんたちにかわいがってもらえるような田舎育ちなんですね。ですから、その島のおじちゃんが言っていたおすそ分けとかは、本当は知っているんですよ。
子どもの時はそういう環境にあったので、おすそ分けをもらうとか、人の家に勝手に上がり込んだり、近所のおじちゃんたちにかわいがってもらうとか、わかっていたんですけど。とはいえ、自分は「そんなくそ田舎、早く出て行きたい」みたいな感じで高校卒業して、だんだん都会に出ていって。私の場合は、大分県から福岡県福岡市に行って、そこから東京に行って、だんだん都会ランクを上げていくんですよ。
都会ランクを上げていって、もう(都会の)ど真ん中で生活している中では、島のおじちゃんが言う豊かさじゃない豊かさにどんどん触れていって、(田舎の豊かさ)を忘れていく。それが当たり前になっていったんですけど、「それって本当に豊かなのかな」と違和感を持つんですよ。
筧:いつその違和感を強く持たれたんですか?
鯨本:具体的に言うと、東京で経済誌の広告を作っている時、仕事の帰り道にコンビニに行って水を買おうと思ったんですよね。それで水のコーナーに行ったら、たくさんの種類の水があって、それを見た時に「面倒くさい」と思ったんですよね。「なんでこの大量の(商品の)中から水を選ばされているんだろうか」と思ったことがあって。そもそも私の田舎だったら、水って買うものじゃないんです。
筧:そうですよね。
鯨本:きれいな水が出るから、別に買わなくたって、おいしい水が飲めるんですね。でも都会では水をわざわざ買わなきゃいけないし、「たくさん種類があることは、豊かなのか面倒くさいのかどっちなんだ」と、大きな違和感を持ちました。
筧:おもしろい。
鯨本:本に書いてあるんですけど、『ritokei』の読者にアンケートを取った際、移住されて来た方がその島のよさを言い表すのに、例えば商店で牛乳が1種類しかないのが、「シンプルでいい」って言うんですね。選べないんだけれども、逆に言うと選ぶ手間はなくて、潔い。でも別に牛乳がないわけではないし。だからその「シンプルでいい」という感覚は、すごく素敵だなと思いました。
筧:なるほど、深いですね。いわゆる資本主義で、東京や大都市で生活をする時の豊かさって、やはり競争が原則にある。競争の中でいろんな商品が並んでいて、切磋琢磨していって、だから安く買えたりいいものが買える。これがある意味資本主義の社会の豊かさの象徴なのに対して、島の商店では(品物が)1種類しかないと。
(商品は)多少高いかもしれない。でもそれをシンプルに選ぶというか、受け入れることが、離島や、日本の田舎にある豊かさだと。それを豊かだと感じられる人はすごく豊かな人だと思いますね。
鯨本:自分がどう感じるかですね。結局豊かさは、その人の価値観次第でしかないということ。この本の命題としては、これから人が減っていったり、災害が起きて自分の暮らしが突如一変してしまうところも想定しています。そうしたことが起こると、いろんなものが選べなくなる可能性があるんですよね。
突如じゃなくてゆるゆるとそうなる場合もあるんですけれども。そんな時に「昔はこんなに選べたのに」とくよくよするのか、「まあ、シンプルでいいかな」と思えるのか。これは気持ちの持ち方次第で、「ないならないでいいか」と思えると、それはそれで心が豊かなんですよね。
でも、たくさん物を選べる中で生きていると、なかなかそう思えない。そこで島みたいなところにふと降り立って、「ないならないでいいか」みたいな世界を体験してみると、これはこれで心地いいとわかる。
これから先の社会では、人口がどんどん減っていくので、いろんな選択肢が減っていきます。その時に「まあ、それはそれでいいか」って思えれば、それでもいいというか。もしかすると、今は選べるものがありすぎる可能性もあるんですよね。
筧:そうですね。自動車とか家電とか、この国にはむやみに選択肢がありますよね。
鯨本:でもそこまでなくてよくて、逆に本当に必要な洗練されたものは残って、それを大切に使っていくとか。今はものが増えすぎて、もうどんどん買い換えなきゃいけないみたいな(状況です)。でもそうしていると、この本にも書いていますけど、本当に地球が限界という状態になっているわけですよね。
ですから、本の中に出てくる、沖永良部島(おきのえらぶじま)に住んでいる石田(秀輝)先生も、「今の人間の活動を何割か減らしていかなければいけない」と明確に数字を出されているんです。
今の私たちの暮らしの中で、「どこを削ろうか」という判断も、普通に暮らしているとわからない。でも、「そういえば、今この選択肢がありすぎるところをちょっと削っても、別に大した気持ちの変化はないな」みたいな。あんまり不便にならず、「逆にすっきりしていいんじゃない」みたいなところが探せるんじゃないかなと思っています。
その(暮らしの中から削るべき)具体的な何かは、あまり物のない島で豊かに暮らしている島民の生活に、照準を合わせて考えてもいいのかなと思います。
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