2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ジャパンハート主催のイベントに、同団体の創設者である小児科医の?岡秀人氏と、横浜創英中学・高等学校 元校長の工藤勇一氏が登壇。医療と教育、それぞれの業界で活躍してきた両氏が、「イノベーションが生まれる当事者の作り方」をテーマに対談しました。本記事では、世界に遅れを取っている日本において、“既存のフレームを壊すこと”が重要な理由を語ります。
司会者:ちょうど今、「味方を作らない、孤独になる」というお話が出ました。?岡先生も初めはミャンマーに単身で行かれて活動を開始されてますが、そのあたりはいかがですか?
?岡秀人氏(以下、?岡):僕の場合は医療だから武器があったんですよ。それは何かというと、医療技術です。外科の技術を誰よりも高くすれば誰にも奪われないし、それ自体が信頼と結果を生んでくれるので、それをひたすら追求すればよかったんですね。
おそらく僕は、日本の普通の医者の何倍も手術してきてると思うんですが、僕の中でそういうベクトルが動いていたのも1つあると思うんです。(ミャンマーで診察に訪れるのは)医療を受けられない人たちだから、医療をタダですると言ったら山のように来るし。僕にはそれがあったんですね。
だから工藤先生とはちょっと違うというか、僕は拳銃を持っている感じのイメージですね。いざとなればこれで打てばいい。僕からしたら、現地の医療者なんか敵ですから。
ミャンマーという情報が統制されているような国でも、ミャンマーの医療技術は遅れてるとか、医療レベルが悪いというのはみんな知ってるんですよ。だけど、彼らは貧しくて海外にも行けない。金持ちは海外にとっとと行ってますが、(訪れてくるのは、貧しくて)病院にもかかれないような人たちです。
向こうの医者は医療技術が低かろうが、えばってるわけですね。そこに外国人が入ってきて、しかも彼らから見たら日本は当時先進国です。トヨタの国、ソニーの国ですから。テクノロジーが進んでいて、すごく技術が高いというのも知ってるわけですね。
そこの(国の)医者が入ってきたら、現地の医者や医療界にとっては、僕は完全に敵なんですよ。だから、追い出そうとしてしょっちゅう潰しに来るわけです。でも、僕を守った人たちがいるんですよ。それは誰かといったら患者たちです。だから紆余曲折あっても、今まで30年も医療が続けてこれたんですね。
?岡:僕の場合は外科ですが、内科と違って切ったりいろんなことをするので、成果がわかりやすいですよね。内科はお薬を出したりとか、成果がわかりにくいんですが、外科はわかりやすかった。現地の医療者の多くは敵だったんですが、確かな医療技術を頼りにやってきたんだと思いますね。
日本人だから、「正しいことをやってたら絶対にうまくいくんだ。最後は助けられるんだ」という思い込みもあるんですよ。そうはなれないかもしれないけどね。だけど、信じて人として正しいことをやろう、正しいことをやってダメだったら仕方ないと思いながらやってきた感じですね。
司会者:ありがとうございます。先ほどの工藤先生のお話の中で、「生徒が自発的なアクションをすることを嫌いだと思う先生はいない」とおっしゃっていました。
一方で、生徒たちの自発性に完全には任せきれない状況が、東京も含めてたくさんあったというお話だったと理解しています。自発的なアクションを促すことが正だとわかっていながら、なかなか取り組めない理由はあるんでしょうか。
工藤勇一氏(以下、工藤):たぶん管理をしたいからなんです。子どもたちに「やりたいことをやってもいいよ」と言うと、今の教育によって、ある種反発のような部分に目がいくんですよ。
例えば僕が中学の時だったら、週番委員だったか、規律委員みたいな委員会があって。毎週月曜日になると、先生を先頭に委員が各学級をずーっと回るんですよ。全子どもたちの髪の毛の調査をして、「長いから切れ」って子どもが子どもに言うんです。
僕が通っていた中学校はマンモス校で、1学年10クラスもあってすごく荒れてました。当時の中学生ってめちゃくちゃ荒れていて、世代がちょっと違うんですが、僕が小学校6年生の時に赤軍派の学生運動で浅間山荘の中継をやってたのが印象的です。
工藤:僕がいた中学校ではリンチが流行って、とにかく毎日暴力事件と、他校との喧嘩と、学校の先生への対教師暴力があったんですね。……あれ、何を言おうとしたんだっけ(笑)。
司会者:なかなか子どもたちの自発性に任せられないというお話です。
工藤:そうそう。僕自身も反発してたんですよ。違反の服装や髪型をしてたし、かっこつけてやるだけですよ。くっだらないことをやるわけですね。今の子どもたちに「自由にやっていいよ」と言ったら、だいたい校則問題から入るんですね。ただ、僕がやったのはそういうのじゃないんですよ。
僕が教員として赴任した山形の学校は、全員坊主頭だったんですね。ひどい理不尽なんですが、「これって理不尽だよね」と言った途端に、子どもたちの中に理不尽ということが広がって、もっと不幸になるじゃないですか。
「こんなことは不幸だよ」ってわざわざ言うんじゃなくて、教育にはもっと大きなものがあるから、この子たちには大きなものを見てほしいと思ったんですね。
教員たちに「これは決まりだから」と言われて、自分が決まりへの反発ができちゃったので、(子どもたちには)決まりじゃなくて「世の中はめちゃくちゃおもしろいぜ」っていうのを経験させたかったんですね。
どうでもいい服装や頭髪がどうのこうのとか、「それは人権問題だ」なんていう子どもたちを育てたいんじゃなくて。学校を運営するってどういうこと? お金儲けするってどういうこと? といったおもしろさを、行事を通したり、日頃自分たちで自治をすることによって教えたかったんですよ。
だから、子どもから「服装をどうしよう?」と言われた時には、対立軸を作らないように半分嘘をついて「僕、どっちでもいいんだけどな。別にいいじゃん」と言ってました。
工藤:1回子どもたちにやらせようとすると、自分たちの権利を主張するようになるんですが、結局それは「大人が作った構図の中に生きてる子どもたち」なんですよ。厳しくやって、それに反発して権利を取ろうという子どもたちは当事者じゃないんです。そんな自治をさせたかったんじゃないんですね。
ありのままの社会を受け入れて、問題が起こったら子どもが解決するという方法をとらせたかったんです。結局、やらされ続けた子どもたちって、やらされることに反発しながらも「もっと面倒を見て」という子どもに育っちゃうんですね。
トラブルが起こると、「先生、解決してよ」「これなんとかしてよ」って。だから生徒会の要求は、「冷水機を作ってください」「自動販売機を作ってください」とか、要求だけになるんですよ。要求をする生徒会っちゅうのは何にもおもしろくない。
ありのままの現状を受け入れて、どうやって少しでも楽しい社会にするかを考える自治をさせたかったので、僕は2年目から子どもたちと一緒に学んでいったんですね。
今、日本中でルールメーキングをやってますが、ルールメーキングが自治をさせることではないですね。自治というのは学校の理不尽さも含め、ありのままを受け入れて、その現状を不幸と思わないということですね。それをどう改善するか。問題が起きたら自分たちで解決する。そういうことを教えたい。
僕がやっていた自主的、自発的(な活動)ってそういうことだから、教員たちはめちゃくちゃ喜ぶわけです。子どもたちが要求するんじゃなくて、問題が起こったら全部解決しようとするから、先生たちはもう大感動です。だから、そういう構造を作らなきゃいけないんですね。
?岡:僕、最近すごく意識してることが1つあってね。それは何かというと「フレーム」なんですよ。工藤先生と共通して、今日のイノベーションの話でいうと、たぶん僕なりの結論があって。既存のフレームを意識しないとか、既存のフレームを形を変える。あるいは壊すという言い方もいいかもしれないです。
最近よく若い人たちにも言うんですが、日本って限られた土地の中でお米や作物を作ってきましたよね。土地が狭くて山間部が多いこの国で、一定の米をたくさん採ろうとすると、水や土地を管理してものすごく手間がかかるんです。でも日本人は(限られた土地の中で収穫量を)1.2倍、1.5倍、1.8倍に増やす性質でしょ。いまだにそうじゃないですか?
アメリカ人はどうするかと言うと、「1.8倍欲しかったら土地を1.8倍にすりゃいいじゃない」という発想になるんですよ。僕らは限られたこの土地の中で、収穫を上げよう、上げようとしてきた。この発想がいまだにあるんですね。
僕は長く外国から見ているから、日本人のフレームがよく見え出したんですよ。例えば、コロナ禍で小さい子どもにまでマスクをつけさせたでしょ。2歳とかの子どもがマスクをうまくつけられるわけないし、マスクを食べてる子どももいっぱいいたでしょう。でも、日本人は小さい子にもきっちりやらせるじゃないですか。
僕からしたら、マスクというフレームの中で少しでも成果を上げて……っていうのと同じなんですよ。アメリカ人がそうするかどうかは知りませんよ。新しい形の(ウイルスを防ぐ)ものができなかったのは、少なくともアメリカ人やヨーロッパ人はそれを本気でやろうなんて思ってないからですね。
僕なら何をしたかというと、おそらくスプレーを作ったと思います。朝と晩、子どもの喉にスプレーを2回ずつ振って、マスクをするのと同じ効果が出ればいいわけでしょ。それを「エアーマスク」という名前で売り出したと思うんです。そしたら子どもたちはこの顔のままで生きられて、ご飯も食べられて、表情も見れて、発達も遅れなかった。
でも、これは日本人には絶対に出ない発想だなと思ったんです。なぜなら、フレームの中で一生懸命やるから。これが、テクノロジーも含めて日本が世界から遅れている大きな原因の1つなんですよ。
?岡:あるイノベーションが起こったとしたら、生産物を作って、日本人はそれを一生懸命努力してクオリティを上げていくわけです。8割から9割、10割に上げるのは大変でしょう。すごいエネルギーなんですよ。でも、イノベーションのターンオーバーが早すぎるから、あと2、3年もしたら次のイノベーションが出てくる。
そうすると、東南アジアの人たちだってそれを使うわけです。日本人が2、3年努力して8割、9割まで持ってきたところに、次の(イノベーションが)やってくるわけです。日本人が一生懸命した努力がほぼ報われないまま、どんどん進んでいく。今はこういう状態になってると思うんですね。
だから、日本の人たちがやったほうがいいなと期待しているのは、7割のクオリティで満足するメンタルですね。それをテクノロジーを被せたら、次はもっと上がっていきますから。縦に積み上げる発想じゃなくて、横に広げるような発想をしたほうがいいんじゃないかなと思うんですね。
言葉として正しいかどうかわかりませんが、日本人は垂直思考というか、縦に積み上げる思考があるんです。だから「努力して」「努力して」と思うんですが、横思考はそうじゃないんですね。新しい分野を作ったり、ちょっと違うやり方をして、テリトリーを増やしていくというか。
テリトリーを縦へ積んでいくのもいいんですが、テリトリーを増やせば量的には同じにもなるし、もっと増やすことができるんです。「縦に積む」ってちょっと比喩的ですが、重力に逆らって積んでるところがあるんです。すごい努力がいるわけですよ。でも、横は重力が一緒だから、なんぼでも広がりやすいでしょ。
?岡:フレームを壊すという発想は、日本人には絶対に必要だと思うんですね。これは校則でもそうです。
もうちょっと言うと、産業革命以後にできた今の教育のシステムは……僕なりの理解ですが、産業革命は単純労働者がたくさんいるから、同じレベルの人を作らないといけない。外国でいろんな人を相手にしていて、僕はふと思ったんですよ。今の教育の仕組みって、なんでこんなにいじめが起こったりいびつなのかなと。
もちろん教師の質もあるんですが、さっき工藤先生が言ったみたいに、言葉が人の人格を作ると思っています。少なくとも、僕が昔会った先生たちは命令系だし、言葉が汚いんですよ。「並べ」「うるさい」「黙れ」なんて言葉を使っていたら、その人格になるに決まってるんです。
言葉は非常に大切だから、言葉には気をつけたほうがいいというのが個人的な意見です。世の中を見ても、この制度(産業革命以後にできた教育のシステム)ができるまでは、同じ年の子が大量に集められて育てられる環境ってほとんどなかったんです。そうでしょう? これが、すごくいびつだなと思って。
(同い年だから)同じレベルで比べられるし、その中で調整する人がいなくなる。年上の人がいたらうまく調整してくれたり、年下の人がいたら多少能力がない人でも、下に教えると優越感もあるでしょ。でも同い年の人ばっかりだから、そういう機会もないままです。
こういう世界って他にあるのかなと思ったら、そうそう、養殖だと思ったんですよ。うなぎとか魚とかニワトリの養殖って、みんな同じ年で育てられるでしょ。養殖の世界はこうなんだと思ったんですね。まさに、いまだにそんな感じの教育が続いてるから、いろんな問題も起こってるんじゃないかなと、ふと思ったんですね。
だって、ある意味社会の中では不自然な環境ではあるでしょ。もうちょっといろんなバランスが取れるように教育の現場を変えることができたら、別の問題も生まれる可能性はありますが、今ある問題もいくつかは非常に軽症になるというか、形が変わってくるんじゃないかなというのが僕の意見です。
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