2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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「AIとビジネス」をテーマに、業種業態、部署の垣根を超え、産業を活性化するヒントを得るためのビジネスカンファレンス「Gen AI EXPO」(主催:弁護士ドットコム株式会社)。今回は、千葉工大・伊藤穰一学長と東大・松尾豊教授が登壇した特別セッション「生成AIが切り拓く日本の未来」の模様をお伝えします。米と欧で異なる生成AIの規制に関する方針や、日本の企業と海外のビッグテックの一番大きな違いなどが語られました。
元榮太一郎氏(以下、元榮):最後に、日本の企業が今なすべきことは何なのかということについて。松尾さんは、AI戦略会議で座長もされているので、日本が何をすべきかというところの前のルールメイキングなどを議論されているところだと思いますが。現時点における論点や方向性みたいなものを簡単にお話しいただけますか。
松尾豊氏(以下、松尾):これも資料を見ていただければと思いますけども。AI戦略会議で暫定的な論点整理を出していまして、大きく3つあります。
まず、リスクへの対応として、例えば個人情報、機密情報の扱いや、著作権、知財についての扱い。こういったものをどうしていくかを議論しないといけないし、そこに懸念をお持ちの方がおられるので、しっかり対応していかないといけません。
2つ目がAIの利用で、AIを使って生産性をあげる必要があるのでどんどん使っていきましょうと。国が先頭を切って使っていきましょうということ。
3つ目が開発です。開発するのに今GPUのリソースがぜんぜん足りないですよね。なので、計算資源の拡充や日本語のデータの整備をしっかりやっていきましょうというかたちですね。
元榮:「広島AIプロセス(ChatGPTを含む生成AIの活用や開発、規制に関する国際的なルール作りを推進するために、G7の関係閣僚を中心に議論を行う新たな枠組み)の創設を年内めどに」ということなんですけど。
日本のソフトロー(法的拘束力を持たない、または拘束力がやや弱い準法的手段)を中心に「利活用を自由にできるようにしよう」というところが、反映される度合いはどのぐらいでしょうか?
松尾:ヨーロッパがかなり強い規制案なので、日本が完全にそれと違うことをやるわけにもたぶんいかないので、ある程度中間地点みたいなところになるんじゃないかなと。
あと、インパクトの大きさなどを考えても、ある程度の透明性や説明性みたいなことが必要になるので、「ソフトローを中心に」というのでよいのか、まだちょっとわからないですよね。
元榮:でも、世界各国の意見が集約できないと、非常に抽象的な「それはそうだろう」という最大公約数的なところにとりあえず着地するようなイメージも持っているんですが、伊藤さんはいかがですか?
伊藤穰一氏(以下、伊藤):まず巨大LLMを作れる会社ってそんなにないんですね。4つか5つで、そこに関わっている人間もけっこう数が少なく、そういう人はみんな知り合いなので。
今度確か11月にイギリスで会議があって、その後、カリフォルニアでも会議があるんですけど、たぶん民間の大手LLMメーカーが全部そこに集まるんですよね。
そこでは、民間側からシリコンバレーを中心に自主規制の提案が出てくると思うんです。巨大なリスクは全部防いで、ある一定の大きさ以上のLLMは全部ちゃんと報告しますというのをたぶん民間側は出してくるんですよね。
アメリカは政府の中でいろいろあるのでどうなるかはわからないけど、どっちかっていうとそっち(自主規制)寄りで。イギリスはたぶんちょっと間に立っていて。ヨーロッパはいろんなことを言ってブロックするけど、実際にアメリカとか日本でLLMのビジネスがどんどん立ち上がる中で、僕は自主規制型のほうがさっさと決まっていくと思うんですね。
そこで日本がどこまでアメリカの自主規制的なイケイケの話に乗るのか。ヨーロッパのように個人情報をすごく几帳面に捉えるかを決めないといけないと思うんだけども。
ただ競争力から考えると、どんどんやる方向にしないと世界に置いていかれちゃうのが心配。だから、ちゃんといろいろポリシーとかをチェックして、慎重にやりつつ、どんどん実験はしたほうがいいんじゃないかなと思います。
元榮:コンテンツの利用、学習に関しては、日本における著作権法30条の4のところで今は「自由に学習できる」となっていますけれど。権利者団体も含めて「それじゃ困るよ」みたいなかたちでいろいろと声を挙げる方もいて、さあ、どこに着地するのかというところで。
今、文化庁でその30条の4のところの但し書きについて、権利者の権利を不当に侵害する場合がどういうものかを揉んでいると思うんですけど。そこらへんの着地のところで、何かご存じのことがあったらと思いますが、松尾さん、いかがですか?
松尾:わからないですね。どうなるか、非常に重要なところだと思いますけど。
元榮:AI戦略会議の座長の松尾さんのところにも特に何も伝わってこないというところですかね。
松尾:(笑)……ええ、はい。
元榮:かなり自由に利活用できるチャンスのある著作権法の制度だと思うので、個人的には現状を維持しながら、権利者の方を守るような、いいルールメイキングを期待したいなというところですけれども。
元榮:せっかく伊藤さんと松尾さんというお二方がいらっしゃるので、お互いで何か聞いてみたいこととかがあると、それを私が傍聴するような数分間があってもいいかなと思っているんですが、いかがですか?
松尾:じゃあ、僕が。伊藤さんから見て「これはすごい」と思うような生成AIのアプリケーションをお聞きしたいです。
伊藤:うーん、難しいな。これがすごいと思った生成AIのアプリケーション……。
松尾:スタートアップとかでも。
伊藤:もしかすると弁護士ドットコムかなぁ?(笑)。
(一同笑)
MITメディアラボ(伊藤氏が所長を務めたマサチューセッツ工科大学建築・計画スクール内に設置された研究所)ってけっこうデモが上手な研究所で。デモはかっこいいけど、実際使おうとすると難しいものってけっこうあって。生成AIってそんな感じなんだよね。
最後の着地がけっこう難しくて。たぶん弁護士ドットコムもそうなんだけど、最後役に立つところまで仕上げるのが難しい。はっきり言って、僕が期待しているほどちゃんと最後までできているビジネスって意外にあまりないんじゃないかな。
生成AIじゃなくニューラルネットワークだけど、例えばテスラの自動運転も、僕は出た時にすぐに買ったんだけど、まだぜんぜんできていないんだよね。それがちょっと心配で。
ちょっと答えになっていないんだけど、「あ、びっくりした」って思うサービスが僕はまだない。どっちかって言うと期待して待っている感じなんですね。ごめんなさい、あんまりいい答えじゃなくて。
逆に、これはすごいっていうのありますか?
松尾:例えば、ロボットのプランニングにLLMを使うといいみたいなのがあって。LLMって常識がありますから、いったん言語に直して、それからプランをLLMに作ってもらって、ロボットの軌道に直したほうがいいとか。
伊藤:申し訳ないですが、それはもう見ました。そういう研究的なもので言うと、スタンフォードの論文で、仮想コミュニティの中で、LLMを使ってキャラクターたちにお互いにしゃべらせるという仮想コミュニティをシミュレーションしたら、けっこうちゃんと動いたと。
ロボットもそうだし、ゲームの中のキャラクターがLLMを使うと動きやしゃべりがすごくナチュラルになるっていう。ゲームの中のアプリケーションはけっこうおもしろくて、そういう研究は行われているし。
ゲームって、ちょっと間違っていても構わないので。だから、最終的な仕上がりが今のLLMでもだいぶいい。でも、そこでコストの問題が出てきちゃうんだよね。やっぱりゲームの中の一つひとつのキャラクターが「GPT」を叩いていたら、たぶん採算が合わない。
松尾:膨大なコストになりますもんね。
伊藤:僕から聞きたいのは、日本にはLLMを作るための人材がいないとよく聞いていて。MITでも人材がGoogleとかに引っ張られるのは、ハードウェアとデータがあるところでみんな実験をしたいから。
今日本で大きいLLMの競争をするのは難しいかもしれないけど、技術力と研究はちゃんとやらなきゃいけないと思うんです。日本では本当に技術者が足りないのかということと、何をすれば日本に技術者が来てくれるのか。何か戦略はありますか?
松尾:技術者が足りないことはぜんぜんなくて。LLMは今いったん技術の区切りがついて、以前ほど技術があまり関係なくなっていて、「Transformer」の大規模なものを学習させられればいいというふうになっているので、すごく参入しやすいんですよね。
なので、今、どんどん新しい学生がチャレンジしていますし、実際に大きなモデルを作ると、そこでノウハウが得られるので、それでもう一人前になっていくと。
海外のビッグテックとの一番大きな違いは、データのマネジメントのシステムとか、学習したモデルを管理するシステムとか、そのモニタリングのところとか。あとRLHF(人間のフィードバックによる強化学習)のデータの取り方とか、そういった周辺の仕組みがめちゃよくできていて。そのへんが大きな差になっている感じがします。
日本でもとりあえずどんどん作ってみたらいいと思いますし、そういった環境の部分をきちんと整備していくこと。日本人はなかなかそこが弱い場合が多いんですけど。それをしっかりやっていけば、そんなに僕はハードルを感じる必要はないんじゃないかという気はしています。
伊藤:呼び戻すっていうよりも、今いる人たちに環境を与えれば十分足りるということですね。
松尾:はい、そんな気がします。
元榮:データのマネジメントとか管理とか、そして、RLHFのフレームワークといったものは日本はまだまだなんですか。
松尾:海外のビッグテックは下からちゃんと作るんですよね。何回も同じことをやる時に、ちゃんとそれを整備していこうみたいになって、そこがだんだん積み上がってくるんですよね。
元榮:なるほど。
松尾:そこも結局ノウハウなので、海外で働いた人からいろんな情報を教えてもらうとか。人材の交流とかもいろいろあるので、いいやり方をどんどん取り入れていくと、そこそこいけるんじゃないかなという気はしますよね。
元榮:最後に僕から一言ずつお願いしたいのは、この国と企業に対してです。国に対してはこんなことをやってほしいとか、企業に対してはこういうことやったらいいよということを、簡単でいいので一言いただけると助かります。じゃあ、まずは伊藤さん。
伊藤:国はなるべく実験して使ってみてから規制をしてほしい。著作権の件もそうだけど、予想で規制を作っちゃわないでほしいというのが国に対してです。
民間企業のみなさんには、とにかく自分でいじってみてほしい。プロダクツも使うだけじゃなく、技術的なクリエイティビティを湧かして、できれば自分たちでプロダクツを考える。AIができたことで、今までの自分の事業をひねって競争するというのがすごく重要なので、どんどんやってほしいなと思います。
元榮:挑戦するということですね。どうですか、松尾さん。
松尾:そうですね、国にはこのスピードで走り続けてほしい感じですかね。
元榮:あぁ、珍しく疾走してる感じですね。
松尾:疾走しているんですよ。なので、この疾走を続けてほしい。企業には、「ChatGPT」を使うのはいいんですけど、次の段階に足が出ない場合が多くて。検索と組み合わせるとか、いろんな開発するとか。結局デジタルの苦手な経営者にとって、苦手な領域に入っていくんですよね。
「ChatGPT」まではわかりやすいんだけど、そこから先になるとちょっと苦手な領域に入るので、そこをなんとか乗り越えてほしい。DXをやる大きなチャンスですので。今までできていなかったデジタル化とかデータベースを統合するとか、そういったことをしっかりやっていただければ、次の段階に進んでいただけると思いますね。
元榮:ありがとうございます。
司会者:示唆にとんだすばらしいお話をありがとうございます。寂しいところですが、そろそろ終了のお時間となってまいりました。
最後に今回視聴されているみなさまに、これからAIと共生していく社会で、ビジネスパーソンとしてどういったマインド、またスキルセットなど持っていくのが必要か。お一人ずつメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
まず伊藤さん、お願いします。
伊藤:松尾先生の話にもあったんですけど、技術的なクリエイティビティが湧かないと新しいビジネスができないので、技術的な話から逃げないで、自分で理解する。特にトップが自分で理解する必要があるので、どんどん勉強してください。
司会者:ありがとうございました。では松尾先生、お願いいたします。
松尾:動乱の時代といいますか、生成AIで本当にいろんなことが起こる時代だと思います。オポチュニティもたくさんあるので、ぜひそういったものをつかめるように行動していただければと。「ChatGPT」を使うのもいいですし、APIを叩くというのもやっていただくと、「こんなふうになっているのか」とよくわかると思うので。ぜひ、そういったことをやっていただければと思います。
元榮:お二方からのお話も踏まえて、生成AIの誕生によって、今までのAIが非連続的に進化したと理解しています。AIとか技術的なことは苦手だとか、新しい時代が来たらどうしようと思っている方は、けっこうみんな、よーいどんでスタートしていますと伝えたい。
一歩踏み出すだけで、かなりアドバンテージがあると思います。これを見ているだけでも感度が高いと思いますので、ぜひ我々と共にこういうオポチュニティをチャンスに変えるというかたちで、一緒にいい世の中を作れればなと思っています。ありがとうございました。
伊藤・松尾:ありがとうございました。
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