2024.10.01
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働き方改革に関連する取り組みは世の中に浸透しつつありますが、一方で「働く」と表裏一体である「休む」という観点については、あまり議論されていないのが現状です。そこで国際女性教育会館(NWEC)が「日本人って休み下手!? ~フランスから学ぶ休み方改革~」と題してイベントを開催。本記事では、フランス在住で『休暇のマネジメント』著者の髙崎順子氏が、フランスの休暇制度をヒントに、日本が“休める国”になるための道筋を探ります。
小林あきら氏(以下、小林):では、日本がそういった現状にあることを踏まえて、2週間の連続休暇があるフランスは、これをどうやって実現してきたのか。ここからは髙崎さんにお話をうかがいたいと思います。よろしくお願いいたします。
髙崎順子氏(以下、髙崎):ありがとうございます。よろしくお願いします。もう、今のあきらさんの説明にすごく聞き入ってしまいました。ではここからは、フランスはどのようにやってきたのかをお話ししていこうと思います。
「フランスのバカンスの歴史超概要」です。まずはざっくりと、私が何者で、なぜこんなことを話すのかをご説明したいんですが、2016年に『フランスはどう少子化を克服したか』という本を書きました。
私はフランスで子どもを産んで育てているんですが、日本の制度よりもかなり親支援が多く、そして親が子どもと過ごす時間が多いなということを、この本を書いて気がついたんですね。
育児休暇とかもそうなんですが、「なんでこんなに親に時間があるんだろう?」と、本を書いていて思いまして、1回ちゃんと調べてみようということで、フランスの休暇制度を見るようになったんですね。
そこで、親どころか、フランスで働いている人々みんなの働き方が違うことに気がつきました。働き方というよりも「休める働き方」にフィーチャーして、フランスの状況を1冊にまとめてお伝えしたら、日本にも何かヒントになるものがあるんじゃないかなと考えたわけです。
加えて2019年の4月から、日本も年次有給休暇をしっかり取らせていこう、取っていこうという制度改正がありましたので、日本でも実際に使っていただけるように、日本の事例も入れ込んで本を作っています。それが、KADOKAWAから2023年5月に出版された『休暇のマネジメント』です。
髙崎:では、これから私が書いた本をベースにお話ししていこうと思うんですが、その前に、みなさまのお気持ちを整えていただく2つの質問をさせてください。
まず1つ目。次のシチュエーションをあなたはどう呼び、表現しますか? お給料やギャラなど、自分の仕事に対して事前に合意したお給料が払われない。脊髄反射の反応でもけっこうなんですが、これをパッとどう思いますか? この状態をどう呼びますか?
司会者:今、パッと書ける方はぜひチャットのほうに。
髙崎:「搾取」「契約不履行」「詐欺」「契約違反」「不払い賃金」、本当におっしゃるとおりですよね。もうちょっとぐらい、何かありますか?
司会者:「不当」「働かせ放題」「タダ働き」「ブラック」。
髙崎:そうですよね。私は一言で言うと「おかしい」って言うんですが、これだけ強い言葉が出てくるぐらい、「いや、それはおかしい」「あり得ない」と思うんですね。
では、質問2にいってみましょうか。「おかしい」「働かせ放題」「ブラック」など、働いたはずのお給料がもらえないとなった時に、みなさんはどういう行動をしますか?
(視聴者のコメントを見ながら)「交渉」、そうですね。「辞める」「契約書の確認」「抗議」「労働局に相談」「総務に相談」「弁護士に相談」、そうだそうだ。もう、全部に「そうだそうだ」と言えます。「転職」、やはりそうなりますよね。……えっ!? 泣き寝入りしちゃうの!?
司会者:誰や(笑)。
髙崎:待って待って、それはダメ(笑)。幸い私は今までないんですが、フリーで仕事をしているので、いつもこの可能性を念頭に置いてお仕事をしているんですね。「もし不払いが起きたらどうしよう」「こういうふうにやろう」というシチュエーションを(想定)しています。
「泣き寝入りする」という方はがんばって付いてきてほしいんですが、今の質問1、質問2はやはりちょっとおかしいということで、ちゃんと対策を取るというご意見をいただけたと思います。
髙崎:フランス社会における有給休暇の取得は、今お話しした「賃金」と同格なんです。つまり、年休を未消化すること、取れない状況に置くことは契約不履行なんですね。というのは、賃金と同じように、労働法で定められた契約内容だからなんです。
何度も繰り返しでしつこいんですが、大事なことなので。つまり有給が取れないというのは、お給料をもらわないのと同じことなんですね。フランスではなぜここまで強く考えられているかというと、人間にはみんな休みが必要だから。これは(会社員だけでなく)自営業でも同じことなんですね。
なぜなら人間は機械ではないので、休まないで仕事をすると疲弊しますし、壊れていく。これはみなさん、実感を持ってうなずいてらっしゃる方もいるんじゃないかなと思います。
このように、有給休暇は賃金と同格で、人間であればみんな休みが必要であるからして、休暇を取ることが業務管理のタスクの1つになっているんですね。休暇を取るのが仕事の一部なんです。つまり「休みは良いこと」ではなく、「休まないのは悪いこと」という考えがフランスでは浸透しています。
髙崎:なぜ「休まないのは悪いこと」なのか。軽く触れましたが、働く人の心身の維持・継続に必要で、「人間は機械ではない、一度壊れた心身は元に戻らない」「明日、あなたがいなくなったらどうするの?」ということをみんな考えています。
ですが、それよりもフランスでは強く考えられている理由がありまして、それが「長期休暇は人の尊厳につながる」です。まとまった期間に休まないとわからない人生のよろこび、人として生きていくという楽しみですね。(長期休暇を取らないと)人はその実感を知ることができないという考え方があります。
(フランスには)この考え方が強くあって、結果として、休みをしっかり取ると仕事の生産性が上がります。効率が良くなる上に、しっかり休まなきゃいけないぶん、きっちりと仕事も納めなきゃいけないので質も向上します。
休める働き方ができないところは、先ほどみなさんが書いていただいたように「搾取」「ブラック」な職場なので、人手不足が深刻化するんですね。
先ほど(視聴者コメントで)「転職する」とあったと思うんですけど、本当におっしゃるとおりで、みなさんそういうところには寄りつかないので、人手不足が深刻化する。ということは、「休める働き方」をしないことには、その産業が維持できないんですね。
そしてこの考え方を象徴する、これが最も強く表れている制度があります。フランスでは、働く人の権利として年間5週間の年次休暇を取らせる義務が、雇用主にあります。その5週間のうち、年に1回は2週間連続で必ず取らせなきゃいけないと決まっています。
髙崎:「フランスの人たち、そんなに休んで大丈夫なの?」「なんで回ってんの?」と、実は私は思っていたのですが、人口規模がフランスは日本の約半分なんですね。しかも、日本生産性本部のまとめた労働生産性ランキングでは、OECD加盟の38ヶ国中8位。
我ら日本はどうなのと思うと、なんと29位。「えぇ、休んでいるフランスのほうが生産性高いの?」というのが如実に数字に出てしまっていて、私もびっくりしました。ですが、フランスも(最初から)こうだったわけではない。昔は休めない国だったんですが、法整備と運用で休める国に変えていったという歴史があります。
じゃあ何をやったかというと、休めない国だったフランスが休める国に変わった、3つの節目があります。
まず1つ目が、長期休暇制度。つまりバカンスとは何かを定義して、制度が作られた。すべての労働者が、年間に2週間必ずまとまって休もうと決めたのが1936年です。ですが、それ以前にぜんぜん休めなかった労働者たちには、最初はこの制度の意味がわからなかったんですね。
「なんで休まなきゃいけないんだ」「2週間休ませている間に俺をクビにする気だろう。その手には乗るか」みたいな。休んでいいよと言っているのに休まないの? という人たちがいたんですね。「仕事が遅れたら俺のせいにするんだろう」と、(今の日本と)同じようなことをフランスの人も言っていたんです。
髙崎:そこでフランスの政治家の人たちは、「休暇が何なのかわかってもらわなきゃダメだわ」と考えた。まずは休暇の理念を言語化して、次にうまいことそれを取れるようにしようということで、制度運用まで踏み込んだ政策をしたんですね。
具体的には何をしたかといいますと、「2週間バカンスに出る時に、自宅の最寄り駅から200キロ離れたところに行くんだったら、国が電車代の半分を出してあげるね」というようなことを始めました。(その制度は)今でもあります。
バカンスに行った先では宿泊しなきゃいけない。でもお金がかかるよねということで、安価で宿泊できる施設を作ったりもしています。それで、「(休暇って)そういうことなのか」と取れるようになると、着々とみんな取るようになるわけなんですね。
その時に、先ほどお伝えした「人間には休暇が必要、それは尊厳」と言った人が、レオ・ラグランジュさんです。この人は弁護士だったのですが、みんなが「休暇なんて取るか」と言っている時に、1936年に“取らせる大臣”を作って、それに就任した方なんですね。
余暇整備・スポーツ担当大臣の、この方が言った言葉が残っています。「労働者や農民、失業者には余暇を通して、生きるよろこびと、人としての尊厳の意味を見出してほしいのだ」と言っています。
それで、みんなが(バカンスに)行き始めたら楽しかったんですよ。こりゃいいわということで、着々とバカンスが広がっていきました。
髙崎:ですが、その後に戦争が起こっちゃったんですね。第二次世界大戦です。この間も、子どもたちだけはなんとか休ませてあげたいということでバカンスは続いていたのですが、大人たちはそれどころじゃなくなった。
ただ幸いなるかな、戦争が終わった後の新しいフランスの政府に、バカンス制度に力を入れた人たちが残っていてくれたんですね。
なので戦後の復興をする時にも、「もう1回バカンス制度をやり直そうぜ」「人の尊厳を守りながら働いてもらって、国を復活させよう」ということで、休暇制度とバカンスまわりのインフラが充実して、大規模に定着していきます。実際に休暇を取らせると、労働者の生活にもたらす効果も実感されていったんですね。
その時は、高度経済成長が日本と似たかたちで進み、オフィスや工場に働きに行って、決まった時間働いて、それでまた帰る働き方になりました。上司に嫌な人もいますし、気の合わない同僚もいる。それでも働かなきゃいけないという時に、この年1回のバカンスが心の支えになるという現象が広がっていきました。
「だって、これを11ヶ月我慢したら休めるんだもん」と思いながら、みんな働けるようになったわけですね。
プラス、フランス中の何千万人の人たちがいっぺんに旅行するようになったので、国家経済の中でバカンスの経済効果がかなり明白に表れるようになりました。そして、取得促進が経済政策の一環にもなったわけなんですね。
具体的には、みんながバカンスに行くのに対応して高速道路を作ろうとか、「フランスにもフロリダを作ろうぜ」とちょっとぶっ飛んだことを言い出して、バカンスの行き先として人気だった海岸沿いに海水浴場の整備をしたこともあります。
髙崎:その後、戦後の経済復興が終わって、1970年代の半ばから後半にフランスにもオイルショックがきたんですが、そこで不況がやってきます。
「不況の時にバカンスなんか言ってられないんじゃない?」というふうに私は思いますが、フランスの人々は逆に「バカンスをもっと広げたら、みんなの働く時間が減る。職のポストは残る。ワークシェアになるんじゃない?」と考えたんですね。
なのでその時は、年間4週間だった休暇を5週間に延ばしているんです。それと同時に、政府に就いた人が「バカンス、バカンスと言っていたけど、実際はちゃんとみんな取れているわけ?」と考えた。それで調査をしてみたら、なんとバカンスを取ってしっかり出かけられている人は6割弱だったんですね。
4割の人は、休んでも休暇の間は家で過ごしているとか、しっかりとは自分のやりたいことができていないことがわかったので、ここで再びフランス政府は「ちょっとテコ入れせなあかんよね」と、自由時間省大臣というものを設けます。
「自由時間に何をしてもらうと国民のみなさまはいいのか、考えますね」ということで、この方は「自由時間は仕事の休息ってだけじゃないんだよね」と言っています。
自由に遊んだり、想像力を働かせたり、社会的な責任や連帯、miracoさんのような活動をするのも休暇を過ごす1つのやり方だよねということで、このような言葉で休暇の中身をより明確に表したわけなんです。
髙崎:細かいことは私の本をぜひお読みいただきたいと思いますが、どういうふうにフランスの人たちが休みを取っているか。それは、産業種別にかなり違うんですね。
そんなフランスと比べて……いや、比べちゃいけないですね。フランスを片目で見て、今の日本がどう見えるかというと、年次有給休暇が労働法で定められた権利だというのはフランスも日本も同じなんですね。
なので、フランスの人たちが「契約不履行だ」「ブラックだ」「おかしい」って思うのと同じように、日本も思うべき状態である。使えるはずの権利が使えていないマイナスの状態です。でも、そのようには考えられていませんよね。なんでなのでしょう。
「休むのは良いこと」ではなく「休まないのは悪いこと」と考えられない発想の問題なのか、制度なのか、職場環境なのか、業務管理のやり方なのか、なぜなのでしょう。
このことを考えていくにあたって一番重要なのは、先ほどから繰り返しておりますように、現状の「休めない働き方」がマイナスなものである、悪いことであると認めることができるかどうかなんですね。
現状維持で「休めないならしょうがないじゃない」ではなくて、「いや、これは変えなきゃいけないものなのだ」というふうに、ぜひこの機会に捉え直していただきたい。
そして、今の日本がゼロベースじゃなくてマイナスベースだと考えるのは悪いことでもないし、シュンとなったり傷つくことでもない。「むしろ改善できる伸びしろがでかいということだな」と、ポジティブに考えていただけると、すごくおもしろいんじゃないかなと思います。
以上、駆け足ですが、ありがとうございました。
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