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Sansan・神山まるごと高専、2つの創業とダブルフルコミットから見えたもの(全2記事)

コロナ禍で聞こえた「Sansanはやばいんじゃないの?」の声 名刺交換の激減という危機下で、社長が講じた2つの打ち手

EightとSansanが主催した展示会「Eight Networking EXPO」内で行われた「Startup JAPAN EXPO」の基調講演に、Sansan社長で徳島県神山に今年4月に開校した神山まるごと高専の理事長・寺田親弘氏が登壇。前後半の前半パートでは、名刺交換が激減したコロナ禍での苦労を語りました。

Sansan・Eightが展示会を行う理由

司会者:本セッションでは「Sansan・神山まるごと高専 2つの創業とダブルフルコミットから見えたもの」と題して、ここでしか聞けない貴重なお話を存分にお届けしたいと思っています。それでは寺田さん、よろしくお願いいたします。みなさん、大きな拍手でお迎えください。

寺田親弘氏(以下、寺田):Sansanの寺田です。みなさん本日はEight Networking EXPOにご参加いただき、本当にありがとうございます。

Eight Networking EXPOは、EightとSansanが主催するオフライン・オンラインの展示会です。当社のブランディングやマーケティングのイベントではなくて、1つのイベント事業になります。

「Sansan・Eightが展示会?」と思われる方も少なくないと思いますが、我々の会社で掲げているミッションは「出会いからイノベーションを生み出す」です。展示会場は人と人が出会って、名刺交換する場でもあります。

我々のミッションに沿って、人と人、企業と企業の出会いをテクノロジーの力で後押ししようと、コロナ前の2019年からイベント事業として取り組んでいます。

今回はコロナ後、初のオフラインでの大型イベントということで、不慣れなところもいろいろ出ていますが、このエリアはEight Networking EXPOの中の「Climbers Startup JAPAN EXPO」となります。

自社が仕掛けるイベント事業の中で、私が基調講演をするのはどうなのかという気持ちがありましたが、ここから先はちょっと切り替えて、主催者の顔というよりは、私もみなさんと同じく、1人のスタートアップ企業の経営者、チャレンジをしている人間としてお話をさせていただきたいと思います。

どんな話をしようかといろいろ考えましたが、マクロの話や抽象的な話はあまり得意ではないので、一人の挑戦者、チャレンジャーとして、私がこの数年行ってきたことを話したいなと。すなわち、「コロナ禍におけるSansanのチャレンジ」と「神山まるごと高専の創業」。この2つのコミットについて話したいと思います。

PMFを達成したSansanを襲ったコロナ

寺田:2020年。説明するまでもありませんが、年明けからコロナが始まり、あらゆる人が影響を受けたと思います。2007年の創業からSansanクラウド名刺管理サービスを展開していますが、創業から13年かけて、(2020年)当時は完全にプロダクトマーケットフィット(PMF=人々が欲しいものを作っている状態)だったなと思います。

営業人員を増やせば増やすほどセールスが伸びるという手応えがあり、採用を加速していた時期でした。そんな中でコロナが来ました。このコロナについては、プラスマイナスで、いろいろな影響を受けた方が多いと思うんです。

一般論としてDX、デジタル系のサービスをやっている会社にとっては、どちらかというと追い風だったのかなと思います。コロナはデジタル化や働き方の革新を進める外圧として働いたのではないかと思います。

当社にはインボイス管理サービス「Bill One」というサービスがありまして、これは名刺ではなくて請求書を使うものですが、こちらはコロナを追い風にして世の中の後押しを受けながら、前へ前へと進んでまいりました。

これまでいろいろなプロダクトを立ち上げてきましたが、IRでも出しているとおり(Bill Oneは)2年9ヶ月で27億円のARR(年間経常収益)という明らかな垂直立ち上げです。これも我々独自の視点で作ったものが、社会のニーズとドンピシャではまったということかなと思います。それだけコロナとともにDX化の波が押し寄せてきたという実感を持っています。

Bill Oneの話は成功ストーリーとして発信していますが、一方でクラウド名刺管理サービス、つまりサービスとしてのSansanについて考えてみると、これは真逆の影響を受けました。

コロナ禍で聞こえた「Sansanはやばいんじゃないの?」の声

寺田:端的に言えば、Sansanは紙の名刺をデータ化するサービスです。Bill Oneがいくら好調でも、ARR200億円規模で、当社の売上の8割を占める屋台骨のSansanというサービスの根幹となる人と人が会わない。名刺交換をしない。ちょっと考えれば誰でもわかるとおり、かなり致命的なものでした。

2020年の名刺交換量は、通常時から7割以上減。こんなデータを出さずとも、なんとなく思った方も多いのではないかと思うんです。「Sansanはやばいんじゃないの?」と。実際当時のSNSでチョロチョロとそんな声を見ましたし、そう思うだろうなという実感もありました。

つまり13年かけて完全にPMFしたものが、数ヶ月で崩れ去ったということかなと。ぶっちゃけた話、単純に売上が減って苦しくなるという話ではなくて、上場企業として成長を折り込みながら経営する側からすると、総合的に見て生死を分けるぐらいの感覚を覚えていました。

もちろん、やるべきこと、やれることは即座にやりました。例えばオンラインで名刺交換ができるオンライン名刺の開発。当時、政府から出た新しい生活様式に「オンライン名刺交換」という言葉が入ったりして、「よし」と思ったのも覚えています。

「紙の名刺をいかにバーチャルやデジタルでやるか」ということ自体は、創業からずっとやってきたことでした。コロナを踏まえて、当時あった機能をまとめてCMやプロモーションを仕掛けたりもしましたが、それから3年経っても、現時点で「紙の名刺を置き換えるメインストリーム(主流)になった」という手応えはない。

もちろん、今日の出会いのサポートもそうですが、Sansanの価値を上げる大きな機能になったとは思います。でも「死んだかもしれないというSansanというサービスを、生き延びさせる術になるほどの力があったか」というと、そんな感覚は持てなかったのが正直なところです。

常に自分にかける「問い」

寺田:2020年、2021年と、みなさんももう記憶が曖昧かもしれませんが、緊急事態宣言が出たり、一瞬明けたりを繰り返しながら、世の中が前に進んでいるのか、後ろに進んでいるのかわからない状況だったと思うんです。依然コロナが猛威を振るうなかで、Sansanというサービスに分が悪い状況になりつつも、MRR(月次経常収益)は積み上がっていくわけです。

「コロナの今だからこそ人脈を使いましょう」「リモートワークをするためにデータベースが必要です」など、いろいろな提案のかたちを探りながら、引き続き名刺管理をマーケットに提供していました。

いろいろなプロダクトを作ってきましたが、自分にいつも問うているのは「今から自分が会社をつくるとしたら、このサービスを買いたいと思うだろうか」ということ。定性的な感覚として一番大事にしています。

当時の感覚としては「いや、なかなか厳しいよな」と。特にコロナ禍だと厳しいし、コロナが終わったとしても、もしかしたら「Sansanを自分が買いたいと思う商品と感じられなくなるんじゃないかな」と危機感を持っていました。

でも、先ほど言ったとおり、数値はスローダウンしていましたが、(収益は)積み上がっていくんですね。解約も思いの外少なく、定性的な感覚と定量的な感覚のズレを感じながら、日々戸惑いつつ過ごしていました。

そんななかの2021年の10月。非常によく覚えていますが、Sansan創業以来、初めてMRR、月次の継続売上が純減したんですね。これは衝撃的でした。この時に先ほど言った定性的な感覚と定量的な感覚が一致した。本当にまずいと思いました。

シグナルをちゃんと捉えて深く大きく展開しないと、「ビジネスインフラになりたい」という我々のビジョンが崩れ去ってしまうと強く強く思いました。

手前味噌ながら、クラウド名刺管理サービスという市場自体がSansan以前にはなかったものだと思っています。時に競合企業も参入しながら、自分たちで地道に市場を広げていった。企業が企業活動を行ううえで、顧客接点をデータベースとして蓄積していくことが、この(クラウド名刺管理サービスSansanの)本質的な価値です。

その本質的な価値に変わりはないけれども、もはや名刺だけに依拠する状態が成り立たない。その現実をあらためて認識し、そこから半年以上ほぼ毎日、いろいろな思考実験や施策、実際の動きも含めてやっていました。

当時そのプロジェクトは、PMFを再定義するRePMFということで「ReBorn」と社内では呼んでいました。再生、再定義という意味を込めていますが、それぐらいの危機感を持っていました。

危機下で講じた2つの打ち手

寺田:先ほど申し上げたとおり、「今自分が創業するとしたらこれが欲しいか」という観点で、「欲しい」と自信を持って言えるには、何をしたらいいのか。Sansanは「営業を強くする」というのを1つのキーワードにしています。名刺管理とは、出会ったあとの情報をデータベース化して、それを未来の営業活動に活かしていくものだと思っています。

コロナが終わったあとも、引き続き必要な力強いインフラとして提供するためには何をしなければいけないのか。2つあると考えました。1つは、名刺以外の接点を増やすことです。先ほど話したオンライン名刺はその最たるものですし、メールの接続やコミュニケーションをSansan上で取り組むことができるようにする。

これは、RePMFのReまでと言わずとも、Sansanの延長線上で考えていたことでもありました。それを前倒しで、数年かけてやろうと思っていたのを一気に「1年でやるんだ」という気持ちに切り替えました。

そしてもう1つ。こちらのほうが大きいかなと思いますが、データベースの拡充です。先ほどの話とも重なりますが、名刺という人と人が会ったあとにできるデータベースではなく、そもそもSansanにデータベースがある状態、Sansanにデータが入っている状態を作る。

そこに名刺やメールなど、いろいろなやりとりがつながる状態を作りたい。そうすべきだと思いました。

いろいろな会社やデータベンダーさんとの契約がありますが、大きなキーとなったのが帝国データバンクさんとの契約です。毎週のように打ち合わせを重ねながら、帝国さんにも大きな判断をしてもらい、あらかじめSansanに企業情報を設定することができるようになりました。

つまりSansanを使えばその情報がすでに入っている状態で利用できる。2022年5月に第1弾として「営業DXサービス」というリリースを打ちました。

今はどうなっているか。企業情報、人事異動情報、役職者情報、拠点情報、リスク管理情報。これだけの情報がすでに入っているんですね。Sansanを使い始めるとこのデータがすでにあり、そのデータの上に名刺などの接点情報を積み重ねていくことが、実現できつつあります。

名刺管理サービスから営業DXサービスへの展開

寺田:結果として、我々はこういう言葉で表現しています。「名刺管理サービスから営業DXサービスへ」。当時も言っていましたが、いわばオワコンになりかけたものをまた戦えるところまで持っていった。2022年5月のリリースから1年経ちましたが、まさに「RePMFができてきたな」という感覚です。

でも2021年の10月から1年半ぐらいかけて、いろいろなことをやってきたわけですが、実はReBornプロジェクトの当初、社内でも相当な反発がありました。「いや、名刺管理でまだまだいけるでしょ」「寺田さん、現場をわかっていないからですよ」と言うメンバーもいっぱいいましたし、さんざん議論をしました。

今も当然名刺管理は重要な機能ですが、それを前提としつつ、「ダメなんだ」と。「だって俺が今会社をつくったとしても、これ(名刺管理サービス)は買わないもん。定量的な結果がそれを証明しているし、感覚的にも俺はかなりいやだよ」と言って、押し切って進めてきたことを今となっては懐かしく思い出します。

自分自身「このままでは死んじゃうな」と思うぐらいの覚悟を決めて動いたということです。それから時を経て、SansanのRePMFが完了しつつある。数字的なことはあまり多くは言えませんが、明らかにもう一度再成長の波に乗りつつある。もう半年や1年すると、いろいろな結果をマーケットでも言えるかなというところまでやってきました。

という話がSansanにおける話です。実はこういう話を表ですることはありませんが、今日はまず前半に「裏側ではこんな苦労をしていたよ」という話をさせていただきました。

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