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どうやって、ものを手放していますか?―社会を循環させ、文化をつなぐ選択肢(全4記事)

大切なものを「捨てる」のではなく、次の受け手に「手放す」 「おすそわけ」で育った僧侶が語る、捨てると手放すの違い

暮らしを彩るいい商品を見つける「マーケット」、ものづくりや消費をめぐる問いに向き合う「トークセッション」、そして、ものづくりや作り手の想いを間近で体験する「ワークショップ」をコンテンツに、3日間にわたって行われたイベント「Lifestance EXPO(ライフスタンスエキスポ)」。本記事では、同イベントで行われた10本のトークセッションの最後を飾った「ものの手放し方」をテーマとしたセッションの模様をお届けします。少子高齢化の時代の寺の役割や、「つないでいく」ことの大切さが語られました。

寺の山門前に「のぼり」を立てた効果

松島靖朗氏(以下、松島):(ひとり親家庭へのおやつのおすそわけは)匿名配達でコロナ禍をなんとか乗り切ったんですけれども、やっぱり匿名のその先、地域での見守りをしっかりと作っていきたいところが私たちの中にもありました。そのため、今、全国のお寺に「のぼり」を立ててもらっているんですよね。

戦国時代じゃないんですけど、全国にあるお寺の山門の前に、おてらおやつクラブの「のぼり」をどんどん立てていくことをお願いしています。そして、匿名でおすそわけを受け取ったお母さんが「のぼり」を見て、こんなメッセージを送ってくれたんですね。「もしかしたら、このお寺からおすそわけを送ってくれたのかもしれないと思って、地域で見守られている実感がより湧きました」というお声をいただきました。

「コロナ禍で個人情報に配慮しないといけない」ということで始まったんですけど、結果的に、いつでも手元にあるということ、匿名でつながれるということ、おすそわけの相談をすれば反応があるということ、地域を歩いていると実際に物理的な拠点があったということを感じていたただけました。

ここでようやく、顔が見える関係で助け合うということ、いわゆる理想的な「ともに助け合っていきましょう」ということの芽生えを感じることができました。

やはり、いきなり「顔が見える関係で相談し合いましょう」は難しく、したたかに仕組みを作っていくことが大事だったなと思っています。

幅允孝氏(以下、幅):確かに今までは、ひょっとするといきなり4番(地域のお寺・山門)に行こうという試みが各地域で多すぎたのかもしれません。

これだけつながりすぎる世の中だから、逆に他者に対する壁の作り方も、みんな意識するようになってきていて、急にはお寺には駆け込めない。そういう時に、少しずつデジタルのテクノロジーなどを使いながら、しかもお金とかじゃなくて、お菓子をおすそわけするというのもすごくいいのかもしれないなと。

どうしても毎日食べる物が重視されやすいですけど、ちょっとあるとうれしいお菓子くらいからスーッと入っていけるというのは、すごく見えました。

もし「気がついた時には、ここにあるお寺を知っていた」という状態になることを綿密に考えていらっしゃるとすれば、松島さんのこのプロジェクトはすごく緻密に考えられているんだなという気がしますね。

松島:これはすべて後付けなんです。結果的にこういう状態ができあがっていました(笑)。

:そう言うと思いました(笑)。

松島:はい。何も考えていなかったです(笑)。

寺に寄せられるもの

松島:「手放す」ってどういうことかという話については、活動を通じていろいろと考えているんですね。手放すこともそうだし、「人を助けるってどういうことなんだろう」とよく考えるんです。

「おすそわけをする物=おやつ」「施す者=私」、そしてそれを受け取ってくれる「受者さん」がいて、お釈迦さまはこの3つにすべて囚われない状態が「三輪空寂」の状態、つまりは一番理想的な状況なんだと。

何者も手放されて、それらがつながっていく状況なんだと言ってくださっています。私もそれを目指していきたいんですけれども、実際のところ、それはなかなか難しい話なのですよね。

おやつ以外にも、お寺ってけっこういろいろなものが集まってきます。(本の写真を見せながら)これはご縁あった方の蔵書なんですね。

亡くなられてしばらくして、息子さんから「全部持って行ってくれていいよ」とご相談いただきました。

もともと生前から読書家の方だったのでよく知っていて、本棚を眺めながら、その方の戒名のヒントを探したりしていたんですけれども、いざその日が来て、「そのあと、どうするねん」という話になって、蔵書をお寺で預かることもあります。その一部をバリューブックスさんにお送りして、おてらおやつクラブに寄付してもらう流れを作っています。

幅さんは本棚のある空間をたくさん作られていると思うんですけど、スマホを見ていると縦スクロールじゃないですか。本棚って横スクロールで、中を読まなくても、本棚を眺めるだけで十分楽しい。本棚と背表紙を眺めているだけで本を読んでいる感じになったり、幸せな気持ちになったりします。

:あとは、これを集めた方のキャラクターが見えますよね。不思議なもので、本棚はメディアとしても雄弁で、一冊一冊だとただの本なんですけど、連なりだけで、ちょっとずつ独特なアトモスフィア(雰囲気)ができるようなことはすごくあります。だから、こういうものをしっかりと見ると、「あ、こういう人か」というのがわかります。

僕らにもたまに、「亡くなった方の本をなんとかしたい」というご相談があります。その方の家に行くと、「あ、これが好きだったんだな」「こういうことを考えていらっしゃったのかな」というのはすごくわかりますね。見ていておもしろいんですけど、これを取捨選択し始めると終わらないんですよ。

松島:そうなんです。止まらない。それを託される役目もあるという、なかなかおもしろいんですけど、重荷を背負う場所でもあるということですね。

:そうですね。

少子高齢化の時代の寺の役割

松島:あとは本以外にも、最近「仏壇じまい」ということで、仏壇や仏さまが、コレクションのように集まってきているんです。

そのうち三十三間堂みたいに、仏さまが集まる空間ができるのかなと思っているんですね。

「手放す」という話ですけれども、結局、手放すには、誰かがそれを受け取らないといけない。まずはお寺という場所が、そういう地域のいろいろな人の生きてきた証、見守りを預かっていく場所になる。「その先どうするねん」という話はありますが、ひとまずはそういう役割を担っていくのがお寺の役割なのかなと思ったりもしています。

:ありがとうございます。1つ前(のスライドで)「仏壇じまい」について書かれていましたが、畳まれる時には、それこそ燃えるゴミなどに入れるわけにはいかないじゃないですか。

やっぱり日本人は特にものに対して思い入れがあります。それはたぶん記憶だけではなくて、いろいろなものに神さまが宿っているという感覚があるので、落ちちゃったものに「よしよし」と声をかけてみたり。そういうところがすごく多いと思います。

特に家でずっと大事にしてきて、毎日手を合わせているものって、「どうやって手放せばいいのかわからない」という方が多いと思います。それが集まってきて、21世紀の三十三間堂が日本各地にできあがっていくというか、そういう可能性も少子高齢化の時代なのでありますよね。これをまた集めてどうするか、というところも少し興味深いなと思います。

松島:そうなんですよね。自分自身が手放せなくなってきていることに気づいているんですけど、手放したものを受け取る役割として、担っていかないといけないなというところですかね。

:でも人間って不思議なもので、1つが2つになって、それが20、200、2,000とかになって、ブワーっと並ぶと、ちょっと気持ちよくなってしまう。実は本来、そうなんですよ。たぶん錯覚なんですけれど、不思議なもので、視界に入っているものが増えると気持ちよくなり、まるで自分が大きくなったような、そういったものを受けてしまうことがあると思う。

手放すって、まるで大きくなった自分を目減りさせていくことなんじゃないかと勘違いしているが故に、捨てられない。そんなところがけっこう多いんじゃないかなと思います。

松島さんは、これが増えていったあとのことは、何か考えていらっしゃるんですか?

松島:三十三間堂と言ったのは、まさにそういう仏像の集合体を観光で見てもらう、光を見てもらう場所にするということもあるだろうし、おっしゃったように、本当に自分が大きくなっている。その大きなものに見守られている感じというのが、どんどん心地よくなってきて、手放せなくなってしまう。不思議な空間ができあがりそうな気がしていますね(笑)。

:そうですね。ありがとうございました。

松島:ありがとうございます。以上です。

:おてらおやつクラブ、「たよってうれしい。たよられてうれしい」というキャッチコピーがすばらしいですね。

リユースビジネスを成立させるポイント

:というわけで、バリューブックスとおてらおやつクラブのお話を聞いてきました。今までもずっと本題でしたが、ここからは「手放す」について考えていきたいなと思います。

今、松島さんがおっしゃったことの中に、1つすごくいいヒントがありました。「手放す」ということは、実は次にそれを受け入れる人、「受け入れ手」がちゃんと見えている状態と話していただきました。

例えば、先ほど中村さんがおっしゃった「本だったノート」も、実は前の人の痕跡として、「に」という文字などが残っているノートです。人というよりは、ものの痕跡が残ったものは、かたちや機能は変われど、一つひとつのものを受け入れる時に「こういう来歴なんだな」「つながっているな」という印象を受けることになる。

自分がものを手放す時に、それがつながっていく光のような何かが見えれば、実は手放すことに対する恐怖心が少し減ってくるのかなと思うんです。そのあたりについて、何か思うところはありませんかね。どうやって本のつながり、ノートのつながり、言葉のつながりみたいなものを作っていけばよいのでしょうか?

中村和義氏(以下、中村):本当におっしゃるとおり、僕らは手放してもらうことが一番重要なサービスと言うか。新刊をメインで販売してはいないので、本を手放してもらわないとビジネスが成立しないんですよね。

なので、「いかに手放したいと思ってもらうか」「気持ちよく手放してもらうにはどうしたらいいんだろう」といったことのために、先ほど紹介したさまざまなプロジェクトをやっているのかなと思います。

結局、送った先がどうなるのかがわからない時って、ちょっと気持ち悪いとか、自分のものがぞんざいに扱われているとか、透明性がないという感じで気持ちよく送れないような気がしているんですよね。

だから、「こういうかたちで活用しているんだ」ということを、僕らがいろいろなケースでがんばればがんばるほど、それを伝えれば伝えるほど、気持ちよく手放してもらうことにつながるのかなと思っています。

「つないでいく」ことの大切さ

:松島さんからも、手放す、つなげる、つないでいくということに関して、何か考えていることをお話しいただいてもいいですか?

松島:僧侶になってすぐの頃に、「おてらおやつクラブのおすそわけを子どもたちに」ということで始めたんですけど、とにかく言われたのは、「お坊さんってたまにはいいことをするんだね」と。

:(笑)。

松島:よく言われましたね。会う人会う人に言われて、それだけお寺って、ぜんぜん期待されていない場所だったんだなという反省もありました。

だからこそ、がんばったところもあるんですけど、ある時、自分がおすそわけできているのは、急におすそわけできたわけじゃなくて、やっぱりお寺におそなえされているものがあるからできる活動なんだ、ということもわかりました。

じゃあ、なぜおそなえされるかというと、いろいろな人が「目に見えない仏さまやご先祖さまのために何かしたい」という気持ちをつなげていって、その行為が残っているからできたことだと思うんですね。

自分はどうかというと、お坊さんになりたくなくて、ずっと東京に逃げていた時期が十何年間あったんです。

:けっこうな逃亡でしたね(笑)。

松島:そうなんです(笑)。本当にイヤで、絶対になりたくないと思っていましたが、戻ってきて、こういう環境でこういう活動をしているということは、やっぱり自分もおさがりのおすそわけを受けて育ってきたからできるんだな、ということに気づいたんですよね。

:なるほど。

松島:だから、自分がされてきたことに思いを馳せた瞬間に、「おすそわけをすることも当たり前にできるんだ」と気づけたというか、より言葉にすることができたという感覚はありますね。

:なるほど。それこそ、東京時代の自我みたいなものを手放したからこそ、今の松島さんがあるのかもしれませんね(笑)。

松島:そうですね。だけど、完全には手放せていないという(笑)。

:(笑)。

松島:今日も東京に来て、久しぶりにワクワクしているので(笑)。

(一同笑)

「捨てる」と「手放す」の違い

:それこそ、今回テーマを「手放す」にしたのは、「捨てる」ことと「手放す」ことが、まったく違うことなんじゃないかと思ったからです。

どうしても今、ものの捨て方やリサイクルなどという言われ方がすごく多いですし。断捨離的な物言いというか、まず「捨てる」ということを際立たせるようなことが多いんですけど。

僕は「捨てる」と「手放す」って、個人的にはちょっと違うと思うんです。そのあたり、「捨てる」「手放す」の違いって、どう思われますか?

松島:先ほども言いましたけど、「受け手がいる」ということです。手放したものを誰かが受け取ってくれるからこそ、捨てなくていい。「受け取ってくれる人がいる」ということが、一番違うところですかね。

:ありがとうございます。中村さんはいかがですか?

中村:「捨てる」というのにも、やっぱり「捨て方」のようなことがあると思います。ちゃんと有効活用されるような捨て方もあると思うので、「手放す」と「捨てる」には、当然違う部分もあると思います。方向の違いなのかな、という感覚はありますね。

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