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どうやって、ものを手放していますか?―社会を循環させ、文化をつなぐ選択肢(全4記事)

「1日1万冊」ずつ増える、買い取っても売れない本 「捨てたくない」…本の循環を目指すバリューブックスの取り組み

暮らしを彩るいい商品を見つける「マーケット」、ものづくりや消費をめぐる問いに向き合う「トークセッション」、そして、ものづくりや作り手の想いを間近で体験する「ワークショップ」をコンテンツに、3日間にわたって行われたイベント「Lifestance EXPO(ライフスタンスエキスポ)」。本記事では、同イベントで行われた10本のトークセッションの最後を飾った「ものの手放し方」をテーマとしたセッションの模様をお届けします。年間で約400万冊の古本を流通させるバリューブックスの「よりよい本の循環」を目指す取り組みが語られました。

「ものの手放し方」を考える

幅允孝氏(以下、幅):みなさんこんにちは。こんなに雨が降っていて、しかも寒い日曜日の午後にお時間をいただきまして、本当にありがとうございます。

私はPARADE株式会社の取締役で、有限会社BACHという会社ではブックディレクターという仕事をしております、幅允孝と申します。

今日は私がファシリテートするかたちで、中村さん、松島さんのお二人から「どうやって、ものを手放していますか?」というお話を聞いていきたいと思います。

今回のイベントには「社会を循環させ、文化をつなぐ選択肢」という副題があります。そのため、イベント全体を通じて、ものをどう作るのか、そしてそれをどう伝えるのかということをお話ししてきましたが、イベントの最後となるこのトークセッションでは「ものの手放し方」まで語ってしまう予定です。手放すのって、本当にすごく難しいですよね。

Lifestance EXPOの3日間で、全部で10本のトークセッションを開催してきました。プログラム上、これが偶然最後になったのですが、今日はその手放し方を語るにはとても似つかわしいお二人に来ていただいたと思います。

簡単に自己紹介させていただくと、実は私、ブックディレクターといって、いろいろな場所で図書館を作る仕事をしています。どのような図書館かというと、公共図書館から企業図書館、病院図書館など、さまざまです。

なんとなくご存じの方もいるかもしれませんが、例えば早稲田大学の「村上春樹ライブラリー」を作ったり、去年は神奈川県立図書館をオープンさせたり、関西だと安藤忠雄さんが寄贈された「こども本の森」にも携わりました。

いわば、図書館の中身を作る仕事です。具体的には、どういう本を置くのかというコンセプトや本の分類を決めたり、選んだ本を調達して配架するような仕事をいろいろなところでしています。

つまり紙の本の集積をしている人間なので、ものを手放すこととは真逆のことをしているわけです。これまで「どうやってアーカイブズを作っていくのか」に取り組んできた人間が、あえて今日「手放す」のファシリテーターに選ばれたということは、そろそろそういうことも考えていかなきゃいけないのかなと。

年間で約400万冊の古本を流通させるバリューブックス

:実は、この2月から拠点を2つに増やしました。30年くらいずっと東京に居たのですが、京都にもう1つ、私設図書室兼喫茶店を作ろうということで2拠点になったんです。

南青山の事務所から京都に本を送ったのですが、14年間引っ越ししていなかったので、その間に溜め込んだ本が1万冊以上もありました。でも、新しい拠点にはそれほどスペースがなく、どうしたものかと。

雑誌1冊をとっても個人的には思い入れがあるものもあり、「あぁ、これは捨てられない。でも持って行けもしない。どうする?」「データ化するか。それも大変だ。お金もかかる」と悩みました。

さらには引っ越しの最中にギックリ腰になったり、あまりにも物量が多すぎて帯状疱疹が出たりと、散々な2月、3月を送りました(笑)。

「手放す」と簡単には言うけれど、それを実行するのはなかなか難しい。しかも、ものは記憶と密に結びついていますし、その人の来歴の鏡のような部分もありますよね。

そういったものを手放しながらどう循環させるのか。もっと言えば、「次の使い手をどういうふうに探していくのか」ということに関して、今回はお話をうかがいたいと思います。それでは、まず中村さんから、ご自身のお仕事についてお話しいただければと思います。

中村和義氏(以下、中村):あらためまして、株式会社バリューブックスの中村と申します。本日はよろしくお願いいたします。バリューブックスのことをよく知らない方もたくさんいらっしゃると思うので、まずは簡単にバリューブックスの紹介をさせていただければと思います。

バリューブックスは2007年に創業し、今年で16年目くらいの会社です。創業者の中村大樹が大学を卒業後、「就職はちょっと肌に合わないな」ということで「何をしようかな」と考えて、模索しながら引きこもっているような状態の中で、たまたま自宅にある本がAmazonですぐに売れた体験から、「これしかないな」と、古本屋で本を買っては売るという「せどり」を個人事業主のようなかたちで始まった会社です。

今では長野県上田市に複数の拠点を構えており、古本の買取と販売を中心に行うオンライン書店を運営しています。在庫が常時150万冊くらいあり、毎日全国から、手放していただいた本が2万冊、3万冊ほど届きます。その中から、1日1万冊とか1万5,000冊を次に届けています。

僕らは、「日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える」ことができたらいいなと思いながら活動しているんですけど、現在はこのような規模感になってきており、年間では400万冊くらいを流通させています。

売りたい本の自動査定や売った本のライブラリー機能

中村:メインのサービスは、本を買ったり売ったり、管理したりできる「VALUE BOOKS」というサービスサイトの運営です。このWebサイトは販売サイトにもなっています。

売る場合、つまり手放すほうに関しては「本棚スキャン」というシステムを開発しています。売りたい本が本棚にある状態で写真をパシャッと撮ると、それを読み取って、どれをいくらで買ってくれるかを瞬時に出すサービスで、どれを手放すかの判断材料にしていただけるようになっています。

:(スライドの)『フルサトをつくる』が48円で、『文化人類学の思考法』が600円で、というのは、実際の買取価格が反映されている感じなのですかね?

中村:そうですね。これがいつの買取価格かはわからないんですけど、こういうかたちで本当に出てきます。

:こういう金額はどんなかたちで変化したり、査定されているのですか?

中村:このシステムは、実際に本を買取に送っていただいた時に、倉庫で査定作業をする時のシステムとまったく同じものを組み込んでいます。オンライン上でリアルタイムで、「いくらで売れているのか」「それがどのくらい出品されているのか」「どのくらいの回転率なのか」をデータで入れていき、それに基づいて値段を決めるかたちになっています。

:すごいシステムですね。

中村:いえいえ。できるだけ簡単に仕分けしていただけるようにしている感じです。

あとは、「売ったものを手放してしまって記憶から消えてしまうのはイヤだよね」ということで、管理などができるライブラリー機能を開発しました。売ったものもライブラリー化されたり、読みたいものをライブラリーに入れられるようになっています。

:売った本をもう一度買い直す方はけっこういますよね。

中村:「やっぱり欲しい」みたいな(笑)。でも、それがものを手放すハードルを下げる要素にもなるかなと思っています。

:なるほど。

買取金額をNPOや教育機関に寄付できるサービス

中村:「VALUE BOOKS」のサイト以外にもう1つ、「チャリボン」というサービスも提供しています。これは買取のサービスの仕組みを流用したようなサービスになります。

「VALUE BOOKS」と同様に、当社へ本を送っていただくのですが、その買取金額を自分のお金にするのではなく、社会課題の解決に向けて活動しているNPOや教育機関などに寄付できるサービスになっています。

現在、「チャリボン」に登録されている団体数は200くらいで、NPOが90、大学が100、その他の自治体、図書館なども8つくらいあります。過去の累計としては、27万人くらいの方にご利用いただいており、2,600万冊くらいの本が届いています。また、寄付金として届けられているのは、6億6,000万円近くになります。

実は本日、一緒に登壇させていただいている、おてらおやつクラブさんにもずっと参加いただいております。もうだいぶ経ちますよね。

松島靖朗氏(以下、松島):もう7年くらいですね。

中村:そうですよね。もう1つ一緒に取り組んでいることがあって、去年の12月には、クリスマスの時期でもあったので、子どもたちに本を届けたいと思い、「VALUE BOOKS」のサイトで、1ヶ月の買取金額の総額の10パーセント分を、当社が負担して本を届けるプロジェクトを企画しました。

それを一緒に届けてくださる団体さんとして、おてらおやつクラブさんにも参加していただきました。おてらおやつクラブさんとは、4月に850世帯くらいの家庭に本を届ける準備中です。

そういったかたちで、1日2万冊を買い取り、1万冊くらいを販売しています。販売は主にオンラインで、「Amazon」「楽天」「Yahoo!」、あとは「VALUE BOOKS」のサイトです。

また、送っていただいた本を有効活用する方法として、リアルの場所も活用しています。自分たちの実店舗や、移動式書店なども運営しています。こちらの移動式書店(ブックバス)は今、下北沢にあります。

あとは同じような気持ちで本を取り扱いたい方たちに卸をさせていただいて、空間も一緒に作らせていただいています。このLifestance EXPOに出店されている、わざわざさんのお店の姉妹店に「問tou」というブックカフェがあるんですけど、こちらも一緒に取り組ませていただいています。

「泣きながら歯を食いしばりながら」行う古紙回収作業

中村:散々、1万冊や2万冊と言っていて、「残りの1万冊はどこに行っちゃったの?」という話なんですけど、残りは基本的に古紙回収というかたちで、再生紙になっています。

:僕も上田市の倉庫を見に行かせていただきました。並んでいる本もすごいですが、一方で古紙回収に回さざるを得ないというね。

中村:そうですね。

:今、中村さんがさらっとおっしゃったんですが、御社には本好きの方が多いじゃないですか。お話ししていて、それをすごく感じました。例えば、古紙回収に回す作業を泣きながら歯を食いしばりながらやっている感じもすごく印象に残ったんですけど、これは宿命としては仕方がない。

どういう本が古紙回収に回っているのかも、ちょっと教えていただいてよろしいですか?

中村:基本的に僕らはオンラインで販売しているので、オンライン上での需要と供給のバランスが崩れてしまっている本というのは、けっこうあります。いろいろなケースがあるんですけど、一例としてよくあるのは、ベストセラーのようなかたちで世の中にたくさん出た本です。

例えば、「100万冊販売されました」というのは、本としてはすばらしいと思うんですけど、それが1年後、2年後に手放される時、古本として古本屋に回ってきた時には、同じ人数の方が読まれるかというと、そうではないという背景があります。

そうすると「同じ本が市場に溢れかえって、値段が下がる。売れない」というような現象がけっこう多いです。これは大量生産、大量消費によるもので、本に限らない話なのかなと思っています。

ただ僕らは、それをそのまま古紙回収に回すことは、おっしゃっていたようにちょっと心苦しい気持ちがずっとありました。できる限り次につなげたいということで、「捨てたくない本」プロジェクトを立ち上げ、活動しています。

例えば「book gift project」といって、小学校や保育園、被災地、病院など、いろいろなところに本を届け、プレゼントするプロジェクトがあります。それから、そういった本で構成した、低価格で販売するアウトレットの店舗「VALUEBOOKS Lab.」も自分たちで運営しています。

また、この取り組みに共感してくださった良品計画の「無印良品」のお店で、そういった本を一緒に取り扱ってもらっています。彼らは、「古紙になるはずだった本」という名前をつけてくださっています。

「無印良品」の中には、「MUJI BOOKS」という本も取り扱っている店舗があるので、今はその中の十数店舗のお店で一緒に販売させていただいています。

リユースでも価値が落ちづらい本を作る出版社の支援

中村:これはまたちょっと変わった話ですけど、大量に販売された本ではなく、丁寧に作られている出版社さんの本で長く読み継がれている本もたくさんあって、リユースの中でなかなか価値が落ちづらいんです。

そのような本に結びついている出版社さんを少しでも応援できないかなということで、出版社さんに僕らの古本の利益を還元する取り組み(VALUEBOOKS ECOSYSTEM)にもチャレンジし始めています。

:これは画期的ですよね。今まで本における二次流通というものは、「売ったらおしまい」だったのが、その本を作った側にもなんらかのフィードバックをしていこうと取り組まれている。言ってはなんですが、バリューブックスにとって利益になることはまったくないわけじゃないですか。

中村:そうですね。

:お金の面では利益になることはない。けれども、「本というものを扱う小さな船に乗る者同士で何をやっていくか」という時に、こういう決断をされたというのが、僕はすごくユニークだなと思ったんです。

どういう出版社を、どう選んで、どうしてこのシステムを作ったのか、もうちょっとお話を聞かせていただいてもいいですか?

中村:始めようと思ったきっかけは全部、「捨てたくないよね」という思いからです。

その時に、「90パーセント以上がリユースできているよね。次に販売できているよね」という本を作られている出版社さんをデータで出してみました。そういった出版社さんの本は、僕らにとっては有効活用できる本、つまりちゃんと市場に再流通させていくことができる本ということになり、そんな本が増えていったらいいなと思いました。(現在の参加出版社:アルテスパブリッシング、英治出版、トランスビュー、夏葉社、ミシマ社)

これは簡単な話ではないんですけど、そういった思いの中から始まったところがあります。

:確かに以前だったら、それこそ「商品をたくさん刷ってたくさん売る」ということが、出版における正義だったわけです。しかし今、本というものの商品としての価値も変わってきている中で、わざわざ紙に刷るのは、お金も時間も労力もかかることになりました。

なので、その意味を本の作り手である出版社自身が考えるきっかけにもなるのかなと、見ていて思いました。でも、それをやっちゃうバリューブックスの決断力と行動の速さはすごいですよね。

中村:けっして短期的な利益にはならないというか、逆にそれなりの金額をしっかりと還元させていただいているので、短期的にはマイナスになってしまいます。

ただ、そういったことをやっているバリューブックスを、いいかたちで知って、利用していただくことになったら、それはそれでプラスにもちゃんとなるかなと思っています。

廃棄されるはずの本から作った「本だったノート」

中村:そういったいろいろな取り組みをしてはいるものの、1日1万冊、年間365万冊が古紙回収に回っているという膨大な数に対して、救えている本の数はほんの一部になってしまうのが現実です。

古紙回収に回れば、真っ当なかたちでちゃんと再生紙になります。ダンボールなのかペーパータオルなのか、トイレットペーパーなのかはわからないんですけど、紙になっている。

それでも何かもっと「本だったよね」ということを感じ取れるような、よい活かし方はないのかなということで、廃棄されるはずだった本から紙を作って、それをノートにした「本だったノート」を開発し、販売も始めています。Lifestance EXPOの弊社のブースでも見ていただけます。

これがおもしろいのは、文庫を活用していて、文庫から文庫形のノートを作っているんですけど、(「本だったノート」を見せながら)活字がこのような感じで残っていて、「本がこういうかたちにまた戻ったんだよね」ということが体感でわかるところです。

リサイクルが体感でわかるようになったのは、よかったなと思っています。

ということで、当社はよりよい本の循環を考えている会社になります。すみません、ちょっと長くなっちゃいました。

:ぜんぜん大丈夫ですよ。中村さん、本当にありがとうございました。

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