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パネルディスカッション「遠距離介護・同居介護、どう考えていくのがベスト?」(全4記事)

介護と仕事の両立は“親不孝”にならないとできない プロでも難しい「自分の親の介護」で悩まないための心構え

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、仕事をしながら介護もする「ビジネスケアラー」が増加していきます。「大介護時代に、『すべての人の物語』が輝く世界を。」 をビジョンに掲げる株式会社リクシスが主催するビジネスケアラー会議では、「働きながら介護している人が、当たり前に輝く社会」を目指すためのヒントを、働き方の専門家や介護経験者が語ります。本セッションでは、後半のパネルディスカッションをお届けします。 ※前半の基調講演はこちら

認知症に気づいて病院に行くまでに、半年以上かかる人が半数以上

佐々木:松浦さんと山中さんのお二人のケースをご覧になって、たくさんの方からご質問をいただいているので、プロの木場にも入ってもらって、少しご質問に対して答えていきたいと思います。

「親の異変に気づいてから、認知症であることがわかるまでに2ヶ月程度かかるのは、一般的に早いほうなんでしょうか? どうでしょうか」っていう話がありました。松浦さんはもうちょっと早かったなぁっておっしゃってましたけど、どう思われますか。

松浦:早いか遅いか。それは僕にしてみれば「知らんがな~」ですよ。だっで僕は僕という一ケースしか知らないから。

佐々木:「知らんがな~」ですよね。たぶん木場がデータを持ってると思います。木場さん、どうですか。

木場:一応相場から言うと、まだ早いほうの扱いになります。気づいてから病院に行くまでに半年以上かかってる人が、半数以上ですね。もちろんもうちょっと早めに気づけたかもしれないですけど。

気づいてから受診して、診断が出るまでで言うと、相場よりは早いです。あまり相場に意味はないですけど。

自分の親の認知症を認められずに「茹でガエル」状態に

佐々木:松浦さんもおっしゃっていましたが、もし超初期の段階で症状に気づけていたら、もっと早く病院に行く選択ができるのかもしれないですよね。この相場感をもっているかどうかは、なかなか難しいですが実はすごく大事なのかもしれないですね。

早期発見・早期対応は難しいと思いますが、認知症ではとっても重要ですよね。とはいえ、自分の家族が認知症かもしれないなんて、ついつい心情的に「認めたくない」と思ってしまうかもですが……。

山中:あ、いいですか。だからこそ、プロに任せたほうがいいんじゃないか、と思うんですよ。自分で客観基準を持って親を診断できるんだったら、もうそれ、介護関係者ですから。

佐々木:確かに。

山中:おまけに自分の親だと、松浦さんがおっしゃったとおり、ついついひいきめに見て、「調子が悪いのかな」「寝不足かな」「寒がりなのかな」って、介護が必要じゃない理由をすぐ考えついちゃうじゃないですか。

だから逆に、何歳を超えたら、基本的に親が認知症かもしれないという気持ちでいたほうがいいのか。帰省された時に、包括の方にちょっと話をしておくぐらいの気持ちでいた方がいいと思うんですが。

木場:そもそも「気づきが遅い問題」っていうことだと思うんですけど、確かにご家族が見てると、「茹でガエル」の話をおっしゃってましたけど、じわじわとなんか慣れてっちゃうみたいなのがあって、気づきにくいんです。

65歳を過ぎたら、プロの目で見てもらう

木場:基本的に包括に相談すること自体は、65歳以上で(考えていた方がいいで)す。ちょっと困ってる、家族がたまに見てあげなきゃいけないと思ったタイミングでは、もう相談できる状態なので。

年齢で言いにくいですけど、相場で言うと、やっぱり70代から認定率は上がってきます。70歳~75歳とかだったら、1回考えていいのかなって思います。

木場:お若い方だったら、包括に自分で行ってもらうのもありかなと思います。「もう65歳過ぎたら、そういうところあるよ」って、言っていただければなと思う。

山中:電話でもいいんですよね。

木場:そうですね。

佐々木:そうですね。包括は電話でも相談できるようですもんね。

山中:お母さんお父さんの住所で検索すると、包括の担当がわかりますから。そこに電話して、「うちの家は何歳でどこそこに住んでいて、最近例えば物忘れが」とか、「電話口でおたおたしてる」とか。「買い物で間違えるんです」みたいな。

具体的なことがわかれば、それを言ってあげるだけでも、向こうがぴんと来る時があるんじゃないかなと思います。

木場:危ないなと思ったら、見に来るまではやってくれるので。そこで、プロの目で見てもらうっていうのもできるかなと。

山中:自分で判断しようとするから悩んじゃうんですよね。

佐々木:そうですね。

外部で「アラートをあげてくれる人」をつける大切さ

佐々木:施設入所のタイミングも、同じように考えたほうが良さそうでしょうか。お二人とも「これは施設だな」って思われるまでに、いろいろ悩まれて決めてらっしゃると思うんですけれども、タイミングって難しいじゃないですか。参加者からご質問もいただいてるんですけれど、木場さん、どうですか。

木場:施設入所のタイミング。タイミング自体はそれぞれご家族とか、住環境とかもあるんですが、実際は「数時間空けるともう危ない」という状態までになると、さすがに施設を検討される方が多いなと思います。

前回のビジネスケアラー会議も、今回もそうなんですけど、やっぱり周りで誰かが見て、「もうたぶん限界ですよ」って言ってくれた人がいたから、施設に入ってるようなかたちだったので。

それがご家族だったり、もともとついてるケアマネジャーだったり、病院で言われたっていうのもありました。初動の段階で、その病院から出てくるタイミングで、もう言われたっていうのもありましたけど。外部で「アラートをあげてくれる人」をつけるのが大事なんだろうなとは思います。

佐々木:ありがとうございます。

早い時点で持つべき「いずれ必要になる」という意識

佐々木:みなさんはアウトソースしていく上で、罪悪感みたいなものは、どうやって消化してコントロールされていったのか。あと、ご自身のストレスもあると思うので、どうコントロールしていったらいいのか。そこに関して、松浦さん、山中さん、いかがでしょうか。

松浦:僕、いいですか。僕の場合は、もう否応なしだったんですよ。要は「これをやらないともう自分が潰れる」というところまでいっちゃった。否応なしに外からの力を借りなければいけない。でないと自分がだめになるという感じで導入しました。

逆に言うと、そこまでいかないで導入しようと思ったらば、もう初めっから、なるべく早い時点から「いずれ必要になる」という意識だけは持ってかなくちゃいけないと思います。

佐々木:先を読んでおくっていうことなんですね。

松浦:実は僕はもうすぐ61歳になるんですけど、65歳になったらば、僕は自分で地域包括支援センターに行って、「ここに1人老人がおるが」と言いに行きます。

佐々木:確かにそういうことですよね。ありがとうございます。

親から距離を取る「親不孝介護」が、本当の親孝行になる

佐々木:山中さん、どうですか。罪悪感との戦いだっておっしゃってましたけれども。

山中:松浦さんの本を読んだ方は、みなさん「松浦さんはなんて親孝行だ」って思うと思うんです。

『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(日経BP)

私は、言わば松浦さんの逆をやっていて、今自分で言うのもなんですが、親と距離を取り続けたことで、すごくストレスなく、介護の体制が安定したんです。でもやっぱり「これって親不孝じゃないのかな」って思うんですね。親の介護を人に任せて、自分は東京で楽しく仕事している。いいのか? いいんです。もう、これはいいんだと思うしかない。

体験記に『親不孝介護』ってひどいタイトルをつけたのも、親孝行の意識で介護に携わったら、親から距離をとれないからなんですね。ここまで話してきたとおり、距離をとって客観視しないと、はたしてこれは介護が必要なの、必要じゃないの。施設に入れたらいいの、入れないほうがいいのってことさえわからない。

『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)

佐々木:なるほど。

客観的になるためには、親のそばで密着するよりも、距離をとって、人から親不孝と言われるかもしれないことを恥じずに、「これが本当の親孝行なんだ」ってやるぐらいじゃないと、親にとっても自分にとってもいい介護はできない。ましてや仕事との両立なんてできない。

ちょっと露悪的だなと自分でも思ったんですけど、「親不孝介護」って言えるぐらいでいいんだって思わないと、おそらく仕事との両立は難しいと思う。なので、「私、親孝行しているのかなぁ」っていう思いを持ちつつ、親不孝介護でいこうと思っています。

佐々木:いや、すばらしいです。実際、第1回で基調講演いただいた在宅医療の佐々木淳先生も、認知症の介護に関して言えば、むしろ距離をとったほうが、ご本人にとっても親御さんにとっても、実はQOLが上がるんだっておっしゃっていました。

山中:すごくそう思います。

佐々木:まさにそうなんだなって、うかがってて思いました。

介護のプロでも、「自分の親の介護はできない」と言う

佐々木:すいません。ものすごくいろんなことを学べるので、ついつい時間が押してしまうんですけれども。

最後に、年末年始になりますので、年末年始これだけはぜひやっておいたほうがいいよとアドバイスをみなさんからいただいて、このセッションを終わりにしたいと思います。では、松浦さん、ぜひお願いします。

松浦:僕から言えることは、早く地域包括支援センターにアクセスしなさい。それが第一歩です。

本を出してから、川内さんをはじめとしたいろいろな介護のプロフェッショナルの方々に会うんですが、みんな「自分は自分の親(の介護)ができません」って言うんです。

プロが、必ずそう言うんです。これは一人も例外もない。逆に言うと、自分の親を自分が看れないのは、むしろ当然なんだと思ったほうがいいです。頼れるだけ頼りましょう。

佐々木:ありがとうございます。山中さん、お願いします。

山中:包括へというのはそのとおり。どうせ人にお願いして任せるんですから、子どもはどうすべきかって言ったら、親が衰えて物こぼしちゃったとか、エレベーターのボタン逆に押したとか、どなたの親御さんにもきっとあるんです。その時に、絶対イラっとしたらいけません。

いや、イラっとするのはどうしようもない。ないんですけれど、「あー、これか」って思って飲み込んで、その心中を表には出さない。お父さん、お母さんに、イラッとした分優しくしてあげて、いい思い出をいっぱい作る方向に意識を向けてください。「こんな情けないことでは困る、なんとかして俺が治そう」っていう方向には絶対いかないほうが、お互いにいいと思います。

松浦:治らないからね。

山中:そう。治らないんです。

ちょっとでも危ないと思ったら、相談すべきタイミング

佐々木:木場さん、まだまだ予備軍の方もたくさんいらっしゃいます。まだお元気のみなさんに向けて、年末年始、もしこれだけはっていうことがあれば教えてください。

木場:そうですね、今やっておくべきことのお話とか、心構えをあげていただいたかなと思うんですけど。途中でお話ししたみたいに、思ったより早めに頼っていただかないといけないので。ちょっとでも危ないなって思ったら今だと考えておいていただければと思います。

一応厚労省が出している「認知症の気づき・チェックリスト」があるので。半年スパンでやってみて、ちょっと前と違うなとみてみたり。さっきの通販の箱の話のような「ちょっと以前と違うな」というのは、たまたま帰った時が気づきやすいので。そこで何かあったら、包括を思い出していただければと思います。

佐々木:そうですね。「逆に(プロのサポートを)入れていくほうがお互いにいいみたいだよ」みたいな話とかは、年末年始していただけるかもしれないですよね。地域包括とか、そういう仕組みがあるので、「使っていこうね」という話ができるといいですね。

まだお元気だったら、そういう話も前向きにできるかもしれないなって、話をうかがって思いました。ぜひそんな話もしていただけたらいいんじゃないかなと思います。

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