2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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佐々木:続いて、編集をされた山中さん自身がどうされたのかという話もぜひうかがいたいと思います。まず「松浦さん、介護してたんですか!?」ってところから始まるんですね。
山中:そうなんですね。さっきお話ししたとおり、とにかくびっくりして。「なんで言ってくれなかったんですか?」と言った。そしたら、「だって山中くんに言ったら何か変わるの?」って。「いや、変わりますよ」と、今なら言うところなんですが。
連載が始まって嫌というほど読んで、「えらいことになるんだな」と思うわけです。「こうなったら大変だ」とも思うじゃないですか。
当時の松浦さんが『母さん、ごめん』でも最初にお書きになってるんですけど、「介護は撤退戦」だと。治そうと思っちゃいけなくて、どんどん状況は悪くなる。これはもうどうしようもない。
だったら悪くなっていく状況をどうコントロールして、本人にも家族にもダメージをできるかぎり抑えて、終戦という名の、天に召されるまでの時間を過ごすかということが介護なのだよと教えていただいた。
それをうまくやるには、とにかく1にも2にも早期発見だと。早く気がつけば気がつくほどリスクは減るし、撤退戦も楽になる。そして自分で抱え込むんじゃなくて、地域包括支援センター、包括にさっさと相談に行くんだと。
佐々木:たしかに、そうですね。
山中:これだけインストールされれば、これはやらなきゃいけないなっていう気になるわけです。
山中:たまたまうちの母が、松浦さんのお母さまに認知症の気配が出てきた歳と、ほぼ同じだったんです。本が出たあたりで時間もできたので、私の実家の新潟まで帰ってみたら、「あれっ!?」っていうことが次々見つかって。
『母さん、ごめん』に、そして『親不孝介護』にも書いてありますけど、これ1つのヒントだと思うんです。部屋に通販の箱がいっぱい散らかってるんですね。
使いもしない、飲みもしない薬とか。テレビショッピングにまんまとのせられて、買ったものがどんどん積み上がっている。「使うの?」って聞くと、「うーん」みたいな感じになっていて。
当時はまだ「これは要介護だ」という決定的な状況ではなかったんですけれど、「これ、やばいぞ」っていうのは、松浦さんの本を作ったから、読んだからわかったことだったと思います。
そういう意味では私の介護はとんだチートプレイでしたね。最初から「このゲームは先々こうなるぞ」って松浦さんにインストールされて、スタートさせたかたちなので。
さっそく新潟の地域包括センターを調べて相談に行き、包括センターにいる職員さんに相談して、「さっそく様子を見に行きますね」とまで言ってもらい、第一歩は非常にスムーズに踏み出すことができた。
佐々木:確かに、通販の箱が部屋に散らかっていると言いながらも、(山中さん自身の)ストレスレベルは2とか1とかなので、だいぶ落ち着いておられたんですよね。
山中:そうなんですよ。「へー、こういうことが本当にあるんだね」って思うのと、「なんだ、この通販の箱の山は!?」って思うのとでは、気持ちがぜんぜん違うじゃないですか。ネタバレしてるホラー映画を見る感じで、「あ、本当に出た、ゾンビ!」みたいな。そんな気になるんですね。
佐々木:その後2017年8月に本が刊行されて、少しここでストレスレベルが上がっています。
山中:はい。母はやっぱりちょっとおかしいなということで、新潟にちょこちょこ帰り、病院に診断を受けさせに行くんですけど、診断の場で(母が)へらへらと、つまらない嘘をつくんですね。
「血圧測ってますか」「はい、測ってます」みたいに。あとで「母さん、血圧計なんて持ってないでしょ」と聞くと、「あれ、嘘なのよ」みたいな感じになって。そんなつまらない嘘なんです。かわいげがあるといえばあるんですけど、「これは母の衰えの証拠なのではないか」って思ってしまうと、猛烈にイラっとくるんですね。
たぶん経験しないと「そうだね」と思っていただけないと思うんですけれど。以前はできたことができなくなっていく親の様子を目の当たりにすると、「大丈夫なの? お母さんどうしちゃったの?」っていう気持ちが、自分の中で渦巻くんです。
それで「もう、ちゃんとやんなきゃだめでしょ! 医者に対して嘘つくなんてとんでもないよ!」って、激高する感じになっちゃうんです。
さすがに松浦さんの本を読んでいても、やっぱり「自分の親はおかしくなってるんじゃないか」という現実と直面するのは、通販の箱とはレベルが違うんですね。それで、ストレスレベルがぐっと上がってしまいました。
そして時間が経てば経つほど、母の状況がおかしくなってることに気がつくようになってしまうんです。
佐々木:そして、川内さんと出会う。
山中:はい。『親不孝介護』の理論・実践のバックボーンになってくださったのが、NPOとなりのかいごの川内潤さんです。
松浦さんの『母さん、ごめん』の本をプロモーションしようと思った時に、介護についておもしろい考え方を持っている方がいるとご紹介いただき、松浦さんと対談していただいたんです。
川内さんは対談の場でニコニコしながら、「いや松浦さん、よく生き残りましたね」と。「松浦さんはしちゃいけないことばっかりやってますよ。地雷が埋まっているところをわざわざ踏みにいってますよ」と言われたんです。
すごく驚くわけですよ。大変な苦労をされて、ようやくお母さんも施設に入れられるところまでこぎつけた松浦さんが、「やっちゃいけないことばっかりです」と言われるとは、まさか思ってもいなかったので。
松浦:でも後から考えると、まさにそのとおりですよね。
佐々木:そうですか。山中さんは、やっていることが逆なんだと、ここで気がつかれたんですか?
山中:いえ、そこまでちゃんと理解はしてなかったんです。「なんか川内さん、失礼なこと言うよね」ぐらいの感じだったんですが……(笑)。
佐々木:どこがだめだったのかはわからなかったんですね。
山中:(介護は)自分で抱え込むものではない。早く協力者を求めて、公的介護支援を入れるんだ、というロジックはわかるんです。
だけどそれが、いわゆる「腑に落ちる」ところまでいってないんですね。「あぁ、そうなんですか。ふーん」みたいな感じで川内さんのお話を聞いていたんですよ。
そしたら2月に、母が「調子が悪い」と言って、自分で救急車を呼んで、自分で病院に行こうとしたんです。だけど、ぜんぜん調子悪くないんですよ。軽い便秘ぐらいの感じ。
佐々木:軽い便秘で救急車を呼ばれたんですね。
山中:「もう死にそうだから呼ぶわ」って言って行っちゃって。これは放っておくとまずい、人さまにご迷惑をかけるぐらいおかしくなってるぞって、私がパニックになっちゃって。
息子としては、親を自分のところに引き取って面倒を見るか、もしくは新潟に仕事の場を移すくらいのことを考えなきゃいかんのではないかと。それこそ「やっちゃいけない方向」なんです。でもうわーっとパニックになっちゃって、そっちの思考になってしまった。
そこで川内さんのことが頭に浮かんで、「こんなことになっちゃったんです」って相談をメールでしたら、すぐ返事が来たんです。
山中:「山中さん、もしかして今、新潟帰ろうとか親引き取ろうとか思ってたりしません?」って言われて「え、なんでわかるんですか」「みなさんそう考えるんだけれど、それはやらないほうがいい。むしろ、デメリットのほうが多いです」と、わりとはっきり止められたんですね。
「なんでですか」っていう話は本で読んでいただくとして(笑)、そこでブレーキがかかった。しかも包括さんと前年の夏に連絡を取っていたので、向こうも「ああ、あの時の山中さんですね。そうですか、じゃあこっちでちょっと介入しましょう」っていうことで、相談にものってもらい。「これはもう介護保険を申請して、公的支援を入れたほうがいいです」っていうことになり。
そこから先は、母親が介護保険証をなくしてたという小さなトラブルはあったんですけれど、すぐにヘルパーさんが来るようになって。
驚いたのが、ヘルパーさんが入ったら、母がいきなり明るく元気になったんですね。すぐに効果が出るっていうことは、よっぽど人との会話や触れ合いに飢えてたんだろうなぁと思って。自分自身、「単身で住ませとくのは、どうなんだろうなぁ」みたいな感じにもなりました。
山中:とはいえ、公的支援が入ったら楽になったので、かなり油断するんですよ。このままでいてくれるんじゃないかなと思ってしまった。
佐々木:そして、玄関先で倒れる事件が起きるわけですね。
山中:そうですね。帰省したその日に、玄関で倒れてるところにぶちあたるって。「これは通いの介護では無理だ」っていうことが、もう痛いほどわかって。
そして(母の)妄想が始まるんですね。「泥棒にあった」とか「ストーカーがいる」とか。ただ、これも松浦さんの本と川内さんのアドバイスで、いずれなんらかのかたちで認知症の症状が出てくる。その1つとして、他責がある。「『誰かのせいで、私がひどい目にあっているのよ』っていう妄想が立ち上がってくるから、慌てちゃだめですよ」と言われていました。
そうしたらまさに「お母さん、郵便局で怪しい男につけられてるの」という電話がかかってきた。これも何の予備知識もなしに、実際にその電話受けたら、真に受けると思うんですよ。
おまけに、母は警察にいち早く電話をしてるので、警察からも電話がかかってくるんで。「ご自宅のお母さまから連絡があったので出動しましたが、怪しい人はいませんでした」って。警察の人は本当に大変だと思いますね。
佐々木:そして、いよいよ施設だということになるわけですね。
山中:そうですね。その時には、「自分が実家に帰る」という選択肢は消していたので。
佐々木:川内さんやケアマネさんから、そういうことはやっちゃいけないんだってインプットされてたんですか?。
山中:そうです。その話をせずに、このまま最後までいっちゃっていいですか。
佐々木:いいです、いいです(笑)。
山中:松浦さんのお話からして、とにかく本人に抵抗感なく施設に入ってもらうことが大事だとわかっていたので予算ももちろんあるんですけど、もう徹底的にそのへんは担当してくれたケアマネジャーさんに相談しました。
本にそのへんは書いてあるので、ぜひ見ていただきたいんですけど。要するにグループホームはそのエリアの人が集まる場所なので、「自分の生活している場所と違う人たちがいる」場所は、基本的に選ぶべきじゃない。
ちやほやされたい人なのか、落ち着いてゆっくり1人で過ごしたい人なのかっていうところでも、施設の相性がある。それは私がいくら調べてもわかるわけがないので、徹底的にケアマネさんの知恵を借りました。すごくいいところをみつけてくださった。
佐々木:すごいですね。申込書もケアマネさんに手伝ってもらって。
山中:どういう人なんですか、どういう症状ですか、どういうトラブルがありますかっていうことを、入居の申し込みに書くんですけど、別居している私には分からないわけです。
ですので、客観的に仕事でちゃんと母を見ている人に書いてもらった。おそらく入居を受け入れるホームの側にとっても、むしろメリットだったんじゃないかと思います。
佐々木:そうですよね。実際説得もね、ヘルパーさんやケアマネさんに。
山中:はい、入居を決めるときに一緒にいてくださって、口添えしてもらいました。
佐々木:そういう意味では、本当に介護のプロの方々にけっこう早くからチームを組んでいただいて、本当にチームで介護をやられたんだなって、拝見してて思いました。
山中:そうなんです。
佐々木:入居された時も、様子を見に行ってくださってる。
山中:すごく頼りになりました。この本を読んだ方から、「たまたまいいケアマネさんやヘルパーさんだったのだろう」「運が良かったんだろう」「お前だけの話だろう」という感じで言われるんですが。
もちろん運も良かったと思います。そもそも松浦さんの仕事ができて、川内さんと出会ったことが、もう幸運以外の何者でもないんですけれど。総じて、自分がお会いした介護の世界で生きてる方は、ものすごく献身的で、プロフェッショナルで。
でも、一番効いたのは、早めに相談して、介護のプロの方がちゃんと考えて、段取りを組む時間を差し上げることができたことです。施設選びもそうですよね。介護スタッフが母とそれなりの期間接していたから、母にぴったりのいい施設がどこなのかを見抜けたんだっていうのは、絶対にあると思います。
佐々木:わかりました。
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