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ニューロダイバーシティとは?~多様性を尊重する働き方のヒント~(全3記事)

「障害」という生きにくさも、別の環境では「才能」になりうる ビジネスにおいて「ダイバーシティ」が必要な、本質的な理由

経済産業省が2022年4月に発表した「ニューロダイバーシティの推進について」の中でも、発達障害と関連づけて「ニューロダイバーシティへの取組みは、大いに注目すべき成長戦略として近年関心が高まっている」と発信されたのを機に、これまでの「ダイバーシティ&インクルージョン」に加えて、「ニューロダイバーシティ」「発達障害」という言葉への注目が高まっています。そこで本記事では、そもそもニューロダイバーシティとは何なのか、『ニューロダイバーシティの教科書』著者の村中直人氏が解説します。

「障害」は、別の環境においては「才能」になりうる

村中直人氏(以下、村中):残り時間でもう少し理解を深めていきましょう。「ニューロダイバーシティ視点の人間理解」です。仕事に絡むので、今日はかなりテーマを狭めた話を2つのポイントだけお話しします。「パフォーマンスの文脈依存性」と「集合知」のお話です。

「パフォーマンスの文脈依存性」の話はそんなに難しい話ではなくて、「ニューロ」「ダイバーシティ」なので、そもそもみなさんの脳や神経はどんな感じで働いていますか? という話なんです。それを「特性」と言います。

特性がすごく大事なのは、良いとか悪いとかの評価以前に、ただそこにあるものなんです。良いとか悪いというのは人間の価値観。価値観が入る前に、事実としてみなさんの神経機能はどう働いているか。

その働き方が、ある環境によっては確かに「障害」という生きにくさにつながるかもしれないですが、環境さえ変われば、まったく同じ特性がもしかしたら「才能」と呼ばれるかもしれない。場合によっては「個性」と呼ばれているかもしれない。

もとになる脳や神経の働き方がまったく同じでも、文脈次第でどう捉えるのかはまったく変わってくるわけです。このことをみなさんに実感していただくために、色覚異常と呼ばれる現象について少しお話しします。

色覚異常、ご存じでしょうか。もともと色盲と言われていたものが色覚異常に呼び方が変わって、最近は色覚多型と呼ばれたりします。一番多い色覚多型は2原色色覚の人です。

光は3原色と言われていますよね。ただ、光自体に3原色の特性があるわけじゃなくて、単純に私たちの目が3つの周波数をキャッチする神経を持っているから3原色なんです。その3つの周波数をキャッチする神経のうちの1つが働かないと、当然2原色になります。

20人に1人は「2原色色覚」

村中:人間は猿の仲間ではかなり色覚多型らしいので、人口の発生比率的に一定の割合で2原色の色覚の方がいらっしゃいます。特に男性に多くて、男性だと5パーセントくらい。

今日のお話を100名以上の方が聞いてくださっているとすると、5パーセントということは20人に1人なので、みなさんの中にも5名くらいの方が2原色色覚、もしくは2原色に近い色覚をお持ちだという話になります。

「え?」と思われるかもしれないですが、実は2原色に近い色覚の持ち主だということを、一生気づかずに人生終わられる方がけっこう多くおられるようです。

ニューロダイバーシティ的な発想とは、この3原色と2原色をどう捉えていくか。これが、ニューロダイバーシティかニューロユニバーサリティか、という話になります。

1つの例でいきますね。ここにフリー素材の美しい写真があります。先に言っておくと、私は3原色世界の住人です。だから、今からの発言はあくまでも3原色世界の人間がどう見えているかを前提で話をしますが、私はこの写真をすごく美しいと思って選んだんです。

例えばどこが美しいかと言ったら、この赤い絨毯みたいな道がありますよね。「ここを踏みながら歩いたら気持ちええやろうな、すごくきれいやな」とか。太陽があって、このへんがいい感じで光が透けとるわけですよ。いろんな色が見えている。私はそういうふうに目を奪われて「ああ、美しいな」と思うんです。

さあ、これを2原色色覚の人はどうイメージしているのか。模擬的に写真を加工してみました。厳密に言うと、3原色の方がこれを見ても、先ほど言った2原色色覚の方の色覚にはなりません。ただ、その特徴は表れている。

どうやったかというと、画像加工ソフトで赤い色だけを消去したんです。そうすると、3原色の赤がないので2原色的な見え方をする。どうでしょうか。これはこれでめっちゃ美しいわけです。

見える景色が違っていても、同じ感情を共有している

村中:今ここにいらっしゃる方の多くは3原色色覚の方だと思うんですが、2原色の特徴を見ると「美しいな」と思われる方も多いはず。だけど、ここにもう一歩踏み込んでほしい。「これはこれで美しいな」で終わるのではなくて、じゃあこの写真のどこに目を奪われるのか。

先ほど私は「3原色だと赤い絨毯みたいな道あたりを見る」と言いましたね。たぶん、2原色だとここは見ないですね。さっき私が「光の透け具合を見る」と言いましたが、ここも見ないかもしれない。

2原色の人だと、多いのはこのへんです。「枝が急にこんな感じで曲がっているのか」「こういう曲線なのか」みたいな、エッジ、輪郭の世界に目を奪われる確率が格段に高くなるわけです。

それもそのはず。実は人間の3原色の色覚って、形の認識の能力を多少犠牲にして成立しているそうです。だから形・エッジの認識だけで言うならば、2原色で捉えたほうが正確だろうし、もっと大事なのはそもそもポップアップされる世界が違うんです。

3原色と2原色の人が横に並んで、パッと風景が見えた瞬間に「ああ、きれい!」と同じ感想を言い、同じ感情を共有する。だけど見ているところがぜんぜん違う。ポップアップされる世界がぜんぜん違うことがあり得るんだというのが、ニューロダイバーシティ的な人間理解なんです。

3原色と2原色は、どちらのほうが“優れている”?

村中:「人間なんだから同じでしょ」としてしまうと、「私はこの赤い絨毯がきれいと思うのに、あなたがそう思わないのはおかしい」という話になりますね。人間の神経の働き方に正解も不正解もないけれど、生きにくさにつながることはないのかと言ったら、そうではない。

さあ、ここに2原色世界の写真があります。これをパッと見たら、真ん中の木がものすごく神々しいでしょ。ほとんどの人はここに目を奪われると思うんです。だけどね、3原色で見たらこれは火事の写真なんです。ということは、3原色だとまず間違いなく真ん中の木を見ないんですよ。

火事からいち早く逃げることだけを考えると、その文脈で言うならば、確かに3原色と2原色では、2原色はある種の能力の欠如が発生していると言えないこともない。

もし仮に、赤い色のピックアップされたものを情報として取り入れることが、私たちが日々生活していく上でものすごく重要であるならば、それは生きにくさにつながるでしょう。「なんであなた気づかないの? 火事になったら普通は逃げるでしょ」となりますね。

さて、みなさんに難題です。3原色と2原色はどちらが優れているでしょうか。人口発生比率でいうと95パーセントが3原色色覚なので、私たちの世界は3原色色覚こそが正常で、健常者の見え方だと考えがちです。

だから色覚補正の眼鏡屋さんに行くと、モヤモヤっとした模様を見せられて、「ここに文字が浮かびあがってこなかったらあなたは障害です」みたいなことを言われるわけです。もちろん、そういう見方もあるでしょう。

だけど、モヤモヤっとしたところに文字を浮かべ上がらせる能力って、ふだんの生活で使いますか? という話ですね。

脳や神経の違いを前提にして、仕事のスキームを作る

村中:簡単な話です。脳や神経の特性自体に、良いも悪いもないんです。それがどんな文脈で、どういう価値観のもとに存在しているかによって、良いか悪いか、能力か障害かが決まっている。

そう考えると、ニューロダイバーシティ、つまり脳や神経の働き方まで目を届けると、私たちが言っている「能力」とか「能力がない」というのは、極めて相対的文脈依存的なものです。

あとは、さっき言った「ポップアップされてくる世界が違う」というところ。例えば人間の感情体験とか、価値観のところまで影響していくわけです。

そのレベルで差が出てくるような、脳や神経由来の違いが存在していることが前提で、私たちは日々仕事をしているでしょうか? 仕事のスキームを作っているでしょうか? ここに、ブラッシュアップすべき人間観が存在しています。

2つ目はさらにビジネス寄りの話をしていきましょう。「集合知」の話です。たぶん、ここにはタイバーシティに感度の高い方ばかりが集まっていると思うので、あえてこの質問をします。

「なぜビジネスにおいてダイバーシティが必要なのか、みなさんは自分の言葉で説明することはできるでしょうか?」。本当はご意見をお聞きしたいんですが、時間がないのでどんどん進めますね。

悪くない、間違ってはいないけどちょっと足りない答えとしては、「社会貢献、SDGs的なところから、多様な人材を受け入れることが企業の社会的責任なんだ。これからの時代はそういうことを積極的にしていかなくちゃいけないんだ」という説明、よくありますね。これは間違ってはいないですが、三角です。

もっと積極的な理由があります。それは「多様な人材でないと生み出せない『集合知』を生み出すことで、この難局を、この変化の激しい時代を乗り切っていかなくてはいけない」ということです。

「集合知」を生むために必要なのが「多様性」

村中:集合知とは、簡単に言うと「今の時代に人間に1人でできることはたかが知れている」ということがポイントです。どんな天才であったとしても、1人でできることはたかが知れている。だからみんな、チームや組織を作るんです。

組織を作った時に集合知と呼ばれるもの、つまり「このメンバーが集まっていなかったら、この発想は出てこなかったよね」「これだけの人間が集まっているからこそ、これが生み出されたよね」というものを生み出せるかどうかが勝負なわけです。

そのためには何が必要か、集合知はどこから生まれてくるかというと「多様性」です。実は多様性にも2つあって、多様性は盛んに研究されていますが、表面的な意味での多様性である「人口統計学的多様性」。そして、より内的な多様性である「認知的多様性」というふうに整理されます。

人口統計学的多様性というのは、プロフィールに書くことができる多様性です。「私は男性です」「〇〇大学出身です」「言葉はこれをしゃべります」「宗教はこうです」という、プロフィールに書きやすい多様性のことを言います。

認知的多様性は、「あなたはどんな視点でものを見ますか」「どう感じますか」「どう考えますか」。より内的な、その人の視点や視座や価値観に関わってくるような多様性が認知的多様性です。

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