
2025.02.12
職員一人あたり52時間の残業削減に成功 kintone導入がもたらした富士吉田市の自治体DX“変革”ハウツー
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畠中直美氏(以下、畠中):今日はニューロダイバーシティの第一人者と言われる村中先生をお迎えして、「ニューロダイバーシティとは? ~多様性を尊重する働き方のヒント~」を教えていただこうと思っています。
では、私からご紹介させていただきます。村中直人さんです。臨床心理士、公認心理師、そしてNeurodiversity at Work株式会社の代表取締役で、一般社団法人 子ども・青少年育成支援協会の共同代表でもいらっしゃいます。
人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方・学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動されています。私が先生と出会ったのは、実はこちらの発達障害サポーター'sスクールです。ここに通ったのが8年くらい前になります。
村中直人氏(以下、村中):そうですね。
畠中:当時の私は発達障害についてまったく知識がなく、「うちの子が(発達障害だと)診断されちゃったけど、これは何だ?」みたいな。
ネットで調べれば「こうしたらいいよ」という、本人との関わり方や養育的な情報はあったんですが、一般社会の中で発達障害はどういう位置づけなのか、先々成長と共に学校はどうなっていくのか等、イチ個人ではなかなか情報を得ることが難しく、唯一見つけたのが先生がやっていらっしゃった発達障害サポーター'sスクールでした。
支援者の方がメインの講座でして、支援者の中に1人ポツンと保護者が混ざって学ばせていただいたのが8年前です。そのあともいろいろご縁がありまして、今日はお願いすることになりました。では先生、よろしくお願いします。
村中:よろしくお願いします。あらためまして、村中と申します。当初の打ち合わせでは座ってしゃべるつもりだったんですが、「会場の温度感が高いな」というのと、見ていただくとわかるんですがじっとしながらしゃべれないので、ちょっと立たせていただきます。
今から少しお時間をいただいて、「ニューロダイバーシティ」という言葉について、みなさんにお話をさせていただきたいと思います。畠中さんから紹介をしていただきましたので、私の紹介は割愛をいたします。
少しだけ説明させていただくと、畠中さんとチャレンジドLIFEの副代表共に私の講座を受けていただいているんですが、発達障害サポーター’sスクールは基礎的なところから開かれたオープンな学びの場ですので、もし関心があれば覗いてみてください。
今日お話しさせていただくのは、「ニューロダイバーシティ」というキーワードです。ただ、今回は「働く」というところに焦点を当てて、そこに直結するような部分にかなり絞ってお話ししていきたいと思っております。
最初に基本的な知識として、「ニューロダイバーシティとは何か?」という話をさせていただいたあとに、働くという領域においてニューロダイバーシティをどう捉えていけばいいんだろうか、ということをお話ししていきたいと思います。
村中:まずはニューロダイバーシティという言葉の定義からご説明します。ニューロ(Neuro)とダイバーシティ(diversity)をくっつけた造語です。直訳すると「脳や神経の多様性」ということになります。
ですが、わざわざニューロダイバーシティという言葉を言うからには、単純に「脳や神経の働き方って多様だよね」という事実を意味するだけではなくて、その多様性を我々がどう捉えて、社会の中でどう位置づけるのか。
さらにはそれを肯定的に捉えていこうじゃないか、お互いに尊重していこうじゃないか、というメッセージの言葉です。
『ニューロダイバーシティの教科書』という本を2020年12月に書かせていただいたんですが、その段階で「ニューロダイバーシティ」という言葉に関心を持っていらっしゃる方は、たぶん今よりももっと少なかったです。
今も社会全体では多くはないですが、それでも本当にこの数年で、急にいろんなところで見聞きすることになったと思う方も、増えているんじゃないかなと思います。
例えば、2022年の4月に経済産業省さんのホームページにも、「ニューロダイバーシティの推進について」というページが作られています。
ここには野村総研さんが調査して作成したニューロダイバーシティに関するレポートが載っていて、野村総研さんと経済産業省さんがタッグを組んで作っておられるページになります。
それを見て、「経済産業省が動き始めた。ホットなワードなのかな」という感じで興味を持った方もいらっしゃるかと思います。
このページはどちらかというと、いわゆる自閉スペクトラムの方を中心とするような、発達障害圏の人たちがいかにチャンスに恵まれていないか、またチャンスがあればすごく活躍される方もいらっしゃるということを含めたところがレポートとしてまとめられています。
村中:そういう意味で、発達障害とニューロダイバーシティってなんとなくニアリーイコールというか、「発達障害の雇用に関するキーワードだよね」と思っていらっしゃる方は多いかと思うのですが、一応ニューロダイバーシティの専門家というか発信をしている身なので、ちょっと誤解を解いておきたいと思います。
ニューロダイバーシティは、イコール発達障害の言い換えではないです。これはすごく大事なポイントなんです。
「障害」と言うとイメージが悪いから、特に自閉スペクトラムの人たちをちょっとかっこよく言い換えて、「『二ューロダイバーシティ』とか『ニューロダイバース人材』としよう」みたいに誤解しておられる方もいらっしゃるのが現実なんですが、実はそうではないんです。
私がこういう講演で何と言っているかというと、ちょっとかっこいい言い方をして「そもそも人間というものをどういうふうに理解するの? どう捉えるの?」という、根本的な人間理解のパラダイムシフトの話で、もうちょっと広くて深い概念なんだということをみなさんにお伝えしています。
村中:みなさんに興味を持っていただくために、これも1つのニューロダイバーシティだよということで、1つ質問をしたいと思います。「あなたはどっち?」です。
仕事を前提に話しますが、みなさんが新しい仕事に触れているとします。すごくケアフリーと言いますか、気をつけなくちゃいけないというか、慎重に取り組まなくちゃいけない業務の引き継ぎの指示を受けている。「これは絶対にミスしたらあかんやつや」という時に、誰かが説明してくれるわけです。
その時に「絶対にメモを取る。メモを取らへんかったら、どこで聞き洩らすかわからへんし、メモを取らへんかったら仕事でミスを犯すかもしれへんから、私は絶対にメモを取ります」という方がAです。
一方で「絶対にメモを取ったらあかん。メモを取るとそのことで精一杯で、頭の中になんも残らへんから、私は絶対にメモを取ったらあかんタイプなんや」という方がBです。
「私はどっちでもないな。取っても取らなくてもそんなに変わらないな」と思う人は、どっちに近いかで手を挙げていただければと思います。
最近は、ニューロダイバーシティでかなりいろんな企業さんに呼んでいただいたりして、いるんですがこの話をよくするんですね。この間はオンラインで300名の社員さんにお話しさせていただいて同じ質問をしました。そうすると、だいたい今と同じような結果が返ってきます。
今日もだいたい8割の人がAで手を挙げて、2割くらいの人がBで手を挙げました。けっこういろんなところでやっていますが、だいたい同じ結果が返ってきます。要するに人口発生比率で、2割くらいは「メモを取ったらあかんビジネスパーソン」がおるということなんだと思います。
村中:どういうことかと言うと、実はメモを取ることって行為としては1つですが、ちょっと科学的に言うと、能力としてはすごくたくさんの能力が束になった行為なわけです。
例えば今からみなさんが私の話をメモを取るとすると、目の前でせわしなく動いている私と、私の声と同時に手元にも注意を向けなきゃいけない。これを専門用語で「注意の分割」と言うんですね。
注意がうまく分割できていなくちゃいけないし、そもそも私の声は音としてみなさんの耳に飛び込んできます。だから脳内で音を言葉に変換しなくちゃいけなくて、しかもスピーディに脳内変換されていなくちゃいけない。
言葉になったらなったで、私がダーッと話していることをある程度脳内でまとめて、「ここは書かないと」とメモを取るわけですよね。ということは、脳内である程度情報を保持する。それを専門用語で「ワーキングメモリー」と言いますが、ちょっと覚えておいて処理してからじゃないと書けないんです。
最終的に、メモを取るためには、自分の思ったように手のスピードが追いついてくれないと書くことが遅れていくから、うまくメモが取れない。単純に「メモを取る」という行動1つにしても、実はこれだけたくさんの能力に分解することができます。
これらのうち1つでもすごく苦手な行為があると、自分の処理リソースを「メモを取る」という行為だけにガーっと注がないとうまくいかないわけです。
村中:表面上はメモが取れているかもしれませんが、楽々とメモを取れている人、つまり頭の中で理解を促進するために取れている人と、メモを取ることだけにほとんどの処理リソースが奪われている人では、内的な状態がぜんぜん違うわけです。
ということは、今日も自己理解で2割の方がBを挙げられましたね。これはすばらしいことだと思います。「自分はメモを取らんほうが理解が進むんだ」ということですよね。脳の神経の働き方の多様性という意味においては、実はこれも立派なニューロダイバーシティです。
だからみなさんは、ニューロダイバーシティについて「発達障害の人に何かしてあげるための概念」と思っているかもしれないですが、それがそっくりそのまま、今聞いていただいているみなさんに返ってくる概念なんです。
あなたの脳や神経由来の特性は何ですか? どういう働き方があるんですか? これはマイノリティ・マジョリティ問わず、あらゆる人に跳ね返ってくる質問なんです。実はここがニューロダイバーシティの一番の本質なんですが、この国ではまだそこが伝わっていないところがあります。
みなさんは今日私の話を聞いていただいているので、そういったところを押さえて、ニューロダイバーシティという概念をとらえていただくといいなと思います。
村中:とはいえ、ニューロダイバーシティは発達障害とものすごく縁の深い言葉です。そもそもこの言葉は、自閉スペクトラムの当事者がいなかったら存在しなかった言葉だからです。
もちろん英語を母国語とする人たち中で生まれてきた言葉なのですが、いつ生まれたのか、誰が一番最初に言い出したのかははっきりしないんですよ。
ただ、インターネット上で今も読める最古の記録と言われている、ジェーン(・マイヤーディング)さんという女性のエッセイがあります。そこに「ニューロダイバーシティ」という言葉が残っているんですね。
ジェーンさんは自閉スペクトラムの当事者ということを打ち明けている女性です。そこになんて書いてあるかというと、「社会がニューロダイバーシティを広く理解することになると、私たち全員が恩恵を受けるでしょう」。1998年の記述なんですが、20年も前にそう書いてあるんです。
ここで言う「私たち全員」は、自閉スペクトラム者のことではありません。この地球上に生存している人類全体が恩恵を受ける。すごく大事なのは、そこの対義語としてニューロユニバーサリティ(neuro-universality)、神経普遍性という言葉が出てくることです。ちょっとややこしいので、別で説明しますね。
ニューロダイバーシティとニューロユニバーサリティは対になる言葉、対義語です。それぞれ人間理解のパラダイムと言うならば、ニューロユニバーサリティはどういう発想で社会を作っていくかというと、「人間なんだからみんなだいだい同じでしょ」。
同じ体験をすれば同じ感情になるし、同じトレーニングをすれば同じ成果が出るし、だいたいみんな同じような脳や神経のシステムを持っているよね。多少の違いはあるかもしれないけど誤差みたいなもので、「人間なんだからこう」というのはあるよねと考えるのが、ニューロユニバーサリティの発想です。
村中:じゃあ、ニューロダイバーシティとは何か。「人間なんだから一人ひとりぜんぜん違って当たり前じゃん。そこを前提に社会や仕事のスキーム作っていきましょう」と考えるのがニューロダイバーシティです。
例えば、先ほどの2割のメモを取れない人たちに手を挙げていただきましたが、きっと苦痛だったと思います。なぜかというと、絶対に虐げられてきているからです。新人の頃に「メモを取れ」と言われても、「私はメモを取ってもあかんし」と撥ねつけられた人だけがここに来ているわけです。
(会場笑)
だってそこで撥ねつけなかったら、自分にぜんぜん合わない方法なのにメモを取り続けたかもしれない。何が起こるかといったら、合わない方法を強制されているだけなのに、「私の能力が低いんだ」となるんです。それが発生するところがすごく大事なんですね。
ジュディ・シンガーさんという、ニューロダイバーシティの概念的な生みの親がいらっしゃるんですが、その方のサイトには今もこんなことが書いてあります。
「私たちはみんなニューロダイバースです。なぜならば、まったく同じ人なんて地球上にいないから。だから、ニューロダイバーシティという言葉を『私たち』と『彼ら』を切り分けるような言葉として使わないでください」。
この当時に声を挙げたニューロマイノリティの人たちの思いは、すごく大事にしなくちゃいけない。だから発達障害と関連性は深いけど、その対象は今私の話を聞いていただいているみなさん全員です。
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